ガストロノミーツーリズム

ガストロノミーツーリズム 食文化と観光地域づくり
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内容紹介

地域の食文化体験こそ、観光振興のカギだ

ガストロノミーは贅沢な美食のことではない。欧米では「美味しい」を基準にしながらも、自然、文化、遺産、伝統など共同体の個性を反映するものとして捉えられている。そして地域社会を活性化させ、健康にし、幸福にする原動力として実践されている。地域の食文化を味わっていただくことこそ、これからの観光振興のカギだ。


尾家 建生 著 高田 剛司 著 杉山 尚美 著
著者紹介

体裁A5判・188頁

定価本体2200円+税

発行日2023-07-05

装丁ym design 見増勇介 ほか

ISBN9784761528553

GCODE5675

目次著者紹介はじめにあとがき追記1レクチャー動画関連イベント関連ニュース

はじめに

1章 フードツーリズムの誕生

1. 観光の成長と食文化
2. 食と観光の関係
3. フードツーリズムとは
4. フードツーリズム開発の利点
5. 誰がフードツーリストか
6. フードツーリズムの発展と体系

2章 日本におけるフードツーリズムの発展

1. 旅行会社と鉄道会社によるグルメツアー
2. ご当地グルメと食のまちおこし
3. 生産者と消費者の顔が見える関係
4. まちなかのにぎわい創出と地方の食の街道
5. 食による観光まちづくり

3章 欧米に見るガストロノミーツーリズムの台頭

1. フードツーリズムのイノベーション
2. 地域開発のエンジンとしてのガストロノミー

4章 欧米はなぜガストロノミーを重視しているのか ─ 77

1. ガストロノミーの誕生
2. ガストロノミーの元祖──詩人アルケストラトス
3. 近代に再登場するガストロノミー
4. パリのレストランの黄金時代
5. ブリア・サヴァランの『味覚の生理学』(邦題:『美味礼讃』)
6. ガストロノミーと現代
7. 観光の成長とガストロノミー
8. ガストロノミーツーリズムとテロワール

5章 地域におけるガストロノミーのマネジメント

1. 消費者が期待するガストロノミー体験
2. 多様なステークホルダーのネットワーキング
3. 庄内地域のガストロノミー・マネジメント

6章 日本のガストロノミーとインバウンド

1. 日本のガストロノミー
2. 日本のインバウンドの取り組み
3. 和食の歴史とインバウンド
4. 日本の外食産業と和食のグローバル化
5. ガストロノミーツーリズムによる地方誘客と消費額改善

7章 ガストロノミー体験づくりのヒント

1. 料理人・生産者とガストロノミー資源を掘り起こす
2. 料理人が地域を案内する
3. 蔵元の知識を活かしたペアリングメニューの開発
4. 伝統工芸と美味しい料理の組み合わせ
5. ローカルフードを発見する地元食品スーパー
6. 食材集積の景観と鮮度を体感できる卸売市場

8章 ガストロノミーツーリズムとまちづくりのツボ

1. 水産の町のフードフェスティバル
2. 食の遺産を伝えるフードミュージアム
3. 地方料亭のニューカルチャー
4. 金沢市に学ぶガストロノミー開発
5. 生産者の「物語」が主役:かみかわフードツーリズム
6. 発酵ツーリズムと微生物テロワール

あとがき

尾家 建生(おいえ たてお)

平安女学院大学国際観光学部特任教授。
福岡県生まれ。大阪府立大学大学院経済学研究科博士課程修了。専門は観光学。大学卒業後、旅行会社に入社。早期退職後、大阪観光大学観光学部教授、日本フードツーリズム学会初代会長、大阪府立大学観光産業戦略研究所客員研究員、大阪商工会議所ツーリズム振興委員会委員、(公財)堺都市政策研究所専門研究員等を経歴。現在、上記現職とともに発酵ツーリズム研究会代表。著書に編著『これでわかる!着地型観光』(学芸出版社)など。
メールアドレス:oie.tateo@coral.plala.or.jp
執筆担当:はじめに、1章、3章、4章、5章イントロ・第1節・第3節、8章

高田 剛司(たかだ たけし)

立命館大学食マネジメント学部教授。
埼玉県生まれ。名古屋大学大学院国際開発研究科博士前期課程修了。技術士(建設部門:都市及び地方計画)。専門は観光まちづくり、産業政策。大学院修了後、㈱地域計画建築研究所(アルパック)に入り、各地の地域活性化に携わる。2020年より現職。(一社)日本観光研究学会理事、(一社)日本計画行政学会常務理事・関西支部長。共著に『これでわかる!着地型観光』、『地域創造のための観光マネジメント講座』(いずれも学芸出版社)、『実践から学ぶ地域活性化』(同友館)など。
執筆担当:2章、5章2節、7章イントロ・4〜6節、あとがき

杉山 尚美(すぎやま なおみ)

ガストロノミーツーリズム アドバイザー。
大阪府生まれ。関西学院大学経済学部卒。英国国立ウェールズ大学MBA取得。2000年㈱ぐるなび入社。約2万店の飲食店と関わり、日本の食文化の豊かさを実感。2013年よりインバウンド・海外事業を推進し、2015年執行役員に就任。食におけるインバウンド促進の基盤を創る。2021年楽天グループ㈱にて食文化体験プログラムを創造。現在、ガストロノミーツーリズムの研究・推進活動を個人で始動。(一社)日本フードビジネス国際化協会理事、大学・企業・自治体向けセミナー講師など。
執筆担当:6章、7章1〜3節

本書は、地域の「食」の体験を目的としたフードツーリズムと、そのフードツーリズムを進化させることによって生まれたガストロノミーツーリズムについて解説したものである。

旅行先の食べ物や飲み物──それらの生産、加工、料理、直売等に関わる供給者による体験プログラム、飲食サービス、フェスティバルを通じて都市や地域の味覚を楽しむフードツーリズムは、21世紀初頭から欧米を中心に世界的に広がった観光形態であるが、特にその促進に力を入れてきた国連世界観光機関(以下、UNWTO)は2016年に「ガストロノミーツーリズム」と呼称を改め、観光事業者や観光客への拡大を強化している。

新型コロナ・パンデミック期間中、UNWTOは世界の観光産業界に向けてネット上で、〈UNWTOトラベル・トゥモロキャンペーン〉を発信してきたが、そのメッセージはこう始まっている。

「ガストロノミーは食べ物以上のものです。それは、さまざまな人々の文化、遺産、伝統、共同体意識を反映しています。異文化間の理解を促進し、人々と伝統をより近づける方法なのです。ガストロノミーツーリズムは文化遺産の重要な保護者として注目されており、特に農村部での雇用を含む機会の創出を支援しています」(UNWTO、2020)

近年、観光形態の多様化により、フードツーリズムはその場所のユニークな「食べ物」や「飲み物」の体験を通じて発達してきたが、デスティネーション(目的地)の「料理と文化」を体験し、理解し、記憶し、私たちのライフスタイルを豊かにし、観光地側の経済活性化に貢献できる観光として世界へさらに広がっている。しかし、分かりやすい「フード」ではなく、なぜ「ガストロノミー」でなければならないのか。

ガストロノミーという言葉は日本語では「美食術」や「美味学」と訳されているが、フード(食べ物、食品)のように日常的に使う言葉ではない。なぜならば、美食とは国語辞典には「ぜいたくなもの、うまいものばかりを食べること」(『広辞苑』)となっているからである。

しかし、ガストロノミーの語源は2300年前の古代ギリシャの時代にさかのぼると言われており、時代によってその実態は変化してきた。ガストロノミーが王侯貴族の贅を尽くした宴会料理を示す時代もあったが、近代の産業革命やフランス革命を経て、現代のグローバル経済、技術革新、通信情報革命のなかで私たちにとっての「食」そのものが変貌してきた。

ガストロノミーは200年前から西ヨーロッパ各国で使われてきたが、現在の欧米においてもむずかしい言葉であることに大差はない。しかし、日本語の辞書に見られるように「美食術」の美食が、贅沢な、お金をかけた、うまいものばかりを食べることを指しているだけではない。たとえば、スペイン語では食材、レシピ、調理技術、およびそれらの歴史的進化に関連する一連の知識と活動を指し、あるいは、よく食べ、美味しい料理と美味しいレストランを見つけ楽しむことへの情熱を意味する。フランス語では料理、ワイン、食事の注文などの美味しい料理の技術を意味する。イタリア語では、食品の調理に関する一連のルールと習慣、料理の技術を意味する。つまり、ガストロノミーとは人々が食べ物・飲み物とのあるべき関係を模索する言葉でもあるのだ。

ガストロノミーという概念は「美味しい」を基準にしながらも、いわゆるフードの範疇を超えるものであり、文化、遺産、伝統、アイデンティティ、共同体を反映するものであることから、食品や料理の上位にある概念であると言える。現在、世界的に問題となっている「食品ロス」「水産資源の枯渇」や「農薬使用量の削減」などは、食文化に直接関わるガストロノミーの問題でもある。

ガストロノミーの現代的意義は、200年余前にフランスで活躍したブリア・サヴァランが出版した『味覚の生理学』(邦題:『美味礼讃』)のなかにすでに存在していると考えられる。ルイ14世の時代に最盛期だった美食から連想される快楽主義的要素は、現代においてはガストロノミーのすべてではない。食べることについての近代人のトップランナーであったブリア・サヴァランの描くガストロノミーの概念は、現代社会においても通用するものであり、現代に生きる私たちにとって、ますます重要になっている。

つまり、地域において人間社会を活性化させ、健康にし、幸福にする原動力となるものがガストロノミーであると考えられる。ブリア・サヴァランはガストロノミーを整理された知識(食の学問体系)、一定の原理(料理術)およびコミュニティの原動力の三つの要素で定義し、ガストロノミーが地域や食生活のウェルビーイング(健康と幸福)の核となることを示唆している。

ガストロノミーツーリズムが観光と地域、そして私たちのライフスタイルにどのような役割を持つのか、本書が地域の「食」と観光の発展を考える議論の端緒になれば幸いである。

2023年5月吉日

尾家建生

欧米では、1990年代後半から相次いで取り組まれたフードツーリズムのイノベーションを経て、21世紀に入り「ガストロノミー」が地域と都市観光の重要な資源であると注目されるようになった。いまでは「ガストロノミーツーリズム」が都市経営戦略の一つとして、観光振興と地域活性化の推進力になっている。

一方、日本では2022年12月、UNWTO駐日事務所のある奈良で「UNWTOガストロノミーツーリズム世界フォーラム」が開催された。このフォーラムのインパクトが、どの程度これからの日本のツーリズムに影響を及ぼすことになるかは今後の検証が待たれるが、「フードツーリズム」を目にする機会が徐々に増えてきた昨今においてもなお、「ガストロノミーツーリズム」は日本で一般的に知られた呼び方にはなっていない。

「ガストロノミー」に通じる適切な日本語訳を当てはめることは難しい。日本の食や食文化は、豊かな自然に育まれた海の幸、山の幸、里の幸に恵まれている。各地で伝えられてきた郷土料理や発酵食、海外の食材や食文化をも柔軟に取り込んで独自にアレンジし、発展させてきた「日本の料理」とそのストーリーには、ガストロノミーの要素がふんだんに盛り込まれている。それゆえに、世界中から日本に来る旅行者が、旅先としての日本に最も期待することとして「日本食を食べる」を挙げるのであろう。日本語のUMAMIやDASHIは世界で通用する言葉であり、WASHOKUは美味しさだけでなく健康の面からも世界で注目されている。

日本、とりわけ食材が豊かな地方の食への期待が大きいにもかかわらず、これまで観光目的地(デスティネーション)で旅行者に提供される日本の食文化の観光アトラクションは乏しく、日本のガストロノミーの優位性は十分に伝えられてこなかった。飲食店や宿泊施設の料理紹介、単品の食材やご当地グルメのブランディング等にとどまり、その土地の食文化の魅力や、食を中心とした地域の魅力を包括的に提供できている地域は少ない。

2022年の「UNWTOガストロノミーツーリズム世界フォーラム」では、世界的な観光の回復と変革に向けた取り組みを進める次のステップとして、「持続可能な社会の発展」「価値ある資源としての食材利用」「若手と女性の活躍の推進」「人材育成におけるガストロノミーツーリズムの役割」に着目したセッションが行われた。今後のガストロノミーツーリズムの発展において、これらはいずれも重要なキーワードになる。さらには、ツーリズムに限らず、今後の「食」をめぐる世界の動向に目を向けると、地球温暖化による作物の不作や不漁、世界レベルでの人口爆発、各地で頻発する紛争、あるいは食の流通問題などさまざまな要因によって、安全な食資源の確保と持続可能性が脅かされている。ガストロノミーツーリズムに着目し、地域で取り組むことは、人々のライフスタイルにおける食の持続可能性を考える契機にもなる。国レベルの取り組みだけでなく、観光客の受け入れを通じて、個人や企業・団体、そして地域全体での取り組みが不可欠で、それには、地域における多様な人をつなぐマネジメントの視点が重要となる。

また、特に日本では、人口減少社会における地方の衰退を産業振興の視点からとらえる必要があり、ガストロノミーツーリズムを通じて、観光関連産業だけでなく、農水産業の振興や六次産業化などによって若者や女性が活躍できる地域づくりにつなげることができる。本書に記載の事例や提案内容が、少しでも各地のガストロノミーツーリズムと地域づくりのヒントにつながれば幸いである。

最後になりましたが、本書を上梓するにあたり、学芸出版社の前田裕資氏には大変お世話になりました。この場をお借りして深く感謝申し上げます。

2023年6月吉日

高田剛司

観光再興の決め手

地域の「料理と文化」を体験し、理解し、記憶し、私たちのライフスタイルを豊かにするガストロノミーツーリズムは、観光地の経済に貢献できる観光として世界で広がっている。
欧米では「美味しい」を基準にしながらも、自然、文化、遺産、伝統など、共同体の個性を反映するものとして捉えなおされ、地域社会を活性化させ、健康にし、幸福にする原動力として実践されている。
日本の地域にはそれぞれ誇るべき食文化があり、世界の注目を集めている。食を文化として味わっていただくことこそ、これからの観光振興のカギだ。

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