世界に学ぶ自転車都市のつくりかた
内容紹介
自転車での移動が選ばれる街と道のデザイン
子どもも大人も使える便利でエコで健康的な移動手段、自転車。その利用を伸ばす環境整備が、車より人が中心の交通への回帰のため、持続可能な社会のために、世界で進められている。各地の「おのずと自転車が選ばれる」まちづくりを、ニーズ、デザイン、都市戦略から解説し、自転車×まちの未来を展望。設計カタログも収録。
宮田浩介 編著/小畑和香子・南村多津恵・早川洋平 著
著者紹介
体裁 | 四六判・256頁(カラー64ページ) |
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定価 | 本体2400円+税 |
発行日 | 2023-11-10 |
装丁 | 星野恵子 |
ISBN | 9784761528669 |
GCODE | 5677 |
販売状況 | 在庫◎ |
関連コンテンツ | 試し読みあり |
ジャンル | 土木・交通 |
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ニーズ――― 人々の暮らしと自転車
デザイン―― 自転車環境のデザインと実装
都市戦略―― 社会の中の自転車政策
まえがき
第1部 世界の先進/新興自転車都市
1章 コペンハーゲン 世界の日常自転車ルネッサンスを刺激する街 ――(宮田浩介)
ニーズ 自転車が暮らしに溶け込んだ「ライフ・サイズの街」
デザイン デザイン思考=ユーザー目線の「バイシクル・アーバニズム」
都市戦略 たゆみなき自転車環境整備は民主的な都市のため
2章 オランダ 世界一子どもが幸せな「自転車の国」の設計図 ――(宮田浩介・早川洋平)
ニーズ 利用度ナンバー1の国の「ママチャリ」文化
デザイン 圧倒的に安全快適なインフラの充実と洗練
都市戦略 「人の造った国」オランダと自転車の半世紀
3章 ニューヨーク 闘う交通局長がリードした北米のストリート革命 ――(宮田浩介)
ニーズ アメリカ随一の都市が求めていた脱・車中心の街路
デザイン 戦略とデータで街路を変えたサディク=カーン交通局長
都市戦略 北米各地で進む、人のためのストリートの復権
4章 ロンドン 自転車を広め、そして忘れた国の日常利用再興 ――(宮田浩介)
ニーズ 漱石に「自転車日記」を書かせた街の今
デザイン 自転車の都への回帰というパズルの様々なピース
都市戦略 健やかな発展のための全国的「アクティブ交通」推進
5章 パリ 自転車メトロポリスを現実にする市長のリーダーシップ ――(小畑和香子)
ニーズ 自由が乱れ咲く都の交通空間格差
デザイン 強きを抑え平等をもたらす街路再編の本気度
都市戦略 コンパクトでみなにやさしい光の街のビジョン
6章 ドイツ 車依存からの脱却を! 市民が先導するモビリティシフト ――(小畑和香子)
ニーズ 道と未来を車から取り戻す鍵としての自転車
デザイン 車中心から人中心へ、自転車インフラ刷新は進行の途上
都市戦略 「自転車の国」の夢を語る車大国の現在地
第2部 日本の自転車政策ーー現状と展望
7章 滋賀 市民発の、ツーリズムによる自転車まちづくりの展開 ――(南村多津恵)
ニーズ 環境保護アクションとして始まった湖国の自転車まちづくり
デザイン 市民による草の根のサイクルツーリズム整備
都市戦略:自転車まちづくりは市民と行政のチームワークで
8章 日本〈総論〉 今よりもっと自転車が選ばれる社会へ ――(宮田浩介・早川洋平)
ニーズ 顧みられてこなかった豊かな日常自転車文化
デザイン ユーザー目線が抜け落ちた日本の自転車インフラ
都市戦略 日本のまち×自転車の未来をめぐる5つのポイント
9章 設計カタログ 世界品質の自転車通行空間デザイン ――(早川洋平)
あとがき
世界では今、自転車都市を目指す動きが加速している。車中心の100年で失われた人のための街路を甦らせるため、社会に関わる機会の格差解消のため、また気候危機対策として、あらゆる年齢・能力の人に徒歩や公共交通とともに自転車が「選ばれる」環境づくりが進んでいるのだ。
表題から窺える通り、本書では欧米の先進・新興自転車都市をめぐり、「ニーズ」「デザイン」「都市戦略」の3つの観点から、それぞれの土地の暮らしと自転車の関係、インフラ整備の重要性と進行度、世界の共通課題と結びついた政策の位置づけと展望を読み解く。
コペンハーゲン (1章)からは生活に溶け込んだ日常自転車文化の価値とユーザー目線の環境デザインの基本を、自転車利用度トップのオランダ(2章)からはその「ママチャリ文化」を育んだ市民の働きかけ・高度なインフラ・仕組みづくりを学び取れるだろう。北米のストリート改革を牽引してきたニューヨーク(3章)、19世紀末に世界的な自転車ブームを生んだ国の首都ロンドン (4章)、近年の街路再編のスピードが突出しているパリ (5章)は、これから日常自転車文化を(再)獲得しようとしている都市がインクルーシブなデザインを重視し奮闘する姿をありありと見せてくれる。市民の盛んな訴えかけが続く自転車中堅国ドイツの今(6章) は、車大国の硬直性と男性中心の交通という根本問題を突きつけてくる。
2部構成の後半では、まず滋賀を例に国内地方部の自転車まちづくりの現場を覗き(7章)、先進的で普遍的な日本の日常自転車文化と、それを環境整備で支えてこなかったゆえの現状、世界とともに未来へ歩むための道を論じる (8章)。締めくくりは、世界の知見を凝縮した自転車通行空間デザインの図解だ(9章)。
多くの人の明日を変える一冊になっていれば嬉しい。
初めて自転車に乗れた時のこと、左右のペダルの推進力をつなげ、ついに「離陸」した瞬間を覚えているだろうか。自転車は人にささやかな羽を与え、人を世界から切り離すことなく、世界を新たに発見させる。それは子どもでも使える身近な魔法であり、日常の中の祝祭である。
本書で目指したのは、「人」から出発して自転車のまちを語ることだ。ただ通り抜けるだけではない、人が世界に触れ社会に関わっていく場としての道を増やそうと考えた時、想像力のキャンバスに描かれる人々のそばには、おのずと自転車の姿が浮かび上がってくるはずだ。この視点から、暮らしの中の自転車のポテンシャルを最大限に活かしてきたまち、これからそこに近づこうとしているまちの実践を、一冊にまとめようと試みた。
「人」から語るとはまた、人を安易にグループ分けしないという意味でもある。私たちの「公共」体験の大部分をなす日々の移動、その形態は、何よりもまちと社会の構造に強く決定づけられ、反復が他の可能性を忘れさせている。だからこそ、交通手段と人の関係を固定的にとらえ、不毛な「部族間対立」を生み、今とは違う未来への想像力にブレーキをかける、グループ化や非人間化の言葉(「ドライバー」や「歩行者」、自転車に乗った人を指しての、人を透明化した「自転車」など) はできる限り避けるようにした。語られ方(ナラティブ)の硬直を単語レベルから解いていくことは、社会のあり方を変えるための重要な戦いのひとつだ。
なすべきことはあまりにも多いが、漕いでいる限り倒れはしないし、どこかで追い風も吹き、光も射すだろう。本書を編むにあたって尽力・協力・応援して下さった内外の数多くの方々、そして世界のあちこちで私たちと並走してくれているあなたに、心からの敬意と感謝を表したい。
宮田浩介
注釈資料のダウンロードはこちら(更新中)
開催が決まり次第、お知らせします。