都市の自由空間

鳴海邦碩 著

内容紹介

つい数十年前まで、道と空地は出会いの場であった。そこは自然と出会い、人と出会い、仕事や情報と出会う場であり、都市らしさを支えていた。それが今、単なる車の交通の場になっている。古代から現代まで、工学から歴史学、人類学を縦横無尽に駆使し、都市再生の原点となる道と道的な空地=自由空間の意味と歴史を描き出す

平成21年度不動産協会賞受賞

体 裁 四六・240頁・定価 本体2000円+税
ISBN 978-4-7615-2471-5
発行日 2009/10/15
装 丁 上野 かおる


目次著者紹介はじめにおわりに関連資料
はじめに

第1章 一筋の道の延長上にはさまざまな道的空間が連なっている

1 道の形態のいろいろ

一筋の道
ニュータウンの道
庇のある道
私道
地下街
複合商業ビルのなかの通路
法律と道

2 道を利用するさまざまな形態

自動販売機
アンデスの街路市
京都の街路市
移動商
カフェテラス
利用規制
モール(遊歩道)

第2章 古来、道は空地であった

1 江戸の街路

平安京の街路
占拠される都大路
近世諸都市の街路
江戸の街路

2 江戸の街路規制

牛馬や車輌の通行
振り売りや露店商
道にはみ出す商品
小建築物による占用
家々の庇
道路の占用許可
火災時の街路
街路の整備
外国使節の来朝

3 空地としての街路の性格

町と街路
街路管理の主体
町の庭としての街路
江戸の街路と現代都市の街路

第3章 空地は集住のための装置である

1 原初的集落の空間構成

縄文集落
集落をシンボライズする空地
円形空地の意味と役割
住居に付属する空地

2 都市──連鎖する集落

バリ島の二つの集落
通行のための専用空間
中世都市の街区
空地性をもつ街路

第4章 都市に人びとが参集する空間が確立した

1 人びとをひきつける空地

祭祀の空間の発生
交易の空間
社交の空間
娯楽空間の成立

2 近世大都市の娯楽空間

遊山の空間
社寺境内
社寺境内の娯楽空間化の背景
空地の娯楽利用
河原
葭簀張り盛り場の消滅
京都・新京極
東京・浅草

3 娯楽空間の特性

集住とコミュニケーション
空地性と無主性
空地の利用と管理
空地のもたらす界隈性

4 ヨーロッパ都市の広場

アゴラとフォルム
広場の展開
日本の広場

第5章 現代都市における自由空間

1 自由空間とは

変貌する都市空間
新しい空間概念の必要性
自由空間の概念
自由空間の二つのルーツ

2 近隣型自由空間

街区の高密化
住宅に付属する空地
マンションの入口や通路をもっと豊かにできないか
公園の中の塔
戸外や共用の空間にも関心を向けよう
高層住宅の自由空間
自動車の増加と子供の遊び場
街路の重要性

3 繁華地区型自由空間

日本の盛り場の特徴
商店街と商店の新陳代謝
複合商業ビル
疑似街路の管理
複合商業ビルの空間変化のフレキシビリティ
地下街の空間的特質
ショッピングセンター

4 公園と水辺

小公園整備の限界
公園の新しいニーズ
人々が集う公園を目指す
京都・鴨川の床と大阪の蛎舟

第6章 自由空間づくりの物語

1 都心における自由空間づくり

旭川買物公園
星が丘テラス
新天町商店街
リバーカフェと水上テラス
OCATモールとポンテ広場
屋台村:ホーカーズ・ビレッジ
北国の屋台村

2 アーケード:街路をとり込んだ商業空間の可能性

近代日本のアーケード街
日本の近代アーケードのモデル
パリのパッサージュ
台湾のアーケード
心斎橋筋商店街
アーケード街の展開

注釈
おわりに

鳴海 邦碩(なるみ くにひろ)

1944年青森県生まれ。大阪大学名誉教授。京都大学大学院修士課程修了。兵庫県技師、京都大学助手、大阪大学講師、助教授、教授を経る。工学博士。都市計画、都市環境デザインが専門。日本都市計画学会元会長。阪神・淡路大震災からの復興について10年間にわたって定点調査を行ない、復興まちづくりを検証した。インドネシアをはじめアジア諸国の都市環境調査も行ってきた。サントリー学芸賞、故奥井復太郎日本都市学会会長記念都市研究奨励賞等を受賞。

主な著書:『アーバン・クライマクス-現象としての生活空間学』(筑摩書房)、『景観からのまちづくり』(学芸出版社、共著)、『都市デザインの手法・改訂版』(学芸出版社、共著)、『都市・集まって住む形』(朝日新聞社、共著)、『都市のリ・デザイン』(学芸出版社、編著)、『都市の魅力アップ』(学芸出版社、編著)。

都市空間は、基本的に「イエ的な空間」と「ミチ的な空間」に分けられる。「イエ的な空間」というのは、住宅や店舗そしてオフィスビルなどの建物の空間のことである。これに対して、「ミチ的な空間」というのは、多くの人々が通行や遊びに利用する、道路や広場の空間のことである。都市空間の立体化にともなって、地下街のような建築化された「ミチ的空間」も生まれてきた。そうした空間も含んで、わたくしは「ミチ的空間」を「自由空間」と呼んでいる。

「自由空間」は、単に交通のみの場ではなく、そこは自然と出会い、人と出会い、さまざまな仕事や情報と出会う場であり、それが都市らしさを支えている。別の言い方をすれば、「自由空間」こそが、都市の魅力を表現しているのであり、また、都市の魅力を感じることができるのは、「自由空間」を通じてなのである。

都市空間は、社会の仕組みやわたしたちの生活が反映したものであり、その意味できわめて文化的なものである。同じように、「自由空間」もまた、その存在様態は社会的であり文化的である。それゆえに、魅力的な自由空間をつくりだすためには、単に空間を設計するという姿勢だけでは不十分であり、社会的文化的な現象として組み立てる観点が重要である。本書はそのような方向を目指した、わたくしなりの試みであり、そのため歴史学や人類学などの分野における研究成果も、本書の考察のなかにとり込んでいる。

まちづくりの新しい局面の開拓に少しでも役立つことを祈念して、本書を上梓する次第である。

祭りが行なわれたり、市が開かれたり、人びとの雑踏する街路や広場の光景は、わたくしが建築や都市に関する学習や研究を始めて以来、一貫して興味の対象であった。そのような空間がわたくしには最も都市的にみえたのである。大学の卒業論文のテーマは「ちびっこ広場」、共同で行なった卒業設計は「河原町みちにわ計画」、修士論文は「移動商業施設」、そして博士論文のテーマが「都市の自由空間」であった。
博士論文(工学)『都市における自由空間の研究』の内容を基礎として、一九八二年に、『都市の自由空間:道の生活史から』を中公新書として出版した。以来四半世紀が経ち、その後の研究や計画、まちづくりの実践の蓄積をふまえて、大幅に加筆修正したものが本書である。前書を改めて読んだわけだが、内容は色褪せてはおらず、よりその重要性が認識されているという思いをもった。そこで新しいバージョンの出版に取り組むことになったわけである。

前書もそうであったが、本書も、かつての研究室の学生やまちづくりの仲間と一緒に取り組んだ、調査やプロジェクトの成果を素材にしている部分が多い。一つ一つ記すことはしないが、感謝の意を表したい。
本書の出版にあたって、学芸出版社の前田裕資さん、小丸和恵さんにいろいろとお世話になった。末尾をかりてお礼申し上げます。

二〇〇九年九月   鳴海邦碩

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