MaaSが地方を変える
内容紹介
地方でもできる、地方だからできる!
地域の足が危機に瀕する地方こそ、ICTの力で多様な公共交通による移動を最適化するMaaSは有効であり、ニーズや期待が一層高まっている。政策ツールとしてMaaSを活かすことで脱マイカー依存やコンパクトシティを実現し、持続可能な地域を目指す各地の取り組みをレポート。
体 裁 A5・200頁・定価 本体2300円+税
ISBN 978-4-7615-2790-7
発行日 2021-09-25
装 丁 テンテツキ 金子英夫
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はじめに
第1章 都市から地方に広がり始めたMaaS
コロナが地方交通の苦境に拍車を掛けた
頼みの綱の観光需要が激減
量から質への転換の中でのMaaS
オンデマンド交通が最善ではない
アプリでないとMaaSではない?
顔認証というブレークスルー
第2章 マイカー王国からの脱却目指す─前橋市
自動車保有率第1位の県都
バス改革の3本柱
「MaeMaaS」命名の理由
JR東日本との連携とマイナンバー活用
自動運転や顔認証にも挑戦
地方都市では異例なデジタル志向
第3章 コンパクトシティとMaaSの関係─富山市
都市経営のためのコンパクトシティ
アナログMaaSの代表「おでかけ定期券」
「歩くライフスタイル戦略」を策定
歩いて暮らす生活を楽しむアプリ
自治体初の顔認証社会実験
第4章 市民も自主的に参加する交通改革─山口市
マイカーの長所と短所を明示
交通まちづくりへの住民参加を呼びかけ
コミュニティタクシーとグループタクシー
パークアンドライドの秘策
「ぶらやま」以外もあるMaaS探求
第5章 高蔵寺はニューモビリティタウンへ─春日井市
移動問題を抱えるニュータウン
高蔵寺ニュータウンの課題
リ・ニュータウンとモビリティブレンド
自動運転モビリティサービスの実装目指す
お出かけを促すMaaSアプリ
第6章 定住推進から生まれた交通改革─中津川市
リニアを活かすまちづくりの真意
相次ぐバス事業者撤退の中で
オープンデータで最先端田舎へ
データ整備を契機とした様々な取り組み
結果的にはMaaSになっていた
第7章 UberやVISAも参入する先進地域─京丹後市
「200円バス」という革命
日本の地域交通で初めてUberを導入
鉄道運営会社によるMaaS展開
定額制AIオンデマンドサービスも開始
世界での経験を地域に生かす
第8章 地元企業が取り組んだ地方型MaaS ─東御市
地域公共交通の厳しい現実
なぜ建材事業者がモビリティなのか
MaaS事業などについて協定を締結
顔認証MaaSへの挑戦
利用者の声に後押しされた半年間
第9章 産官学連携で目指すウエルネス・シティ─小諸市
交通の要衝として発展してきたが
小諸版ウエルネス・シティ
サードプレイスとして選ばれるまちへ
コンパクトシティとスマートカート
産学官連携でMaaSを目指す
第10章 地方型MaaSに求められること
リーダーシップの重要性
交通改革の原資はどこで生み出すか
タクシーには改革の余地がある
デジタル化の浸透には何が必要か
地方移住の流れを味方につける
おわりに
MaaS の書籍を出すのは、これで3度目になる。しかし前2冊と本書とでは、大きな違いがある。新型コロナウイルスの感染が拡大し、いまなお収束の兆しを見せない中での出版であることだ。
コロナ禍はモビリティにも大きな影響を及ぼした。中でも公共交通は大幅な利用者減に見舞われた。その流れはMaaS にも波及した。
2019 年に『MaaS 入門 まちづくりのためのスマートモビリティ戦略』を出版した頃は、モビリティとはあまり関係のない会社が続々と名乗りを上げており、ブームと呼べる状況だった。しかしコロナ禍で公共交通が厳しい局面に陥ると、こうした勢力は潮が引くように姿を消した。
ただし過去の著書でも書いたように、MaaS はまちづくりのためのツールの一つであり、儲けを期待して参入を企てた事業者が消えたことで、むしろ本来の概念に近づいたのではないかと思っている。
その中で注目すべきなのが地方の動きだ。過疎化や高齢化、市街地拡散化といった課題解決のツールとして注目されたのに加え、経済産業省と国土交通省が共同で推進した「スマートモビリティチャレンジ」の効果もあり、コロナ禍にあっても各所で実証実験が着実に進んでいる。
加えてコロナ禍では大都市への一極集中のデメリットが顕在化した。地方移住というこれまでにない流れが生まれ、余暇を楽しみながら仕事をこなすワーケーションという新しいライフスタイルが育ちつつある。
いまこそ地方型MaaS。そう確信した筆者は、個人的につながりのある都市や企業、大学などに声をかけ、自治体が主体となって交通改革に取り組んでいる地方の本気を伝えようと決意した。その結果生まれたのが本書である。
具体的には群馬県前橋市、長野県東御市および小諸市、富山県富山市、愛知県春日井市、岐阜県中津川市、京都府京丹後市、山口県山口市の事例を、現地の関係者への取材をもとにお伝えすることにした。
最大の目的はもちろん、コロナ禍を契機に地方が元気を取り戻してほしいということだ。モビリティやまちづくりに関わる人たちが、本書をきっかけとして地方の交通改革に乗り出すようなことになれば幸いである。
どこがMaaSの本なんだ。本書を読んでいただいた方の中には、そんな感想を抱いた人がいるかもしれない。たしかにスマートフォンアプリについての記述は一部である。しかし日本の地方におけるMaaS は、ここまで範囲を広げて紹介していかなければならないと筆者は考えている。
MaaS はMobility as a Serviceの略であり、最終的な到達点はICT を活用して多様なモビリティをシームレスに統合し、単一のサービスとして提供することだ。しかし日本の地方交通が、いきなりその次元に到達するのは難しい。
世界で初めてMaaSという概念を提唱したフィンランドを含めた欧州の都市は、もともとコンパクトシティであるうえに、モビリティはまちづくりのためのツールという考えも根付いていた。そのために地域交通は1都市1事業者とし、税金や補助金を主体とした運営として改革を進めやすくした。
その過程で、事前決済の一種である信用乗車方式や、距離ではなく領域で運賃を決めるゾーン制などを導入していった。これらがMaaS の導入に有利に働いていることは、改めて書くまでもないだろう。
そんな欧州でも、フィンランドでMaaSの源流になるアイデアが生まれてから、スマートフォンアプリの「Whim」が形になるまで、10 年の歳月を要している。土を耕し、種を蒔き、水をやりながら成長を見守ることで、ようやくMaaS の花が咲いたという表現が近いかもしれない。
よって本書では、はじめにMaaS ありきの事例は割愛させていただき、地域の課題解決のために交通改革が必須と痛感し、そのためのツールとしてMaaS の導入を目指す事例にスポットを当てた。地方でMaaS を育てていくためには、まちづくりのストーリーを理解することが大切と考えたからである。
本書の執筆にあたっては、自治体担当者、交通事業者、大学研究者など多くの方にお世話になった。とりわけ東御市および小諸市の事例では、アドバイザーとして参加している株式会社カクイチの存在が不可欠であった。
そして出版に際しては、学芸出版社編集部岩崎健一郎氏および山口智子氏のご尽力も欠かせなかった。この場を借りて皆様にお礼を申し上げたい。