ポルトガルの建築家 アルヴァロ・シザ
内容紹介
世界的巨匠の素顔、土地に根差す作品の魅力
モダニズムを超えた静謐な空間で世界的評価を得てきた建築家。そのキャリアは母国の民主化の歴史と共に進化し、風土とも密接に繋がってきた。ノートや図面、紙ナプキンにまで絶えず描き続けるスケッチ、寡黙ながら時に発せられる辛らつな言葉、建築への純粋な愛情。知られざる素顔と作品の魅力を弟子である著者があぶりだす
体 裁 A5・416頁・定価 本体3600円+税
ISBN 978-4-7615-3260-4
発行日 2020/09/10
装 丁 赤井佑輔(paragram)
出版後の後日談
(2021年)6月25日のシザの誕生日にシザ事務所を訪ね、学芸出版から出版していただいた『ポルトガルの建築家 アルヴァロ・シザ』を届けてきました。
「もう2回目のワクチン接種もしたからマスクはいらないのだよ」とヘビースモーカーのシザは嬉しそうに話始めました。今年(2021年)88歳の米寿を迎えたシザがいつも居る打ち合わせ室には、新しいプロジェクトの図面が張られ、まだまだシザが精力的に働いている様子が感じられました。今は日本にもプロジェクトがあるらしく、今回の日本での出版も喜んでもらい、本と一緒に写真も撮ってくれました。(伊藤 廉)
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1 脚本家としてのタヴォラ、役者としてのシザ
──カーサ・デ・シャ・ダ・ボア・ノヴァ(1958-63)
2 プライア(砂浜)
──レサのスイミングプール(1961-66)
3 革命と建築
──エヴォラのキンタ・ダ・マラゲイラ住宅計画(1977-)
4 コピーは犯罪か?
──ボウサの集合住宅(1973-77、1999-2006)
5 宗教と建築
──マルコ・デ・カナヴェーゼスのサンタ・マリア教会と教区センター(1990-96)
6 アドルフ・ロース
──アヴェリーノ・ドゥアルテ邸(1980-84)
7 ミース・ファン・デル・ローエ賞
──ボルジェス&イルマォン銀行(1978-86)
8 変形
──ポルト大学建築学部(1983-)
9 18世紀都市計画の再解釈
──リスボン・シアード地区再開発(1988)
10 巡礼地サンティアゴ・デ・コンポステーラ(前編)
──ガリシア現代美術センター(1988-93)
11 巡礼地サンティアゴ・デ・コンポステーラ(後編)
──サンティアゴ大学情報科学学部(1993)
12 コルクと建築
──セトゥーバル教育大学(1986-94)
13 ドウロ川
──アルヴァロ・シザ事務所(1993-97)
アルヴァロ・シザ、インタビュー
14 塩田とオヴォシュ・モレシュ
──アヴェイロ大学図書館と給水塔(1988-95)
15 大航海時代
──EXPO’98リスボン万国博覧会ポルトガル館(1997-98)
16 参照
──セラルヴェシュ現代美術館(1991-99)
17 ロンドン
──サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン(2005)
18 ビルバオ
──ビルバオ大学オーディトリアム(2010)
19 デザインプロセス
──オビドス・キンタ・ド・ボンソセッソのリゾート住宅(2004-)
20 ポルトガル文学
──カミリアン・スタディセンター(2005)
21 ワインと建築
──キンタ・ド・ポルタルとアデガ・マイオールの醸造所(2010、2007)
22 寡黙なハイテク建築
──ヴィアナ・ド・カステロ図書館(2004-08)
23 バルセロナ
──コルネリャ・デ・リュブラガートのスポーツコンプレックス(2005)
24 広場と公園
──アリアードスの広場(2006)
25 メニーノ(少年)・シザ
──イベレ・カマルゴ美術館(2008)
26 スパ
──ヴィダゴとペドラス・サルガーダスのスパ(2010、2009)
27 生涯最高の建築
──アルハンブラ宮殿チケットセンター・コンペ案(2011)
エピローグ
ポルトガル年表及びアルヴァロ・シザ年表
ユーラシア大陸の遥か西、ヨーロッパの最西端に位置するポルトガル。400年前、この今でも人口が東京都より少ない国から最初の西洋人が日本にやってきた。その後ポルトガルの世界進出と共に、日本にもキリスト教、鉄砲、洋菓子など当時日本にはなかった様々なものがもたらされた。
そして、ポルトガルを代表する建築家アルヴァロ・シザの建築は、その歴史と文化に大きな影響を受けている。この本では、シザの建築とその文脈を語ることによって建築が生み出された背景に光を当てている。
本書によって建築が生まれる過程、ポルトガル、シザとその建築に興味を持ってもらえれば幸いである。
シザは、滅多に所員に謝ったり、感謝の言葉をかけたりしない。事務所の所長なので別にそれで一向に構わないのだが、一度だけ「ありがとう」と言われたことを覚えている。ある週末の夕暮れ、シザはいつものように一人黙々とスケッチをしていた。日が沈んだ空はわずかな残り火のような明るさで、部屋の中はすっかり暗くなっていた。それにも気づかず仕事を続けるシザの邪魔をしないように、そっと部屋に入り明かりをつけて、また静かに部屋を出ようとした。すると、背中越しに「オブリガード(ありがとう)」とボソリと声をかけられた。
世界を驚愕させる建築物の数々が、暗くなるのも忘れて少年のように建築に熱中する建築家の、絶え間なく描かれるスケッチから生まれていることを、一体どれだけの人が知っているのだろうか。今年87歳になるシザは、今日もあの部屋で一人スケッチを描き続けている。
本著の執筆は2013年に出版した『海外で建築を仕事にする』をきっかけに、学芸出版社から声をかけていただき始まりました。前著は共著であり、自分の数年の体験を書く作業だったためスイスイと進みましたが、アルヴァロ・シザの建築とその背景にある文脈を併せて書くという構想のもと、シザの80年以上の人生にポルトガルの900年の歴史と文化を関連させることは思った以上に大変でした。シザの建築は土地の文脈と切り離すことができないという考えから始めた作業でしたが、調査と執筆の時間の中で点としての史実や文化がつながり、ポルトガルとヨーロッパ各国、ブラジル、日本との意外なつながりが見えてきました。そしてシザという人物についても、世界の巨匠としてだけではなく、一人の人として生きてゆく上での日々の葛藤を知ることができました。
ポルトガルという国は日本から遠く離れているにも関わらず、日本人が訪れると懐かしさを感じる国です。それはユーラシア大陸の東と西の端にあるという、似た地理的状況がそうさせるのかもしれません。大きな自然災害や戦争被害がなく、古い街並みが残ったポルトガルは、あったかもしれないもう一つの日本の姿であり、また新しいテクノロジーや日々変わる街並みの中に古くからの伝統や文化の残る日本は、ポルトガル人の憧れの国です。
そしてシザという人は、現代のスター建築家というよりも、巨匠という言葉の似あう風貌と人柄を持っています。7年間のシザ事務所での勤務中、一から懇切丁寧に教えてくれる師匠ではありませんでしたが、言われたことをやっているうちに真意がわかるという、心からの修行体験を何度もさせていただきました。そして、シザ自身が誰よりも仕事に打ち込み、建築を深く愛し、純粋な空間の感動を守り続けようとするからこそ、シザ建築を訪れる者の心を打つのだと思います。
異なる文化と接することは考えるきっかけを与えてくれます。だから旅をしたり、違う文化圏から来た人と接したり、海外についての本を読んだりすることは、自分を成長させてくれるのだと思います。この本が、建築をつくることに携わる人や、使い手として携わる人に、日々接する街や建築について考える機会を与え、そこからよりよい建築が生まれてくるきっかけとなることを願います。
この本を執筆するにあたり、沢山の方々にご協力いただきました。まず学芸出版社の前田裕資さんと井口夏実さんをはじめ、スタッフの方々には、最初の構想から出版にいたるまで大変お世話になりました。長い間、私の遅筆にお付き合いいただき誠にありがとうございました。幾度もの修正を引き受けてくださったデザイナーの赤井佑輔さんや美しい印刷をしてくださったモリモト印刷の皆様にも大変感謝しております。そして、師匠のシザ先生には二度に渡るインタビューや、図面提供を快く引き受けていただきました。そしてそれをサポートしてくれたシザ事務所のアナベラ・モンテイロさんやキアラ・ポルクさん、先輩所員の上野敦さんにも大変お世話になりました。エドゥアルド・ガゲイロさん、ロベルト・コローヴァさん、ホアン・ドミンゴスさん、片田友樹さん、ダニエル・グティエレスさん、アナ・シルヴァさん、ジョゼ・シルヴァさん、ミース・ファン・デル・ローエ財団、ル・コルビュジエ財団、アモリングループ、ビルバオ観光局、セトゥーバル市役所、セラルヴェシュ財団、サーペンタイン・ギャラリー、テイラーズ・ポート、フルートオビドス、ヘルツォーク&・ド・ムーロン事務所、アイレス・マテウス事務所、イベレ・カマルゴ財団には快く写真を提供していただき、大変感謝しています。バルセロナに長い間在住し、現在は東京に戻られた吉村有司さんには、バルセロナの情報を多数いただきました。そして、Ren Ito Arq. 事務所に在籍した絹見伸一さん、カタリーナ・ミクラコヴァさん、イヴァナ・ネチャジョヴァさん、マルティーナ・カミンスカさん、矢尾彩夏さんには図面作成と本文校正に協力していただきました。協力していただいた方々に心からお礼申し上げます。
最後に、自分を支えてくれた日本とポルトガルの家族に感謝したいと思います。
2020年6月 伊藤廉
開催が決まり次第、お知らせします。