地方から政治を変える

嘉田由紀子+未来政治塾 編

内容紹介

日本の未来を拓く政治の担い手を育てることを目的に、滋賀県の嘉田由紀子知事が2012年に立ち上げた「未来政治塾」。若者や女性を中心に670名が受講した人気講義を単行本化。福祉、エネルギー、財政、産業、防災など第一人者が目指す行政改革への道筋とは。日本の政治のしくみを変えていく革新者たちの講義録、2冊同時発売。

体 裁 四六・216頁・定価 本体1900円+税
ISBN 978-4-7615-1328-3
発行日 2013/05/18
装 丁 上野かおる


目次著者紹介まえがきあとがき
はじめに

1章 嘉田由紀子 滋賀県知事

地方から政治を変えていくために

2章 田原総一朗 ジャーナリスト

自分の頭で考えてこなかった日本人

3章 古賀茂明 大阪府市統合本部特別顧問

政治のしくみは変えられる

4章 辻哲夫 東京大学特任教授

人生九〇年時代の医療福祉改革

5章 飯田哲也 環境エネルギー政策研究所所長

地域から始まるエネルギーシフト

6章 上山信一 慶應義塾大学教授

大阪から、この国のしくみを変える

7章 藻谷浩介 日本総合研究所主席研究員

雇用を生み地域を潤すのが、未来の産業

8章 宮本博司 樽徳商店代表取締役社長

自然災害を防がず凌いで、住民の命を守る

おわりに

嘉田由紀子

滋賀県知事。1950年、埼玉県生まれ。京都大学大学院・米国ウイスコンシン大学大学院修了後、滋賀県庁に入庁。琵琶湖研究所研究員、琵琶湖博物館学芸員などを経て、2000年、京都精華大学人文学部教授。2006年、新幹線新駅やダムなど、高コスト公共事業の凍結・中止を掲げ、「もったいない」をキャッチフレーズに当選。2010年には県政史上最高得票で再選。2012年、日本未来の党を結成するが、衆院選後分党し党の代表を辞任。知事職に全力投球しつつも、未来政治塾で若い人を育て国政への政策提言を行う。

田原総一朗

ジャーナリスト。1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、岩波映画製作所、東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、1977年にフリーに。テレビ朝日系「朝まで生テレビ!」「サンデープロジェクト」でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。1998年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。現在、早稲田大学特命教授として、「大隈塾」塾頭も務める。

古賀茂明

大阪府市統合本部特別顧問。1955年、長崎県生まれ。東京大学法学部卒業後、通商産業省(現経済産業省)に入省。産業再生機構執行役員、経済産業政策課長などを歴任。2008年、内閣官房国家公務員制度改革推進本部事務局審議官に就任し、急進的な改革を次々と提議。2009年の退任後も省益を超えた政策を発信、公務員制度改革や既得権と闘う成長戦略の必要性を訴え続ける。2011年、経済産業省を依願退官。同年より、現職。

辻哲夫

東京大学高齢社会総合研究機構特任教授。1947年、兵庫県生まれ。東京大学法学部卒業後、厚生省(現厚生労働省)に入省。老人福祉課長、大臣官房審議官(医療保険担当、健康政策担当)、保険局長、厚生労働事務次官等を歴任し、2007年に退官。厚生労働省在任中に医療制度改革に携わった。2008年より田園調布学園大学教授を務める。
特定非営利活動法人

飯田哲也

環境エネルギー政策研究所所長。1959年、山口県生まれ。京都大学工学部原子核工学科卒業、東京大学大学院先端科学技術研究センター博士課程単位取得満期退学。神戸製鋼、電力中央研究所で原子力の研究開発に従事した後、スウェーデンへの留学を経て現職。自然エネルギー政策では国内外で第一人者として知られ、地方自治体のエネルギー政策にも大きな影響力を与えている。

上山信一

慶應義塾大学総合政策学部教授。1957年、大阪府生まれ。京都大学法学部卒業、米国プリンストン大学国際公共政策経営大学院修了。1980年、運輸省(現国土交通省)入省。1986年から2000年までマッキンゼー日本支社に勤務。現在、大学での本務の傍ら企業、行政機関の経営改革や地域再生を手がける。これまでに大企業22社、公的機関25団体の改革に関与。国土交通省政策評価会座長、大阪府・市特別顧問、愛知県政策顧問、新潟市都市政策研究所所長等を兼務。

藻谷浩介

株式会社日本総合研究所主席研究員。1964年、山口県生まれ。東京大学法学部卒業後、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行。米国コロンビア大学ビジネススクール留学、日本経済研究所出向などを経て、2000年ごろより地域振興の各分野で精力的に研究・著作・講演を行う。

宮本博司

株式会社樽徳商店代表取締役社長。1952年、京都府生まれ。京都大学大学院修士課程土木工学専攻修了後、建設省(現国土交通省)に入り、技官として河川行政一筋に取り組む。河川開発課課長補佐などを経て、淀川河川事務所長として淀川水系流域委員会の立ち上げに尽力。同局河川部長を経て本省河川局防災課長を最後に2006年辞職。新淀川水系流域委員会には一市民として応募、委員長に就任。

私たちの暮らしも経済も、政治の影響を受けています。にもかかわらず、多くの人たちにとって、政治は自分たちに「遠い」存在です。自分に無関係だと思っているから投票にもなかなか行かない。政治家に立候補して投票をしてもらう立場となると「もっと遠い」。親が政治家で地盤がある、政党や団体に所属していて組織基盤がある、経済的余裕がでてきたので「議員でも」してみようか。そういう一部の限られた人が政治に向かう。その結果、私たちの代表であるはずの政治家に、普通のサラリーマンや子育て中の主婦、女性、若い世代が少なく、多様な民意の代表者となっていないのが、日本の政治の現状です。

今、日本の政治は大きな曲がり角にあります。2011年3月11日に起きた東日本大震災の後、日本中が深刻な政治不信に覆われました。そして、2012年12月の衆議院議員選挙は、3・11後の最初の国政選挙でありながら、制度疲労を起こした日本社会の本格的な変革につながる結果にはなりませんでした。

これからの日本社会再生のキー概念は、「全員参加型」の社会づくりと「地域社会」の活性化だと私は考えています。女性も若者も、障がいを持つ人も高齢者も、それぞれの意欲と能力を活かし、それぞれの居場所をつくり、仕事や社会活動での参加の機会を増やす。未来の方向性を共有しながら、日々の暮らしを背負う女性ならではの生活者の視点、未来に夢を託す若者の視点、大都市にはない地方の視点等を補完しながら、地域の環境、経済、文化、社会の自律を目指した地方自治が今、求められています。

日本の地方には潜在的な力が潜んでいます。この潜在的な力を「自覚化」し「見える化」して、地域に元気を吹き込むためには、若者、女性を含めて、「政治家の多様化」が求められています。とはいえ、地盤も看板も鞄もない人は、高い志を持っていても、なかなか立候補することができない。選挙のしくみは難解で、お金がかかります。現状への危機感や問題意識をどうやって政策として組み立てるのか、どうやって政策を訴えるのかもわからない。政治の世界への新規参入の壁は、依然として高いと言わざるをえません。

そこで、私たちは、さまざまな地域や職種、背景を持つ人たちが政治や行政を学び、選挙のしくみを知ることで、政治の世界への新規参入を促す場をつくりたいと考え、2012年4月に「未来政治塾」を開講しました。

未来政治塾は、いわば政治素人が政治家に飛び出すための社会的しかけです。この塾は特定の国政政党とつながる政治運動のグループではありません。政治理念や政治手法も「多様性」をキーワードに、1人でも多くの方たちに政治や行政を「近く」感じていただくための場です。
2012年度の未来政治塾では、通学塾生220名、オンライン塾生450名の皆さんとともに、12回にわたる講義を行いました。各分野の最前線でご活躍しておられる専門家の方たち、そして実際に政治を担っている市長、知事など政治家の方たちにご講義いただき、ホットな対話と討論を展開しました。ご多忙のところ、このような小さな塾にご参加いただいた講師の皆さまに心から感謝申し上げます。

本書は、2012年度に開講しました未来政治塾の講義の一部を書籍化したものです。講義の内容を塾生以外にも、広く政治家や行政職員を志す方々に読んでいただけるよう、『若手知事・市長が政治を変える 未来政治塾講義Ⅰ』『地方から政治を変える 未来政治塾講義Ⅱ』の二分冊として収録いたしました。講義を開講しました2012年から政治の情勢も大きく変わりましたが、本書はあくまで当時の講義の記録であることを、はじめにお断りしておきます。そして、政権交代後の今だからこそ、地域に根ざし、自然を大切にし、若者、女性、生活者といった行政サービスの需要側の視点を重視する立場は、一層重要になるものと信じております。

未来政治塾で学ばれた方、また本書を読んで下さった方の中から、地方自治の担い手や国政を目指すという方が現れることを期待しています。そして一人でも多くの方が、等身大の感覚で、日本の地域再生の現場で活躍していただきたいと強く願っています。

未来政治塾塾長、滋賀県知事 嘉田由紀子

2013年4月、未来政治塾は2期目の学生を迎えました。1年目の講義では、地方から光をあてる若手政治家と政策改革者の力強いメッセージにより、多くの塾生が政治への参加意欲を高めました。

日本では核家族化が進み、家族の絆が失われつつあることが課題と言われる1方で、育児や介護の問題では、旧来のしがらみが重くのしかかっている面もあるように思います。日本社会では、適度な距離感を保ちながら自らが選択をして、子育てや介護と仕事を両立させていく、そのバランスがとりにくいのです。これは、自己犠牲を美化する日本人の、旧来の家族観の負の部分なのではないでしょうか。今、私たちに突きつけられているのは、どうすれば自分や相手が主体的に選択をし、お互いに納得できる最善の方法をとれるのか、ということです。

北欧では、子どもが小さなころから「自分で選択すること」を学ぶと言われています。北欧の教育といえば、1990年代に、皇太子殿下がスウェーデンの社会科の教科書を紹介されたことがあり、私も関心を持ちました。この教科書の優れているところは、たとえば「学校の先生の給料は誰が払っているの?」「裁判はどういうときに成り立つの」といった、現実に社会で起こっているしくみについて、生徒が考えながら学んでいける点です。

日本では、小学校時代から自分で考えて、他者に意思表示をして意見を聞いて、最後に自分が選ぶという教育が十分に行われていません。これまで日本では、教育の中で政治について語ることがタブー視されてきました。たしかに、戦前の軍国主義教育が国民を戦争に駆り立てたことはあったかもしれません。しかし戦後60年間、あまりにも教育が政治をタブー視したがゆえに、日常の中で政治がどれだけ影響を持っているか、投票者として自分の1票がどういう意味を持っているかということを、子どもたちに伝える場面が失われてしまいました。

未来政治塾では、政治を「遠い」ものから「近い」ものにするという理念を掲げて勉強してきました。政治がいかに私たちの生活の足元をつくっているかということを発信し、今後も遠い政治を近くにする努力を続けていきたいと思います。

未来政治塾の趣旨にご賛同いただき、ご多忙のなか講師をお引き受けいただきました講師の皆さまに心から感謝申し上げます。また、この塾の運営を支えてくださった事務局の塚本茂樹さん、駒井千代さん、小川泰江さん、松田馨さん、野田武宏さん、竹内ひとみさんはじめ、多くのボランティアスタッフの方々にも厚く御礼申し上げます。

2013年4月14日 長浜曳山まつり、日吉山王まつりの日に

未来政治塾塾長、滋賀県知事 嘉田由紀子