実証・仮設住宅

実証・仮設住宅 東日本大震災の現場から
Loading...

内容紹介

県で陣頭指揮した著者が実態と課題を語る

東南海地震など大災害が予想される現在、仮設住宅建設の下準備は自治体等の喫緊の課題だが、資料があまりに乏しい。本書では岩手県で仮設住宅建設の陣頭指揮にあたった著者が、東日本大震災における仮設住宅の建設状況を振り返りながら、大規模な災害時における課題と今後のあり方を率直に語っている。関係者待望の書。


大水敏弘 著
著者紹介

体裁A5判・236頁
定価本体2500円+税
発行日2013-09-01
装丁KOTO DESIGN Inc.山本剛史
ISBN9784761525569
GCODE5445
販売状況 在庫◎ 電子版あり
関連コンテンツ 試し読みあり
ジャンル 防災
試し読み目次著者紹介まえがきあとがき新着情報

令和6年能登半島地震を受け、下記のページにて、内容の一部を著者のご協力のもと公開しております。

※内容の無断転載等は禁じます。

災害からの復旧・復興関連資料 無料公開書籍一覧

まえがき

序章 仮設住宅とは

応急仮設住宅の所管は厚生労働省
仮設住宅の基本的な基準
仮設住宅の建設態勢
仮設住宅の歴史

1章 被災直後から仮設住宅建設初期の対応まで──現場から

1 震災直後の混乱の中で

仮設住宅の着工準備へ
岩手県では役に立たなかった「建設可能地リスト」
とても役に立った「阪神・淡路大震災の記録資料」
プレハブ建築協会への建設要請
第1弾着工
着工は被災規模の大きい市町村から
一躍知れ渡った「陸前高田」
先例の学習
途中で足りなくなった阪神・淡路の仮設住宅

2 どこにどれだけ建てればいいのか

仮設住宅の用地はどれだけ必要か
仮設はどこに建てたらよいか
被災市町村以外という選択肢
被災市町村以外を避けたいもう一つの理由
めざせ現地復興
岩手県から始まった民有地活用
厚生労働省の通知で民有地活用にはずみ
学校の校庭に建てるべきか
県と市町村の二人三脚
やむを得ず被災市町村以外に建設するケース
郊外に建ててうまくいかなかった阪神・淡路
必要戸数が少なすぎる
必要戸数の見直しは早めに行うべし

3 動き出さない建設工事

軌道に乗らない仮設住宅建設工事
ガソリンがない、資材がない、宿がない
資材をめぐる混乱
寒冷地仕様の断念
水がない、道がない、電気がない

4 いよいよ入居開始

第1弾入居
契約書の作成
入居期間の問題
入居者選定のあり方
抽選なし入居の実現
被災者自らが用地を確保する事例も
被災者への情報発信、相談対応
人員の増強

5 開けた地元発注への道

プレハブ建築協会とは
規格建築部会と住宅部会
仮設住宅大量供給の流れ
リースと買取り
一大産業となった仮設住宅建設
地元工務店等に発注するという道
公募による建設事業者の選定
被災3県による対応の違い
地元工務店等による仮設住宅の特徴
輸入住宅を導入すべきか

2章 仮設住宅の完成・避難所の閉鎖まで──俯瞰して見てみる

1 仮設住宅建設の遅れと政府の対応

1か月経っても進まない仮設住宅建設
4月中旬からようやくエンジン全開
5月末までに全国で3万戸
「5月末3万戸」の影響
「お盆の頃までに入居」という目標

2 民間住宅借上げというもう一つの選択肢

民間賃貸住宅の借上げによる応急仮設住宅
東日本大震災における民間賃貸住宅活用の拡大
一気に広がった「みなし仮設」
デメリットもある「みなし仮設」
「みなし仮設」は情報過疎になりやすい
いつまで入居可能か分からない
事務処理に追われる県
安くつくのかは分からない
家賃補助化ができるか

3 仮設住宅の完成と避難所の閉鎖

減少した建設仮設の需要
必要戸数1万4千戸の算出の仕方
1万4千戸の早期完成に向けて
最後の苦しみ
相次ぐトラブル
「お盆の頃までに入居」に向けて
避難所が解消されなかった阪神・淡路
岩手県内の避難所の閉鎖
避難所の解消に苦慮した気仙沼、石巻
みなし仮設で減少した建設仮設の需要
建設仮設の空き家問題

3章 東日本大震災における仮設住宅の達成点と問題点

1 様々な仮設住宅

被災3県の提案型木造仮設
鉄骨造の提案型仮設
住田町独自の仮設住宅
地元建設の道を切り開いた住田の仮設住宅
遠野市からの仮設住宅建設の提案
遠野市でも実現した木造仮設住宅

2 バリアフリーやコミュニティに配慮した仮設住宅

バリアフリーへの配慮
コミュニティケア型仮設住宅
仮設住宅団地におけるコミュニティ配慮
集会所の設置、バリアフリー化
遊具、プランター等の設置
サポートセンターの設置
グループホーム型仮設住宅の必要性
東日本大震災におけるグループホーム型仮設住宅の建設
南入り仮設住宅の実現
みんなの家

3 完成後の追加対策

数々の苦情
暑さ対策、寒さ対策
その他の追加工事
畳について
凍結の発生
追い焚き機能の追加
振り返るに

4章 得られた教訓と将来への展望

1 東日本大震災における対応から学べること

多様な建設事業者の活用
県と市町村の役割分担
災害救助法所管部局との関係
重要となる住宅確保のための総合対策
部局間連携不足による問題
そのほか特に反省すべきこと
特に改善が図られたこと

2 平時から災害に備える

住宅確保全般
仮設住宅建設関係
公営住宅関係
民間住宅関係
訓練の実施
仮設のまちづくりシミュレーション
首都直下地震・南海トラフ巨大地震が起きたらどうなるか
災害対応で心がけるべきこと

3 仮設住宅と被災地のこれから

被災地の仮設住宅の今後
復興に向けて
災害公営か自宅再建か
高台か現地復興か
住宅だけでない復興を
〈コラム〉 仮設住宅に居住してみて

終章 災害救助法について思う

資料
あとがき

大水敏弘(おおみず・としひろ)

1970年生まれ。大槌町副町長。技術士(建設部門(都市及び地方計画))。
1993年東京大学工学部建築学科卒業後、建設省(現国土交通省)入省。関東地方整備局建政部住宅整備課長、岩手県県土整備部建築住宅課総括課長、国土交通省都市局市街地整備課企画専門官等を歴任。地域振興整備公団在任時に、沖縄市や防府市の市街地再開発事業に携わり、その後水戸市都市計画部長として都市整備を担当するなど、地方都市の市街地整備に長く関わっている。東日本大震災時には、岩手県庁に勤務しており、以降1年間、災害対応の最前線で仮設住宅建設等の業務に当たる。平成24年度の1年間は国土交通省本省で復興事業の担当官となり、平成25年4月から現職。

東日本大震災においては、多数の被災者が家を失い、避難所などに一時期身を寄せることとなった。甚大な被害のため避難所は被災者であふれかえり、劣悪な環境から被災者を解放すべく、仮設住宅を早急に提供することが大きな課題となった。避難者の数は最大で45万人を超える一方、震災直後は、通信インフラ、交通インフラ、エネルギー供給とも混乱を極め、まさに先の見えない中で、岩手、宮城、福島の被災3県を中心に仮設住宅の建設が手探りで進められた。

筆者は震災当時、岩手県県土整備部建築住宅課総括課長として着任しており、以来、平成24年3月まで約1年間、仮設住宅の建設を中心とした被災者向けの住宅の確保対策に携わってきた。阪神・淡路大震災を上回る未曾有の災害と言われる状況で、様々な方の助けを借りながら、とにかく一刻も早く被災者の方が安心できる住まいを確保するため、仮設住宅の建設を急いだ。

避難所にいる被災者を住宅に収容する手段として、仮設住宅は極めて重要な役割を果たす。震災後は、仮設住宅の建設がどれだけ進むか、被災者がいつまでに入居することができるかが、被災者にとって、また社会にとって高い関心事となった。仮設住宅建設については、国、県及び市町村がそれぞれ必死になって取り組んだが、震災直後の混乱、次第に明らかになってきた資材の不足、仮設住宅の建設場所となる用地の不足など、様々な壁にぶち当たることとなった。

結果としては、震災から5か月経った8月11日には岩手県内の仮設住宅が完成し、宮城県、福島県を含め年内には仮設住宅の建設が一段落し、ほとんどの避難所が閉鎖される運びとなった。仮設であるがゆえ、住まいとして決して十分満足できるものではないが、それでも避難所閉鎖の報には、建設に取り組んできた職員や関係者一同、胸をなでおろしたものであった。

その一方で、仮設住宅の建設を進めていくにつれ明らかになってきた課題も多く、反省しなければならない点は多々ある。日本は豊かな自然に恵まれている一方で、災害とは切っても切れない関係で暮らしていかなければならない国である。今後も起こりうるであろう大震災に対して、ますますしっかりとした備えをしていかなければならないことは言うまでもない。

本書は、東日本大震災における仮設住宅の建設状況を振り返りながら、大規模な災害時における仮設住宅建設をめぐる課題を洗い出し、今後も行われるであろう仮設住宅建設のあり方を考察していこうとするものである。また、いわゆる「みなし仮設」の課題についても考察する。

まずは序章において、仮設住宅とはどのようなものであるか理解を深めてもらうこととしたい。1章及び2章においては、岩手県を中心に実際にどのように仮設住宅の建設が進んでいったか、建設の実情をお示しすることとしたい。そして、3章及び4章では、仮設住宅建設を進めていく中で明らかになってきた課題や今後取り組んでいくべきことなどを述べていきたい。序章は少し固い内容なので、一般の方は第1章から読み始めてもよいかと思う。

本書は、建築や防災関係に携わっている方のみならず、広く一般の方に仮設住宅のことを知っていただくことを目的としている。多くの方に読まれることにより、仮設住宅や震災対応についての理解が進むとともに、関心が薄れつつある被災地に改めて目を向けていただき、被災地の復興と防災の取組の進展につながるものとなれば幸いである。
なお、本書中の意見にわたる部分は筆者の個人的見解であることをお断りしておく。

震災以来、仮設住宅建設完了まで、とにかく一刻も早く被災者に仮設住宅を提供しようと被災3県を中心に暇を惜しんで対策に当たった。課題は様々あったにせよ、なんとか完了までたどり着けたのは、国、県、市町村やプレハブ建築協会と会員企業、そして地元工務店等が必死になって取り組んだことによるものである。

被災地のために、全国から応援にかけつけていただき、宿不足のため、建設工事従事者は毎日100kmの遠距離通勤という方も多かった。それでも、不満の声が聞こえてくるわけでもなく、被災者に住宅を提供するという仕事にやりがいを持って建設に当たっていただいたことは、本当に素晴らしいことと思う。

被災者にとって、仮設住宅に入居できたことはどれだけ安心につながったことかと思うが、一方で現実には、仮設住宅完成後に届く被災者の声は仮設住宅の不具合に関する苦情ばかりであり、必死に取り組んだ職員にとっては気の毒と思うこともあった。

マスコミはどうしても、行政の取組のうち、うまくいっていないところばかりを取り上げるが、真実を伝えるのがマスコミの責務であるのなら、必死にやっている職員や建設工事従事者の姿を取り上げるのも必要なことではなかったかと思う。

震災以来の職員の負担は、本当に並々ならぬものがあった。気が張っているうちはまだよいが、仮設住宅建設を終え、しばらくして体調を崩してしまった職員もいた。被災者の苦情ではなく、喜びの声の方が届けば、少しは心理的負担が和らいだのではないかとも思う。管理者の立場として、職員の負担にもう少し配慮できていれば、と悔やまれる。

一方で、仮設住宅の提供が、十分に被災者の役に立てたのか、改めて検証が必要なように思う。行政としては、仮設住宅を建てることで満足するようではいけない。目的は、建てることではなく、被災者の生活を再建することだからだ。生活利便施設のない仮設住宅団地の問題など、被災者の目線から見直さなければならない課題は多い。

また、被災地の復興はこれからが正念場だ。残念ながら、復興予算の流用や、国家公務員のネット上の暴言が問題となってしまったが、復興に向けて一番必要なことは、行政が被災者にしっかりと向き合い、被災者の立場に立った対策を講じていくことだ。

本書が発刊されることをきっかけに、一般の方には仮設住宅建設の真実を知っていただき、関係者においては様々な検証がなされるとともに、今後起こりうる大震災への備えと被災地の復興が進展することを願ってやまない。

最後に、本書の発刊に当たって、数多くの学識経験者、国、県及び市町村の関係者、各団体や民間企業の関係者から応援の言葉をいただいた。厚く御礼申し上げて、筆を置くこととしたい。