海外で建築を仕事にする2
内容紹介
パブリックスペースのデザインに挑む16人
建築単体にとどまらず、都市、ランドスケープ、コミュニティデザインまで、パブリックスペースのデザインに挑戦する16人のエッセイ。米国の都市公園で人造湖の設計、バルセロナのバス路線計画、ルーブル美術館来場者のモビリティ分析、メルボルン流まちづくり、アフリカでの実測調査まで、建築のフィールドはまだまだ広い!
福岡孝則 編著/別所 力・戸村英子 他著
著者紹介
体裁 | 四六判・272頁 |
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定価 | 本体2400円+税 |
発行日 | 2015-10-20 |
装丁 | フジワキデザイン |
ISBN | 9784761526054 |
GCODE | 2258 |
販売状況 | 在庫◎ |
ジャンル | 建築一般 |
パブリック・オープンスペースを形にする
別所力/James Corner Field Operations
建築とランドスケープをシームレスにつなぐ
戸村英子/junya.ishigami+associates
テクノロジーとモビリティをデザインする
吉村有司/laboratory urban DECODE
ニューヨークで動き出す大都市の生態学
原田芳樹/Cornell University
ランドスケープ武者修行
保清人/LOSFEE CO., LTD.
トロピカル・ランドスケープデザイン
會澤佐恵子/Salad Dressing
測量とヒアリングから始める─アフリカ時間に身をゆだねて
長谷川真紀/JICA
中国的公共空間との格闘
石田真実/E-DESIGN
プレイスメイキング─メルボルン流コミュニティデザイン
小川愛/Village Well
街は劇場、人こそが主役─ポートランドの都市デザイン
渡辺義之/ZGF Architects LLP
北欧の町で知ったサステイナビリティ
木藤健二郎/Ramboll Group Stavanger
環境のキュレーション─見えない流れを可視化する
福岡孝則/Kobe University / Fd Landscape
急成長の熱帯都市をつくる─アジア流アプローチ
遠藤賢也/Atelier Dreiseitl asia
都市計画に踏み込む建築─ダッチ・アーバニズムの先
小笠原伸樹/Nikken Sekkei LTD
都市の余白に何が描けるか
鶴田景子/Wallace Robert & Todd, LLC
パブリックスペースのデザインは、答えのない複雑なパズル
金香昌治/Nikken Sekkei LTD
──Towards Terra Incognita (見果てぬ土地へ)
本書は、世界12カ国・15都市で、建築・都市・ランドスケープという果てしないフィールドをデザインする仕事に挑戦している日本人16名のストーリーを集めたものである。
著者たちのなかには、銀行マンから建築へ転向した人もいれば、パブリックアートからコミュニティデザイン、建築からランドスケープ、そして都市デザインへと皆、活動領域を拡げている。いずれも人生の流れの中で自ら決断し、海外の見果てぬ土地へ飛び出し、その地域での生活や働き方を模索してきた道筋、場所、人間関係を描いている。
都市・ランドスケープのデザインは、庭や、公園・緑地などのパブリックスペース、街区規模の都市デザインなど、オープンなシステムのデザインである。そこでは、土地の地形や植生、水の流れ、道や建物の配置から、そこでの人の在り方まで、時間の流れの中で変化する生きた媒体に向き合う。それこそが、この仕事の醍醐味だ。
これからの不確実な未来を考える上で求められるのは、新しいタイプのプロフェッショナルだ。想像力が豊かで、領域を超えた生態的な思考力、プロセスや時間に伴う変化をデザインに取りこむ調律力が必要とされている。
ではどのように、そんなプロフェッショナルに近づくことができるのだろうか?
そのヒントとして、本書では、刻々と世界中で起きている変化に向き合う著者たちの経験を、現場からの話を中心に綴ってもらった。彼らが、いつ、どこで、何に、どのように向き合ったのか? ホテル・ロビーの石庭から、ロンドンのオリンピック公園、バルセロナの交通システム、そしてマンハッタンの屋上で展開される都市生態学の実験まで、彼らの経験を通して描写される世界から、都市・ランドスケープの仕事の面白さや可能性が伝わってくるはずだ。
また、本書で紹介するのは、日本という島国から飛び出し、海外で武者修行をして戻ってきたという定番の話ではない。16名のうち、帰国したのは6名、残りは今も海外で奮闘中、現在進行中のストーリーである。
Terra Incognita(見果てぬ土地)という言葉がある。まだ人に知られず開拓されていない土地、見果てぬ場所に向けて人生を旅する著者たちの体験から刺激を受けて、新たな一歩を踏み出すきっかけにして頂ければ著者一同、望外の喜びである。
2015年8月 福岡孝則
きみの立っている場所を深く掘り下げてみよ。泉はその足下(あしもと)にある。
ニーチェ
海外で学び、働くことには何か特別なプログラムが用意されているわけではない。大切なのは、自分が立つ場所とそこに流れる時間、出会った人間を最大限に生かして、自分を掘り下げることだと気づくまで、僕の場合は12年、随分と時間がかかった。
はじめて大海原に飛び出した時の不安と期待の入り混じった気持ち、仕事の喜びや格闘…、そうしたストーリーが16人分集まると特別な色彩を帯びた一冊の本となった。本書を通して都市・ランドスケープ領域というフィールドに興味を持っていただき、海外で仕事をする面白さを共有する仲間が一人でも増えることを期待している。
これからの時代、都市のパブリックスペースこそが、人々が住みやすく、健康的な生活をおくるための鍵になる。人々が求めているのは、これまでの都市にはない自然や余白であり、散歩や軽い運動をしたり、人と出会うことのできるパブリックスペースの機能と魅力を高め、生活の質を上げることが都市のサステイナビリティにもつながる。今や、世界中で、この見えない流れを感じることができる。道路空間に可変的なパークレットを作り出したり、まちなかの空地を暫定的に広場に変えたりと、新しいムーブメントがあちこちで起きている。
著者は、まさにそのパブリックスペース創成に取り組んでいる人たちばかりだ。多様なアプローチから、この見えない大きな流れも感じ取って頂ければ嬉しい。
子供のころ無心に砂地に深い穴を掘り続け、水を流し込んで遊んでいた僕も、気がつけば大人になり、土を動かしたり、水の流れをつくったり、木を植えることを仕事にしている。この未知の地面を掘り続けると、どんな泉が隠されているのだろうか?これからも、少しずつ、時間をかけて掘り下げ続けていきたい。
最後に、本書はたくさんの方々の協力によって出来ている。執筆のきっかけを下さった立命館大学の武田史朗氏、海外での仕事の経験を共有して下さった著者の方々、粘り強く、かつ的確な調律力を持って編集を担当して下さった学芸出版社の井口夏実氏、松本優真氏に心から感謝の気持ちを捧げたい。
2015年8月 福岡孝則
*1:フリードリヒ・ニーチェ、白取春彦編訳『超訳 ニーチェの言葉』ディスカバー・トゥエンティワン、2010年
評:光嶋 裕介 氏 (建築家)
問いをみつけるたしかな視座と勇気ある行動力
建築は、衣食住に関わる大切な仕事のひとつであり、建築家を志すには、何かを神(創造者)の視点に立ってつくるのではなく、自身もまた一プレーヤーとして、「他者への想像力」を発揮して、クリエーション(創造)に立ち向かわなければならない、と常々思っている。
『海外で建築を仕事にする2』には、16人の日本人による奮闘記がものすごいリアリティーでもって綴られている。「2」と題されているように2013年に同名のタイトルで、17名の日本人による奮闘記が記されている。私も何を隠そう、大学院を卒業してベルリンの設計事務所で4年弱働いた経験をもつ「海外で建築を仕事にする」日本人であったが、執筆するご縁がなく、自分で『建築武者修行』(イースト・プレス)という本を刊行させてもらったが、自分の経験を書くことで、少しだけ世界が客観的に見えることがある。
さて、続編となった今回の16人に共通するのは、「ランドスケープデザイン」という射程の広い分野である。建築や土木よりも圧倒的に若い分野であるために、ブルーオーシャンであると言っていいかもしれない。
そうした新しいフィールドに飛び込んでいった著者たちには、ひとつの共通点がある。それは、常に自身と向き合い、石橋を叩いて渡るのではなく、自分たちの「内なる声」に耳を傾かせ、後悔しない確かな決断に突き動かされて行動しているということだ。
大学生活までは、受験に代表されるように「勉強」が「学び」の中心にあり、つねに「模範解答」が準備されていた。「問い」に対して、「答え」があるということは、比較され、競争することを余儀なくされる。
しかし、卒業して、社会に出ると、比較・競争することは続くものの、本当の意味での問題を与えられることはない。そして、そうした問題には、しばしば「正解」がないのである。
この予定調和に進まないところに、やりがいが生まれる。この本に収められた物語には、当たり前だが、ひとつとして同じパターンが存在しない。みな、自分で考え、自分の感覚を信じて、大きな海の中で試行錯誤している。何より、生き生きした現在進行形の話が綴られているのだ。
この一点にこそ、この本が生まれた魅力が宿っている。社会が激変し、少子高齢化社会が進む中、右肩上がりの価値観は見直されなければならない時期に入っているのは、誰の目にもたしかなこと。
経済学者の平川克美は、「移行期的混乱」と言ったが、まさにこの移行するときにこそ、新しい価値観は発見される。そして、それを発見する者たちは、決して決められたルートを登りつめ、与えられた問いにパーフェクトに答えることで誕生するのではない。むしろ、社会を確かな目で考察し、自分の物差しで勇気ある決断をしてきた者たちにしか見えない風景が存在する。
私は、この16人のストーリーを介して自分のこととして自覚をもって、正解を見つけ出すことより、一生向き合えるたしかな「問い」をみつけることの大切さを教えてもらった。
この本の帯に、もはや日本を代表する建築家となった隈研吾が「うらやましい!」と何度も叫びたくなった、と評したのもきっと、彼ら彼女らのそうした可能性にこそ希望を感じたからではないだろうか。
この本から力をもらい、世界に羽ばたく勇気ある若者たちがたくさん出てくることを願っている。自分で行動しなければ、何も掴めない。世界は広く、学びはずっと続くのだから。
担当編集者より
“最近の若者は内向き志向だから(売れないんじゃないか)”・・・と、最初は心配されたこの企画でしたが、続編までできました(めでたい!)。いつの時代にも、「自分は自由だ」と信じて行動する人達が居て、彼らの背中(体験談)が次の自由な人を生んでいるのかもしれない、そう思えると10年後もまた楽しみです。特に都市デザイン、まちづくり、ランドスケープの海外事情は殆ど知られていないので、その意味でも新鮮で役立つ情報を見つけていただけるのではないかと思います。
(井口)
彼・彼女らが世界に跳び出していった当時とほとんど同じ年頃の私にとって、原稿に綴られていた経験の数々はまさに“うらやましい!”の連続でした。日本から出たこと、海外で暮らしたことそれ自体ではなく、決意と行動の軽やかさによって自ら世界を広げていることに、大きな魅力を感じます。失敗を恐れて一歩が踏み出せなかったり、実践する前に自ら可能性を否定してしまったり…そんな、石橋を叩きすぎて渡れない人の背中を、石橋が崩れても自分で建ててしまうようなこの16人が、力強く押してくれるはずです。
(松本)