解剖 早稲田建築・古谷研

解剖 早稲田建築・古谷研 古谷誠章の「人がありのままで育つ」チームのつくり方
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内容紹介

一人ひとりにポジティブ・フィードバック

ゼミ生100人、建築家・古谷誠章が率いる日本最大級の研究室では、不測の出来事や出会い、イベントが日々次々に起こる。この研究室が、建築はもとより多方面に、優秀でユニークな人材を輩出し続けるのはなぜか?ある大学教員が潜入し、古谷教授はじめ、ゼミ、プロジェクト、研究室ミーティングに密着した一年間のドキュメント


仲 綾子 著   
著者紹介

体裁四六判・256頁

定価本体2400円+税

発行日2023-09-05

装丁テンテツキ

ISBN9784761528607

GCODE2339

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プロフェッサー・アーキテクトのポテンシャル
大学研究室のオフィス化にいかに抗うか

こども関連施設の研究者である仲綾子氏が早稲田大学・古谷研究室に潜入し、主宰する建築家・古谷誠章が研究室での活動を糧にして建築家としての活動をパワーアップさせてきた具体策を解き明かす。大人数の研究室のマネジメントは大変そうだけれどとても楽しそうというのが第一印象。

そもそも大学の研究室を組織とみて研究対象とする、あるいは大学教員が研究室をマネジメントするイメージが湧かないという人もいるかもしれない。「自分の頃は酒ばかり飲んでいた」「先生は研究室にほとんどいなかった」「学生は社会の制約から離れてのびのびと自らのテーマを探求するべきだ」などの声が聞こえてきそうである。

産学の接点としての大学研究室像は、この20年ほど繰り広げられた教育と労働をめぐる議論のなかで大きく変化した。大学で実施プロジェクトを進めるのであれば、役割や対価などについて事前に明示し、労働者性の高いと考えられる作業には対価を払う姿勢が求められるようになり、さらには退構時間の厳守や飲酒の禁止など、より厳格な管理を課す大学も増えた。大学研究室は教育の場としてよりは労働の場として見做されるようになり、オフィス化が進んでいるのである。

そのようになると、建築家にとっては大学研究室は創作の拠点として決して有利な場所であるとは言えなくなる。プロフェッショナルとしての訓練期間が短く、知識も足りず、労働者としては未熟な集団を大量に抱え、社会で競争に勝っていかなければならないからである。

それを乗り切る策のひとつが「ポジティブ・フィードバック」であると本書では切り取っている。古谷研では「怪しい不動産屋の話」以外は、持ち込まれた話は全て研究室活動に取り込むという。そこから廃校再生の「月影プロジェクト」が生まれ、その知見は建築家の古谷が公共施設として設計する「鋸南町道の駅プロジェクト」に応用される。

他方、次々とプロジェクトが持ち込まれ、メンバーの満足度が高められるように組織を運営していくと、方向性が散逸し、輪郭の見えない組織になってしまう可能性もある。ポジティブ・フィードバックとボトムアップが古谷研究室の活動の型であるとすると、創作論的な一貫性はどこから生まれてくるのだろうか。

ひとつの工夫は古谷が苦心しているという異学年交流の導入であろう。演習課題はもちろん、卒論、修論という共通の作法の中で自らの関心や発見を体系化していく体験では、経験で長じる先輩が後輩を指導する際に「縦の関係」が発揮され、強化される。

本書では助手という中間管理職の存在にも着目する。助手の宮嶋が、プロポーザルの締め切り前に変更を提案した古谷に「いまさら?」と語気を強める場面が描かれる。宮嶋のSNSでの呟きが流れてくると時々心配になるが、実際にリアル空間でお会いすると古谷との絶大な信頼関係を感じる。宮嶋をある部分で擁護し、ある部分で解放させることで「下から上へ」の動きをつくるのもまた古谷の力量のうちなのであろう。

仲氏は環境デザイン研究所の出身であるということで東京工業大学のプロフェッサー・アーキテクトであった仙田満との比較も期待してしまう。仙田はデビューしたての頃、商業施設のメイン施設の設計を年長者が務め、若手であった自分には外構の設計依頼が多かったことをきっかけに子どもの遊び場研究を始め、その過程で「遊環構造」を導き、その知見を「Mazda Zoom-Zoom スタジアム広島」などの設計に反映し集客に成功する、というようにポジティブ・フィードバックを旨としたプロフェッサー・アーキテクトであった。結果として日本建築学会の学会長を経験するところも古谷と共通点がある。

このように本書は大学研究室を組織として対象化し、産学連携が強く言われると同時にオフィス化が進行する昨今にあってキーパーソンとなる「プロフェッサー・アーキテクト」の役割を描き直す。プロフェッサーの作法を無批判にトレースするだけでもなく、ボトムアップと称して学生の想像力の内側で停滞するでもなく、大学という柔らかな実験の場の可能性を理解するためにも、広く読まれたい一冊である。

藤村龍至

プロローグ | 古谷誠章と古谷研究室への問い.

一〇〇人を超える研究室、活躍する教え子たち/プロフェッサーアーキテクト/最初の関心─古谷研に潜入/執筆のきっかけ─ある日の研究室ミーティング/本書の問い─研究室マネジメントの方法論を探る

1章 一〇〇人一〇〇通りの建築への道

1| 「早稲田建築」をひもとく

早稲田の建築、ではなく/異学年をつなぐ手伝い制度/講評会とクリティーク/今晩はどちらで徹夜するか?─設計製図と設計演習/真剣にふざけていい/人間だから調子が悪いときもある/抜けているところがあっても、ユニークなところがある方が/いまだに考えている─吉阪隆正の長持ちする問い/生まれて初めて訪れた外国─穂積信夫の教え/ヴィジュアル・アーカイブへのこだわり/人々が出会う場としてのキャンパス

2| 研究室を支える縦横のネットワークと次々に飛び込んでくる人たち

六年一貫教育とエムゼロ/スーパー助手① 古谷の右腕/スーパー助手② 国際派の関西人/スーパー助手③ 学生に寄り沿う体育会系/名誉助手の隠れた貢献/講師の率直な願い/留学生クチコミネットワーク/海外で活躍する卒業生ネットワーク/来る者は拒まず/予期せぬことが次々と起こる─メディアテークとしての研究室/いつも行き当たりばったり

3| まず、遊べ

なぜ、こんなに遊ぶのか/製図室で全国の雑煮をつくる/伝説の卒論ゼミ─月影合宿/ガチゼミ/ガチサッカー/夜のガチパフォーマンス/ガチ講評会(パフォーマンス編)/日本文化に触れる留学生送別会/そこまでやるか、バースデーケーキ建築/よく遊び、よく学べ

4| そして、学べ

三本柱─ゼミ、プロジェクト、研究室ミーティング/黎明期は混沌の海─試行錯誤と疲労困憊の過程/研究室には家賃がかかる/宴会係などの八つの係/コミュニケーション・ツール/分厚い家族の一員/人の作品を見よ、そして、人の作品の中にある自分の作品を見よ

5| 一人ひとりへのポジティブ・フィードバック─研究室ミーティング

生い立ちから語るプレゼン/ゲーマーの四つの目/スイミーのベクトル/ちがう色眼鏡/創造と破壊の循環/横断と不動/ハーモニーとスパイス/徹底的に退屈/巷の文化/紡ぐ主体は誰か/生涯の問い

2章 研究も、設計も

1| 研究への敬意.

研究してください/想像力の鍛え方/統合力─あらゆる強みを結集する/誤解は探究の原動力/仮説を立てる/明確に定義する/ヴィジュアルとしての文字情報/頭が整理されるように話す/コメント力と質問力

2| 研究の蓄積から設計へ

カルロ・スカルパ研究/作家論研究ゼミへの展開/ティール組織のようなゼミ/インタビュー陣─研究者としてのロールモデル/美しい年表─ゼミに引き継がれる財産/原点となる古谷卒論─流動する歪んだ空間

3| 発表への遠き道のり

極厚の卒業論文/助手が卒論をボコボコにする日/ひとりで過ごしたのは二日だけ/好きなことを好きと伝えよう/賛否両論・三人一組の卒業設計/異分野三人のエスキス/修士に求めるレベル/大隈講堂の晴れ舞台

3章 現場が教えてくれること

1 | 産学協同事業─宮城県東松島市・森が学校プロジェクト

研究資金を得て成果を挙げるには─本気の産学協同/C・Wニコルとの出会い/雲南のロングテーブル/医者としての建築家/森に入る/赤鬼怒る/馬搬と木
ダボでつくる森のデッキ/人を育てるメカニズム/不愉快な木造

2 | 学生と協働するコンペ

─蒲郡市西浦地区・学校複合施設プロポーザル
応募に値するプロポーザルの条件/ぐずぐずと始まり、スマートに終わる/前言撤回・朝令暮改/ TAエスキスのようなもの/学生の強み─生きている模型/プレゼンシートの極意/ジョギングで見えるもの/トラブルにも泰然と/いつもの調子が出なかった理由/おめでとうございます/お礼参り

インタビュー実録ー古谷誠章の本音

4章 古谷誠章の輪郭

1 | イッセイミヤケ

服を家を宇宙を重ね着/三宅一生との縁/プリーツ・プリーズ(PLEATSPLEASE)とユニバーサルデザイン/エイポック(A-POC)とワークショップ/ギャルソンの生地/ボルドーのホルダー芯

2 | 食いしん坊

風土はフード/朴葉寿司とへぼめし/サラゴサのコチニーリョ/蒲郡のみかん/メニューがブリンク/母のしめ鯖/バジルからジェノベーゼを

3 | 話好き

声が大きい/プロンプター─伝えるための全力の準備/ウェザーニュース式オンライン講義/ひとりも取り残さない/自分のキャラクターに合っているか

4 | 古谷さんが来れば大丈夫

フラットな関係/死んだ魚の目/超人優等生の孤独/前向き力/晴れ男

エピローグ| 遊びも学びも全力で

ジグザグパーティ/真似ることから始めよう/予期せぬ成果/サバティカルの価値/大学の研究室っておもしろい

仲 綾子

東洋大学福祉社会デザイン学部人間環境デザイン学科教授。専門はこども環境、建築計画、建築設計。1993年京都大学工学部建築学科卒業、2002年東京工業大学大学院(仙田満研究室)修了。博士(工学)。一級建築士。環境デザイン研究所、厚生労働省を経て現職。こども環境学会理事、日本建築学会子ども教育支援建築会議事業部会長。著書に『保育園・幼稚園・こども園の設計手法』(編著)。2022年4月から1年間、サバティカルで古谷研に在籍。

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