郊外住宅地の再生とエリアマネジメント

郊外住宅地の再生とエリアマネジメント 団地をタネにまちをつなぐ 横浜・洋光台の実践
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内容紹介

持続可能なまちをつくるためのヒントがここにある

まちの経年化や少子高齢化など、郊外住宅地は多くの課題を抱えている。将来にわたってよりよいまちであり続けるにはどうしたらよいのか。本書では、住民・行政・URが一体となり、UR賃貸団地を核としてエリアマネジメントを進めてきた横浜市・洋光台の先駆的な取り組みから、持続可能なまちづくりのヒントを示す。


洋光台エリア会議 編著 小林 重敬 監修 隈 研吾 他著
著者紹介

体裁四六判・256頁(カラー64頁)
定価本体2200円+税
発行日2022-04-10
装丁赤井佑輔・仲勇気(paragram)
ISBN9784761528119
GCODE5629
販売状況 在庫◎
ジャンル 都市・中心市街地再生
目次著者紹介はじめに関連ニュース関連イベント
はじめに

1章 洋光台の再生プロジェクト ルネッサンスin洋光台始動!

1 郊外住宅地の再生とルネッサンスin洋光台の二つの柱
2 郊外住宅地と洋光台の課題
3 URの団地再生と郊外まちづくり
4 ルネッサンスin洋光台の具体的な取り組み
【コラム】 洋光台プロジェクト定例事務局会議
【コラム】 団地の未来プロジェクト
5 住宅地エリアマネジメントの道を拓く 取り組むにあたっての課題
【コラム】 洋光台まちづくり協議会
【コラム】 住宅地エリアマネジメントの例 ① 〈ひばりが丘(西東京市・東久留米市)〉
【コラム】 住宅地エリアマネジメントの例 ② 〈たまプラーザ(横浜市)〉

2章 まちの拠点をつくる 人材発掘と関係づくり1

1 拠点づくりにいたる取り組み
【コラム】 横浜市洋光台地域ケアプラザ
【コラム】 洋光台1年生から地域住民に間違われるようになるまで
2 地域活動拠点・CCラボ
【コラム】 CCラボのさまざまな活動
【コラム】 CCラボからまちへの展開〈結カフェ〉
3 まちまど―洋光台 まちの窓口―
【コラム】 「まちまど」スタッフインタビュー
4 北団地集会所を核とした拠点づくり
【コラム】 健康づくりの交流拠点・県営日野団地「憩いの家」
【コラム】 市営洋光台住宅 建替事業
【コラム】 洋光台南第一住宅・集会所の建て替え

3章 まちの賑わいを皆でつくる 人材発掘と関係づくり2

1 つながりづくりのタネ ワークショップとCyoiアクション
2 未来ワークショップ
【コラム】 洋光台駅前公園プレイパーク
3 Happy

ハロウィンin洋光台

4 「仲間を増やす」「賑わいをつくる」取り組みあれこれ
【コラム】 次世代まちづくりの会

4章 空間をリデザインする 改修で新しい価値をつくる

1 まちの玄関のイメージ刷新 洋光台中央団地住棟外壁修繕・広場改修
2 団地の居場所と交流の場を創出 洋光台北団地集会所コンペと改修
3 閉じた広場を温かみをもつ一つの空間に再生 洋光台北団地住棟外壁修繕・広場改修
4 団地に新たな活力をもたらすポイント的新陳代謝 洋光台北団地高層棟住棟建て替え
【特別寄稿】 戦後民主主義の継承 (隈研吾)
【特別寄稿】 「集まって住むパワー」をデザインする (佐藤可士和)

5章 社会的課題を解決するムーブメントづくり

1 環境意識を高める
2 洋光台におけるモビリティ・デザインの試み
3 洋光台における防災まちづくり 多世代の学び合いによる防災

6章 地域から見た洋光台の到達点とこれから

1 洋光台まちづくりアンケート
2 地域活動者インタビュー

7章  持続可能な郊外住宅地への展望

1 これからの郊外スタイル 世代交代がもたらす変化 (大江守之)
2 郊外に求められるモビリティ・デザイン (中村文彦)
3 郊外住宅団地のエリアマネジメントの展開 住民・事業者・行政のかかわり (小林重敬)
4 住宅地のエリアマネジメントのポイント 洋光台での経験から

プロジェクト年表
ルネッサンスin洋光台 まちづくりマップ

【編著】

洋光台エリア会議

【監修】

小林 重敬
一般財団法人森記念財団理事長、横浜国立大学名誉教授

【著者】

小林 重敬 大江 守之 中村 文彦(寄稿)
隈 研吾  佐藤 可士和 (特別寄稿)

山下 健
大河戸 正明
圓山 唯子
田島 剛
柴田 岳
澁谷 栞
佐藤 まどか
中川 匠
大木 真理子
君塚 強
永田 祐介
髙瀬 亮
有吉 亮
真鍋 千恵子
相川 菜津実

横浜市・洋光台では、年月を経た郊外住宅地を活気づけ、将来にわたり持続させていくことを目的としたプロジェクト「ルネッサンスin洋光台」が進行中である。
本書は、昭和40年代に土地区画整理事業により生み出された神奈川県横浜市郊外・洋光台地区において、URと行政が連携しながら、居住者と一丸となって10年にわたりエリアマネジメントに取り組んできた軌跡を紹介するものである。各関係者のご協力を得ながら、一貫してプロジェクトの事務局を担ってきたスタッフが中心となってとりまとめた。
今後、人口減少・少子高齢化が進むなか、これからの郊外住宅地はどうあるべきなのか。また、あるべき姿へ向かうために、どういう手立てを講じる必要があるのか。「ルネッサンスin洋光台」では、今後間違いなく重要となるこの命題に対し、一つの試金石となるモデルの構築を目指している。
大きな特徴は、「団地をタネにすること」「既成の住宅地でのエリアマネジメント」の二点。
この議論は、UR賃貸住宅の団地が発端となっている。団地はまちの誕生と同時につくられ、半世紀を経て時代にあわない部分が生じる一方、年月を経たからこそ培われた価値も持っている。これらに適切に手を入れながら、周辺に開き、さらなる活用を図ることで、まち全体の価値を高める。その「まちぐるみでのリノベーション」が、このプロジェクトの大きなテーマである。

団地をタネにすること

プロジェクトでは、洋光台の二つの大規模UR賃貸の団地(以下、団地)を活用し、さまざまな取り組みを行った。これらを通じ、以下の理由から、団地がエリアマネジメント推進・地域活性化の重要な拠点=「タネ」となることが確認できた。
①豊かな屋外空間や集会所等のスペースを有している
近年、新型コロナ感染拡大を背景として、リモートによるコミュニケーションが急速に普及している一方で、人々が同じ場所に集まって活動したり、対面で会話したりする重要性も再認識されている。とくに昭和40~50年代に整備された大規模団地には、豊かな屋外空間や集会所スペースなど、コミュニティ活動を醸成する空間が豊富にある。
②自治会組織と新たなコミュニティとの連携が期待できる
とくに大規模な団地においては、団地建設当時からお住まいの方をはじめ、比較的長い期間居住している方が多い。その方々を中心に団地自治会が組織され、地域のお祭りや防災活動など、さまざまな活動を担ってきた。一方で後継者問題などの課題もあるが、新たなテーマ型の団体との連携や人材発掘の仕組みなどにより、地域にあった多様で活気のあるコミュニティが期待できる。
③大家による比較的柔軟かつスピーディな投資判断が可能である
地域活性化の取り組みを進めるなか、一定規模でのリノベーションは、視覚的・感覚的に伝わりやすく有効な手段である。しかし、変化が実感できる規模の投資を行おうとする場合、戸建て住宅地や分譲マンションにおける合意形成は容易ではない。その点、大家による投資判断が可能な大規模賃貸団地では、比較的柔軟かつスピーディに効果的な投資を行うことができる。

既成住宅地でのエリアマネジメント

当然ながら、大規模団地が存在すればそこを拠点にトントン拍子に「郊外住宅地の活性化」が進むわけではない。むしろ、団地以外の地域の方々や行政との連携が重要かつ必要不可欠で、そこをつないでいくことが洋光台でのエリアマネジメントであった。事業者側の視点だけでいきなりまちを変容させるのではなく、地域のコンセンサスを得ながら少しずつ丁寧に、時間をかけてまちを変えていくことがプロジェクトのポイントといえる。
コミュニティの活性化にとどまらず、商業施設の活性化、魅力ある景観形成など、やるべきことは複雑かつ多岐にわたり、関係者も多く、成果が表れるまでには相応の時間がかかる。
スタート時点からそれらをプログラムして戦略的に進めることが理想であるが、洋光台の取り組みは最初から海図が出来上がっていたわけではない。「郊外住宅地再生に向けて何かしなければいけない」という神奈川県・横浜市・UR都市機構の問題意識が、くしくも同時期に一致したことがきっかけとなってスタートし、関係者間で議論を繰り返し、手探りで進めながら今日にいたっている。
当初から10年という長期間にわたって継続することを想定していたわけではなかった。地域の方々のまちづくりに対する思いや懐の深さ、エリアマネジメント、コミュニティ、モビリティの各界トップの有識者の先生方からの的確なアドバイス、さまざまな公的機関の良好な連携体制の構築、コンサルタントによる献身的な地域活動、新たなプレイヤーの登場など、多くの要素が重なった結果、当初想定していなかった大きなかつ多様な成果につながった。
そして今も、新たな取り組みの機運が次々と起こりつつある。
まちづくりは地域によって多様なあり方があり、正解は一つではない。しかしこの洋光台での経験が、これからの郊外まちづくりのヒントの一つとなることを願ってやまない。