まち歩きガイド東京+

TEKU・TEKU 編

内容紹介

まちづくり専門家の案内で、街の魅力を体感

ラビリンスの街、歴史的な町並み、界隈性のある街、計画された街など東京近郊の16の街を、まち歩きの達人が独自の視点でおすすめルートに沿って見どころを紹介する。さらに、街を魅力的にするものは何か、どうすれば魅力的な街になるかを考察する。まち歩きを楽しみ、まちづくりを考えるための、一歩踏み込んだガイド本。

体 裁 A5・256頁・定価 本体2500円+税
ISBN 978-4-7615-2449-4
発行日 2008/11/30
装 丁 KOTO DESIGN Inc.


目次著者紹介まえがきあとがき書評

はじめに 街を歩くと街の魅力が見えてくる

序章 まち歩き入門

1 なぜ、まち歩きなのか
2 どのように街を歩き、魅力を見つけるか
3 街の魅力を発見するための手がかり

第Ⅰ部 魅力的な街を歩いてみよう

ラビリンスの街

下北沢 サブカルチャーを育む迷宮の街

Column 演劇・サブカルチャー文化を育む土壌

Column 下北沢の都市計画道路と駅前広場

代官山 ヒルサイドテラスがもたらす街の品格

Column 代官山インスタレーション展の試み

Column 代官山地域における重層的まちづくり活動

表参道 表通りと裏路地の織り成す多様性

Column 住民によるまちの活動

Column 表参道の移り変わり

Column 都市計画規制の役割

吉祥寺 多世代のための多彩な機能が重層する街

Column 吉祥寺らしさを創る風景

Column 吉祥寺を支える交通インフラ

歴史的な街並み

川越 新旧の時代が共存し、躍動する街

Column まちなか最後の映画館「川越スカラ座」の復活

Column 『小江戸ものがたり』編集長が伝えたい川越のまち

谷中・根津・千駄木 路地と職人長屋と商店街の情緒ある街

Column 谷中の街並みを守る活動

Column アートリンクと谷中芸工展

Column 谷根千工房と地域雑誌

神楽坂 路地と坂道が人々を癒す街

Column 神楽坂のまちづくり

横浜関内 近代建築とアートが彩る街角再生

Column 旧第一銀行横浜支店の曳屋と復元

界隈性のある街

田端・西ヶ原・王子 歴史と自然がさりげなく生きる街

Column 田端文士村の盛衰

Column 地形と歴史が育む現在の街の姿

Column 東京都電とLRT

Column 音無川渓谷誕生の謎

三ノ輪・三河島 都市の拡張を支えた街

Column 自転車への思いのある街

Column コリアンタウン三河島の魅力

白金・白金台 町工場から高級住宅地までモザイク状の街

Column 住工混在地区の町工場を再生した再開発

三軒茶屋 暮らしやすく懐かしい生活派のメッカ

Column 三軒茶屋はお買物天国
Column 密集市街地のまちづくり─世田谷ティーズヒルの試み

計画された街

月島 路地と超高層住宅による新たな景観

Column 中央区のまちづくり
Column 東京臨海部の今後の動向

国立学園都市 緑あふれる郊外住宅地の夢

Column 壮大な学園都市開発
Column 一橋大学のキャンパス
Column 活発な市民活動と高い文化水準
Column 美しい街の景観論争

幕張ベイタウン 住宅で都市を創る実験的ニュータウン

Column デザインガイドラインと計画デザイン会議
Column ベイタウンの住民活動
Column 夜のベイタウン

丸の内 変貌する日本のビジネスセンター

Column 赤レンガ駅舎の保存と容積移転
Column 地域のまちづくり活動

第Ⅱ部 街の魅力とは

1章 街の魅力はどこからくるのか

1 街の魅力を構成する要素
2 各々の要素の分析
3 魅力的な街とは

Column 街のデザインの難しさ

2章 街を魅力的にするための計画論

1 街の魅力づくりのための新たな視点
2 街は自分たちの力で変えられる──まちづくりの担い手を目指して
3 日々の暮らしの中で人は街を愛する──街と人との良き関係

3章 まち歩きからまちづくりへ

1 まち歩きにもいろいろある──まち歩きの4つのスタイル
2 まち歩きを企画する──どういう手順で進めるか
3 街を歩いて評価する──何がなぜ魅力的なのか
4 まち歩きから始めるまちづくり

TEKU・TEKU

「まち歩きを楽しみながら、まちづくりを考える」をモットーに、東京・関西をはじめ全国各地の街を訪ね、歩き、語りあう、まち歩き活動体であり、1990年の開始以来、ほぼ月一回のペースで活動し、2008年までの18年間で、200以上の街を歩く。
参加メンバーは、官公庁・民間企業等の都市計画や建築の専門家が中心であるが、一般人もかなり多く、老若男女、子ども連れも含み多彩。
歩いた街を参加者が評価し、それを集計・分析することにより、実感にもとづき、どのような街が魅力的なのかを探ってきたが、現在では、まちづくりへの回路を求めて、より実践的な活動を展開すべく、各地のまちづくりの現場を訪ねて交流する活動、本や雑誌を通じて成果を世に出す活動、若手専門家のための基礎講座を兼ねた活動、などに取り組んでいる。
本書の執筆に当たっては下記の11名のメンバーで協力・分担したが、現地調査や写真撮影、コラム執筆などには、さらに多くのメンバーや協力者が参加している。

〈執筆メンバー〉

井手幸人(*)、大竹亮(*)、栗原徹(*)、石橋理奈、岡井有佳、鎌原史英、原久子、藤井正男、水谷晴子、谷貝等、脇野真澄  (*:企画メンバー)

〈主な著作〉

  • 『魅力発見 東京まち歩きノート』
    • TEKU・TEKU編著、A5判168頁、彰国社刊(1997年7月)
    • 東京中心に30の街を選び、TEKU・TEKUで歩いた評価結果をもとに紹介
  • 『まちの細部へ』
    • TEKU・TEKU著、彰国社・季刊ディテール連載(2001~2002年)
    • 10年目の総括評価で選んだ最も魅力的な10の街を題材に、街の魅力を分析し解説
  • 『歩いて発見!まちの魅力-まちづくり活動のためのまち歩きノウハウ集』
    • TEKU・TEKU編集協力、A4判32頁、日本建築センター発行(2002年3月)
    • 住民主体のまちづくり活動の方法として、TEKU・TEKUのまち歩きノウハウを提供

都市の再生が進み、話題性のある新しい街が次々に出現して大勢の人々が出かけている。また、対照的に昔ながらの風情がある下町や路地、界隈などを歩く人が増えている。人々は、なぜ街に出て歩いているのだろうか。それは、単に用件を済ませるためだけでなく、それ以上の魅力を求めているからであろう。

街に関するガイドブックや専門書はたくさんあるが、街の魅力を見つけるための方法は意外に知られていない。何が街の魅力を創っているのかについても、同様である。そこで、まち歩きを楽しみながら、街の魅力について考えてみることにしたい。

(1) まち歩きのすすめ

街は歩いてみないとわからない

街にはいろいろな要素が関係し合っており、空間だけでなくそこでなされる活動や発信される情報も大切である。また、街は完成することなく、つねに変化している。したがって、机上で文章や数字や図面だけ見ていても、街の魅力はわからない。街を実際に歩き、五感で街を感じることで、本当の街の魅力が見えてくる。さらに、専門的知識を交えて歩いたり、街の人と交流したりすることで、もっと奥の深い魅力に出会うこともできる。多くの人たちが長い間かけて創ってきた街こそ、味わい深いのである。街を歩いて、街の魅力を見つけてみよう。

街の魅力は、機能だけではない

今までの街の評価は、主に土地利用や交通、防災、居住などの機能に着目し、まちづくりの手法も、機能面の改善を主眼としてきた。しかし、魅力的な街としては機能だけでは不十分で、空間のアメニティや高質なデザイン、長い間に培われた地形や歴史の文脈、人々が集い賑わうアクティビティ、かけがえのない地域独自の個性、異なる要素が共存する多様性、つねに時代の風に敏感な変化、などが求められるであろう。人々が魅力を感じる街を創り出し、都市生活を楽しむことにより、持続的な都市再生が実現できるのである。

自分たちの街を知り、将来像を描く

従来からの主に機能を改善する都市整備と比べ、これからの魅力を向上させるまちづくりのためには、全国一律でなく地域独自の視点で、ハードのみでなくソフトも含め、多様な可能性の中から一つの解を選び取らねばならない。住民をはじめ街に関わる人々が、自分たちの街を知り、その将来像を描いて共有し、広く合意形成し、その実現に向けて協力・連帯することが不可欠である。それによってこそ、明確な個性を持った街を、自分たちで誇りを持って守り育てる「まちづくりの担い手」が形成されるであろう。

まち歩きから始めるまちづくり

まち歩きは、誰でもすぐにできる。マップ片手に気ままにまち歩きを楽しむだけでも、意外な発見があって面白い。専門家と一緒に歩くならば、街の成り立ちや変化する仕組みなど専門的知識を交えて学ぶことで、都市の読み解き方を体得することができる。一方で、街の主役はそこに住む人であり、地域の人たちが一緒に街を歩くことにより、自分の街を知り、考える意識が芽生えるだろう。さらには、街の魅力や課題を参加者で議論してまとめるワークショップなどを開催すれば、まち歩きの成果をまちづくりにつなげていくこともできる。ぜひとも街を歩き、街を見る眼を磨き、街の人たちと交流しよう。

(2) 本書の成り立ち

TEKU・TEKUの活動について

まち歩き活動体TEKU・TEKU(てくてく)では、「まち歩きを楽しみながら、まちづくりを考える」をモットーに、東京・関西をはじめ全国各地の街を訪ね、歩き、語りあう活動を続けている。歩いた街を参加者が必ず評価し、それを集計・分析することにより、実感にもとづき、どのような街が魅力的なのかを探ってきた。参加者は、専門家と一般人、老若男女、子ども連れも含み多彩である。1990年以来、ほぼ月1回のペースで活動し、2006年までの16年間で、約200の街を歩いて評価した。

すると、まち歩きの回を重ね、評価結果が積み上がるにつれ、街の魅力が従来の定説では割り切れず、奥深いことに気がついてきた。1999年には、それまで歩いた100の街を対象に総括的評価を試み、独自の視点から街の魅力を分析した。2000年以降は、まちづくりへの回路を求めて、街の魅力を分析する「てくてく自由研究」、各地の活動を支援する「まちづくり企画」、地元住民による「私たちの街を歩こう!」を3本柱にしたが、2006年からは、より実践的に、各地のまちづくりの現場を訪ねて交流する活動、まち歩きガイドなどの形で成果を世に出す活動、若手専門家のための基礎講座を兼ねた活動などに取り組んでいる。

本書の構成について

本書は、こうしたTEKU・TEKUのまち歩き活動から得られた知見をもとに、メンバー有志で執筆したものであり、東京のまち歩きガイドブックであるとともに、都市の魅力を再考するためのハンドブックをも目指している。

序章では、「まち歩き入門」として、街の魅力を見つけるためには、どのように街を歩き、何を見たらよいのか、どのような街を歩くといいのかを紹介する。その際、「ラビリンスの街」「歴史的な街並み」「界隈性のある街」「計画された街」の4類型をキイワードとしている。

続く第Ⅰ部「魅力的な街を歩いてみよう」では、東京都内近郊から、特に魅力的と考える街を上記の4類型から4つずつ、計16地区を採り上げて案内する。冒頭で街全体の地図にルートとポイントを示し、実際に街を歩くときのように、地図に示したルートに沿って建物や場所をめぐり、写真とコメントで説明している。また、街を理解する上で役立つと思われるトピックについては、コラムで紹介する。そして、歩き終わって街の魅力を振り返り、まとめている。

第Ⅱ部「街の魅力とは」では、実際に街を歩いた成果を踏まえ、魅力の要因と魅力づくりの方法を堀り下げる。まず第1章では「街の魅力はどこからくるのか」に着目し、第Ⅰ部で16の街を歩いてわかったことをもとに、街の魅力を構成する要素を取り出して整理し、分析する。すなわち、機能、形態、構造、環境、個性、多様性、変化といった要素が、どのように街の魅力につながっているのかを体系的に明らかにする。そして、魅力づくりの方法を探る。これを受けて第2章では、「街を魅力的にするための計画論」に展開し、従来とは異なる新たな視点が必要であるとして、「変化することを前提に」「計画だけでは限界」「多様性と奥行きを目指す」という観点から検討する。さらには、街の魅力づくりにとって、「人」の役割が非常に重要であることに着眼する。

このように見てくると、まちづくりに当たり、街の人たちが自分たちの街の魅力を発見するために、まち歩き活動が有効であることが示唆される。そこで第3章は「まち歩きからまちづくりへ」と題して、新たなまちづくりの担い手への期待を込めて、今後の方向を提言したい。

(3) 街の人たちへの感謝をこめて

本書を手にとって読んでいただけたならば、ぜひとも実際に街を歩いて魅力を体験していただきたい。本書の地図に沿って歩けば、主要なポイントを回ることができ、その街の魅力のエッセンスを味わうことができるだろう。また、仲間を集めて街を歩き、評価してみれば、自分一人では気がつかなかった街の魅力を見つけることもできるだろう。

なお、街を歩く際には、交通安全に十分注意するとともに、街の人たちの暮らしへの配慮も忘れないでほしい。街の魅力は、その街で働いたり住んだりしている地元の人たちが、今日まで愛着を持って育ててきた賜物である。街を歩く際には、迷惑にならないように心がけるだけでなく、地元の人たちに感謝し、「歩かせていただく」という謙虚な気持ちで臨みたいものである。

では、これから一緒に、街の魅力探しを始めよう。

本書は、私たちTEKU・TEKUが1990年から続けているまち歩きについてまとめたものであり、主に執筆したのはTEKU・TEKU参加メンバーのうちの11人だが、十数年にわたってまち歩きをしてきた多数の参加者、私たちを迎えてくれた多くの街とそこの人たちも含めた、TEKU・TEKUというまち歩き活動の成果である。

TEKU・TEKUにおける最大の発見はラビリンスの街である。ラビリンスの街は計画的に開発されたわけではなく、計画論から見ると模範的とは言えないにもかかわらず非常に魅力的である。むしろ、計画的でないが故に魅力的だといってもいい。なぜラビリンスの街が、計画的な街より魅力的なのか。そこに街の魅力の秘密がある。

まちづくりに関する計画論は、機能に関するものが大部分だが、街は機能だけで成り立っているのではない。街は極めて多様な要素の複雑な集合であり、その魅力は単純に説明できないものである。そういう意味では、街の魅力の視点を計画論に的確に反映させることは難しく、魅力的な街をつくるためには、計画論だけでは限界があることを認識すべきなのである。

それでは、魅力的な街をつくるにはどうしたらいいのか。計画論だけに頼らず、まちづくりの関係者が、街の魅力に対する認識を具体的なイメージとして共有し、街を魅力的にするにはどうすればいいのかを考え、行動することが必要なのである。まちづくりは、机上の計画や会議室での議論でできるものではない。自分たちの街を知り、魅力的な街を見ることで、関係者が街の魅力を理解し、共有することが、まちづくりの第一歩である。そして、そのためのツールとしての「まち歩き」を、本書を参考にして実践していただければ幸いである。

なお、実際に街を歩くにあたっては、本書のマップだけでは情報量が不十分なので、市販の地図の併用をお勧めするが、時には路地を彷徨って貴方だけのまち歩きを楽しむのもいいかもしれない。

本書をまとめるにあたって、学芸出版社の前田裕資氏には、企画段階から適切に指導していただき、さらに本書で取り上げた街を実際に歩いてアドバイスをいただくなど、大変お世話になった。この場を借りて感謝の意を表したい。

2008年11月
TEKU・TEKU

読む前には、表題の「まち歩きガイド東京+」から、雑誌などによくあるまち歩きガイドかと思ってしまうが、曲者は表題についている「+」にある。

よくある、まち歩きガイドがきわめて表層的にまちを見ているのに対して、本書は「まち歩きから始めるまちづくり」なのである。まちを多角的に観察し、現代のまちづくりとも切り結び、まちの魅力を見つけだすこと、まちの全体像をつかむコツ、さらにはまちの魅力の事例集をつくることにつなげる方法が、本書を読むうちに自然に身につくように構成されている。

また本書の取り上げている地区は、一般雑誌などのまち歩きガイドでも取り上げている地区が多いが、その観察の深さ、多様さ、さらに歩きまわる範囲の広さにおいて全く別物になっていることがわかる。本書を読むと、本書が取り上げている地区の選択がきわめて入念に考えられていることにも気がつく。「ラビリンスの街」、「歴史的な街並み」、「界隈性のある街」、「計画された街」に類型化して選択されているのである。とくに、このような本が「計画的された街」をまち歩きの地区として積極的に取り上げていることに興味を引かれた。

本書の特徴の一番大きなところは「まち歩き」と「まちづくり」を一体化させていることである。特に、本書の地区ごとにColumnが設けられ、その中にそれぞれの地区でまちづくりにかかわり、それぞれの地区が持っている特性をながく維持する活動を展開している人々、組織が紹介されていることが興味深い。

本書の執筆者はまちづくりに長くかかわってきた、しかも現在もまちづくりに様々な立場でかかわっている方々であり、第Ⅱ部で展開している「街の魅力とは」は極めて説得力のあるものになっている。
本書が専門家、学生に読まれることはもとより、まちづくりに興味を持つ一般の方々に読まれて、これからのまちづくりを担う人々が一人でも多くなることを期待したい。

(武蔵工業大学都市生活学部教授、横浜国立大学大学院特任教授/小林重敬)

担当編集者より

まち歩きって面白い。特に地元の人や専門家に案内してもらうと、普通の観光の数倍面白い。阪神大震災前後の頃から、まちづくり関係の団体のイベントや旅行で体験し、すっかり好きになってしまった。

どの街もそれぞれに面白いが、なんといっても東京や京都は別格だ。地元なら地図も持たずに当てもなく回るのも良いのだが、やはり大東京となるとガイドブックが欲しい。誰か書いてくれないものかと思っていたときに、TEKU-TEKUに出会った。

地元の人や専門家に案内してもらうまち歩きを、一人でも楽しめる。そんな本を目指してつくりました。楽しんでください。

(Ma)