自治体文化政策
まち創生の現場から

平竹耕三 著

内容紹介

地方創生が叫ばれ、オリンピック文化プログラムが注目される今、文化政策の展開を図るには何が必要か。まず行政マン等が政策を当事者として考えることが先決だ。京都市の文化政策部門のトップが、その経験から、文化政策の歴史と世界の潮流を読み解き、地域資源との向き合い方をまとめた本書は、そのための現場学の書である。

体 裁 A5・272頁・定価 本体2800円+税
ISBN 978-4-7615-2617-7
発行日 2016/03/17
装 丁 上野かおる

目次著者紹介まえがきあとがき

第1部 文化政策の展開

1章 文化政策の視座

1 「文化」とは
2 文化政策とは
3 文化政策とメディア政策
4 文化政策の対象

2章  近代日本の文化政策

1 対外的文化政策
2 文化財保護政策
3 芸術政策その他の文化政策

3章  文化政策の特色ある発展

1 王制時代からの文化政策の伝統-フランス
2 民間誘導型の文化政策-アメリカ
3 アーツ・カウンシルを中心とした文化政策-イギリス
4 文化庁の政策展開-日本

4章 文化政策による活性化と予算

1 文化政策の成果
2 都市政策と文化芸術
3 各国文化予算の現状

5章  京都市の文化政策―画学校開校から世界文化自由都市へ

1 文化政策のあけぼの
2 国際文化観光都市建設に向けて
3 世界文化自由都市として

第2部 芸術文化の発展

6章 美術館とアート

1 アートと美術館のあゆみ
2 世界的な美術館改革
3 京都市美術館

7章  劇場と舞台芸術

1 日本におけるホールと劇場
2 ヨーロッパの劇場
3 京都会館の再整備

8章 オーケストラと音楽

1 オーケストラとは
2 オーケストラの経営
3 京都市交響楽団

9章  創造文化支援と芸術センター―京都市の文化政策2

1 停滞感のなかでの1200年記念事業
2 芸術センター開設から若手芸術家事業へ
3 京都市文化政策に流れるもの

第3部 伝統文化の継承と普及

10章 文化財保護と世界文化遺産

1 文化財保護
2 世界文化遺産
3 京都市の文化財

11章 無形の文化財から無形文化遺産へ

1 無形の文化財
2 ユネスコの無形文化遺産
3 京都市の無形文化遺産

12章 伝統芸能の継承と発展

1 日本の伝統芸能
2 三大国劇の誕生と発展
3 京都における伝統芸能

13章 生活文化と伝統工芸

1 生活文化と「和食」
2 茶の湯といけばなの歴史的発展
3 京都における生活文化と伝統産業

14章 花街の文化と観光

1 観光とは
2 京都の花街文化
3 京都の文化観光政策

第4部 未来へ向けた展望

15章 京都文化芸術プログラム2020―京都市の文化政策3

1 ロンドン・カルチュラル・オリンピアード
2 京都文化芸術プログラム2020
3 2020東京五輪を超えて

16章 これからの自治体文化政策

1 世界における文化政策の潮流
2 文化政策の意義
3 文化政策の展望

平竹耕三(ひらたけ・こうぞう)

1959年京都市生まれ。1982年京都大学法学部卒業。2006年経済学博士(龍谷大学)。
1982年から京都市において、税制、法制、まちづくり、労政、産業政策などを経て、2007年から文化芸術政策に携わっている。
現在は、京都市文化芸術政策監、ロームシアター京都(京都会館)館長、京都市交響楽団副楽団長。
著書に『コモンズとしての地域空間―共用のまちづくりをめざして』(2002年、コモンズ)、『コモンズと永続する地域社会』(2006年、日本評論社)、共編著に『京の花街―ひと・わざ・まち』(2009年、日本評論社)がある。

2015年7月、政府は、2020年の東京オリンピック・パラリンピック大会に向けて、全国で20万件のイベント、5000万人の参加、5万人のアーティスト参加を目標とする「文化力プログラム(仮称)」を発表した。これを2016年10月19日から東京大会までの4年間で実施するというものであるが、計算してみると、全国で毎日150件近いイベントが行なわれることになる。

それをどのように実施するかは、各地域とりわけ自治体に知恵が求められるところであるが、大切なことは、オリンピックを盛り上げるための一過性のものにしてはならないということである。確かに、これだけの規模で全国的に実施されれば、それだけ文化に注目が集まり、また予算面でも期待ができるであろう。

地方創生が叫ばれ、文化に注目が集まるこのチャンスをとらえて、各地域の文化政策における課題の解決や新たな展開を図るべきである。そして、それをオリンピック終了後もつづけていくことで、特色のある地域づくりが実現できる。まさにオリンピックの文化プログラムで大切と言われているレガシーであり、文化による地方創生でもあり、文化にはそれだけの力がある。

そのためには、世界的な文化政策の潮流を踏まえておくことも重要であることに違いはない。しかし、何よりも日本は、幾多の天災や戦乱に見舞われながらも、それぞれの地域が各時代固有の文化を破壊することなく、継承し積み上げて、より豊かな文化を作ってきた長い歴史がある。そうした地域独自の文化を資源として十分に把握し、その維持や継承、発展を自分事として、当事者として考える姿勢が何よりも大切である。

本書は、そのための一助として活用していただきたいとの思いから、発信や文化産業などのメディア政策的な視点から文化政策を読み直しつつ、京都市で文化政策に従事してきた経験を踏まえて、自治体文化政策を論じたものである。自治体で文化政策に従事する場合の参考書として、あるいは学生が文化政策を学ぶための入門書として活用いただければ幸いである。とりわけ現在は2020年の東京大会に向け、また地方創生を進めるにあたって、文化を取り込む動きが求められている。そうした意味からは文化政策に関心のある人や新たな事業展開を検討中の民間企業関係者でも、何かを考えるうえで発見していただけるものがあると思う。

第1部は、文化政策の展開である。第1章文化政策の視座は、文化や文化政策という言葉の意義、メディア政策と文化政策の相違など本書の序論に当たる部分である。第2章近代日本の文化政策は、日本における明治維新から文化庁が誕生するまでの文化政策を、第3章文化政策の特色ある発展では、フランス、アメリカ、イギリスと文化庁発足後における日本の文化政策を、第4章文化政策による活性化と予算では、文化政策の成果や4ヵ国の予算比較などを示す。第5章京都市の文化政策では、明治維新から世界文化自由都市宣言が行なわれた1980年ごろまでの京都市の文化政策を取り上げたい。

第2部は、芸術文化の発展として、第6章美術館とアート、第7章劇場と舞台芸術、第8章オーケストラと音楽を取り上げる。これらの章はいずれも、まずそれぞれの歴史や制度などに触れたうえ、最後に京都市が進める政策を明らかにする。そこでは2016年1月10日にリニューアルオープンした京都会館(ロームシアター京都)の再整備や京都市交響楽団の運営見直し、基本設計が進行中の京都市美術館再整備などが主なものである。第9章創造活動支援と芸術センターは、京都市の文化政策2として、平安建都1200年事業がスタートした1980年代から現在までの京都市文化政策について、京都芸術センターや若手芸術家等の居住・制作・発表の場づくり事業などを中心的に取り上げ、その根底に流れるものを考えてみたい。

第3部は、伝統文化の継承と普及として、第10章文化財保護と世界文化遺産、第11章無形の文化財から無形文化遺産へ、第12章伝統芸能の継承と発展、第13章生活文化と伝統工芸、第14章花街の文化と観光を取り上げる。第3部でも第2部と同じように、まず制度や歴史を中心に述べたうえで、京都市の文化遺産について明らかにする構成としている。世界文化遺産古都京都の文化財、ユネスコ無形文化遺産「京都園祭の山鉾行事」、伝統芸能や生活文化、伝統工芸、花街文化などと京都市政とのかかわりを中心に明らかにしたい。

第4部は、未来へ向けた展望である。第15章京都文化芸術プログラム2020では、京都市の文化政策3として、京都市が2015年2月に東京オリンピック・パラリンピックに向けて策定した文化芸術プログラムについて、策定の背景や内容など京都市文化政策の最新の到達点を示すとともに、移転整備が検討されている京都市立芸術大学とユニークな取り組みが評価を受けている京都国際マンガミュージアムを取り上げることにしたい。第16章これからの自治体文化政策では、創造都市論など世界における文化政策の潮流に触れ、文化政策の意義を明確化したうえで、文化政策の発展に向けた考えや対外発信を意識したメディア政策的な提言、自治体文化政策の展望を示すことにしたい。

各章はそれぞれ独立した内容になっているので、読者の皆さんは関心のあるテーマから読み進めていただきたい。京都市の文化政策を通して読みたい方には、第5章、第9章及び第15章の順に読んでいただいたらよいように、サブタイトルを付けておいた。また、各章の内容を深めたいと思われる読者のために参考文献を掲げた。

文化政策の期待される効果は、青少年の情操教育、地域住民のつながり、地域に固有の文化の継承、世界への文化発信、雇用の場の確保、産業の活性化などであろうか。こうしたことを考えるうえで、京都市の経験が少しでも役に立つとすれば、この上ない喜びである。そうして、2020年には全国で百花繚乱のイベントが行なわれ、2021年以降にも各地域独自の文化政策が引き継がれていくことを期待したい。

2007(平成19)年4月、初めて京都市の文化担当に着任したときに思ったのは、文化政策を勉強するのに適当な本があまりないということであった。いろいろと文献はあるものの、これを読めばひと通りの知識が得られるものはなかった。また、計画の策定や事業の企画に当たって、そのつど過去の書類を引っ張り出して経過を振り返らなければならないことが、非効率であることも感じていた

それらが相まって、本書執筆への動機となった。しかし、完成まではいばらの道であった。私が文化担当に長く在籍する間に、京響や京都会館、美術館の新しい展開のほか、計画、新規事業などの立案、新しい文化財制度の創設などに関与する機会も多くなった。一定の蓄積は出来たものの、外国のデータの収集や国ごとに異なる統計を統一的に整理することはたいへんであった。

私は自治体の職員であり、組織に属しているので、その枠を大幅に外すことはできないが、かといって公式発表だけを書いたのでは、行政報告書になってしまう。時折あるような「この本の内容は私見に属するもので、所属する組織とは何の関係もありません」という言い訳も、私の現在のポストでは自己分裂以外の何ものでもない。

腐心の甲斐あって、本書の内容は、京都市の仕事とも矛盾のないものとなった。もちろん、組織の仕事であるので、異なる見方や考え方の上司や同僚との議論のなかで、京都市としての方向性が見出されることになる。方針は、市民やそれを代表する議会との調整や議論を経て、決定されることも論をまたない。

本書を刊行するにあたって、大勢の人たちにお世話になった。京都は言うに及ばす全国、あるいは海外も含めて、文化芸術に携わっている人びとから多くを学ばせていただいた。芸術家のほか、文化施設の関係者、文化政策や文化経済などの専門家、これまで一緒に仕事をしてきた歴代の上司・同僚、京都市の事業を担ってもらっている団体や企業の関係者など、枚挙にいとまがない。多くの方に写真の提供もいただいた。そうした方々との出会いがあってこそ、本書は誕生した。

それらの方々に加えて、一緒に仕事をしている京都市の文化・文化財の担当や執筆中の私を温かく見守ってくれた家族には、感謝の気持ちでいっぱいである。最後になったが、本書の出版を引き受けていただいた学芸出版社の前田裕資さんと山口祐加さんには、たいへんお世話になった。記してお礼としたい。

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