建築をつくるとは、
内容紹介
つくる楽しさを味わえる世界に飛び込もう!
設計事務所に「つくる」要素を組み込む、自らが暮らす地域を楽しくつくり変える、目の前にある材料を掘り起こす、これからの建築の担い手を育てる。多様な「つくる」を展開する人たちが、生い立ちから仕事、活動を語る。設計して終わりではない時代に、新しい領域でどんな働き方をするのか。可能性を探るきっかけとなる一冊。
体裁 | 四六判・224頁(カラー32頁) |
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定価 | 本体2200円+税 |
発行日 | 2024-05-25 |
装丁 | 夏目奈央子 |
ISBN | 9784761528935 |
GCODE | 2350 |
販売状況 | 在庫◎ |
関連コンテンツ | 試し読みあり レクチャー動画あり |
分野 | 建築一般 |
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はじめに
連続講義「つくるとは、」
巻頭グラビア「つくるとは、」
「建築をつくる仕事」をつくる 河野直
なぜ今「つくる」なのか 権藤智之
第一章「つくる×設計」 施工経験が設計をアップデートする
01 手で思考する─つくることから始まるデザイン 荒木源希
02 左官職人から建築家へ─京都の土壁技術を現代建築に 森田一弥
03 沖縄での設計施工─人と人々と土地による参加 山口博之
第二章「つくる×地域」 身近な場所を楽しくつくり変える
04 地域密着のファブスペースで暮らしをアップデートする 西山芽衣
05 消えゆく茅葺茶堂を地域で再生する 釜床美也子
06 銭湯とまちの生態系を編み直しつなぐ 栗生はるか
第三章「つくる×材料」 素材をクリエイティブに掘り起こす
07 古材のアップサイクルから新しいカルチャーをつくる 東野唯史
08 プロの技術でゴミに光をあてる 一杉伊織
09 家業の製陶と設計を組み合わせる 水野太史
第四章「つくる×教育」 これからの建築のつくり手を育てる
10 石積みの風景を支える技術 真田純子
11 ポスト・デジタル時代の建築のあり方 平野利樹
12 手で考え身体でつくるデザインビルド教育の実践 山本裕子
生きるためにつくる、つくるために生きる
おわりに
本書は「建築をつくる仕事」を実践する12名の働き方・生き方を紹介する本である。紹介する12名は、設計者や教育者の従来の役割からはみ出し、建築空間のみならず、風景や場を、自らの手で「つくる」ことに人生を捧げる実践者たちだ。
一章:現場での施工経験を経て設計行為をアップデートする ─ 荒木源希・森田一弥・山口博之
二章:地域社会の身近な場所を楽しくサステナブルに作り変える ─ 西山芽衣・釜床美也子・栗生はるか
三章:材料をクリエイティブに作り出し、新しい建築空間を生み出す ─ 東野唯史・一杉伊織・水野太史
四章:デジタルや手仕事のスキルを介して未来のつくり手を育てる ─ 真田純子・平野利樹・山本裕子
彼らが、社会にどんな問いを抱き、どんな仕事を生み出し、何に喜びを見出し、どこへ向かうのか──。各々が生み出した「建築をつくる仕事」とその背景にある思想を、できる限り率直な言葉で語ってもらった。本書を通じて、建築を学ぶ学生や建築の世界で働く人々が、自らの手で「つくる」という生き方・働き方に興味を持ち、一歩を踏みだすきっかけになれば、望外の喜びである。
かつてハブラーケンは「あなたに〈普通〉はデザインできない」と書いた(『都市住宅』1972年9月号)。あなたとは「特別な建物」をつくる従来の建築家をさす。そして住まいは、「普通のことをする普通の人びとによって作られる」。
本書に登場するのは、30歳から50歳程度、自分と年の差ひとまわりにおさまる方々である。建築家もいるが、建築家らしい建築家やスターアーキテクトとは違うし、目指してもいない(と思う)。
私事ながらこれまでの人生を振り返ると、小学校低学年の頃にはバブルがはじけていた。阪神大震災は小学5年生の朝早くに家が揺れた。大学入試の勉強をしていたら9.11の映像がテレビで流れた。リーマンショックでは、友人や先輩が勤め始めた人気のある会社が倒産してしまった。東日本大震災では市ヶ谷のバイト先から駒込のアパートまで歩いて帰った。社会が大きく盛り上がるようなことはあまりなく(あったとしても個人的には無縁で)、数年おきにひどいことが起きてきた。世の中がゆっくり衰退していくような感覚はあった。
まとめると怒られそうだが、本書に登場する方々も同じような時代を生きてきたと思う。同じような時代を経験し、現在、従来の建築や空間に関わる職能を広げた活動をされている。彼・彼女らの問題意識はいくつかの点で共通している。風景や生態系が失われている。材料が捨てられるのはもったいない。設計をする人間と使う人間の間に距離がある。建築の仕事が細分化されている。総じて、住宅地でも石積みでも銭湯でも、あるいは建築を設計して建てる仕事のあり方でもいい、私たちの日常や風景を成り立たせてきたしくみが、このままいくと成り立たなくなっていく感覚がある。そして、知らないうちに何かが損なわれていくような流れを変えるには、1つ1つの建築作品というよりも、そのつくり方やつくるネットワークを見直していく必要があると感じている。ただし、広く社会全体を変えるのは難しいし他人に押しつけるのも嫌なので、自分から率先して動いて、自分の周りから変わってくるような過程を思い描く。ヒロイックな、ある意味で作為的な建築ではなく、自然と生み出されるような普通の建築や空間、それが現代的なかたちで生み出されるしくみに関心がある。
本書で最後に登場する山本さんが書いているように、自ら手を動かそうという運動は、何かひどいことが起きた後に、そこから回復しようとして立ち上がってくるものらしい。自分自身これまでに特段ひどい経験をしたわけではないし、何か実際にプロジェクトを動かすといったことはあまりしていないが、1つの建物にとどまらないつくり方やしくみを自分自身の生活や日常にとって手応えのあるかたちで普通につくりだしたい、という著者の方々の感覚には共有するところが多かった。本書が、そうした活動を今思い描いている読者にとって、何か一歩踏み出す後押しになればうれしい。
最後に、お世話になった方々に御礼申し上げたい。まず本書は一般財団法人住総研の出版助成を受けた。また、連続講義「つくるとは、」は、建築生産マネジメント寄付講座が企画・運営しており、同講座は大林組、鹿島建設、清水建設、大成建設、竹中工務店の建設会社5社の支援によって運営されている。本書の表紙やグラビアページ、本文のレイアウトなどのデザインは、なつめ縫製所の夏目奈央子さんによるもので、本書に合ったクラフト感のあるデザインにしていただいた。本書の編集は、学芸出版社の中木保代さんにお願いして、企画の段階から継続的にアドバイスをいただいた。連続講義の企画・運営は和田隆介さんに手伝っていただいた。連続講義には毎回2名の方にご登壇いただいた。本書ではテーマや構成上、何名かの方の講義については割愛させていただいたが、また機会があれば内容を広く公開していきたいと考えている。