緑の分権改革
内容紹介
地域、ひいては日本の再生には、政治・行政の分権化とともに、中央からの公共事業や補助金だよりといった地域のあり方も、地域にあるものを生かして自立していく「内発的発展」「地域力創造」へと変わらなければならない。その変化を政策的に後押しする「緑の分権改革」の立案と運用に深く関わった著者による初めての解説書。
体 裁 B5・144頁・定価 本体2300円+税
ISBN 978-4-7615-2524-8
発行日 2011/11/15
装 丁 上野 かおる
はじめに
第1章 地域には「ひと」と「もの」しかない
第1節 地域活性化のバロメーター
1 人口指標 ─人口、生産年齢人口など
2 経済指標 ─ GDP・県民所得、1人あたりGDP・県民所得など
3 幸福感 ─ 社会とのつながりや貢献などから生まれるもの
第2節 活性化の源泉が「地域力」
第3節 「地域力」を創造するためには
1 地域資源の発見・発掘・再生
2 「人間力」の涵養と発揮
第4節 「つながり力」を強化する ─絆の再生
1 集落活性化のモデル「やねだん」
2 命を救う「ふれあい囲碁」
3 半田市における障がい者のノーマライゼーション
4 絆の再生の詩
第2章 地域の「人間力」を伸ばすツボ
第1節 人材力を活性化する ─「地域づくり人」の養成
1 「人材力活性化研究会」の取り組み
2 全体型リーダー・分業型リーダーの育成
3 具体的な育成カリキュラム
第2節 人材力活性化の具体的取り組み
1 自治大学校の「地域人材養成研修」
2 「まちづくり教育」の推進とJIAMの指導者養成セミナー
3 「子ども農山漁村交流プロジェクト」とJIAMの臨時・緊急セミナー
4 財団法人地域活性化センターの「全国地域リーダー養成塾」
5 JAMP・JIAMの「地域おこし協力隊・集落支援員研修会」
第3節 交流・ネットワークを拡大する ─「助っ人」の活用
1 「地域力創造データバンク」と「地域力創造アドバイザー」
2 「地域おこし協力隊」や「集落支援員」
3 地域実践活動による教育・研究活動を行う大学コンソーシアム
4 「JOIN」などの移住交流施策
第4節 ネットワークによる人材呼び込みなどの成功例
1 高知県方式の人の輪(和)づくり ─県庁マンの「駐在さん」が大活躍
2 長野県木島平村の「農村文明塾」 ─芳川村長の熱意がそうそうたるメンバーを呼び込む
3 TOSSと「ふれあい囲碁」 ─偶然のマッチングから始まったコラボレーション
第3章 「緑の分権改革」こそ地域力創造のカギ
第1節 地域主権型社会を実現する「緑の分権改革」
第2節 地域再生の決め手 ─震災復興にも通じる視点
第3節 基本理念 ─トリクルダウンからファウンテンモデルへ
第4節 手法 ─補助金行政ではなく規制ミックスの改革
第5節 「緑の分権改革」を考えるキーワード
1 「緑の分権改革推進会議」における主な意見
2 福武總一郎氏の意見 ─あるものを活かしてないものを創る
3 「緑の分権改革」と親和的なキーワードと対立的なキーワード
第4章 地域の先駆的取り組み
第1節 岩手県葛巻町─北緯40度、ミルクとワインとクリーンエネルギーのまち
第2節 長野県飯田市─「環境モデル都市」と「定住自立圏」中心市として発展するまち
第3節 滋賀県東近江市─市民出資の太陽光発電、菜の花エコプロジェクト、人の輪(和)づくり
第4節 徳島県上勝町 ─「葉っぱビジネス」と「美しいニッポンの村・サステナブルビレッジ」
第5章 これまでの国の取り組み
第1節 推進体制と政策体系
第2節 再生可能エネルギーへの取り組み ─平成21年度第2次補正
1 高知県企業局 ─太陽光発電・小水力発電
2 北海道下川町 ─バイオマス・カーボンオフセット
3 鹿児島県屋久島町 ─地熱発電
4 銚子市 ─総合的取り組み
第3節 総合的・複合的取り組みの推進 ─平成22年度「緑の分権改革調査事業」
1 北海道中頓別町 ─自然環境・農産物などの地域資源を丸ごとビジネス化
2 山形県鶴岡市 ─地域内連携による観光と農林業の振興・森林文化都市の創造
3 山形県上山市 ─歴史的町並みを生かした地域づくり
4 岡山県瀬戸内市 ─自転車を活用したbike bizの実現
5 京都府和束町 ─お茶を核とした小さな農業・林業・観光と資源循環による定住自立の実現
6 香川県土庄町 ─アートと再生エネルギーと絆の再生による創富力向上
第4節 「緑の分権改革推進会議」と四つの分科会
1 四つの分科会のねらい
2 第1分科会 ─モデルとなる取り組みの整理
3 第2分科会 ─経済効果の計量的分析
4 第3分科会 ─ICTの利活用
5 第4分科会 ─再生可能エネルギーを活用した地域活性化事業化ガイドライン
第5節 制度的課題と解決方策の検討・提言へ ─平成23年度における「改革モデル実証調査」
1 再生可能エネルギー関係
2 農林水産業・食品関係
3 文化・観光・地域間交流関係
第6章 私の提唱する具体例
第1節 土地・水・太陽を生かす
1 再生可能エネルギー電気の全量固定価格買取制度
2 森里海連環
3 水ビジネス
4 森林と林業の再生
第2節 第1次産業の活性化と高付加価値化
1 農業再生と6次産業化
2 資源管理型漁業と複合産業化
3 地産地消と食料自給
第3節 歴史・伝統・文化・地場産業を生かす
1 地域づくり型観光 ─地域旅
2 古民家再生や町並み保存
3 酒づくり
第4節 人材を生かす ─高等教育のあり方
第5節 地域内の経済循環を高める
1 地産地消や地域通貨
2 資本循環 ─地域ファンド
第7章 「緑の分権改革」理想郷
おわりに
参考文献
椎川 忍
総務省自治財政局長(前 地域力創造審議官(初代))
1953年生まれ。秋田県出身。四日市高校から東京大学法学部卒業。総務省財政課長、内閣府・総務省の官房審議官、自治大学校長など。県勤務は、埼玉、香川、宮崎(財政課長)、島根(総務部長)。地域に飛び出す公務員ネットワーク代表、NPO法人大山中海観光推進機構理事、国際日本文化研究センター共同研究員など。共著に『地域旅で地域力創造~観光振興とIT活用のポイント』(2011年、学芸出版社)
私が初代の総務省地域力創造審議官を拝命したのは、平成20年7月・福田内閣の増田寛也総務大臣の時で、大臣からの特命事項として「定住自立圏構想」の制度化に取り組ませていただきました。その過程で、NPO法人地球緑化センターが実施している「緑のふるさと協力隊」など、これまでのさまざまな制度を参考にするとともに、それらの不十分な点を補うことができるような「地域おこし協力隊」という新しい制度を創設することができました。これは若者の地方移住を抜本的に後押しする画期的な政策だと思っています。もちろん、定住自立圏についても平成20年末までに制度化をし、その後、平成23年3月末までに、69市が中心市宣言をし、54圏域(延べ216市町村)が定住自立圏を形成、40の中心市と200の周辺市町村が定住自立圏形成協定を締結するに至っています。
平成20年9月には、福田内閣の総辞職により麻生新内閣が成立し、鳩山邦夫総務大臣にお仕えし、大臣の年来の主張であった「自然との共生」をテーマに政策立案をしましたが、そのときに大臣からの紹介で知り合ったのが国際日本文化研究センターの安田喜憲教授でした。その後、安田先生とは「森里海連環」の研究や菅原文太さんの「水源を守る一滴塾」運動などでご一緒することになり、私たちの推進する「緑の分権改革」「木島平農村文明塾」などでも貴重なご指導、ご助言をいただいています。
その後、平成21年9月には、衆議院における小選挙区比例代表並立制導入後初めての本格的な政権交代があり、鳩山内閣が成立し、原口一博総務大臣にお仕えすることになりました。リーマンショック後の経済対策の一環として編成された前政権時代の平成21年度第1次補正予算は、大幅な見直しが行われることになり、その中で、民主党のマニフェストに盛り込まれていた再生可能エネルギー電気の全量固定価格買取制度の導入を含めた「緑の分権改革」という新しい政策が推進されることになりました。私たちも最初はこのネーミングに戸惑ったのですが、大臣の指示でいろいろな方のお話しを伺っているうちに「なるほど」と得心するようになりました。そして、地方が本当に元気になるためには、政治・行政上の分権改革だけでなく、経済・社会システムの分権改革にも取り組まなければならないということを理解しました。また、このことは従来からわが国でいわれてきた「内発的発展論」にもつながるものであり、また「自然との共生」や「森里海連環」とも共通する考え方を含んでいることにも気がつきました。
しかし、私は、この政策の内容を地方自治体や一般の方々にわかりやすく説明するためには、総務省が公式に作成・公表している資料や「緑の分権改革推進会議」における議論を紹介するだけでは不十分なことにずっと頭を悩ませてきました。新しい政策であり、その具体的内容が必ずしも前もって明確に示されているわけではなく、走りながら全体像を構築している面があること、予算も逐次計上されていき、その成果も徐々にしか現れてこないこと、概念自体が大きな広がりと可能性を持っており人によって理解の仕方も一様ではないこと、などの事情からやむを得ない面もありました。しかしながら、今後のわが国の行く末や地域社会のあり方を規定する大変素晴らしい政策であるだけに、何とかわかりやすくこの政策を説明する方法はないものかと考え、努力し続けてきました。この間、地域力創造をテーマにした講演などでは、自分なりの考えも含めて個人的な資料を作成してお話しをしてきましたが、そうすることによって聴衆の皆さんからはかなりの手応えを感じられるようになってきました。
平成22年7月には、2年間勤めた地域力創造審議官のポストを離れ、自治財政局長という極めて重い職をいただくことになり、地域力創造に関する講演活動も休日にしかできないことになりました。しかし、2年間にわたって地域の皆さんとともに取り組んできたこと、そして、その中から培ってきたものをこのまま眠らせてしまうのはもったいないと考え始めました。特に、「緑の分権改革」についてはまだ発展途上の政策であり、多くの方々に私の理解するこの改革の中身をお知らせし、地域の皆さんにもこれからの具体的な政策の中身を考えていただきたいとの思いが募りました。そしてそれが総務省の初代地域力創造審議官を拝命し、また、原口総務大臣から最初に「緑の分権改革」の推進を命じられた自分の果たすべき役割ではないかと考えるようにもなりました。
「緑の分権改革」だけをテーマにした単行本を刊行することについては、その政策の方向性が明確でないこともあって、逡巡する出版社もありましたが、京都の学芸出版社に相談したところ、私の思いを受けとめ、大変暖かいご示唆やご助言をいただき、何とかこのたびの出版にこぎつけることができました。このことは私にとっては望外の喜びです。
「緑の分権改革」は、真の地域再生のためには、政治・行政上の地方分権改革だけでなく、経済・社会システムの分権化こそ必要であるという大変すぐれた考え方であり、また、長年私たちが慣れ親しんできた補助金行政とは違う新しい改革手法を提起する政策です。このことについて、本書を通じて一人でも多くの読者の方々に深い理解とご賛同をいただければ幸いに存じます。
平成23年10月
総務省自治財政局長(前地域力創造審議官)
椎川忍
「緑の分権改革」は、その言葉の響きからまったく新しい発想や政策のように思われている面があるかもしれませんが、実は古くからわれわれ日本人が大切にしてきたものを思い出し、少し取り戻していこうという考え方が根底にあるように思います。明治維新以来、日本よりも西欧の文明がすぐれたもので、それに追いつき追い越せという考え方が強くなりすぎた面がなかったか、物質文明や市場原理が人間社会で一番素晴らしいものであるという考え方に偏しすぎた面はなかったか、お金がお金を生むという拝金主義がはびこりすぎていないか、など考えさせられる点が多々あります。
東日本大震災でも、人間が自然を完全にコントロールでき、自然は人間に従属して当然だ、原子力も人間が完全に制御することが可能で、そのことにより今まで以上にすばらしい文明生活ができる、という思い上がりが強くなりすぎていたのではないかと反省させられました。
現在の文明は遠からず終焉を迎え、その後に新しい文明が創造され、それによって人類の新たな発展の道が開けるという考え方が、世界中でかなり一般化しつつあります。それでは次の文明とはどんな文明なのか?
それを解き明かすカギを提供しているのが「緑の分権改革」だともいえそうです。
私は、当時の原口総務大臣からの指示で、多くの有識者の方々と「緑の分権改革」について議論し、その本質を解き明かす作業に最初に携わるきっかけを得ましたが、そのことは私自身の世界観や人生観を深めることにもつながり、大変幸せだったと考えています。その中で、たくさんの示唆を与えていただいた国際日本文化研究センター教授の安田喜憲先生、東京大学名誉教授の大森彌先生、月尾嘉男先生、明治大学教授の小田切徳美先生、早稲田大学教授の宮口廸先生、株式会社ベネッセホールディングスの福武總一郎会長、一般社団法人太陽経済の会の代表理事の山崎養世氏には、特にこの場を借りて深く感謝申し上げたいと思います。
また、総務省の「緑の分権改革推進室」の創設当初のメンバーであった黒田地域政策課長(現財政課長)さんのほか総務省地域力創造グループのメンバーの皆さんには、最新の資料の提供などについて多大なるご協力をいただきました。ここに改めて御礼を申し上げます。
さらに、このような新しいテーマについての出版を提案したところ、快くお引き受けいただくとともに、さまざまな観点から的確なアドバイスをいただいた学芸出版の前田裕資さんにも、心から御礼を申し上げます。
最後になりましたが、本書が、「あるものを生かす地域力創造」の参考書として、わが国の特色ある自然・風土・歴史、そしてそれらに培われてきた独特の伝統・文化を大切にした地域づくりと経済の再生に少しでもお役に立ち、サステナビリティーのあるわが国社会の構築に寄与できるとすれば、著者としてこれにまさる幸せはありません。
平成23年10月
椎川忍