観光まちづくりの展望
内容紹介
施策と実践の基本を4つの柱から解き明かす
観光への期待は大きいが、「経済的利益」ばかりに目を奪われ、環境を劣化させたり地域社会と対立しては本末転倒だ。数字だけに目を奪われず、地域が元気で持続するための観光まちづくりの施策と実践の基本を、(1)地域環境、(2)地域社会、(3)地域経済、(4)人材と仕組み作りの4つの柱のWIN-WINの関係づくりから解き明かす
西村幸夫+國學院大學地域マネジメント研究センター 編 石山 千代 著 下間 久美子 他著
著者紹介
体裁 | A5判・284頁 |
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定価 | 本体2600円+税 |
発行日 | 2024-02-29 |
装丁 | 美馬智 |
ISBN | 9784761528812 |
GCODE | 5686 |
販売状況 | 在庫◎ |
関連コンテンツ | 試し読みあり レクチャー動画あり |
ジャンル | 観光 |
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また、令和6年能登半島地震を受け、下記のページにて、「第11章 観光地の防災・復興まちづくり──歴史的市街地における対策」を無料公開中です。あわせてご覧ください。
はじめに……〈執筆者一同〉
序章 観光まちづくりのこれまでとこれから……〈石山千代〉
1 観光まちづくりの25年
2 地域社会・地域環境・地域経済の状況変化と課題
3 目指すべき4つの柱と8つのキーメッセージ
第1編 地域の個性をみつけ、みがく
第1章 地域資源と観光まちづくり……〈下間久美子〉
1 集まれば国の宝
2 文化的景観
3 カルチュラル・ランドスケープ
4 地域社会にとっての合理性
5 文化財保護の落とし穴
6 地域資源と観光まちづくり
第2章 歴史文化遺産の保全・継承を支える自治体独自の枠組みづくり……〈藤岡麻理子〉
1 歴史や文化に根ざした地域づくりとは
2 歴史文化遺産の範疇の広がり
3 地域性に応じた自治体独自の取り組み
4 歴史文化遺産に関する独自の枠組みをもつことの意義
第3章 都市自然における地域文脈の読み取りと継承……〈下村彰男・劉 銘〉
1 様々な都市自然
2 地域の自然的・歴史的文脈と都市自然
3 都市自然にみる日本らしさ(和風)について
4 地域資源としての都市自然管理
第4章 地域とともに地域を読み解く学芸員──博物館のこれから……〈石垣 悟〉
1 博物館法の改正と第四世代博物館
2 博物館と民俗学
3 博物館と(民俗)文化財保護
4 日本版エコミュージアムという可能性
第2編 地域の多様なつながりをつくり、活かす
第5章 地域との協働による自然環境資源の保全と活用に向けて……〈堀木美告〉
1 国立公園の現在地点
2 日本の国立公園を取り巻く状況の変化
3 自然公園法の改正
4「国から地域へ」の潮流の加速と海外へのプレゼンス向上
第6章 デジタルでつながりを深める観光まちづくり……〈小林裕和〉
1 観光まちづくりと デジタル技術の活用
2 スマートツーリズム、スマートデスティネーション
3 観光DXとDMOの役割
4 雪国を感じる古民家ホテルryugon ──事例1 :南魚沼市
5 福井県観光DX推進コンソーシアム──事例2:福井県
6 「地域とともにある観光」に向けて
第7章 地域の内と外をつなぐモビリティとミュージアムのネットワーク……〈児玉千絵〉
1 つながりの捉え方
2 付知町のモビリティとミュージアムのネットワークづくり
3 地域のネットワークを重ねてデザインする
第3編 地域の暮らしを支え、豊かにする
第8章 域内循環を重視した観光経済の再構築に向けて……〈塩谷英生〉
1 市場環境の変化と経済効果漏出への懸念
2 経済効果漏出を抑制する施策の方向性と課題
第9章 地方都市の中心市街地と観光まちづくり……〈十代田 朗〉
1 地方都市の中心市街地の現状
2 「中心市街地活性化基本計画」にみる活性化の目標像
3 地方都市の中心市街地における観光的特性
4 観光振興からみた今後の都市づくりの課題
第10章 地域を拠点とする地域旅行ビジネスの時代……〈小林裕和〉
1 地域で生まれる「社会関係性の経験」
2 地域が主体となる観光における持続可能性の課題
3 「地域旅行ビジネス」とは
4 隠岐旅工舎──事例1 :島根県隠岐郡隠岐の島町
5 DMC沖縄──事例2 :沖縄県那覇市
6 地域旅行ビジネスが持つ2つの共創的役割
第11章 観光地の防災・復興まちづくり──歴史的市街地における対策……〈浅野 聡〉
1 大規模自然災害による歴史的市街地の被害と衰退
2 みえ歴史的町並みネットワーク──東日本大震災を契機に設立
3 日常時の対応
4 震災直後の対応
5 震災復興時の対応
第4編 地域の未来をつくる人材と仕組みを育てる
第12章 持続可能な観光まちづくりの組織と安定財源……〈梅川智也〉
1 観光まちづくり組織を取り巻く環境変化
2 新しい観光地域づくり法人(DMO)の形成・確立
3 安定財源の確保に向けて
4 望ましい地域の観光まちづくり推進体制
第13章 自主規範で「地域らしさ」を守り育てる……〈石山千代〉
1 自主規範の特徴と歴史
2 町並み保全地域における自主規範の制定と展開
3 観光まちづくりにおける自主規範の役割と今後
第14章 若い世代が織りなす平和教育と観光まちづくりの可能性……〈河 炅珍〉
1 広島と平和教育の歩み
2 大学生が表現する平和
3 平和の担い手と広がる環
第5編 観光まちづくりの現場から──4つの柱の総合的実践
第15章 地域資源を活かした個性的なまちづくり── 岩手県住田町……〈南雲勝志〉
1 住田町との出会い
2 屋台プロジェクト──杉とものづくり・その1
3 まちなかへ──杉とものづくり・その2
4 ものづくりから仕組みづくりへ
5 栗木鉄山の記憶を留める
第16章 まち・ムラをつなぎ、来訪者・移住者とつながる──愛媛県内子町……〈米田誠司〉
1 まちとムラのつながり
2 内と外とのつながり
3 時代と世代をつなぐもの
第17章 住民主導の観光まちづくり百年の到達点──大分県由布市由布院……〈米田誠司〉
1 百年前に何を目指したのか
2 百年の中で何がみえてきたのか
3 さらなる先を見通して
第18章 建物・生業リノベーションから暮らしとまちの再生へ ── 東京都台東区谷中地区……〈椎原晶子〉
1 都心部の生活環境、建物、町並み保全の課題
2 誇りを取り戻すまちづくりの歩み
3 2000年頃までのリノベーションの歩み
4 行政とともに動かす──都市計画道路見直しへ
5 リノベーションの企画・計画・資金調達──持ち主、使い手とまちに寄り添う
6 家の物語を紡ぐリジェネレーションの設計・施工
7 モチベーションが人を動かす──自ら動くプレイヤーが増える
8 信じ抜くことで道が開ける
索引
おわりに……〈西村幸夫〉
はじめに
本書はこれからの観光まちづくりのあるべき姿を幅広い研究分野から素描した新しい試みである。多彩な研究分野を統合して、ひとつのまとまった形を与えるにあたって、本書では、4つの柱を立てることとした。「地域の個性をみつけ、みがく」(1編)、「地域の多様なつながりをつくり、活かす」(2編)、「地域の暮らしを支え、豊かにする」(3編)、「地域の未来をつくる人材と仕組みを育てる」(4編)である。
1編から3編の3つの柱はすなわち、地域環境、地域社会、地域経済という地域の持続可能性を支える3本柱であり、続く4編はサステナブル・ツーリズムを支える4本目の柱である。これら4本の柱が屹立することによってはじめて観光まちづくりが可能となる。筆者一同が所属している國學院大學観光まちづくり学部も、2022年4月の新設当初よりこの4本柱を学部構成の基幹として、これをもとにカリキュラムを構築している。
そして、最後のパートは、これら4つの柱が観光まちづくりの現場でどのように総合的に実践されてきたかを探った実践編である。
また、冒頭にこれらの見取り図を指し示す序論を置いている。
本書が5つのパートから成ることがそのまま観光まちづくりの4本柱+実践例を示している。つまり、各章の多様な論点も4つの柱に分類することによって、観光まちづくりの中での明確な位置づけを得ることができる。それぞれの章がいかに多様なアプローチや研究スタイルから成っていたとしても、それらはひとつの構図の中にあることがわかる。そして全体を統合した観光まちづくりの現場の息吹を最後にまとめている。
かつて、前著『観光まちづくり──まち自慢からはじまる地域マネジメント』(西村幸夫編著・編集協力(財)日本交通公社、学芸出版社、2009年)において、筆者らは観光からまちづくりに接近する動きとまちづくりから観光に接近する動きの双方の交点に観光まちづくりが成立したと整理した。ただ、現時点で観光まちづくりの多様な動向を読み解こうとすると、研究分野によって見え方も多様であり、その理解の方法も多岐にわたることが明らかになってきた。──ことはそれほど容易ではない。
しかし、ひとつ言えることは観光まちづくりの4本の柱とそのもとにある8つのキーメッセージは、どのようなディシプリンであっても共有できるものであるということである。つまり、観光まちづくりというフィールドにおけるアプローチの仕方には共通性がある。なぜなら、どのような学問分野においても対象となる地域が大切だという点においては異論がないからである。地域の資源を再認識し、観光や交流を通して地域社会を元気にすること、そのための仕組みづくりや人づくりを行うという姿勢はどの学問分野でも共通しているのだ。
観光まちづくりの現場に役立つには、こうしたスタンスを再確認し、地域に即した、地域とともにある観光を目指す観光まちづくりの手法を深掘りしていくことを地道に進めるしか方法はない。地域がこれからも元気で、永続していくことに前向きに寄与できる施策のおおきな支柱となること、これが「観光まちづくり」が目指すべき途である。
本書を通して、観光まちづくりの考え方と実践の現段階における多様な広がり、さらには観光まちづくりの今後の展開の可能性を感じていただけるならば、これに過ぎる喜びはない。
執筆者一同
おわりに
2009年2月に刊行された前著『観光まちづくり』の第1章において、筆者はかつて相反していた観光とまちづくりが徐々に接近し、地域マネジメントのひとつの形として「観光まちづくり」という視点が形成されていった経緯を概括的に述べた。観光まちづくりの実践例は地域によっては古くから存在するといえるが、用語としての観光まちづくりが生まれてようやく10年ほど経過した段階での現状報告だった。
そこから15年が経過し、観光とまちづくりをめぐる情勢には様々な変化があった。
たとえば、訪日客の急増によって、場所によってはオーバーツーリズムとも言えるような事態が招来したことや、その後のコロナ禍によって観光はおろか人の動きそのものが凍結されてしまった事態、コロナ後の人流の復帰と産業によっては人手不足が叫ばれるなどの動き、さらには再びやってきた過剰気味の旅行ブームである。
地方公共団体においても地域活性化の有力な施策のひとつとしての観光まちづくりには、ここのところ熱い視線が注がれてきている。加えて2023年3月にまとめられた第四次の観光立国推進基本計画においても持続可能な観光地域づくりが基本とされており、これはまさしく観光まちづくりそのものを指し示しているとも言える。入込客数などの数字に目を奪われることなく、観光の経済効果をしっかりと把握しつつ、地域と共にある観光が目標となっている。
他方、人口減少の波は想定以上に早く地域に及び、各地に空き家や空き地が増加し、これにコロナ禍が加わり、祭礼や伝統行事を支えるコミュニティが危機的状況に直面している。地域づくり・まちづくりの側においても、当事者意識を持った関係人口の増大が、こうした危機に対処する有力な施策として今まで以上に意識されるようになってきた。
つまり、観光まちづくりそのものをめぐる関係人口も、従来の観光関連事業者やまちづくりの行政担当者や地域リーダーたちを越えて、多様な分野に拡大しつつあるのだ。
こうした事態を前にして、筆者たちはまず、観光まちづくりのベースとなる地域そのものの現状と問題点、さらにはその資源や将来の可能性をどのように把握し、それらを活かしていく戦略を立案するための方法論を明示することが不可欠であると考えた。そして2023年3月に『「観光まちづくり」のための地域の見方・調べ方・考え方』(國學院大學地域マネジメント研究センター編、朝倉書店)を刊行することで、観光まちづくりに際して、どのように地域を直視するのか、そしてどのように地域を動かしていくのかに関して、基礎的な視点や手法を共有することを目指すこととした。
その先に、観光まちづくりの旗印のもとに結集する多様な学問分野を概観し、それぞれのディシプリンにおける観光まちづくりにかかわる論点やスタンスを明示することによって、観光まちづくりの現在における座標を明らかにしようと考えた。その成果が本書である。
したがって本書は、地域の自然や文化資源や社会構造、地域政策や地域経営、観光政策や観光事業など、多様な研究分野それぞれから見た観光まちづくり関連の多様な視座や戦略を網羅した論集となっている。
学際的な論集によく見られるように本書においても対象とする地域との距離の取り方や調査手法において、それぞれの学問分野の特性に応じて多様である。こうした多様なアプローチを通じて、地域の現場と全体を見通す立場とを行き来することになる。こうした作業をつうじて地域の理解が深まっていくことになる。これからの観光まちづくりの新領域を切り拓いていく一里塚として、本書を多くの仲間たちに提起したいと考えている。
なお、本書の刊行にあたっては、令和5年度國學院大學出版助成(乙)の助成を受けた。また、学芸出版社の前田裕資氏には変わらぬ支援を頂いた。記して謝したい。
2024年1月
執筆者を代表して
西村幸夫
開催が決まり次第、お知らせします。