公共交通が人とまちを元気にする


松中亮治 編著 大庭哲治・後藤正明・鈴木義康・辻堂史子・鎌田佑太郎・土生健太郎 著

内容紹介

政策に科学的な根拠とヒントを与える1冊

富山市・京都大学等がGPS端末を使って高齢者の歩数・来街頻度・歩行範囲・滞在時間・消費金額を総合的に捉えた「高齢者交通行動調査」の結果をもとに、「公共交通は健康によく、中心市街地の活性化に貢献する」ことを初めて客観的・定量的に実証。都市・保健政策関係者に科学的な根拠と政策立案へのヒントを与える1冊。

体 裁 A5・168頁・定価 本体2200円+税
ISBN 978-4-7615-2777-8
発行日 2021-06-15
装 丁 鷺草デザイン事務所 中島佳那子


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はじめに

1章 「公共交通は健康にいい」は本当か?

1.1 なぜ公共交通が人とまちを元気にするのか?
1.2 富山市におけるコンパクトなまちづくり

2章 高齢者健康増進端末機「おでかけっち」の開発

2.1 開発の背景と経緯
2.2 どのような機能を持った端末機を開発するか?
2.3 親しみを持って携帯してもらえる端末機のデザイン
コラム1 端末機デザインの様々なアイデア
2.4 おでかけっちを活用した高齢者の交通行動調査と中心市街地の回遊調査
2.5 おでかけっちを活用してわかったこと
2.6 データの利活用に向けて
2.7 おでかけっちの開発と活用のまとめ
付録:コンソーシアムの記録

3章 公共交通を使うと高齢者はたくさん歩くのか?

3.1 高齢者の歩数と外出行動データを用いたおでかけ定期券の効果分析―2016年度高齢者交通行動調査の概要―
3.2 おでかけ定期券を持っている高齢者の歩数は1日約300歩多い
3.3 おでかけ定期券を利用している高齢者の歩数は1日約770歩多い
3.4 おでかけ定期券を持っている高齢者の中心市街地での滞在時間は1ヶ月当たり約85分長い
コラム2 統計的検定とは(有意水準)
コラム3 母比率の検定
コラム4 母平均の検定

4章 公共交通を使うと高齢者の医療費は抑制されるのか?

4.1 高齢者の歩数・医療保険データを用いたおでかけ定期券の医療費抑制効果の分析―2018年度高齢者交通行動調査の概要―
4.2 高齢者の歩数は2年の間にどのように変化したのか?
4.3 実際の医療保険データとはどのようなものなのか?
4.4 おでかけ定期券事業により医療費は年間約8億円抑制されている!

5章 公共交通は中心市街地に賑わいをもたらすのか?

5.1 富山市中心市街地における2地区での回遊行動調査の概要
5.2 自家用車利用者を上回る公共交通利用者の滞在時間・歩数・訪問箇所数
5.3 高齢者に着目した滞在時間・歩数・訪問箇所数も公共交通利用者が自動車利用者を上回る
5.4 公共交通利用者の消費金額は自家用車利用者より1人・月あたり2039円~3250円多い
5.5 公共交通による来街が回遊性を高めている
コラム5 ウィルコクソンの順位和検定

おわりに―公共交通の利用促進は医療費を抑制し、中心市街地を活性化する―

【編著者】

松中亮治

京都大学大学院工学研究科都市社会工学専攻

【著者】

大庭哲治

京都大学大学院経営管理研究部・工学研究科都市社会工学専攻

後藤正明

株式会社シティプランニング

鈴木義康

株式会社日建設計総合研究所

辻堂史子

株式会社シティプランニング

鎌田佑太郎

株式会社電力計算センター

土生健太郎

株式会社毎日放送

現在、過度なクルマ依存型社会から脱却し、安全で人と環境にやさしい公共交通や歩行者・自転車などを中心とした持続可能なまちづくりを進めることが世界的な潮流になっていると言っても過言ではない。増大する自動車交通に対応した20世紀後半の需要追随型の政策から、人と公共交通を中心に考えた、魅力と賑わいのある都市を目指す新しい方向へと現在の都市・交通政策は大きく転換しているのである。

LRT(Light Rail Transit)と呼ばれる低床の次世代型路面電車の導入、コミュニティサイクルや自転車道ネットワークの急速な拡充、都市中心部における歩行者空間整備など、特に、海外の諸都市において、安全・安心であり、また、環境にもやさしい公共交通や歩行者・自転車などを中心としたまちづくりが急速に進められている。自動車に対する、まちづくりにおけるこうした公共交通の優位性は、公共交通の有する特筆すべき素晴らしい特徴の一つであるといえる。

しかし、公共交通は安全・安心で環境にやさしいだけの交通手段ではない。人々の「健康」を増進し、まちに「賑わい」をもたらし、人とまちを元気にする、そういったポテンシャルを公共交通は持っているのである。人と環境に優しく、そして、人とまちを元気にする、公共交通がそういった都市交通システムであるならば、現在の都市と都市に住む住民にとって、公共交通は人々を幸せにする必要不可欠かつ非常に重要な都市インフラということになる。

しかし、「本当にそのようなポテンシャルが公共交通にあるのだろうか?」あるいは、「どうしてそのような力が公共交通にあるのだろうか?」と疑問に思われる方も多くおられるであろう。

本書は、こうした疑問に答え、公共交通が持っている人とまちを元気にする力の大きさを実証的かつ定量的に明らかにし、まちづくりにおける公共交通の役割について、公正にご理解いただきたいという筆者らの強い思いから執筆したものである。

本書では、公共交通を軸とした歩いて暮らせるコンパクトなまちづくりを推進している富山市において、高齢者を対象に、実際の交通行動や外出行動を、筆者らが開発した専用の携帯端末を用いて詳細に調査するとともに、調査にご協力頂いた方々から同意を得た上で、医療保険データや公共交通の利用履歴を取得し、統計的に分析することによって、公共交通が人やまちを元気にすることを定量的に明らかにしている。

具体的には、1章では、なぜ、公共交通が高齢者やまちを元気にする力を持っているのかについて筆者らの考えを述べるとともに、本書の分析において対象とした富山市のコンパクトなまちづくり施策について、その概要を整理している。

続く2章では、高齢者の実際の交通行動を把握するために用いた高齢者健康増進端末「おでかけっち」の開発経緯、端末の機能やシステム、デザイン等の検討プロセスについて述べるとともに、開発した端末を用いて実施した調査の概要について述べている。また、2章の最後では、筆者らが調査で得たデータをどなたでも使っていただけるように公開したオープンデータ化の取り組みについても紹介している。

そして、3章では、高齢者の実際の外出行動ならびに日常生活における歩数を分析し、「公共交通を使うと人は本当にたくさん歩くのか?また、どれくらいたくさん歩くのか?」を実証的かつ定量的に明らかにしている。

さらに、4章では、公共交通利用促進施策によって、「高齢者の医療費がどのくらい抑制されるのか?」について、高齢者の実際の医療保険データを用いて計測し、医療費抑制効果を定量的に明らかにしている。

そして、5章では、中心市街地に来訪された方々の回遊行動を調査・分析し、公共交通による来街者と自動車による来街者の中心市街地来街時の消費金額の違いを明らかにしている。

是非、本編をお読みいただき、公共交通の持つまちづくりにおける可能性について、ご理解を深めていただきたいと考えている。また、とにかく、まず、結果が知りたいという方は3章から読んでいただいても理解できる構成となるよう配慮してあるので、こちらから先に読み始めていただいても結構である。 いずれにせよ、人々とまちを元気にする公共交通を中心としたまちづくりの進展に、本書が少しでも貢献できるのであれば、筆者らの望外の喜びである。

最後に、本書の刊行にあたって、学芸出版社の岩崎健一郎氏には、企画の段階から仕上げに至るまで、終始適切なアドバイスをいただいた。記して感謝の意を表する次第である。

森 雅志 前富山市長推薦!

市民とまちを元気にする方向性が本書でまとめられた調査結果から読み解ける。公共交通など社会資本投資を強化することで、一人ひとりのライフスタイルを大きく刺激し、暮らし方が変わり、明るい未来に繋がることは今後のまちづくりの大きな指標となるのではないか。

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