エリアマネジメント


小林重敬 編著

内容紹介

開発から管理運営を志向する真の地域再生へ

大都市都心部や地方都市の中心市街地で、民間によって構成された地域の組織が主体となり、開発だけでなく、開発後も管理運営を推し進め、地域を再生する取組みが行われている。汐留、六本木、丸の内から松江、高松、七尾まで、様々な規模と形態で展開する事例から、地域力を導く組織づくりと地域価値を高める活動を解説。

体 裁 A5・256頁・定価 本体2800円+税
ISBN 978-4-7615-2360-2
発行日 2005-04-10
装 丁 上野 かおる


目次著者紹介はじめに

はじめに 小林重敬

CHAPTER 1 エリアマネジメントとは 小林重敬

1 大都市都心部における大規模プロジェクトなどを核としたエリアマネジメント
2 地方都市中心市街地の活性化とエリアマネジメント
3 エリアマネジメントに関する四つのまとめ

CHAPTER 2 諸外国のエリアマネジメント 村木美貴

1 人の集まる欧米の中心市街地
2 北米のエリアマネジメント
3 イギリスのエリアマネジメント
4 ドイツのエリアマネジメント
5 諸外国のエリアマネジメントの特徴

CHAPTER 3 大都市都心部における大規模プロジェクトを核としたエリアマネジメント 内海麻利

1 大規模プロジェクトを核としたエリアマネジメントの特徴
2 地区特性別に見た推進組織
3 エリアマネジメントの活動内容
4 エリアマネジメントの活動財源
5 エリアマネジメントの課題と展望

CHAPTER4 大都市都心部における大規模プロジェクトを核としたエリアマネジメントの実態

01 汐留地区 李 三洙

1 地区の概要
2 都市づくり
3 エリアマネジメント関連組織
4 現段階のエリアマネジメントの活動内容
5 各主体(組織)間の協力体系
6 エリアマネジメントの特徴と今後の課題

02 横浜みなとみらい21地区 李 三洙

1 みなとみらい21事業の概要
2 関連政策および開発計画
3 エリアマネジメントの活動内容と関連組織
4 エリアマネジメント関連組織の概要および活動の展開
5 エリアマネジメント関連組織の連携および活動財源
6 エリアマネジメントの特徴および課題

03 晴海地区 石川宏之

1 地区の概要
2 段階的な開発による都市づくり
3 行政や周辺地区等の関係主体について
4 段階的な都市づくりに関する課題

04 大手町・丸の内・有楽町地区 李 三洙

1 地区の成り立ち
2 関連政策
3 エリアマネジメント活動の展開
4 エリアマネジメントの活動内容の展開
5 関連主体と組織間の関係、役割分担
6 エリアマネジメントの特徴と課題

05 その他の事例 李 三洙/石川宏之/内海麻利

1 大阪ビジネスパーク(OBP)地区
2 天王洲アイル
3 六本木ヒルズ
4 東五反田地区
5 大街区地区

CHAPTER 5 都市中心部既成市街地におけるエリアマネジメント 村木美貴

1 中心市街地は元気か?
2 地方中心市街地の状況
3 基本計画に見る中心市街地の活性化とTMO
4 エリアマネジメントの課題と問題点

CHAPTER 6 都市中心部既成市街地におけるエリアマネジメントの事例

01 ㈲PMO(Passage Management Office)/公共空間の私的利用 林 弘二

1 組織設立に至る経緯・沿革
2 事業内容
3 運営体制
4 課題と可能性

02 ㈱福島まちづくりセンター/生活サービス向上の取り組み 林 弘二

1 組織設立に至る経緯・沿革
2 事業内容
3 運営体制
4 課題と可能性

03 ㈱まちづくり三鷹/SOHOおよび新規事業育成による活性化 神川裕貴

1 組織設立に至る経緯・沿革
2 事業内容
3 運営体制
4 課題と可能性

04 横濱まちづくり倶楽部/「古き横濱=インナーシティ横浜」の再生 天明周子

1 組織設立に至る経緯・沿革
2 事業内容
3 運営体制
4 課題と可能性

コラム

横濱まちづくり倶楽部への参加 近澤弘明

05 都心にぎわい市民会議/地域主導と実行力確保を目指した新たな組織へ 林 真木子

1 組織設立に至る経緯・沿革
2 事業内容
3 運営体制
4 課題と可能性

06 ㈱御祓川/官と民、二つのまちづくり会社の分業によるまちづくり 林 弘二

1 組織設立に至る経緯・沿革
2 事業内容
3 運営体制
4 課題と可能性

コラム

まちづくりのリーダーとは 森山奈美

07 ㈱金沢商業活性化センター/2地区連携の中心市街地活性化 神川裕貴

1 組織設立に至る経緯・沿革
2 事業内容
3 運営体制
4 課題と可能性

08 ㈱飯田まちづくりカンパニー/地元自らの手によるまちづくり会社設立 林 真木子

1 組織設立に至る経緯・沿革
2 事業内容
3 運営体制
4 課題と可能性

09 (NPO)長堀21世紀計画の会/地域活性化事業の地元からの提案とその実施 金 冑錫

1 組織設立に至る経緯・沿革
2 事業内容
3 運営体制
4 課題と可能性

10 旧居留地連絡協議会/旧居留地の蓄積を生かす都市づくり 天明周子

1 組織設立に至る経緯・沿革
2 事業内容
3 運営体制
4 課題と可能性

11 (NPO)まつえ・まちづくり塾/ネットワークによるまちづくり 村岡慎也

1 組織設立に至る経緯・沿革
2 事業内容
3 運営体制
4 課題と可能性

コラム

まちづくりNPOと商店街の協働「縁わく白潟」 田中隆一

12 高松丸亀町まちづくり㈱/定期借地法による再開発事業 村岡慎也

1 組織設立に至る経緯・沿革
2 事業内容
3 運営体制
4 課題と可能性

コラム

高松丸亀町商店街の活性化に携わって 西郷真理子

CHAPTER 7 エリアマネジメントの必要性とその意味 小林重敬

1 エリアマネジメントに注目する理由とエリアマネジメントの必要性
2 エリアを重視する必要性とその意味
3 マネジメントを重視する必要性とその意味

小林重敬(こばやし・しげのり) [はじめに/1章/7章]

横浜国立大学大学院工学研究院教授。
1966年東京大学工学部都市工学科卒業。同大学院工学研究科博士課程都市工学専攻修了。横浜国立大学工学部教授を経て、2002年より現職。工学博士。著書に『欧米のまちづくり・都市計画制度』(監修著)、『協議型まちづくり』『地方分権時代のまちづくり条例』『分権社会と都市計画』『条例による総合的まちづくり』(以上、編著)、『岩波講座現代法 都市と法』『岩波講座地球環境学 地球環境と巨大都市』(以上、分担)など。

内海麻利(うちうみ・まり) [3章/4章]

駒澤大学法学部政治学科助教授。
1986年同志社大学文学部卒業。横浜国立大学大学院工学研究科博士課程修了。駒澤大学法学部政治学科専任講師を経て、2005年より現職。工学博士。著書に『地方分権時代のまちづくり条例』『条例による総合的まちづくり』『都市・農村の新しい土地利用戦略』『政策過程論』『政策法務の新展開』(以上、共著)など。

村木美貴(むらき・みき) [2章/5章/6章]

千葉大学工学部都市環境システム学科助教授。
1991年日本女子大学大学院家政学研究科修士課程住居学専攻修了。(株)三和総合研究所を経て、横浜国立大学大学院工学研究科博士課程計画建設学専攻修了。東京工業大学大学院助手、ポートランド州立大学客員研究員を経て、2002年より現職。工学博士。著書に『英国都市計画とマスタープラン』『地方分権時代のまちづくり条例』(以上、共著)など。

石川宏之(いしかわ・ひろゆき) [4章]

八戸工業大学工学部建築工学科専任講師。
1993年明治大学理工学部建築学科卒業。横浜国立大学大学院工学研究科博士課程計画建設学専攻修了。日本学術振興会特別研究員(PD)、英国国立レスター大学客員研究員、川崎市総合企画局専門調査員を経て、2005年より現職。工学博士。著書に『環境キーワード事典』(共著)など。

李 三洙(り・さむす) [4章]

横浜国立大学大学院博士後期課程。
1998年ソウル市立大学都市工学科卒業。同大学院都市工学科修士過程修了。2000~02年ソウル市政開発研究院に勤務。

金 冑錫(きむ・じゅそく) [6章]

横浜国立大学大学院博士後期課程。
1999年ソウル市立大学建築工学科卒業。同大学院建築計画修士課程修了。(株)総合建築士事務所DOM附設研究所研究員。工学修士。

神川裕貴(かみかわ・ゆうき) [6章]

横浜国立大学大学院工学府博士課程前期2年。
2003年横浜国立大学工学部建築学コース卒業。

天明周子(てんみょう・ちかこ) [6章]

横浜国立大学大学院工学府博士課程前期2年。
2004年日本女子大学家政学部住居学科卒業。

林 弘二(はやし・こうじ) [6章]

横浜国立大学大学院工学府博士課程前期2年。
2004年横浜国立大学工学部建築学コース卒業。

林 真木子(はやし・まきこ) [6章]

横浜国立大学大学院工学府博士課程前期2年。
2004年横浜国立大学工学部建築学コース卒業。

村岡慎也(むらおか・しんや) [6章]

横浜国立大学大学院工学府博士課程前期2年。
2004年横浜国立大学工学部建築学コース卒業。

コラム

近澤弘明:横濱まちづくり倶楽部
森山奈美:㈱御祓川
田中隆一:NPO法人まつえ・まちづくり塾
西郷真理子:㈱まちづくりカンパニー・シープネットワーク

現在のわが国の都市づくりの状況を全体として見ると大きく二分されている。一つは競争の時代に積極的に質を高める都市づくりであり、大都市の都心部における活性している地域がより優位に立つために展開している都市再生である。もう一つは衰退している地区を再生する都市づくりで、地方都市の中心市街地における衰退している地区の生き残りをかけた地域再生である。

最近では大都市の都心部における活性している地区の都市再生も、また地方都市中心市街地における衰退している地区の地域再生にも、これまでのようにデベロップメントによる都市づくりだけではなく、マネジメントによる都市づくりの必要性が認識されるようになっている。そのような都市づくりにおけるマネジメントをエリアマネジメントとして捉え、大都市から地方都市までの多様な地区で、様々な主体や組織によって担われているエリアマネジメントの実態について事例を通して紹介することが本書の目的である。

近年、大都市都心部の各地区で地区をマネジメントする試み(エリアマネジメント)が行われ、またそのための組織が作られている。また地方都市中心市街地でも活性化のためにTMO(タウンマネジメント・オーガナイゼーション)が組織化され活動している。このようなエリアマネジメント、あるいはタウンマネジメントの動きは欧米ではかなり以前から本格的に展開しており、都市づくりの中心的な活動となっており、その活動を支える様々な制度や手法が開発されている。

わが国の大都市都心部の事例としては、現段階では大規模プロジェクトと連動しているものが多いが、必ずしも大規模プロジェクトとは関係なくエリアマネジメントを実践している地域もあり、近年はそのような事例も増えつつある。

東京都心部では、大手町・丸の内・有楽町地区での「NPO法人 大丸有エリアマネジメント協会」、六本木ヒルズでのタウンマネジメント組織「六本木ヒルズ運営本部」、晴海地区の「晴海をよくする会」、汐留地区の「中間法人 汐留シオサイト・タウンマネジメント」などがそれぞれの地区でエリアマネジメントを実践している。また大阪中心部では長堀地区に「NPO法人 長堀21世紀計画の会」、御堂筋地区に「御堂筋ネットワーク」、さらに大阪ビジネスパーク地区には「大阪ビジネスパーク開発協議会」が活動して、エリアマネジメントの比較的長い歴史がある。またそれ以外にも、横浜には関内地区に「横濱まちづくり倶楽部」、MM21地区に「(株)横浜みなとみらい21」があるし、神戸には「旧居留地連絡協議会」があり、エリアマネジメントを進めている。

いずれの地区でも様々なレベルの都市づくりを行いつつ、それと連動してエリアマネジメントを実践している。エリアマネジメントの内容も地区特性に応じて多様な内容となっているが、大別すれば、第一に公共施設空間や非公共施設空間の積極的な利用を通した施設や空間のメンテナンスやマネジメント、第二にイベントに代表される地域プロモーション、社会活動、シンクタンク活動などのソフトなマネジメントがある。

例えば、大丸有エリアマネジメント協会では、世界の主要都市で行われてきた「カウパレード」というイベントを、2003年にアジアの都市として初めて、大手町・丸の内・有楽町地区で実施することを支援している。このイベントは千住博、山本容子、日比野克彦らをはじめ多くの著名なアーティストがデザインした実物大のファイバーグラスの牛64匹を、当該地区の公開空地やアトリウムなどに1ヶ月間置いたものであり、大きな評判を呼んだイベントである。2004年度には「アート丸の内」のイベントを支援し、コトバメッセと東京コンペなどの新しいイベントに挑んでいる。それ以外にもオープンカフェ、大道芸フェスティバルなど多彩なイベントを実施し、あるいは支援している。

また長堀21世紀計画の会では、ナガホリカーニバルや心斎橋ショーウインドーコンテストなどの各種イベントの実施を経て、現在は街づくり協議会「長堀・心斎橋ファッションコミュニティー」を結成し、「おしゃれな大人の散歩まち」をテーマに地域の発展に力を入れている。

一方、地方都市中心市街地での「タウンマネジメント」は中心市街地活性化法という制度により位置づけられているものであり、中心市街地の活性化のためにTMOが組織化され活動している。しかし実際に有効なエリアマネジメントを実施しているのは、制度発足以前から地道にエリアマネジメントを実践していた地域であり、組織である場合が多い。

そのような事例として、北は青森市の(有)PMO、福島市の(株)福島まちづくりセンター、さらに東京の近くでは三鷹市の(株)まちづくり三鷹、日本海側では七尾市の(株)御祓川、松江市のNPO法人まつえ・まちづくり塾、中部では飯田市の(株)飯田まちづくりカンパニー、西では高松市の高松丸亀町まちづくり(株)などをはじめとして多くの事例を挙げることができる。

それらの地域の組織は株式会社、有限会社、NPOなど様々な形態をとりながら、空き店舗対策、イベントの開催、個店支援などの個別の施策を展開しつつも、中心市街地再生の全体企画、管理・清掃、街並みの形成などの役割も担って、地域のマネジメントを実現しようとしている。

本書はいくつかの機会を通して内容が固められてきたものである。第一に、私が大手町・丸の内・有楽町地区の再開発に関するグランドデザインづくりの研究会に参加し、エリアマネジメントの重要性について主張し、それをこの地域の地権者の集まりである再開発協議会が取り上げたことである。第二に、文部科学省の科学研究費補助金を3年間継続して受け、多くの地区のエリアマネジメントの事例を調査研究できたことである。第三に、横濱まちづくり倶楽部や大丸有エリアマネジメント協会に参加しエリアマネジメントの実践に関わったことである。

その間、研究室の研究活動に関わってくれた内海麻利・駒澤大学助教授、村木美貴・千葉大学助教授をはじめ、横濱まちづくり倶楽部や大丸有エリアマネジメント協会の関係者など多くの方に協力をいただいた。また李三洙君(後期博士課程2年)をはじめとする研究室の大学院生の協力も大きい。さらに、平成13年度の浅井孝彦君、森田佳綱君の修士論文、および平成14年度の北澤知洋君、渡辺裕之君の修士論文も本書の成立に大きく寄与している。それらの協力がなければ本書は実現しなかったと考え、ここに心から感謝する。また本書の刊行にあたっては、これまでのいくつかの図書と同様に学芸出版社の前田裕資氏、宮本裕美氏の全面的な助力を仰いでいる。ここに深く感謝する。

小林重敬