本のある空間採集
内容紹介
書を求めよ、町へ出よう。本と出会う44空間
全国の新刊書店、古書店、私設図書館、ブックカフェ、移動書店など44件を訪ね歩き、個性豊かな空間の数々を実測採集した一冊。地方都市から都心部まで、オルタナティブな小拠点に凝縮された店主の創意工夫や地域の空き家・空きビルなどを利活用した拠点づくりに着目し、本と人とまちが織りなす空間の居心地とスケールに迫る
●用紙サイズ:A3(トンボ・余白含む。本体はB4)
A3用紙に100%でプリントして切り取っていただくか、B4用紙に100%でプリントください
紹介事例マップ
目次
はじめに
○東北・関東甲信越
青森県 まわりみち文庫|飲み屋小路にひっそりと積まれた木箱書架
新潟県 今時書店|現役高校生がデザインした書籍との対話空間
宮城県 book cafe 火星の庭|ひとりでいる人に寄り添う、都市のシェルター的本棚
栃木県 BOOK FOREST 森百貨店|地元の子どもと世界をつなぐ絵本のブックツリー
群馬県 REBEL BOOKS|デザイナー店主がつくりあげたブルーグレーのローカル基地
東京都 気流舎|2間角のシュタイナー建築はカウンターカルチャーの聖地
東京都 Readin’ Writin’ BOOKSTORE|40㎡の巨大壁面書架を見下ろすまちの奥座敷
東京都 Title|本が主となった民家の9m書架&隠れ家カフェ
東京都 COW BOOKS|ステンレスの内装の中で熟成された古書のある居場所
長野県 栞日|書物が発するメッセージを拡声させるアップサイクル書架
長野県 遊歴書房|門前町の一角で時空を超える、世界地図を体現したギャラリー型書架
*Column1 2時間1本勝負の「実測」
○北陸・東海・近畿
富山県 ひらすま書房|旧郵便局のタイムレスな空間が引き寄せる古書と人の縁
石川県 オヨヨ書林 新竪町店|ぼんやりのんびり本を探せる大うなぎの寝床
石川県 石引パブリック|美大生たちの目を奪う巨大書架のビジュアルブック
静岡県 ひみつの本屋|私的に本と出会う、元映画館のチケットブース
静岡県 みんなの図書館さんかく|一箱本棚でつくる駅前商店街の溜まり場
静岡県 フェイヴァリットブックスL|友だちの家に擬態した本好きの楽園
愛知県 TOUTEN BOOKSTORE|カフェバーカウンターは奥に伸びる書架への入口
三重県 トンガ坂文庫|漁村でつくりあげた本のある暮らしとポップな異世界
三重県 USED BOOK BOX|内法80㎝四方の極小図書館
大阪府 toi books|都会の5坪空間に光る54のインデックス棚
大阪府 居留守文庫|増殖しつづける木箱で埋め尽くされた本の迷宮
大阪府 LVDB BOOKS|長屋を貫く鋼管足場書架と静けさをまとう書物たち
京都府 誠光社|6枚の袖壁がつくるほどよい没入感
京都府 ba hutte.|極薄敷地から通りに滲み出す超私的選書空間
奈良県 とほん|商店街に新風を吹き込む軽やかな角材ストラクチャー
奈良県 人文系私設図書館ルチャ・リブロ|辺境でこそ出会える1冊が待つ、山中の開架閲覧室
和歌山県 本屋プラグ|椅子も机も書架になる、自由奔放な居心地
*Column2 「作図」は孤独な作業
○中国・四国
岡山県 蟲文庫|美観地区の古民家で交錯する店主の世界と本の世界
岡山県 451BOOKS|シンボリックな螺旋階段で巡る書架のキューブ
広島県 弐拾dB|深夜の元医院建築で本に没入する催眠的読書体験
広島県 READAN DEAT|レトロビルの佇まいを再編集した3つの小空間
鳥取県 汽水空港|セルフビルドで変化しつづける湖畔の書店小屋
島根県 artos Book Store|もの・人・音楽を本でつなぐ交易空間の配置計画
山口県 ロバの本屋|バイタリティとユーモアで山奥の元牛舎をセルフリノベ
香川県 本屋ルヌガンガ|大階段から棚板まで、本と目が合う一瞬を設計する
香川県 へちま文庫|本を引き立てる家具と読みたくなる風景
愛媛県 書房ドミンゴ|駄菓子屋的な距離感で近所の子どもの好奇心をかきたてる
*Column3 本のある空間とまちの関係
○九州・沖縄
福岡県 MINOU BOOKS|本との出会いを誘発する賑やかな窓際書架
福岡県 ナツメ書店|元時計店の意匠と呼応する精緻な配架計画
熊本県 橙書店|ひしめく本と人との遭遇を静かに見守るカウンター
鹿児島県 古書リゼット|ビルの共用部を書店空間とした本箱のパッサージュ
沖縄県 市場の古本屋 ウララ|つい足を止めてしまう、通りにはみ出た個性派本棚
全国 BOOK TRUCK|フェスから団地まで、出会いを詰め込んで走る移動書店
*Column4 予定調和ではない本との出会い
店舗情報
おわりに
こんにちは。著者の政木哲也です。この本を手にとってくださり、ありがとうございます。さっそくですが、今あなたの居るその場所はいったいどこでしょうか。書店やブックカフェ、はたまた図書館、電車の中、公園のベンチ、自宅の一室……そしてその場所はどんな空間でしょうか。とても興味があります。
本書は、個人書店・私設図書館・ブックカフェなど、国内の様々な「本のある空間」を訪れ、その空間を「実測」し、立体的な図として描き、それらを1冊にまとめたものです。取り上げた空間の共通点は「小ささ」です。昨今の地域図書館や大手書店チェーンはどちらかというと大量の本を一望でき、インパクトのある「大」空間を演出することが多いようです。しかしその一方で、本をめぐる草の根的な営みに目をよく凝らし、耳を澄ましてみると、日本各地でまさに地面から芽を出すように、小さいながらもたくましく居場所をつくる個人書店・私設図書館・ブックカフェの存在に気づきます。かつてまちに何軒もあった地域密着型の書店が次々と閉店してしまう時代にあって、大都市から意図的に離れ、わざわざそこを目指さないと辿り着けないような場所にあることも少なくありません。オンライン上でほしい本を見つけたり入手したりすることがかつてないほど簡単になった時代だからこそ、「リアルな」空間を運営するオーナーたちが、人と本の出会う拠点をどんなまちにつくり、その場に身を置くことによってどんな空間体験をもたらそうとしているのか、知りたくてたまらなくなりました。そんな関心から、実測の旅に出ることにしました。
たびたび発せられる緊急事態宣言の合間を縫うようにして訪れた取材先のまちは、どこも静まりかえって、食事を取る場所にも困るほどでした。そんな不穏な時期にやっとの思いで辿り着いた本のある小さな空間には、外出自粛による静けさも意に介さないように、ただ本が穏やかに佇んでいました。おそらくパンデミック以前も、時折小さな空間いっぱいに人が集まる本のイベントが開かれるような時を除けば、変わらず平穏な空間だったはずです。社会が一変しても同じように棚に並び、いつ訪れるかわからない客を静かに待つ本の在り様に胸を衝かれ、そんな凛とした佇まいの空間を描きとめるべく、私は実測作業に没頭しました。
空間を実測しても1冊の本と出会う体験の価値が測れるわけではないだろう、と思われる方がいるかもしれません。もちろん、大事なのはどんな本と出会うかであって、どんな空間で出会うかは二の次です。部屋やものの大きさを測ったところで、長年にわたり手を入れてきた選書棚の魅力や、本と出会う場の真価が可視化されるとは思っていません。取材先でお話を聞かせていただいたオーナーたちも同じ思いであったでしょう。加えて、彼・彼女らが取材された記事などを見れば、その場所がどんな特徴をもち空間はどんな設えか、大まかなことはわかってしまいます。しかし、取材を重ねるごとに「今記録しておかねば」という思いを強くしたのは、その佇まいに、訪れた私自身が魅了されたからです。
本書には、このような思いで採集した44の本のある空間を収めています。インターネットを利用すればいつでもどこでも本を手に入れられる今だからこそ、ぜひみなさんもまちへ出て、本のある空間を訪れてみてください。もしも読んでいるうちに、今度足を運んでみよう、という気分になってくれたなら、これ以上の喜びはありません。
政木哲也
本書を作成するにあたって、実に多くの方々のお力添えをいただきました。ここに感謝の言葉を記したいと思います。
取材した44の個人書店・私設図書館・ブックカフェのみなさまは、見ず知らずの私を温かく迎えてくださり、快く実測作業をさせていただいた上に、貴重なエピソードや胸の内を聞かせてくださいました。この取材を敢行した時期は折しもパンデミックの厳しい状況下であったにもかかわらず、本書の企画と実測する私を大変面白がってくださいました。このかけがえのない出会いの数々は私の宝物となりました。どうもありがとうございました。
いくつかの個人書店・私設図書館では、オファーをしたものの、事情により取材に訪れることができませんでした。その際は丁寧なご対応と本企画へのご理解をいただきました。あらためてお礼申し上げます。
イラストレーターの船津真琴さんは、私の描いた拙い図面に命を吹き込んでくれました。船津さんの鮮やかで柔らかいタッチの着彩と、図面の中で居心地良さそうにしている人物の添景によって、本のある空間を魅力的に表現することができました。ブックデザイナーの北田雄一郎さんは、思わず手に取りたくなる装丁と、ページをめくるたびにワクワクするような紙面を作成してくださいました。お二人のプロフェッショナルな仕事に出会えたことによって、この本はたくさんの人に届けたい特別なものになりました。ありがとうございます。
学芸出版社の岩切江津子さんは、ただの実測好きの変わり者の私に、このような素晴らしい機会を与えてくれました。なにもないところから本書の企画を立ち上げ、もはや担当編集の役割を超え、私と二人三脚体制で本の完成に向け、力を尽くしてくれました。もはや感謝の言葉もありません。彼女の本のある空間への情熱があったからこそ、この本は世に出ることができました。岩切さん率いる編集チームの古野咲月さん・安井葉日花さんにも大変な苦労をかけました。ありがとうございました。
最後に、いつも私のそばにいてくれる妻と娘に。優しさとインスピレーションをありがとう。
2023年8月 政木哲也