設計に活かす建築計画

内藤和彦・橋本雅好・日色真帆・藤田大輔 編

内容紹介

豊かな空間、機能的な建築をつくりだすためには、建築計画の知識が大いに役立つ。本書は、実際の計画・設計の流れなどについて紹介しながら、設計演習で活かせる知識を網羅したものである。基本的な各種計画をやさしく解説しながら、人間・設計・環境という3つの観点から、人間の行動や心理に適した計画へアプローチする。

体 裁 B5変・152頁・定価 本体2400円+税
ISBN 978-4-7615-2484-5
発行日 2010/04/30
装 丁 KOTO DESIGN Inc.

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目次著者紹介はじめに
はじめに
本書の使い方

第1章 建築計画を概観する

1・1 変化する社会と建築

デザインと環境問題/建築の目指す方向/環境と市民

1・2 専門家の姿

社会に対する説明責任/倫理と行動規範

1・3 建築計画の役割

建築計画とは/建築の計画プロセス/建築計画と建築計画学

1・4 建築計画の広がり

諸技術の細分化と総合/建築計画の特殊性

1・5 計画・設計のプロセス

建築の仕事の流れ/設計の始まり/考慮すべき目標/適切なバランス

1・6 設計体制と設計の進め方

さまざまな主体/協働の設計体制/設計チームと設計の進め方/協働体制の留意点/打合せの場の形成/設計における公共性

1・7 企画、計画

話を聞く/敷地の基本情報を調べる/敷地の現地調査/人間と環境に関する基礎的知識/専門的知識/事例に学ぶ/条件を整理し、コンセプトを導く

1・8 基本設計

配置、動線、平面・立面・断面の計画/典型的な設計の課題/構造/設備/外構・ランドスケープ/周辺環境/法規チェック、コスト・工程の把握/設計の手法

1・9 実施設計、工事監理

実施設計/コストの把握/確認申請とその他関係官公庁への届出/工事施工者の選定・工事契約/工事監理/竣工・引き渡し/維持管理、ファシリティマネジメント

第2章 各種建築を理解する

2・1 住宅

「住宅」とその設計方法/敷地と環境/外構・庭とアプローチ・駐車場/必要諸室とその必要最小限の寸法/住宅の間取りと外形/工業化・プレハブ化・住宅産業化と「かたち」/コストとデザイン/住宅の課題

2・2 集合住宅

集合住宅という設(しつら)い/欧米での集合住宅の計画史/日本の集合住宅の計画史/計画の条件(インプット)/計画の解(アウトプット)/維持管理・再生/集合住宅計画の要点/今後の集合住宅像

2・3 福祉施設

高齢者と福祉施設/特別養護老人ホーム/グループホーム/デイサービスセンター/小規模多機能ホーム/児童養護施設/福祉施設の今後

2・4 病院

療養環境の歴史/病院の構成/人・物・情報の流れの計画/成長と変化/病棟の計画/病棟とナースステーション/さまざまな病室/病院のこれから/クリニック時代

2・5 コミュニティ施設・公共サービス

「コミュニティ」の語意/わが国のコミュニティ施設/事前調査/生活圏の構成/コミュニティ活動の概要/立地条件等/必要諸室と機能図/外部空間・駐車場/バリアフリー、ユニバーサルデザインの配慮/法的配慮/補助金とメンテナンスへの配慮/その他の公共サービス施設

2・6 学校・乳幼児施設

学校(教室のオープン化/学校の運営方式/学校の閉鎖性/ブロックプラン・アプローチ/上下足の履き替え/学年のまとまり/教室・教室まわり/多目的スペース/特別教室/図書・メディアスペース/ランチルーム/体育館/管理諸室/屋外空間)/幼稚園・保育所・認定こども園(屋内外の連続性/保育室/遊戯室/便所・沐浴スペース/管理諸室/廊下・テラス/屋外空間)/今後の学校建築

2・7 図書館

記憶の倉庫/日本の図書館の変遷/地域計画と図書館ネットワーク/図書館の利用圏域と地域計画/施設計画と図書館の部門構成/開架閲覧室の計画/図書館家具の計画/多様な利用者への図書館サービス/電子図書館とオートメーション化/「場」としての図書館の役割

2・8 美術館・博物館

美術館と博物館の定義/既に社会へ開かれていた古代の博物館/美術館と博物館に必要な要件/近年の博物館の傾向/これからの美術館と博物館

2・9 劇場

劇場の概念、定義/劇場の場の意味/劇場の形式/専用ホールと多目的ホール/複合と可変/運営体制と施設規模/各部の計画

2・10 ホテル

ホテルとは/日本におけるホテルの沿革/ホテルの種別/ホテルの企画/ホテルの企画・基本設計手順/ホテルの設計における留意事項/ホテルのデザインテーマ/客室と客室階の設計/料飲・宴会部門の設計

2・11 オフィスビル

ビルディングタイプとしてのオフィス/全体の計画/基準階の計画/オフィスレイアウトの変化/オフィスからワークプレイスへ

2・12 外部空間

外部と内部/都市景観/アプローチ/迷路性/建ち方/庭・庭園/公園・広場/水景

コラム 単位空間

トイレ/カウンター/廊下/スロープ/階段/エントランス/エレベータ/駐車場

第3章 人間、設計、環境のキーワード

3・1 パーソナルスペース

3・2 空間認知

3・3 中間領域

3・4 居場所

3・5 アクティビティ

3・6 シークエンス

3・7 歩行群集

3・8 ユニバーサルデザイン

3・9 尺度

3・10 デジタルデザイン

3・11 ワークショップ

3・12 ファシリティマネジメント

3・13 転用再生

3・14 複合化

3・15 コンパクトシティ

3・16 コンテクスト

3・17 風土と歴史

3・18 環境

3・19 「建築」とメディアとの距離

索引
図版出典・参考文献
著者一覧

〈編著者〉

内藤和彦(ないとう・かずひこ) 中部大学工学部建築学科教授
橋本雅好(はしもと・まさよし) 椙山女学園大学生活科学部生活環境デザイン学科准教授
日色真帆(ひいろ・まほ) 愛知淑徳大学メディアプロデュース学部教授
藤田大輔(ふじた・だいすけ) 岐阜工業高等専門学校建築学科講師

〈著者〉

浅野未紗子(あさの・みさこ) 活字の浅野屋(編集者)
生田京子(いくた・きょうこ) 名城大学理工学部建築学科准教授
大月 淳(おおつき・あつし) 三重大学大学院工学研究科准教授
岡 来夢(おか・らいむ) 椙山女学園大学生活科学部生活環境デザイン学科助手
小川清一(おがわ・せいいち) 愛知産業大学造形学部デザイン学科教授
加藤悠介(かとう・ゆうすけ) 豊田工業高等専門学校建築学科助教
北川啓介(きたがわ・けいすけ) 名古屋工業大学大学院工学研究科准教授
佐野友紀(さの・とものり) 早稲田大学人間科学学術院准教授
清水裕二(しみず・ゆうじ) 愛知淑徳大学メディアプロデュース学部准教授
鈴木賢一(すずき・けんいち) 名古屋市立大学大学院芸術工学研究科教授
恒川和久(つねかわ・かずひさ) 名古屋大学大学院工学研究科講師
中井孝幸(なかい・たかゆき) 愛知工業大学工学部建築学科准教授
村上 心(むらかみ・しん) 椙山女学園大学生活科学部生活環境デザイン学科教授

(五十音順)

この本は、日本建築学会東海支部の設計計画委員会への参加をとおしてつながりのできた若手研究者が中心になって作った建築計画の教科書である。

「建築計画学」という分野は日本建築学会ではオーソライズされてはいるが、確とした英訳語は存在しない。従って外国にはない、日本固有の研究分野であるといってもよい。西洋建築の導入過程で生まれた、整理・集約して効率よく学ぶための研究分野であり、具体的な建築物の設計に必要不可欠なものとしてスタートしている。その後、独自の発展過程を経て「建築計画学」という確固たる学問分野に成長するが、それと同時に、本来の設計に役立たせることへのこだわりは薄れ、今日に至っている。

著者たちは、この「建築計画学」の研究者である。しかし、建築が好きで、この地球上にすばらしい建築が沢山できることを夢見る若い心を持ち続けている。ほぼ全員が建築設計の実務を手がけ、作品を世に出している。そして研究を研究者だけのものに留めず、設計に役立てて欲しいと思っている。

建築を目指す学生諸君に、まずこのことを伝えたいという情熱が、本書「設計に活かす建築計画」の生まれるきっかけとなった。従って、本書は建築を志す初学者、特に建築の設計・デザインに強い関心を持ち、将来、具体的な建築の設計に携わろうとしている方を読者として想定した教科書となっている。もちろん「建築計画学」の研究者になろうとしている方やすでに実務についている方も対象にしており、過去よりも、現在と未来を見据えた建築設計実務経験者ならではの視点と表現、研究者としてのそれも随所に盛り込み、これらの方々に対しても十分示唆に富んだ内容となるよう工夫している。加えて、第3章では最新の「建築計画学」の成果と情報をわかりやすく解説している。

多分に斬新な試みを含んでおり、意気込み先行のきらいはあるが精一杯の努力はしたつもりである。後は、読者諸君にすばらしい建築をつくって欲しいと思っている。そして、本書がそのお役に立てることを願っている。

なお、本書の企画は編者全員の合議の上決定したが、編集作業の主な役割分担は、全体:藤田、第1章:日色、第2章:内藤、第3章:本となっている。特に、藤田、本両氏には、多く尽力いただいたことを付記しておきたい。また、学芸出版社の知念靖広氏の適切なアドバイスと指導によって本書が上梓できたことに謝意を表したい。

2010年3月

内藤 和彦

本書の使い方

建築作品に関する言説では、コンセプトやデザインとそのプロセスへの関心が高く、建築計画の内容があまり評価されていないと感じられます。むしろ、建築計画の知見を「設計をつまらなくさせる」ものと捉え、あえて参考にしないスタンスも見られます。これは、これまでの建築計画について書かれた書籍が、学問として積み上げてきた知見を重視して、「どうすれば設計に活かすことができるか」についてあまり語っていなかったことも一因と思われます。本書はそのような問題意識を背景として、建築計画で学ぶべき広い範囲の中から設計課題に活かすことができる内容を厳選して盛り込みました。

第1章は建築計画を学ぶ上で知っておいて欲しい内容として、社会における建築計画の役割、専門家としての姿、実際の計画と設計の流れについて書かれています。第2章では住宅、学校、オフィスビルなどの基本的な各種建築の計画、様々な建築物に関わる外部空間の計画について簡潔に書かれています。第3章では建築計画を学ぶ上で必要なキーワードを厳選し解説しています。この他、コラムとして様々な建築物に適用できる単位空間の基本的事項について触れてあります。

本書のレイアウトは見開きで左側に文章、右側に図表や写真となっています。わかりやすい内容と文章表現に留意しつつ、建築計画の理解を助けるため、多くの図表・写真を掲載しています。また、巻末には、図版の出典や関連する書籍、索引を載せて、読者が自主的に学ぶことができるように配慮しました。

本書の内容を適宜取捨選択して授業を行う場合、次のような授業構成が考えられます。半期で15コマある授業においては、第1章:2コマ、第2章:8コマ、第3章:5コマ、通年の場合、半期の倍の時間を割り振ることで半期よりもより細やかに学ぶことができます。また本書のタイトルにもあるとおり、建築計画で学ぶ内容は設計に活かすことが必要です。教科書として使用する場合は、設計の課題とリンクさせ、教授すべき内容について本書を逆引きする方法もあります。各章の割合は、例えば第1章:4コマ、第2章:20コマ(設計の授業課題とリンクさせて選択)、第3章:6コマ(必要と思われるキーワードを取捨選択)などが考えられ、臨機応変に対応することができます。また、各章の内容は視点が異なりますので、それぞれの章だけで授業が成立することも考えました。第1章は建築計画の概要を扱う授業、第2章は設計の授業と連動させた講義科目や建築種別の内容を学ぶ授業、第3章は建築計画やデザインのキーワードを学ぶ授業などで使用することができます。

本書は建築を初めて学ぶ学生や興味がある方々に読んで欲しいと願っています。また、特に1章と3章の内容はインテリア系の学生にとっても有用な内容であると思います。たくさんの方々に本書を使用していただき、設計演習課題や建築計画で学ぶべき基本的事項について理解を深めていただければ幸いです。

2010年3月

藤田 大輔