地域プラットフォームによる観光まちづくり

大社 充 著

内容紹介

いま、プラットフォーム型の観光まちづくり組織の顧客志向の取り組みが、従来の観光行政、観光協会の弱点を克服し成果をあげている。本書ではその組織のあり方、実践的なマーケティング手法、地域ぐるみで取り組む推進体制のマネジメントの仕組みを示す。地域の観光事業者、NPO、観光協会、DMO、自治体関係者必読の書

体 裁 A5・240頁・定価 本体2600円+税
ISBN 978-4-7615-2546-0
発行日 2013/03/01
装 丁 コシダアート


目次著者紹介はじめにあとがき新着情報

第1章 観光まちづくりによる地域振興の課題

第1節 人口減少社会における地域活性化の方策
第2節 地域主導型観光の登場と、その課題

第2章 地域へのマーケティングの導入

第1節 商品をつくって売るということ
第2節 集客交流における地域マーケティングの考え方
第3節 集客交流事業で地域経済を元気にする具体策
第4節 地域コンテンツ(着地型商品)のマーケティング

第3章 地域のプラットフォーム型組織のケーススタディ

ケース1 針江生水の郷委員会
―自然と共生する暮らしと集客交流のバランスを図る
ケース2 NPOハットウ・オンパク
─疲弊した温泉地の再生に取り組む
ケース3 ㈱南信州観光公社
―日本有数のランドオペレーターとして教育旅行を推進する
ケース4 NPOおぢかアイランドツーリズム協会
―観光による離島振興を図る
ケース5 ㈱四万十ドラマ
―ぶれないコンセプトで地域資源の商品化に取り組む

第4章 プラットフォーム型観光まちづくり組織と推進体制のマネジメント

第1節 何をする組織か
第2節 従来の組織とどこが違うのか
第3節 観光まちづくり組織のマネジメントと究極の目的

第5章 観光振興行政のマネジメント

第1節 観光協会はどこへいくのか
第2節 地域の観光振興計画と行政機構が抱える課題
第3節 自治体レベルの観光マネジメントは機能しているか
第4節 新しい地域マネジメント主体の可能性

第6章 観光立国に向けた構造改革

第1節 本気度が問われる観光立国
第2節 全産業ぐるみの取り組みへ
第3節 顧客志向の推進体制への転換を

大社 充

まちおこしや地域づくりに役立つプログラムづくり、自然や歴史文化を活かした着地型集客コンテンツの開発に取り組んで25年目を迎える。 地域プラットフォーム(DMO等)や観光マーケティング、観光戦略、観光まちづくり組織に関する研修会や講演会を全国で開催中。 現在:NPO法人グローバルキャンパス理事長。(社)日本観光振興協会理事。観光地域づくりプラットフォーム推進機構・代表理事。立教大学観光学部兼任講師、ほか

主な著書:単著『体験交流型ツーリズムの手法』学芸出版2008年
単著『奇跡のプレイボール~元兵士たちの日米野球』金の星社2009年

数年前の夏、香川県にある亡き父の郷里を家族で訪ねた時のことである。

宝塚ICを出発して明石大橋・淡路島・鳴門大橋を走り、夕方には予約していた民宿に到着。荷物をといてゆったりしていたとき、当時小学3年の息子が「花火をしよう」と言いだした。

近くのコンビニで花火を手に入れ、民宿の女将さんに「バケツを貸して下さい」とお願いした。

「花火するの?どこで??」と言いながらバケツをもってきてくれた女将さんに、「この先の道を下りて行ったら砂浜に行けますよね。その浜辺でと考えています」と答えた。

すると、「わざわざ海まで行かんでよろし。うちの前のこの道でやって大丈夫だから、ここでやりなさい」という。わたしは、とまどった。
女将さんが「うちの前」を薦めるのは、花火の音や子どもたちの歓声が響いても誰も文句を言わないから安心しておやりなさい、というやさしい心遣いであった。だからこそ言葉に詰まってしまった。

なぜなら、小学生の息子は「浜辺で」花火をやりたかったからだ。

地域の人たちの「善意」は、必ずしも「顧客ニーズ」に合致しているとは限らない。

いま注目を集めながらも、いまひとつ成果が見えない着地型観光の現場において、着地型商品(サービス)と顧客ニーズの間に、このような微妙なずれが起こっているのではないだろうか。

バブル経済崩壊後、旅行マーケットの変化にともない国内観光振興の主役は、地域への送客を担ってきた旅行会社から、地域自身へとシフトした。主役の座に躍り出た地域は、主体的・戦略的な集客の仕組みづくりが求められることになったのである。しかしながら、20年余りの長きにわたる懸命な取り組みにもかかわらず、一部の地域をのぞいて、いまもなお多くの地域では「交流人口の拡大による地域の活性化」という成果を見いだせずにいる。

このような地域の行き詰まりを打破するのに必要な要件として、本書が第一にとりあげたキーワードが「顧客志向」である。第2章では、着地型観光の成功事例の紹介にはじまり、企業において活用されるマーケティングの手法を観光まちづくりに応用する方法について具体例を交えながら解説を行った。

続く第3章・第4章では、ここ10~15年ほどの間に、各地で台頭してきている新たな観光まちづくりの推進母体に注目し、それらを紹介している。これら組織は、従来の「観光協会」とは異なり、地域資源を活用して商品を生みだし集客を図る事業型組織である。本書では、これらを「観光まちづくり組織」とよび、観光協会との違いや、地域内外に果たしている機能、地域のなかでのポジショニングなどについて分析を行っている。

第5章では、市町村レベルの「観光振興計画(プラン)」、およびそれを推進する「観光行政」「観光協会」の現状と課題についての整理を行った。観光地域振興の実態をじっくり眺めていくと、期待される成果をあげるためには現行の推進体制そのものに少なからず課題が見えてくる。そこで、前章で紹介した観光まちづくり組織との比較も行いながら、成果のあがる体制づくり、言い換えるとマネジメントが機能する体制づくりを論点にすえ、地域の観光マネジメントを評価する視点とそのためのツールを提示することを試みた。

最終章(第6章)では、観光立国という国家的な取り組みにおける観光まちづくりの位置づけと、他産業との連携の必要性について述べた後、わが国全体の観光地域振興の推進体制における改革案を提示している。思い切った改革案であるが都道府県や市町村での検討の俎上に乗れば幸いである。

本書は、できる限り現場の人たちが実践に活用しやすいよう、図表や問いを数多く掲載し、空欄を埋めるなどしながらワークブックのように利用できるスタイルにしてある。地域の人たちが一体になっての議論の素材とするなど、大いにご活用いただければ幸いである。

2013年1月11日 大社 充

本書は、経済産業省「体験交流サービスビジネス化研究会」(平成19年)、観光庁「持続可能な観光まちづくり事業体創出支援調査」(平成21年)における議論が出発点となっている。

執筆にあたっては、北海道大学観光創造専攻の石森秀三先生をはじめ観光創造研究センターの先生方、都市計画家の蓑原敬先生、まちづくり専門家の林泰義さん、工学院大学の後藤治先生、京都府立大学の宗田好史先生、流通科学大学(当時)の高橋一夫先生、筆者が兼任講師を務める立教大学観光学部の安島博幸先生、そして日本観光振興協会の見並陽一理事長、長嶋秀孝常務理事、観光地域づくりプラットフォーム推進機構の清水愼一会長をはじめ、鶴田浩一郎さんや井手修身さんら同機構のみなさんから多くのご指導をいただいた。さらに、本書で事例を紹介させていただいた観光まちづくり組織のリーダーのみなさんほか、全国各地の現場で日々汗を流している、数え切れない多くの方から貴重な情報や有益なアドバイスをいただいた。あらためて、お世話になったみなさんに御礼を申し上げたい。

本書は2010年に出版を予定していた。それが2年半も遅れたのは、ひとえにわたしの怠惰な性質によるものだが、粘り強くわたしを励まし続けてくださった学芸出版社の前田裕資さんの心遣いときめ細かな指導なくして本書は誕生しなかったことを付記しておきたい。

本書の主題は、行き詰まりをみせる地域のブレイクスルーへの鍵を探ることであり、観光マーケティングを導入した成果のあがる体制(マネジメント機能の強化)づくりの提案である。最終節においては、マーケット志向型の推進体制モデルを提示した。市町村レベルにおいては、観光まちづくり組織を核にイノベーションが促進されスモールビジネスが生まれる環境を整え、広域においては広域観光組織(DMO)が、観光マーケティングにもとづく戦略策定、事業(プロジェクト)立案、それら事業(プロジェクト)をマネジメントすることでPDCAサイクルを機能させる体制への転換である。少し大げさだが観光地域振興における推進体制の構造改革といえるかもしれない。全国各地において、こうした体制と一連のプロセスが動きだし、課題や方法論を共有し、修正を加えながら成果のあがる仕組みを生みだしていくことができれば、わが国の観光まちづくりは新たな局面を迎えることだろう。
本書が、地域主導型観光振興のブレイクスルーに向けた新たなステージへの出発点になることを願っている。

2013年1月11日 大社 充

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