ローカルエコノミーのつくり方

神戸から顔の見える経済をつくる会 著

内容紹介

面白い人が集まる街にするために、自分たちで街に仕事をつくり経済を育てる。都心と自然が近接するミッドサイズ・シティ、神戸には今、そうした志向の起業家が多数集まる。都市農業、建設業、ものづくり、スポーツビジネス、エリアデベロッパーといったスモールビジネスの集積が、都市のローカルシフトを加速させる。

体 裁 B5変・122頁・定価 本体2300円+税
ISBN 978-4-7615-2708-2
発行日 2019/06/10
装 丁 スズキチヒロ

目次著者紹介まえがきあとがき
Introduction 人口減少時代における「顔の見える経済」
Column これからはミッドサイズ・シティの時代
Column 各エリアの特徴&活動する人々

01 FARMER

EAT LOCAL KOBE FARMERS MARKET 都市と農家と消費者が出会う場
FARMSTAND 毎週を毎日に。地産地消を日常へ。
BIO CREATORS CSA~地域が支える農業の仕組み~
Summary 互助的な仕組みによって成り立つ都市のスモールファーマー

02 BUILDER

TEAM クラプトン 「DIT 施工」が変える分業概念
茅葺き職人集団 くさかんむり 古くて先進的な茅葺き住宅
MARU 地元の木を循環のサイクルに乗せる
Summary  これまでの概念を変える新しいビルダーたち

03 MAKER

Cultivate Industry 生産背景が近いことが大切
Pampshade 世界に一つのおいしい明かり
十場天伸 つくも窯から世界へ
Summary 居住性の高いローカルで作り、外需で稼ぐメイカービジネス

04 SPORTS BUSINESS

SPARK Scone&Bicycle 裏山でつながるコミュニティクラブ
Summary 都市の自然をビジネスフィールドに

05 URBAN PERMACULTURE

弓削牧場 牧場から始まる資源循環の未来
澤井まり 都会だからこそできる自給生活
塚原正也 都会の真ん中で、山羊と暮らす
Summary 都市で自給自足生活を行う人たち

06 AREA DEVELOPER

神戸R 不動産 エリアに“中心性”を見出す
森本アリ 旧グッゲンハイム邸を起点に塩屋の町を編集
Summary ローカル経済のハブとなる「エリアデベロッパー」
「KOBE live+work」ウェブサイトのご案内 この本に登場した方々のURL

Epilogue 「あるもので作る」スモールビジネスのススメ

神戸から顔の見える経済をつくる会

新しいローカル経済のあり方を社会に対して提示するため、 神戸都市圏で活動するスモールビジネスやフリーランサーなどが設立した団体。 http://reallocal.jp/rebuildinglocaleconomy

人口減少時代における「顔の見える経済」

豊かさの定義が変わった瞬間

リーマンショックや東日本大震災をきっかけに地方都市への移住の動きが始まったが、そこには世の中の価値観の変化があった。

より高い刺激を求めるためにより高い所得を求める、という価値観から、自分らしく・家族と楽しく暮らせて・社会の役に立てているという感覚を持った生活がしたい、という思考に変化した人が多かったように感じる。豊かさに対する定義が変わった。効率型経済が良いとされ、お金=豊かさだった時代から、お金をかけずに・顔の見える豊かさの時代へ。過度の効率主義と一極集中から脱し、ほどよい居心地を大事にする時代へ。仕事一辺倒から仕事とプライベートの一体化へ。

豊かさの定義が変わった瞬間、全国で多くの人が大都市から小都市へ田舎へと移動し活動を開始した。そして国も「地方創生」という形でそれを推し進めていった。

その一方で、東日本大震災から8年経った今、現実的に地方が創生されたかと言うと、正直まだまだという印象の人が多いだろう。

人が新しい場所で活動を始める、しかも若い時にそれをしようと思ったら、「仕事」をどうすればいいのかということがポイントになる。つまり移住先の地方が仕事を移せる環境であるかということ。あるいは新規の仕事を受けられたり創り出せる場所かという、その点が重要だ。フリーランスの人の中には、仕事を上手に移し、たくさんの面白い活動を行えている人も少なくない。国は地域おこし協力隊など様々な仕組みもつくった。

しかし、まだまだ我々が想像していたほど、ローカルにシフトしているという実態にはなっていない。結局、東京に若者は流れる。地域に若い人がやりたい仕事や面白いと感じる仕事が圧倒的に少ないという根本的な問題は解消されていない。それは、経済のあり方に原因があるからではないだろうか。

人口減少時代の始まりと新しい経済へのシフト

そうこうするうちに日本全体で人口減少が始まった。仕事の有無という点から見て弱い地域はより弱くなり、衰退していく。並行して、駅から遠い場所にある密集市街地や農地を切り開いてつくられたニュータウンの人口減少・高齢化、商店街の空き店舗増加などが全国で加速している。我々の住む神戸でも見かける風景だ。

これからの50年を通じて日本の人口は現在の7割になると言われているが、つまり3割ぐらいは使われないエリアができるということなのか。拡大路線で来た都市を縮めるにはどうしたら良いのか。国も市町村も我々生活者もまだ明確なアイデアは持っていないだろう。しかし、“美しく縮小”することが求められるだろう。言い換えれば、現在の局面を打開するような仕事の仕方を模索しなくてはならない。

いつの時代も、局面を打開するために「創造的な仕事」は求められるのではないだろうか。経済成長が大前提だった時代には、モノの売上を増やすことがイコール新しい局面を生むことだった。こうした経済の中では、リスクテイカーである事業者が労働者を雇用するという形態で経営と労働の分離が進んだ。「新しく作り変える」「スクラップ&ビルド型」「工場方式で効率的につくること」が正しいと考えられていたマス経済の時代であった。

しかし人口減少時代を迎えた今、局面を打開するための創造的な仕事のあり方が新たに模索されていると感じている。「お金をかけない」「顔の見える豊かさ」「協力して暮らせる」「ストック型」などがキーワードの循環型の経済とでも言おうか。そこでの仕事の仕方は、現場に入って、人任せにせず自分の手を動かすことが大前提だ。それを伴ってこそ局面が打開される。そうした仕事の仕方をする人が近年、神戸で同時多発的に生まれている。本書の目的はそうした動きを紹介し、人口減少時代の新しい経済の仕組みへのシフトについて、またローカルに面白い仕事を生み出すヒントについて考察していくことだ。

「顔の見える経済」

この本で紹介するのは、神戸で生まれた、新しいかたちでの創造的な仕事を行っている人たちの事例だ。彼らの働き方を俯瞰してみると、いくつかの共通点が見えてきた。

まず経済活動の根本概念が違うということだ。材料の仕入れ(原価)という点においては、自分でつくったり採ったりして調達する、もしくは知っている人や近い人から買っていることが多い。次に、組織運営という点においては、お互いの個性を尊重し、協力し合って、それぞれが独立した個人(事業主)として生きる中で互いの目的達成のために協力し合う、コーポラティブな組織で成り立っている。

お金も人も自分たちの近くで流通させようという試みである。顔の見える人との付き合いを中心に、ビジネスを回す。「顔の見える経済」がそこにある。

一方、従来型の組織では、経営者と被雇用者という関係で完全に分離され、経営者は材料も労働者も単にコストとして考える。大量に取り扱い、効率化して、コスト削減を追求し、安く提供することが大前提となっている。大量生産消費経済は「顔の見えない経済」とも言える。ノウハウもお金も中央(大都市)に集中し、ローカルは単に製造/下請けの拠点となる経済とも言いかえられる。

経済概念を変化させることにより、ローカル(自分たちが住み、働くエリア)主体の経済を作っていくことができると考えている。僕らはそうした流れを志向している。

ローカル地産地消経済の流れ(左)と従来経済の流れ(右)

手を動かしてつくり、近隣と交易をする

拡大経済の時は従来の資本主義が機能した。しかし経済が縮小する時代に、これまでの経済活動の構造のまま進んで良いのだろうか。経済活動の概念のパラダイムシフトが求められているのではないだろうか。

そのためには他人任せにせず、自分で手を動かさねばならない。金やモノのデザインによってではなく、人が人を集めることによって新たな経済が動き出す。予算がなくて止めるのではなく工夫をすること。売上が上がる仕事だけでなく、非営利的な活動もきちんとやること。大切なことは信念だ。この本で登場する人たちは、そうした点で共通する。経済のパラダイムシフトの実践者たちであり、リアルに動いて将来を切り開こうとしている。

「ローカル」という言葉がさまざまなメディアや活動の中で使われ、多くの人々が「ローカル経済」という概念に関心を寄せている。けれども、「ローカル経済」とは何だろうか?

20世紀後半のアメリカ人ジャーナリスト、ジェイン・ジェイコブズ(都市の再開発に対する問題提起で知られた20世紀後半のアメリカのジャーナリスト。『アメリカ大都市の死と生』『都市の原理』『発展する地域 衰退する地域』など)の著書『発展する地域 衰退する地域:地域が自立するための経済学』では以下のように綴られている。

「多くの人が気づき始めている。それぞれの地域が持つ財を利用し、そこに住む人のアイデアを生かした活動をするべきだ。必要なものは自分たちの手でつくり、近隣地域と共生的な交易を行えば、技術は高まり、雇用も生まれ、地域は自然に活性化する。」

ローカルにノウハウやお金が残る仕組みに

こうした動きは小さな世界での動きと思われるかもしれないが、大企業や大組織においてもこの発想はこれからとても大事なはずだ。たとえば神戸市では創造産業(クリエイティブ産業)の仕事が年間約3000億円分域外流失しているというデータがある(出典:2011年神戸市産業連関表、2016年度神戸市統計報告)。神戸市内の大企業、大組織の仕事が、東京や大阪の大手広告代理店、印刷会社、デザイン会社、設計事務所などに流れ、東京や大阪から営業や担当者が神戸に出向いてきて仕事をしているものと想像する。こうした仕事では、元請けが大都市の大企業となり、その下請けが大都市のフリーランスか、場合によってローカルのフリーランスに振られるというケースが多いのではないだろうか。

大企業の担当者の言い分からすると「地元に頼める企業がいない」ということかもしれない。けれども企業の担当者は、地元企業に依頼し、多少リスクがあっても、ローカルの企業を育てるという視点が必要だろう。これまでの発注構造では、東京の元請け企業だけにノウハウが蓄積される結果となり、ローカルにノウハウもお金も残らない結果となるからだ。多少の不便はあるかもしれないが発注の流れを変えて、ローカルにノウハウやお金が残るような仕組みにできないだろうか。

ローカル経済育成型経済(左)ではローカルにノウハウが集まり、中央集権経済型の経済(左)ではノウハウが大都市に集まる

このところアメリカ・ポートランドの街で活動する人たちと定期的にコミュニケーションをとりヒントをもらうことが多いのだが、ポートランド市の経済産業局の人たちの言葉が耳に残っている。「我々は1万人を雇用する大企業も大切だと思うが、2人程度の小さな会社が10人規模の会社になることが一番大事だと思っている。なぜなら、10人を雇用する会社が1000社集まれば1万人の雇用を生むし、その方が急場づくりでない、堅い経済だと言える。これからの時代はニッチビジネスの時代。ニッチビジネスは大きな雇用は生まない。けれどもニッチビジネスがたくさん生まれる可能性はある」と。

1人で活動する小さなビジネスの動きは神戸にはたくさんあるし、他都市から移住してきて1.2人で活動をリスタートする人もいる。そうしたビジネスが10人を雇用できるようになれば大きく状況が変化するのではないか。1人や2人で活動しているスモールビジネスが何人か雇用できるようになれば、そこで修業した若者はおそらくその街で起業するだろう。私たちはそのようなイメージを持ちながら、スモールビジネスを支援し、「顔の見える経済」を加速させることが大切だと感じ、この本を制作した。

ローカルのスモールビジネスが小さな雇用を出来るようになることの意義

「あるもので作る」スモールビジネスのススメ

本書で紹介した人たちのビジネスや活動は、この数年で小さく神戸で生まれたものばかりだが、徐々に雇用を増やしたり、仲間を増やしたりしている。同じ神戸で周辺を見渡しても、最初は1人や2人だった事業者が複数人を雇用している知り合いが増えている。「顔の見える経済」の連鎖をつくり出すことができ、「面白い!」と思えるような仕事を創出できれば、その街へ移住していく若者は増えるだろう。また、その街で育ったビジネスや活動は、同じ世界観を持ってゆるやかな広がりを見せていくだろう。こうした連鎖が進んでいくことで、自ずと地方都市の経済は自立し、楽しい街になっていくのではないかと推測する。

これからはあるもので作る時代だ。地域にある素材・材料・食材を使う、古い建物を再利用する、耕作放棄地を使う、近くの森の間伐材で家をつくる、山を使う、古い街を使う。あるもので作るには良い素材がたくさんある場所でなくてはならない。その点、ミッドサイズの都市には、山や海といった「自然」、食物などが育てられる「農地」、人が集まり活動する「都市」という三つの要素がほどよいバランスで存在しており(まさに神戸がそう)、良い素材を見つけるのに適している。そして都市と自然の間、都市と農地の間には資源や素材を作る人、それを運ぶ人、そして使う人が自然と現れ、つながり、そこに経済循環が生まれていく。

ローカルの中の大きな循環を意識し、その中で自分に何ができるかという役割を見つけることが大事であると主張したい。この循環の中でまだ誰もやっていないことを探し、チャレンジするべきではないだろうか。

たとえば食べ物を扱ってきた人なら、農地と都市の間のどこかに入って食の仕事をしてはどうだろう。建築出身の人なら、自然と都市の間のどこかに身を置き、古い建物を再生させていってはどうか。編集系(物書き・絵描きを含む)の人は、この循環の中のどこかに身を置きつつ、情報発信をすることに長けているのだから、それを活かすべきだろう。職人的な仕事をしてきた人は、自然や街にある資源をどのように使って商品を生み出すかを工夫できるだろう。事務・企画系出身の人は、この循環のどこかに身を置いて事務局的な仕事ができるだろう。行政で働く人なら、この連鎖がスムーズに起こっていくことを支える、裏方として大切な仕事ができるだろう。

今の仕事をやりながら、ダブルワーク的に独自の動きをしてもいいかもしれない。もちろん独立して、フリーランスとして新たにスタートしても良い。

そして、僕らが住む神戸はローカルエコノミーを再構築するのに非常に適した街だと感じている。可能性を感じた人は是非この街に足を運んで、実際に街を回って体感してみてほしい。また、アドバイスするなら、少し下調べをして潜入してほしい。例えば、住宅街で開催されているミニライブに行ってみる。農村で開催されているイベントに参加してみる。マウンテンバイクを借りて地域の山に潜入してみる。ファーマーズマーケットに立ち寄ってみる。さらには、誰かローカルのキーになっているような人にアポイントをとっておけば、数珠つなぎで面白い活動をしている人々とつながれるかもしれない。

ともあれ、小さくても良いので、現実的に計画を始めてみることが重要だ。身近な人々との顔の見える関係のもとで、ローカルの資源を用いたニッチなビジネスは、まだまだたくさん眠っているはず。

スモールビジネスオーナーなどが連携する環境づくりを進めていきたいと考えて、今回「神戸から顔の見える経済をつくる会」を起ち上げた。また、僕たちは神戸にいるので神戸から始めるが、もちろん他の地域でも同じことを思っている方々がたくさんいることと推測する。そうした人たちとも連携しつつ、これからのローカルエコノミーをつくっていけたらと考えている。顔のみえる経済の連鎖をつくりましょう。

神戸から顔の見える経済をつくる会
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