ストリートデザイン・マネジメント

出口 敦・三浦 詩乃・中野 卓 編著

中村 文彦・野原 卓・宋 俊煥・村山 顕人・泉山 塁威・趙 世晨・窪田 亜矢・長 聡子・志摩 憲寿・小﨑 美希・廣瀬 健・吉田 宗人 著

内容紹介

都市再生の最前線で公共空間の活用が加速している。歩行者天国、オープンカフェ、屋台、パークレット等、ストリートを使いこなす手法も多様化。歩行者にひらく空間デザイン、公民連携の組織運営、社会実験~本格実施のプロセス、制度のアップデート、エリアマネジメントの進化等、都市をイノベートする方法論を多数の事例から解説。

体 裁 B5・176頁・定価 本体2700円+税
ISBN 978-4-7615-2699-3
発行日 2019/03/05
装 丁 見増勇介


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27ページ公開中!(序章、2章-4、3章-5、3章―6)
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はじめに|出口 敦

序章 ストリートデザイン・マネジメントとは|三浦 詩乃

アクティビティの場としてのストリート
ストリートの公共性
日本のストリートデザイン・マネジメント

1章 日本のストリートの変遷|三浦 詩乃

日本の「みち」の起源
戦前の変遷:自由と規制がせめぎあう「街路」
戦後の変遷:「道路」の時代がもたらした成長とひずみ
現代のストリート
日本のメインストリートの多様性
道路関連法のハードル

2章 都市文化が育つストリート

1 公-共-私空間としてのストリート|三浦 詩乃
2 上越市の雁木通り:私的空間の連続から生まれるコモンスペース|長 聡子
3 高知市の街路市:300年続く生産者の生業の場|吉田 宗人
4 福岡市の屋台:公共空間での適正な営業を支える組合と市の連携|趙 世晨
5 柏市の柏駅東口駅前地区:郊外のストリートカルチャーの形成|中野 卓
コラム1 マネジメント組織としくみ|出口 敦、中野 卓

3章 ストリートの復権を後押しする政策

1 地域が主導するストリートの復権|三浦 詩乃
2 東京都の歩行者天国:50年前に始まったエリアマネジメントの原点|三浦 詩乃
3 ニューヨーク市のプラザ・プログラム:ストリートを多彩な地域活動が生まれる広場へ|三浦 詩乃
4 ライプツィヒ市のアクター連携アプローチ:公共投資と民間アクションの相乗効果|三浦 詩乃
5 ソウル市の延世路:トランジットモールからエリアマネジメントへ|宋 俊煥
6 大阪市の御堂筋:ガイドラインによる沿道開発の誘導と歩行者空間への再編|中野 卓
7 ジョグジャカルタ市のマリオボロ通り:アジア的な賑わいをもたらす屋台空間|志摩 憲寿

4章 ストリートを歩行者にひらく

1 ストリートを歩行者にひらく際の課題|中村 文彦
2 歩行者空間のネットワークデザイン|中村 文彦、三浦 詩乃
3 歩行者と他の利用者が共存できるデザイン|中村 文彦、三浦 詩乃
4 アジアの歩行者空間|中村 文彦

5章 まちの価値を高める組織としくみ

1 ストリートから育てるまちづくり|三浦 詩乃
2 新宿区の新宿モア4番街:商店街が主導する路上のオープンカフェ|中野 卓
3 喜多方市のふれあい通り:行政と商店街が連携した沿道整備とまちづくりの連動|野原 卓
4 横浜市の日本大通り、元町商店街:官民連携によるハードとソフトの一体型マネジメント|野原 卓
5 松山市の花園町通り:7年の取り組みで育った、まちを使いこなす組織としくみ|野原 卓
6 福岡市のきらめき通り:エリマネ組織による国家戦略特区を活用した賑わい創出|出口 敦、宋 俊煥
7 千代田区の丸の内仲通り:民間地権者が主導するハードとソフトのマネジメント|宋 俊煥
8 札幌市北3条広場(アカプラ):ストリートの広場化を実現した手法と組織|廣瀬 健
9 柏市の柏の葉キャンパス駅西口線と駅前広場:アーバンデザインセンターによる公・民・学の連携|出口 敦

6章 活用を仕掛けるプロセス

1 ストリート活用の仕掛け方|三浦 詩乃
2 活用を仕掛ける方法
〈1〉社会実験:短期間の試行から本格実施へ|中野 卓
〈2〉プレイスメイキング:気軽に迅速に安価に都市の居場所をつくる|三浦 詩乃
〈3〉アクション志向型プランニング:測定-実験-改善のループで課題を解決|泉山 塁威
〈4〉タクティカル・アーバニズム:ゲリラ的アクションで突破口を開く|泉山 塁威
3 名古屋市の長者町ウッドテラス:地域主導型社会実験の発展的循環プロセス|村山 顕人
4 神戸市の三宮中央通りのオープンカフェ:社会実験から本格実施へつなげる官民連携体制|中野 卓
5 サンフランシスコ市のパークレット:ゲリラ活動を路上活用政策に進化させたプロセス|泉山 塁威
6 ストリートの質を評価する
〈1〉ストリートの質の診断|三浦 詩乃
〈2〉快適性の評価|小﨑 美希
〈3〉アクティビティの評価|泉山 塁威
コラム2 屋台空間のデザイン|出口 敦

7章 ストリートから始まる復興まちづくり

1 災害からの復興プロセスにおけるストリートの役割|中野 卓
2 南相馬市の小高駅前通り:市民による原発被災地域の空きスペース活用|窪田 亜矢
3 石巻市の中央一大通り:商店主たちが構想したまちにひらかれた使い方|野原 卓
4 女川町のレンガみちプロムナード:復興の数歩先を見据えたマネジメントへ|三浦 詩乃

終章 ストリートから起こす都市のイノベーション|出口 敦

ストリートへの向きあい方
ストリート活用の制度・組織・プロセス
歩行者にひらくための法制度とローカルルール
交通と活用を両立させる設計・管理制度の提案
ストリート活用から地域ガバナンスの組織化へ
地域ガバナンスを支える「共」の組織化
ストリートデザイン・マネジメントの目指す方向性
コラム3 ストリート研究の潮流|三浦 詩乃

参考文献
おわりに|出口 敦

編著者

出口 敦(でぐち・あつし)

東京大学大学院新領域創成科学研究科社会文化環境学専攻教授。1961年生まれ。1990年東京大学大学院博士課程修了。工学博士。九州大学教授等を経て2011年より現職。柏の葉アーバンデザインセンター(UDCK)センター長も務める。著書に『Society5.0 人間中心の超スマート社会』(共著)など。

三浦 詩乃(みうら・しの)

横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院助教。1987年生まれ。東京大学大学院新領域創成科学研究科修了。博士(環境学)。2015年より現職。専門は都市デザイン、公共空間のデザイン・マネジメント。国際交通安全学会特別研究員を兼務。日本都市計画学会論文奨励賞受賞。

中野 卓(なかの・たく)

東京大学大学院新領域創成科学研究科社会文化環境学専攻特任研究員。1990年生まれ。2013年一橋大学社会学部社会学科卒業、2018年東京大学大学院博士課程修了。博士(環境学)。都市住宅学会学生論文コンテスト博士論文部門優秀賞を受賞。著書に『Society5.0 人間中心の超スマート社会』(共著)。

著者

中村 文彦(なかむら・ふみひこ)

横浜国立大学教授。1962年生まれ。東京大学工学部都市工学科卒業、同大学院修士課程修了。工学博士。2004年より現職。専門は都市交通計画。主な著書に『バスがまちを変えていく』『バスでまちづくり』『都市交通のモビリティデザイン』『都市交通計画第三版』など。

野原 卓(のはら・たく)

横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院准教授。1975年生まれ。2000年東京大学大学院修士課程修了。博士(工学)、一級建築士。大手設計事務所、東京大学助教等を経て2010年より横浜国立大学、2011年より現職。著書に『アーバンデザイン講座』(共著)など。

宋 俊煥(そん・じゅんふぁん)

山口大学大学院創成科学研究科助教。1981年生まれ。2013年東京大学大学院博士課程修了。博士(環境学)。東京大学大学院特別研究員(JSPS)を経て2015年より現職。株式会社にぎわい宇部取締役や若者クリエイティブコンテナ(YCCU)代表も務める。地方都市の再生やエリアマネジメントの研究や実践に従事。

村山 顕人(むらやま・あきと)

東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻准教授。1977年生まれ。2004年東京大学大学院博士課程修了。博士(工学)。名古屋大学大学院准教授等を経て2014年より現職。著書に『世界のSSD100 都市持続再生のツボ』『都市計画学 変化に対応するプランニング』(いずれも共著)など。

泉山 塁威(いずみやま・るい)

東京大学先端科学技術研究センター助教/一般社団法人ソトノバ共同代表理事・編集長/アーバンデザインセンター大宮ディレクター。1984年生まれ。2015年明治大学大学院博士課程修了。博士(工学)。明治大学助教等を経て2016年より現職。著書に『市民が関わるパブリックスペースのデザイン』(共著)など。

趙 世晨(ちょう・せいしん)

九州大学大学院人間環境学研究院教授。1967年生まれ。1997年九州大学大学院博士後期課程修了。博士(工学)。1998年九州大学大学院助教授を経て2017年より現職。著書に『都市理解ワークショップ』『シリーズ〈建築工学〉都市計画』(いずれも共著)など。

窪田 亜矢(くぼた・あや)

東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻特任教授。1968年生まれ。東京大学大学院博士課程修了。博士(工学)。株式会社アルテップ、工学院大学准教授、東京大学准教授などを経て、2014年より現職。著書に『津波被災集落の復興検証 プランナーが振り返る大槌町赤浜の復興』(共著)など。

長 聡子(ちょう・さとこ)

西日本工業大学デザイン学部建築学科准教授。1979年生まれ。2008年九州大学大学院人間環境学府都市共生デザイン専攻博士課程修了。博士(工学)。新潟工科大学准教授等を経て2018年より現職。

志摩 憲寿(しま・のりひさ)

東洋大学国際学部国際地域学科准教授。1977年生まれ。2006年東京大学大学院博士課程単位取得退学。博士(工学)。東京大学都市持続再生研究センター特任講師等を経て2016年より現職。近著に『アジア・アフリカの都市コミュニティ』『グローバル時代のアジア都市論』(いずれも共著)など。

小﨑 美希(こざき・みき)

お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系助教。1985年生まれ。2014年東京大学大学院博士課程修了。博士(工学)。独立行政法人建築研究所専門研究員などを経て2015年より現職。建築環境工学・照明計画・環境心理学を専門に研究・教育に従事。著書に『基礎教材建築環境工学』(共著)など。

廣瀬 健(ひろせ・けん)

アワーデザイン一級建築士事務所代表。1981年生まれ。2015年カリフォルニア大学バークレー校都市デザインプログラム修了(M.UD)。株式会社日本設計で札幌市北3条広場の設計監理担当等を経て、2014年より現職。同年より東京都府中市の一般社団法人まちづくり府中タウンマネージャーも務める。

吉田 宗人(よしだ・むねひと)

NPO法人倉敷町家トラスト所属地域おこし協力隊。1987年生まれ。2017年東京大学大学院新領域創成科学研究科社会文化環境学専攻博士課程修了。博士(環境学)。横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院非常勤研究員を経て2018年より現職。

ストリートのない都市はない。ストリートは都市の重要な構成要素であり、古くからあるストリートには歴史があり、地域の文化が表出しており、時代とともに変化する。ストリートは地域社会や時代を映しだす鏡であり、地域を見通すメガネでもある。都市計画の対象でもあり、建築と土木の接点でもある。沿道の街並みとも一体となって都市景観をつくりだし、賑わいを演出する舞台でもある。まさにストリートは都市そのものといってもよいかもしれない。

ストリートを歩行者にひらく

近年、国内外の都市において、ストリートは都市の人間性を回復する先進的なまちづくりの舞台になってきた。被災地の復興や地域再生のシンボルとしてストリートが取り上げられる一方、地域活性化のためオープンカフェや歩行者天国などの先駆的な社会実験が展開されており、ストリートの動向に注視することで、まちづくりの最先端の動きを見ることができる。
アメリカ・ニューヨーク市ではマイケル・ブルームバーグ元市長(在任2002~13年)が推進したプラザ・プログラムが有名である(3章参照)。同市内の多くのストリートが歩行者専用化や広場化され、人の流れを変え、住民や来訪者に憩いの場所を提供し、沿道のレストランや店舗の商業活動にもプラスの影響をもたらした。このストリート改変のユニークな方法や地域社会にもたらしたインパクトは国際的にも注目され、世界各地の都市政策にも影響を与えている。

交通以外のストリートの機能と役割

ストリートを歩行者にひらくための改変は、大規模な都市再開発事業に比べると、一見、予算的にも小規模で簡単な事業に見えるが、一般に極めて複雑で困難なプロセスを伴う。
もともと近代都市計画の導入後に整備された多くのストリートは、交通の機能を担うネットワークの一部として整備されている。交通計画に基づき一定量の交通をさばくことが見込まれ、道路交通法などの規制に基づき管理されている公共空間を改変するには、警察を含むいくつもの行政の部署との調整が必要となり、加えて、沿道の地権者、居住者、商店主らの事業者といった関係者の合意を得る必要もある。
元来、ストリートの中心的な機能は交通にある。ただ、地域社会が個々のストリート、とりわけ賑わいを重視したシンボル的なストリートに求める役割は交通の機能だけとは限らない。その地下や上空は電気や通信、上下水道のインフラの空間でもあり、行政の境界線でもあり、火災時には延焼遮断帯の役割を担うものもある。東京の表参道や銀座通り、大阪の御堂筋、仙台の定禅寺通りなど、沿道の街並みや並木を含めて地域社会の象徴的な空間となっている。ストリートは、散策や買い物、イベントを楽しむ交流の場でもある。ストリートを「歩行者にひらく」ということは、自動車交通以外の機能や役割のイメージを関係者で共有することから始まる。

社会実験からムーブメントへ

ストリートを歩行者にひらくための取り組みが活発化してきた背景には、特に地方都市での中心市街地の空洞化や地域再生の動きもある。2000年代には、国の都市再生モデル調査事業や国交省道路局の補助事業において、ストリート上でのオープンカフェの社会実験などが盛んに実施されてきた。ただ、社会実験の成果が高く評価されながら、継続された事例が少ないことは、ストリートを恒常的に歩行者にひらくことの難しさを示しているともいえる。

その難しさを克服するためにはどうしたらよいのだろうか。まずは、各地で取り組まれた社会実験などの方法や成果がもっと体系的に整理され、情報が共有される必要があるだろう。そしてそれらの調査研究が実践の現場でもっと活用される必要もある。成功事例だけでなく、できなかったことを分析することから学ぶことも多い。まずは、国内外の事例を通じて、ストリートを歩行者にひらくことの今日的意義や効果を広く共有していくことが何よりも重要と考える。そうした思いが本書出版の動機の一つでもある。
これまでのストリートの使い方を変えるためには、時には当たり前と思っていた既存のルールを見直すことも必要かもしれない。ストリートをどう使いこなしていくかは、いかなる都市にも共通の課題であり、共通の政策として、またムーブメントとして展開されるべきテーマでもある。

ストリートのマネジメントから地域ガバナンスへ

日本のストリートは、行政による行き届いた管理のお陰で安全な空間として維持されている。ただ、時にその管理に柔軟さを求めたくなる場合もある。公共空間は、英語ではPublic Spaceであるが、行政に管理を長年任せきりにしてきたGovernment Spaceともいえると感じる時がある。たとえば、交通に支障のない範囲でイベントを実施したり、カフェを出店するといった要請が受け入れられなかった経験をした読者も少なくないだろう。安全な交通の機能を行政に保障してもらいながら、このような使い方を認めてもらおうというのは欲張りな要求なのだろうか。
これまでの厳しい管理体制を解く役割を期待されているのが、エリアマネジメント(以下、エリマネ)などの民間組織である。地域の住民や事業者らが、自分たちでストリートを活用しマネジメントしたいという意識とその取り組みがエリマネ組織を発足させるきっかけになっている。こうした地域コミュニティによるストリートの活用とマネジメントの試みは、自立的な地域ガバナンスを組織化する初動期として位置づけることもできる。

本書の構成

世界各地で新たなストリートをめぐる潮流が見られるなか、本書はこれまでの研究蓄積に基づき、ストリートに関連したまちづくりの課題を明らかにするとともに、ストリートを整備、あるいは改変するハードのデザインから、活用と管理を含むマネジメントまでを一体的に捉える「デザイン・マネジメント」の必要性と可能性を念頭におき、先進的な取り組みのプロセス、組織、方法を体系的に捉えることを目指している。
本書は序章、1~7章、終章で構成している。序章では、ストリート・マネジメントの基本概念を紹介し、1章では、日本におけるストリートの歴史やタイプ、関連法制度の課題を整理している。2章では、ストリートと都市文化の関係について、3章では、ストリートを歩行者にひらくための政策を紹介している。4~6章では、ストリート空間のタイプに応じた歩行者へのひらき方、初動期のプロセス、組織の編成、評価方法、といった各論を事例を通じて展開している。7章は東日本大震災の復興のシンボルとしてのストリートに焦点を当てている。終章では、ストリートへの向きあい方や、ストリートデザイン・マネジメントの方向性をまとめている。
本書では、ストリートを変えていく地域の活動を「ストリートから起こす都市のイノベーション」として捉えている。本書が、こうした地域の活動を持続的なストリートデザイン・マネジメントへとつなげてもらう一助となれば幸いである。

出口 敦

すべてのストリートは人間が自らつくり使い続けてきた。ストリートは、都市を学ぶ教材でもあり、観察するといろいろな発見がある。人の営みや思いが凝縮された場所でもあり、ストリートを変えることは地域社会を変えていくことにもつながる。

筆者らは、都市の中で最も重要な要素としてストリートに着目し、本書の出版につながる共同研究プロジェクトを進めてきた。

本書は、日本学術振興会の科学研究費助成事業・基盤研究(A)(一般)『「ストリート」の管理と利活用を通じた公共空間の公共性と地域ガバナンスの段階的発展』(課題番号26249085、2014~2016年度、研究代表者 出口敦)の研究成果に基づき、研究代表者・分担者らの研究グループが中心となり執筆している。

研究グループとしての研究に先駆け、筆者らは福岡市、柏市、名古屋市、横浜市、石巻市などのフィールドにおいて、ストリートデザイン・マネジメントの実践も積んできた。そうした実践のなかで、これからの時代に向けて、ストリートを歩行者にひらくことの意義を強く感じ、エリアマネジメントなどの民間組織や公民連携によるストリートのマネジメントが進む感触をつかんできた。実践を通じて、法制度や施策の実施方法などに多くの課題があることも身をもって体験し、デザインとマネジメントを一体として捉えることの重要性も強く認識するようになった。そうした個々の経験の蓄積をより体系化された経験知としてまとめる必要性を感じたことが、本書出版の原動力となっている。

本書の著者は、都市計画学、土木工学、建築学分野の研究者であり、実践者である。これらの分野は、特に実践と研究の両面からアプローチが求められる分野でもある。実践により得た知見を研究を通じて理論の構築へとつなげ、研究を通じて考案した方法論を実践に応用する。研究と実践を両輪とする活動スタイルを特徴とする研究者や実務者だからこそ論じることができる内容が、本書を特色あるものとしている。

本書は実例を取り上げながら、「ストリートデザイン・マネジメント」へとアプローチしていく構成としているが、時間的、分量的な制約から未消化の部分もあると認識しており、本書の出版を契機とする今後の実践や研究のさらなる発展を期待したいところである。また、ストリートデザイン・マネジメントの国内外での取り組みを進める活動家や研究者のネットワークづくりも進めていきたいと考えている。そのために、本書の刊行はウェブサイト(i-love-street. com)の開設とも連動している。今後はこのウェブサイトをプラットフォームとして、継続的に情報交換の場をつくっていければと考えている。関心のある方々にはウェブサイトにアクセスし、活用していただきたい。

本書の出版にあたっては、資料の提供・収集や事例リストの作成にご協力いただいた久野恭平さん、小西美代子さん、井桁由美さんをはじめとする方々、東京大学出口研究室の学生やスタッフの方々、事例研究でのヒアリング調査や資料提供にご協力いただいた自治体や関連団体の方々に厚くお礼申し上げたい。また、企画段階から熱心に相談にのっていただき、本書の出版を牽引していただいた学芸出版社の宮本裕美さんに心から感謝申し上げたい。

2019年3月

出口 敦