由布院モデル

大澤健・米田誠司 著

内容紹介

由布院が観光地としての競争力を維持し続ける背景には、ブランドとイノベーションに裏づけられた「由布院モデル」があった。観光を手段としたまちづくりを通じて、「地域特性」と「ひとのつながり」をつくり、そこで生まれる持続的イノベーションが地域全体の市場競争力を強化する。地域活性化につながる新時代の観光戦略!

体 裁 A5・208頁・定価 本体2700円+税
ISBN 978-4-7615-2697-9
発行日 2019/02/28
装 丁 KOTO DESIGN Inc. 山本剛史


試し読み目次著者紹介はじめにあとがき
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はじめに ──由布院のまちづくりの不思議  9

・「観光まちづくり」の先駆者としての由布院
・由布院の「観光まちづくり」をめぐる疑問と課題
・観光まちづくりの3つのフェーズ
・本書の構成
・21世紀の地域振興モデルとしての「由布院モデル」

第1章 「由布院らしさ」=地域特性をつくる 23

1.「まちづくりのための観光」という基本姿勢  25

・由布院における「観光まちづくり」の出発点=「何のための観光なのか?」
・「住み良い、美しい町」をつくるための観光

2.「持続可能な地域」をつくる  31

・まちづくりの3つの柱
・「持続可能な観光」との違い
・「地域経済」「地域環境」「地域社会」を結びつける
・一般的な「まちづくり」との違い

3.観光が持つまちづくりの力  39

・「特殊市場」を創り出す観光
・外部資源の導入窓口としての観光
・観光の「風」を地域の「土」と混ぜる

4.地域特性と観光の競争力  48

・「住み良いまち」=由布院らしい独自のライフスタイルを持つまち
・ブランド力の源泉としての「由布院らしさ」

第2章 「動的ネットワーク」=ひとのつながりをつくる 55

1.まちづくりの実践における「動的ネットワーク」の形成  57

・「明日の由布院を考える会」に見られた「ひとのつながり」
・動的ネットワークの形成条件
・動的ネットワークの特徴
・動的ネットワークと観光の役割

2.「動的ネットワーク」とイノベーション  64

・動的ネットワークに見られる起動力のはやさ
・「由布院らしさ」を基盤にしたイノベーション
・組織的知識創造プロセスの特徴
・組織的知識創造理論の社会への応用

3.由布院のまちづくりと知識創造のプロセス  75

・カリスマだけで観光まちづくりはできない
・牛一頭牧場運動と知識創造のプロセス
・「牛喰い絶叫大会」への展開

4.イノベーションと観光の競争力  83

第3章 「市場競争力」=観光地としての成功をつくる 87

観光まちづくりの実践例1
由布院らしい「小さな宿」の拡がりと集積の過程 89

1.由布院らしさをつくる「小さな宿」戦略  89

・観光まちづくりの核としての旅館
・「小さな宿」の特徴

2.由布院における旅館の形成過程  97

・高い頻度で続く旅館の新規開業
・1980年代末から90年代初頭に開業した4つの「小さな宿」

3.「小さな宿」戦略の拡がりと由布院温泉の競争力  110

観光まちづくりの実践例2
食と農のイノベーション 114

1.旅館からのスピンオフによる新規開業  115

・「亀の子たわし会」について
・スピンオフの4つの事例
・スピンオフが生む、「まち」の魅力を楽しむ散策の拠点づくり
・スピンオフによる新規開業と由布院の競争力

2.由布院料理の発展過程  121

・「旅館料理」とは異なった由布院の料理
・「ゆふいん料理研究会」の前身となった勉強会の発足
・地産地消から地消地産による農家との連携
・旅館の垣根を越えて厨房をつなぐ横の連携
・イベントにおける経験値の積み上げ
・「ゆふいんラボラトリー」の誕生

3.「由布院らしい」料理の発展過程と知識創造のプロセス  128

・「由布院らしい」料理の形成
・料理の発展における知識創造のプロセス
・由布院の料理のあり方と地域内での経済循環
・地域を支える農業の現状

観光まちづくりの実践例3
由布院におけるアート・ムーブメントと景観形成 135

1.由布院のアート・ムーブメント  137

・アートとは何か
・由布院におけるアートの展開
・由布院のさまざまなアート・ムーブメント
・アートのイノベーションにおける知識創造のプロセス
・全国の先駆となった由布院のアート・ムーブメント

2.由布院の景観とデザイン  146

・統一案内標識の設置
・湯の坪(街道)デザイン会議
・ゆふいん建築・環境デザインガイドブック
・由布院のまちづくりと景観形成における知識創造のプロセス

第4章 観光まちづくりにおける「由布院モデル」153

0.「由布院モデル」と観光まちづくり  154

・「由布院モデル」の全体像
・「観光まち(地域)づくり」の拡がりと困難

1.フェーズ① 「由布院らしさ」=地域特性をつくる  157

・「住み良い、美しい町」をつくるという目的の設定
・由布院らしさを創り出す「手段」としての観光
・地域特性と観光の市場競争力
・つながりをつくるための共通善としての「由布院らしさ」

2.フェーズ② 「動的ネットワーク」=ひとのつながりをつくる 162

・「動的ネットワーク」をつくる
・知識創造のプロセスとしての「動的ネットワーク」
・観光まちづくりが不首尾に至るケース
・持続的なイノベーションと観光地としての競争力

3.フェーズ③ 「市場競争力」=観光地の成功をつくる  169
4.「由布院モデル」の課題  171
5. 21世紀の観光地戦略としての「由布院モデル」  174

・成熟した観光産業における「戦略」としてのまちづくり
・観光における知識マネジメントの重要性

観光まちづくりの実践例4
由布院モデルの展開――田辺市熊野ツーリズムビューロー 178

1.「由布院モデル」を適用した観光プランニング  178

・和歌山県田辺市の観光振興の始まり
・「動的ネットワーク」を取り入れた観光アクションプランづくり

2.観光プランニングの過程  180

・「何のための観光なのか?」=観光の目的を設定する
・「動的ネットワーク」をつくる
・田辺市熊野ツーリズムビューローをつくる

3.田辺市熊野ツーリズムビューローの活躍とイノベーション  192

・外国人誘客のためのプロモーション
・地域の「知識」のマネジメントによる受け入れ態勢づくり
・着地型旅行会社「熊野トラベル」の設立

4.田辺市での実践と「由布院モデル」  196

・田辺市での成果
・田辺市の成功の鍵

あとがき  200

引用・参考文献  202

大澤 健(おおさわ たけし)

和歌山大学経済学部教授。博士(経済学)。1966年生まれ。東北大学大学院経済学研究科博士課程後期修了。東北大学経済学部助手、和歌山大学経済学部講師、准教授を経て現職。
主な著書に、『観光革命 体験型・まちづくり・着地型の視点』(角川学芸出版、2010年)。

米田 誠司(よねだ せいじ)

愛媛大学法文学部人文社会学科准教授。博士(公共政策学)。1963年生まれ。1989年早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了、同年東京都庁入庁。1998年東京都庁退職、同年、由布院観光総合事務所事務局長に着任。2010年同事務局長を退任、2011年熊本大学大学院社会文化科学研究科博士課程修了。その後、2012年愛媛大学法文学部総合政策学科講師を経て、2016年4月より現職。

「はじめに ──由布院のまちづくりの不思議」(p.9~p.20)を下記にて公開しています!

学芸出版社note 「まえがきと目次 de 100冊」 036.『由布院モデル』

本書を執筆するにあたって、多くの人たちからの協力と尽力を受けた。とりわけ、広範囲にわたって何度も繰り返されたインタビューにお付き合いいただき、膨大な情報と地域への思いを語ってくださった由布院の多くの関係者に心から感謝したい。中でも、まちづくりのリーダーであった中谷健太郎氏と溝口薫平氏には何度もお話を伺い、本書のアイディアにご意見をいただいた。厚く御礼申し上げたい。また、田辺市の事例をまとめるにあたって、田辺市熊野ツーリズムビューローの会長である多田稔子氏と、田辺市や熊野地域の多くの方々から恩恵を受けた。合わせて謝意を表したい。

ただし、本文では彼らの名前を直接使うことなく、N氏やM氏、K旅館やT旅館という表記を意図的に使っている。固有名詞を使わなかったのは、「カリスマがいたからまちづくりができた」という従来からの理解を改めたいという思いがあったからである。由布院が著名な観光地となる上で、彼らが与えた影響が大きかったことは言うまでもない。しかし、彼らの個性だけに成功の原因を求めることは、逆に彼らがやってきたことを矮小化してしまう危険性がある。彼らが先駆的に成し遂げた「観光まちづくり」のエッセンスは、他所にも適用可能なものであり、それを理論モデルとして抽出して描き出すことが本書の中心的な課題だった。
実際、由布院モデルを適用した田辺市の観光振興は大きな成果を収めることになった。もちろん、田辺市の実践例もまた、卓越したリーダーシップを発揮した人たちと、地域の多くの方々の知恵と努力、そして、いくつかの幸運によって達成された。しかし、安易な誘致や模倣に頼ることなく、自分たちの地域の価値を信じ、地域のさまざまな人たちの思いを信じたという点は、両方の地域に共通している。観光振興において、こうした「思い」がすべての土台となっている点は、きちんと評価すべきだと考えられる。

これらの地域の経験から多くのことを学ぶことで本書は成り立っている。ただし、本書の内容についての責任は、もちろんすべて筆者にある。由布院や田辺市の方々が取り組んだ観光まちづくりの経験を十分に考察できたという確証はないが、これらの地域の経験から何かを学んで観光振興に役立てたいと考える人たちに、本書が提示した「由布院モデル」がいくつかのヒントを提供できていれば幸いである。

なお、本研究は科研費(基盤研究C)「観光における『まちづくり』の意味と知識循環型クラスターについての研究」(研究代表者:大澤健、平成27~30年)の助成を受けて行われたものである。

2019年2月
大澤健、米田誠司