創造性が都市を変える
内容紹介
グローバル経済に呑み込まれず、我が都市らしさを起点に、市民一人一人の創造性を高め、成長一辺倒とは異なる真の豊かさをいかに創ってゆくのか。ピーター・ホール、ジャン=ルイ・ボナン、福原義春、吉本光宏、篠田新潟市長、林横浜市長ら、世界の論客とリーダーが、芸術、産業、まちづくりの視点から創造都市を熱く語る。
体 裁 A5・256頁・定価 本体2000円+税
ISBN 978-4-7615-2482-1
発行日 2010/03/31
装 丁 NDCグラフィック 森上 暁
序章 運動論としての創造都市 鈴木伸治
1 創造都市論の多義性―理論としての創造都市
2 新たな都市のイノベーションに向けて―運動論としての創造都市
3 創造性と交流の重要性
第1章 創造性が都市を動かす ピーター・ホール
1 テクノポリス―日本と世界の苦い経験
2 どこで創造的なイノベーションが起こったか
3 創造都市とは何か
4 創造都市はつくれるのか
第2章 創造都市への戦略─文化・産業・都市空間への横断的アプローチ
01 アートを起点とした地域のイノベーションに向けて─創造界隈、そしてアートイニシアティブの意味するもの 吉本光宏
1 芸術文化からアートへ―拡張する役割とポテンシャル
2 アートNPOと創造界隈
3 日本の創造都市を牽引するアートNPO
4 創造界隈からアートイニシアティブへ
5 アートイニシアティブが引き出す市民の創造性
02 人と人のつながりを創造する─アートから教育を考える事業と政策 松尾子水樹
1 アートから教育を考える
2 行政と芸術文化団体・企業をつなぐ
03 シビックプライドと都市のアイデンティティ 白土謙二
1 なぜ今、シビックプライドなのか
2 都市の魅力とアイデンティティはどう作られるのか
3 都市のブランディングを成功に導くアプローチとは
04 地域の創造的産業の創生と行政の役割 橘田洋子
1 ベルリンにおける実践からのヒント
2 ポートランドのロハス生活とデザインマネジメント
3 デザインをトータルに活用した産業
4 心がわくわくする創造的産業の実現に向けて
05 コミュニティ再生と地域活性化の取り組み 岡部友彦
1 横浜でのアプローチ
2 海外における様々なアプローチ
3 創造性あふれる土壌をつくりだす
06 文化の空間戦略 鈴木伸治
1 創造都市論と都市計画
2 日本型都市計画は都市の多様性を実現するか
3 欧州都市再生における文化の空間戦略
4 国内創造都市における文化の空間戦略
5 文化の空間戦略に向けて
第3章 創造都市の最前線
01 新潟─都市の価値を磨き新たな文化創造を図る 篠田 昭
1 まちづくりへの取り組み
2 取り組みの真の狙い
02 金沢─独自の輝きを持つ伝統と革新の創造都市 森 源二
1 歴史に根ざす創造性
2 創造都市への取り組み
3 今後に向けた取り組み
03 台北─都市計画と文化政策の協奏による創造都市づくり 林 崇傑・楊 惠亘
1 台北市の概況
2 文化部門の政策と行動
3 都市計画部門の多様な試み
4 台北市の経験から
04 韓国の創造都市─まちづくりと一体の文化創造 呉旻根
1 韓国での創造都市をめぐる議論
2 韓国の自治体での創造都市の展開
3 課題とこれからの方向性
05 ベルリン─行政と企業の協働による創造産業の育成 ターニャ・ミュールハンス
1 創造産業への取り組みの背景と現状
2 人材育成への取り組み
3 これまでやってきたこと
4 互いが影響しあうガバナンスモデルへ
06 フランクフルト─創造産業で働く人々の活力あふれる実験都市 フォルカー・シュタイン
1 著しい発展を遂げる創造産業
2 創造産業が持つ具体的な意味
3 創造産業発展の理由
4 創造産業がもたらす人間の創造性
07 リヨン─創造産業をデザインする都市 ローラン・トロンタン
1 創造性豊かな活動
2 リヨンの創造産業
3 未来をつくる政策
4 クラスター間の連携の強化
5 市民参加とコミュニティづくり
08 ナント─文化政策による都市再生 ジャン=ルイ・ボナン
1 文化政策から文化経済政策へ
2 文化企業のための経済開発クラスター(ECCE)
3 基本的理念を大切にした事業
4 文化のための行動計画
5 人材養成と次世代への橋渡し
09 アムステルダム─都市圏連携による創造都市政策 ロバート・マライニセン
1 創造産業政策の概要
2 創造界隈を強化するアートスペース
3 文化・経済政策、大都市圏政策と創造産業政策の融合
10 リバプール─都市再生プロセスと欧州文化首都による活性化 鈴木伸治
1 繁栄と衰退、再生
2 再生の戦略
3 都市再生の推進体制
4 欧州文化首都への取り組みとその成果
11 ヘルシンキ─文化政策の多様な展開 鈴木伸治
1 創造都市への取り組み
2 フェスティバル・シティ・ヘルシンキ
3 官民協働による文化施設運営モデル
4 アート・センターと芸術教育プログラム
12 トロント─創造都市を担う多様なアクター 飯笹佐代子
1 金融都市から創造都市へ
2 創造都市政策の展開
3 行政と多様なアクターとの協力・連携
4 今後の課題
第4章 クリエイティブシティ横浜からの発信 林文子
1 創造都市の背景と基本的な考え方
2 クリエイティブシティ・ヨコハマの取り組み
3 創造都市の展開
4 今後に向けて
創造性が都市を変える
2009年9月、国内外から約70人のスピーカー、延べ約2000人の参加者を迎え、「横浜クリエイティブシティ国際会議2009」が横浜で開催された。「創造性が都市を変える―Creativity moves the City」はこの会議のテーマである。
英訳であるmovesが表現するように、都市を揺り動かし、人々に感動を与えながら都市を変えることのできる「創造性」を活かしたまちづくりについて、参加者は3日間にわたり、様々な取り組みとその課題を共有し、創造都市の次なる方向性と戦略を議論した。
本書は、この会議における議論を踏まえ、創造都市の成果と課題を会議参加者を中心に書き下ろし注、市民、企業、教育機関、研究機関、自治体等の多くの読者に伝えるとともに、各都市におけるさらなる議論と取り組みを訴えるためのものである。
なぜ、今、moveか
欧米を中心とする世界経済の悪化、環境問題、少子・高齢化問題等、都市を取り巻く社会環境は大きく変化している。
すでに1990年代にはバブル経済が崩壊し、失われた10年と呼ばれているが、社会の構造変化をみると、この時期は来たるべき大変革のための準備期間であり、表面化し始めた重要な屈曲点であった。つまり、量的拡大志向が質的な劣化、貧困化を招いた反省の時期であり、これは新たな質的志向への準備期であった。
世界の創造都市の取り組み
この時期に至る以前から欧州の都市では、創造性を活かしたまちづくりが進められてきた。ビルバオ、ボローニャ、ナント等多くの都市が先駆的取り組みを進め、さらにこの時期からは中国、韓国のようなアジア諸国でも、社会経済の活力を増し、ダイナミックに都市づくりを進めるとともに、創造都市を標榜した取り組みを進めている。
それぞれの手法は異なるが、歴史、文化、空間、資源等それぞれの都市の特長を活かしたまちづくりである。その前提は「人間の創造性が都市の未来を拓く」ことであり、その目標は、市民の創造性を高め、それにより、人間らしく生き、社会問題をも解決し、都市生活を豊かで魅力あるものとすることである。
横浜の取り組み
1970年代から都市デザインの取り組みを進めてきた横浜も、2000年代初頭には、都心部の歴史的建造物が大規模開発のなかで失われ、都心部の空き室率が上昇し、都市としての求心力が低下していた。この中で、横浜は都市として魅力を保ち、自立と持続的な成長を図り、旧来の成長と異なる新しい価値や魅力を高め活かすため、2004年から「クリエイティブシティ・ヨコハマ」の大テーマを掲げた。
これは、「港を囲む独自の歴史や文化」を活用し、文化芸術からまちづくり、産業振興につながるような創造都市の取り組みを、市民やNPO、地域と協働して進めるものである。
本書の概要
本書では、第1章で「横浜クリエイティブシティ国際会議2009」の基調講演者ピーター・ホール氏が、基調講演「創造性が都市を変える」をさらに掘り下げた都市論を展開する。
また、第2章では、横浜が取り組んできた文化芸術、まちづくり、産業を切り口に、文化政策、教育、シビックプライド、産業振興、コミュニティ再生、都市計画など多様な視点から、都市を動かして行く「創造性」の可能性について論述する。
第3章では、様々な都市と主体の多様な経験と課題を紹介したうえで、最終章で横浜市のこれまでとこれからの創造都市の取り組みについて横浜市長が語る。
第2章と第3章の執筆者は、「横浜クリエイティブシティ国際会議2009」参加者を中心とする国内外の創造都市の様々な担い手である。
それぞれ、都市の規模、都市の歴史、都市の環境はもちろんのこと、都市の担い手も異なる。多様な取り組みを知ると同時に、自分たちで課題を捉え自分たちのやり方で取り組むべきこと、アーティスト、市民、NPO、教育関係者、研究機関、行政関係者等、それぞれが役割を担うべきことが読み取れるはずである。
各都市に応じた取り組み、進化する取り組み
創造都市の概念が広く紹介されて以来、都市はそれぞれの地域性に即してこれを適用し、さらに時代に合わせて変化させ、進化させてきている。国内外の都市が進めてきた様々な取り組みと課題を共有化するとともに、読者一人ひとりが今後の取り組み提案を行うことにより、都市の個性に応じた新たな自分の都市流、日本の都市流の創造都市づくりにつなげていただきたい。
人間の力、都市の力、そしてこれらを育む広い意味での文化の力と「創造性」に大きな期待をするとともに、本書がmoveのきっかけとなることを疑わない。
福原 義春
創造都市横浜推進協議会会長
横浜クリエイティブシティ国際会議2009実行委員会委員長
株式会社資生堂名誉会長