地域がグローバルに生きるには
地方創生と大学教育

帯野久美子 著

内容紹介

グローバル人材に重要なのは英語力だけではなく、その育成は都市部の大規模・トップ大学ばかりが担うものでもない。国内外での豊富なビジネス経験を活かし、地方大学において東南アジアでの教育プログラムを開発・実践してきた著者が、地元の魅力を世界に発信できる人材を育むために、大学と地域が持つべき視点を提言する。

体 裁 四六・200頁・定価 本体1800円+税
ISBN 978-4-7615-2648-1
発行日 2017/07/15
装 丁 コシダアート 上原 聡


目次著者紹介はじめにおわりに
はじめに

1章|ビジネスから大学に

1|大学に来ないか?
2|次世代に伝えたかったこと
3|日本企業の失敗
4|大学は多様か?
5|悩める地方国立大学

2章|タイプログラムをつくる

1|「1人が変われば10人が変わる」学長の思い
2|タイに照準を合わせる
3|プログラムをつくる
4|送っただけでは教育にならない
5|大切なのは事前教育
6|自主的な学びの創造
7|1期生旅立つ
8|ひとまわり大きくなって帰ってきた学生たち

3章|学生はどこで成長したのか?

1|学生が農村で見たもの
2|何が学生を変えたのか?
3|行動を起こした学生たち
4|「若者は内向き」のうそ
5|インタビューを終えて

4章|ASEAN道場で学生を鍛える

1|ASEANへの思い
2|ASEAN道場を開く
3|ビジネス界の求めるグローバル教育
4|学生目線のプログラム

5章|和歌山大学版「グローバル教養教育」とは?

1|グローバル教育四つの柱
2|アイデンティティ力
3|ダイバーシティ力
4|コミュニケーション力
5|人間基礎力

6章|グローバルな世界を生き抜く英語力とは?

1|日本人はなぜ英語ができないのか?
2|英語学習に対する誤解
3|英語教育に対する誤った態度
4|英語を取り巻く環境の変化
5|どんな英語が必要なのか
6|何をすればよいのか
7|日本語教育にも通じる姿勢

7章|グローバル人材に求められる要件

1|国際化からグローバル化に 日本の30年
2|世界はどう変わったか?
3|日本はどう変わらなかったのか?
4|グローバル化と国際化の違い
5|グローバル人材に求められる力
6|社会みんなで育てるグローバル人材

8章|グローバル化と地方創生

1|なぜ和歌山でグローバル?
2|政策は若者を呼び戻せるか?
3|地方でクリエイティブに仕事する
4|東京よりもホーチミン
5|地方から世界を目指す
6|デスクトップで世界を駆ける
7|地方創生と大学の役割

9章|グローバルを生きる地域力

1|国境を越えた子どもたち
2|ローカルの境界を越えた学生
3|大学を支える地域の力
4|グローバル教育で起業家をつくる

おわりに

帯野久美子(おびの・くみこ)

株式会社インターアクト・ジャパン代表取締役。

1952年3月、大阪府に生まれる。1975年3月、追手門学院大学 文学部社会学科卒業。1981年4月~1982年3月、追手門学院大学 文学部社会学科 研究室在籍。1982年4月1日~1983年3月31日、甲南女子大学大学院文学研究科博士前期課程社会学専攻在籍。1982年3月、個人で翻訳活動を開始。1985年12月、株式会社 インターアクト・ジャパン設立、現在に至る。

2009年8月~2015年3月、国立大学法人和歌山大学理事・副学長。2010年4月~、文部科学省大学設置・学校法人審議会委員、2013年2月~、文部科学省中央教育審議会委員。2014年4月~、スーパーグローバル大学創成支援プログラム委員会委員。2014年5月~、大阪市教育委員会委員。2015年4月~、国立大学法人和歌山大学経営協議会委員。ホーチミン市師範大学客員教授(非常勤)。2016年4月~、国立大学法人東北大学経営協議会委員。2016年4月~、学校法人立命館高等学校SGH運営指導委員。2016年6月~、学校法人昭和女子大学グローバル人材育成推進事業外部評価委員。2017年4月~、学校法人追手門学院大学特別教授。

本書は、私が和歌山大学で副学長として取り組んできたグローバル教育の紹介を中心に、社会全体でどうグローバル人材を育てていくのか、なぜ地方にグローバル教育が必要かについて考えをまとめたものである。
ビジネス界で生きてきた人間が、突然、地方大学の副学長に指名された理由については、私自身今でも明確に分かっている訳ではない。確かなのは、私が就任した頃、和歌山大学には体系立ったグローバル教育が存在していなかったということ、それどころか日本全体でもまだ「グローバル教育」という概念すら共有されていなかったということだ。おかげで私は、何もかも白紙の状態から思う存分、自分が世界でビジネスに取り組む間に必要だと感じてきた力を育むプログラムをまとめあげることができた。

その後、グローバリゼーションに対する意識が高まり、グローバル教育を取り入れていない大学は今ではほとんどなくなった。それでも、そこで何を目指すのか、どう学ばせるのかの方策については、まだ十分に整理されていないように思える。もちろんその答えは一様ではないが、これからグローバル教育のカリキュラムを設計しようとする大学にとって、私たちの取り組みが何らかの参考になるのではないかと考えている。また何よりも、地方の小さな大学が「身の丈のグローバル教育」を築いてきた経験を、同じような全国の地方の大学に共有してほしいという願いを持っている。

最後に本書の構成について述べておく。1章では私が大学で働くことになった経緯を、そして2章から6章では、和歌山大学で取り組んだグローバル教育について紹介した。7章では、大学の視点から産業界に求めることについて書いている。今、地方の衰退を食い止めるためにさまざまな試みがなされているが、47都道府県、地方都市から中山間部まで、地方は多様で、一元的な政策だけでは問題は解決できない。それよりも、地方が自らの力でどう光り輝けるのか。自身の経験も織り込みながら、グローバルの観点からその可能性についての問題を提起した。そして8章と9章では、なぜ地方にグローバル教育が必要なのか、和歌山大学に勤務する6年間で探し続けてきた答えを綴った。

本書はあまりに多くの視点で書いているので、読まれる方によっては散漫に映るかもしれないが、それぞれのお立場でお読みいただき、グローバル教育を考える際の一助としていただければ幸いである。

2017年4月現在、タイプログラムの修了者は100名近くになった。インドネシア、ベトナム、ラオスプログラムの修了者の数は計り知れない。その中にはすでに世界で活躍している者もいる。日本で世界との接点となって働いている者もいる。地域のボーダーを越えていった学生も、世界の子どもに日本語を教えようと大学院に進学した者もいる。世界中に散らばっていても、彼らの心は常に仲間とつながっていて、地域と共にある。

「アジアのどこかに学生を送って苦労させてほしい。苦労させて人生を考えさせて欲しい」という学長の思いで始まったプログラムは、今、一つの答えを出した。「10人が変われば100人が変わる。100人が変われば大学全体が変えられる」という学長の夢も、実現したのではないかと私は思う。TOEFLやTOEICのスコア、外国人教員の比率などのように、その成果は数字では示せないが、大学のあちこちで小さな渦が生まれ始めていて、やがてそれは大きな渦となって地域を流れていくだろう。その渦の中心に大学のグローバル教育があり、地域がそれを支えている。

私は5年と7カ月の間に経験してきた、この地方の小さな大学の小さな取り組みを、全国の地方の大学や地方の方と共有したいと願って執筆を始めた。原稿を書き進める中で、改めて学生の声を聞いてみた時、その一生懸命な姿に私は強い感動を憶えた。和歌山県の人口は100万人を割り、その減少率は秋田県に次いで全国2番目と言われているが、彼らがいる限り、大学が彼らのような人材を輩出し続ける限り、地域は輝きを失うことはないだろう。「後は彼らに任せておけばよい」という安堵感を心の中に抱きながら、私は今、筆を措こうとしている。

最後に、本書の執筆にあたり、共に奮闘した時間を振り返り、協力を惜しまなかった和歌山大学教員の藤山氏と学生たちに感謝したい。何よりもいつまでも原稿を書き終えられない私を励まし続けてくださった学芸出版社の前田裕資社長と、辛抱強く校正にお付き合いくださった担当の松本優真さんに、そして学芸出版社を紹介して出版の夢を叶えてくださった京都府立大学の宗田好史先生に、心からのお礼を申し上げたい。

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