B級ご当地グルメでまちおこし
内容紹介
2日間で40万人を集めるB級ご当地グルメの祭典B-1グランプリ。富士宮やきそば学会など全国の食のまちおこしのトップランナーにみる、料理の発掘からイベント出展、商品ブランドの開発まで、その成功ノウハウ、失敗のポイントについて、主催団体・愛Bリーグが本音で語る。数百円で数百億の経済効果を生む仕組みの全貌。
体 裁 四六・240頁・定価 本体1900円+税
ISBN 978-4-7615-1294-1
発行日 2011/11/15
装 丁 上野 かおる
はじめに
第1章 盛り上がるB級ご当地グルメのまちおこし
1 奇跡の巨大イベント「B-1グランプリ」
2 B-1グランプリ主催団体「愛Bリーグ」
3 B級ご当地グルメのまちおこしとは
第2章 食のまちおこし 四つの誤解
1 食のまちおこしは“食”が先ではなく“まちおこし”が先
2 食のまちおこしは飲食店が中心になってやってはいけない
3 食のまちおこしは“創る”のではなく、まず“探す”
4 食のまちおこしは観光客をターゲットにしてはいけない
第3章 食のまちおこし 成功への12のポイント
1 地元住民に愛される料理を選ぶ
2 メニューの情報(特徴・味・材料・物語・歴史)のまとめ方
3 提供飲食店の調査と実用性の高いマップづくり
4 インターネットの活用
5 まちおこし団体の組織
6 先進地視察のポイント
7 イベントへの出展
8 イベントの企画
9 メディアへの情報発信
10 ブランドの維持管理
11 公認商品の開発と認定
12 B-1グランプリへの道
第4章 食のまちおこし団体の組織と活動
1 食のまちおこし団体の形態
2 食のまちおこしにおけるB級ご当地グルメの分類
3 全国の食のまちおこし団体のネットワーク「愛Bリーグ」
4 富士宮やきそば学会(静岡県富士宮市)
5 八戸せんべい汁研究所(青森県八戸市)
6 津山ホルモンうどん研究会(岡山県津山市)
7 横手やきそば暖簾会(秋田県横手市)
8 甲府鳥もつ煮でみなさまの縁をとりもつ隊(山梨県甲府市)
9 十和田バラ焼きゼミナール(青森県十和田市)
10 小倉焼うどん研究所(福岡県北九州市)
11 姫路おでん普及委員会(兵庫県姫路市)
12 やきそばのまち黒石会(青森県黒石市)
13 浜松餃子学会(静岡県浜松市)
第5章 B-1グランプリの運営と影響
1 B-1グランプリ各大会の概要
2 B-1グランプリ支部大会
3 B-1グランプリの運営
4 B-1グランプリの三つの誤解
5 B-1グランプリと商業企画
6 B-1グランプリの今後
おわりに
2011年3月11日の東日本大震災で東北は大変な状況になった。まちおこしに取り組む愛Bリーグの加盟団体である石巻茶色い焼きそばアカデミー(宮城県石巻市)と浪江焼麺太国(福島県双葉郡浪江町)の地元も甚大な被害を受けた。東北の各団体も少なからず被害を受けたが、この2団体の地元は本当に大変な状況になっている。
震災の後、2010年から開催が始まったB-1グランプリ支部大会が数回開催された。震災復興支援大会と位置づけ、最も早かった九州B-1グランプリは震災からわずか2週間後に開催した。開催を決めたのは震災から1週間後のことだ。多くのイベントが開催を見送るなか、2011年3月26~27日に開催が予定されていた「九州B-1グランプリ」を開催するかどうか、短い時間のなか真剣な議論が続いた。B-1グランプリが単なるグルメイベントであれば、間違いなく、即座に開催中止が決まっていただろう。しかし、B-1グランプリは「グルメイベント」ではなく、全国のまちおこし団体で構成される愛Bリーグが主催する「まちおこしイベント」である。悩みに悩んだ末、開催の決め手になったのは、被災地の団体からの「ぜひ開催して元気を送ってほしい」というメッセージだった。
「こういう時期だからこそ、私たちは支部大会といえどもB-1グランプリを開催しなくてはならないのではないか」。東北をはじめ、全国の団体からの応援のメッセージに後押しされ、愛Bリーグ九州支部と北九州市の実行委員会は開催の英断を下した。「震災復興支援イベントとして九州B-1グランプリin小倉を開催しよう」と。大会1週間前のことである。私たち愛Bリーグ本部も小倉の実行委員会の方々も、「こんな時期になぜ食べ物のイベントを開催するのか」といった、それなりの数のクレームが来ることを覚悟していた。それには真摯に私たちが悩んで決めた過程と考えをちゃんと伝え、それでも批判を受けるのであれば甘んじて受けようと考えていた。結果は、批判的な意見はほとんどなく、当日会場では「九州から元気を送らんばいけんもんね」「よく開催してくれた。自粛自粛じゃ日本がだめになる。震災の影響がない地域こそお金を使わんばね」といった激励を数多く受けた。本当に涙が出た。
会場には2日間で10万4000人の方が訪れ、会場の義援金、出展団体の寄付、実行委員会からの寄付を合わせて、約560万円の義援金を寄付させていただいた。
まだまだ復興には時間がかかるであろうが、今回の震災は私たち日本人の価値観を一変させたのではないかと思っている。そんななか、愛Bリーグ加盟団体の皆さんの絆は、震災以降、より強固なものになってきたと感じる。震災直後は地元自治体からの要請により、各団体がそれぞれさまざまな支援活動を行ってきたが、4月の末から、愛Bリーグとして先々を見据えた長い目の復興支援に取り組んでいる。安全に衛生的に短時間に大量の食を提供できるノウハウは、愛Bリーグ加盟団体はもはやどこにも負けないであろう。炊き出しを中心とした復興支援活動は、震災直後しばらくは日常的な温かい食の提供が主だったが、徐々にB-1グランプリで供される「ハレ」の料理の提供も始めた。避難生活の長期化で不便な生活が日常化しつつあるなか、日常ではない楽しみの一つになれば、と被災地の方々と相談しながら決めてきた。
私たちはまちおこしに取り組む仲間のネットワークだが、結果的に地域の復興を目指す仲間を支援することのできるネットワークに成長してきたのではないかと思う。今、直接被害を受けた地域はもちろん、直接被害を受けていなくとも、地方は大変厳しい状況に置かれている。震災以前からB級ご当地グルメが注目されてきたが、今こそ、愛BリーグとB-1グランプリが地域と、そして日本を元気にしていくエンジンの一つになるのではないかという思いを強くしている。
ここで改めて私たちのこれまでの活動を整理させていただこう。
B級ご当地グルメの定義は「安くてうまくて地元で愛されている地域独特の食べ物」。ここ数年注目を集めてきたが、2010年9月に開催された第5回厚木大会で大ブレイク。初の首都圏開催ということもあり、2日間で43万5000人の来場者を集めるモンスターイベントとなった。
このイベントのルーツは2006年2月に青森県八戸市で開催された「第1回B級ご当地グルメの祭典!B-1グランプリin八戸」である。屋内イベントではあったが、真冬に全国各地の10のユニークなメニューを集め、一部で熱狂的な盛り上がりを見せた。翌年の「第2回B-1グランプリin富士宮」は、B級ご当地グルメの雄であり、すでに高い知名度を持つ「富士宮やきそば」のお膝元、静岡県富士宮市で開催され、なんと2日間で25万人の来場者を集めるお化けイベントとなる。その後第3回久留米大会、第4回横手大会と20万人を超える集客を果たし、地方発のB級ご当地グルメの一大ブームを巻き起こすこととなった。
こうして急速にマスコミが注目し始めた「B級ご当地グルメ」は、「ゼリーフライ」や「たまごふわふわ」といった名前を聞いただけではどのようなものか想像できないものから、焼きそばやおでんなど、同じ名前でありながら、まったく別のものが出てくるといった面白さが満載である。地元では当たり前に食べられているが、全国にはまだまだ知られていないユニークなメニューが眠っている。こうしたメニューは地域の宝物として、新たに地域を元気にする起爆剤となる可能性があるのだ。
B級ご当地グルメは不況の中にあって、地方を元気にする切り札である地域資源となる可能性を秘めている。震災の被害を受けた現在でもその可能性はけっして変わってはいない。B級ご当地グルメブームとともに、食のまちおこしも注目を集めている。富士宮やきそばの経済効果が9年間で439億円(㈱地域デザイン研究所調べ)という試算が出て、世間の度肝を抜いた。
たかだか数百円の食べ物のためになぜわざわざ観光客が訪れるのか。そしてたかだか数百円の食べ物がなぜ数百億もの経済効果を生み出すことができるのか。
本書では、B級ご当地グルメを活用したまちおこしの本質を解説するとともに、成功のための条件や進め方のマニュアル、そして成功事例を紹介していきたい。
大変な震災を経験した日本だが、食で故郷を元気にできる可能性が全国各地に眠っているはず。まずは考えてみてほしい。そして問いたい。
「あなたの故郷を元気にするかもしれない、あなたのまちで愛されている日常的な食べ物は何ですか。」
今さらながら私の経歴を少しご紹介させていただきたい。東北大学工学部電子工学科に入学後、理系に向いていないことに気づいて文系就職の活動をして、㈱リクルートという企業に就職した。最初理系の新卒採用に携わった後、『ビーイング』『とらばーゆ』『ガテン』といった中途採用情報誌事業の営業に配属になったのだが、そこで20代半ばにUIターン事業に関わることになる。振り返ってみると、これが地方の仕事に関わる一番初めのきっかけだったのではないかと思っている。その後、『じゃらん』で西日本担当となり、観光・交流に携わる。31歳でサラリーマンに向かないことに気づき退職。独立後、ヘッドハンターなどを経て、リクルートの地域活性事業部の仕事に外部のプランナーとして関わり、雇用・観光交流の分野でさまざまな企画を手掛けた。雇用の分野ではUIターンなどの定住促進企画やキャリアカウンセリングなどの就職支援事業に関わった。観光交流の分野では、情報発信、調査、キャンペーン企画などに取り組み、近年では、日本で初めてのまち歩き博覧会「長崎さるく博06’」に計画段階の2003年から現・田上長崎市長と共に関わり、開催時には広報アドバイ
ザーを務めた。
それなりに地域活性化に関わるなかで、常に疑問を持っていたのは、税金の使い方と効果である。民間の営業活動であれば、時間の使い方やお金の使い方を効率よく進めるためにはどのようにしたらよいか、つまり費用対効果を常に考える。一方で行政の取り組みはさまざまに変化をしつつも、効果的な観光施策をいまだに見つけられないでいる印象が強い。観光は団体旅行から個人旅行の時代と言われてかれこれ20年以上になるが、つい最近もある業界関係者向けの講演で同様の話を聞いた。20年たっても同じ課題がある業界が存続していられること自体不可解ではあるが、おそらく団体旅行と個人旅行のニーズの棲み分けが終わっているにもかかわらず、いまだに業界がしっかりとニーズに対応できていないためではないかと思われる。また旅行のメインターゲットは女性と言われて久しいが、自治体などの観光施策の決定のボードにはまだまだ女性の感性を取り込んだものは少ない。地域の魅力を発信するために外部人材を活用することも必要と言われるが、積極的に取り組んでいるところは一握りであり、取り組んだところでも、必ずしも活かしきれていないところもあると聞く。また旅行会社からの出向などをその経歴だけで受け入れ、結果に結びついていない例も同様だ。
観光協会の事務局長など各地の観光の方針を決めるポジションには、公募型で女性や地域外からの人材を受け入れている一部の地域を除けば、まだまだ旧態依然の体制で、観光が地域にとって重要と言われながら、必ずしも専門性の高い人材を配しているわけではない。旅行会社から人材を受け入れている例もあるが、旅行会社出身者は旅行のプロであっても観光交流のプロであるとは限らない。性別、出身地、出身母体だけで優秀かそうでないかを論ずるつもりはもちろんないが、ただこうした状況の中で、果たしてターゲットに届く地域情報の発信がしっかりできているのか、門外漢となった現在だからこそ疑問を感じてしまう。
観光に関わる話を聞くと、広域連携、ニューツーリズム、着地型観光など、最近はやりのキーワードも耳にするが、正直なところ有効な観光交流施策というのがどういうものなのか、私自身、答えを見出すことができないでいる。なかでもイベントの開催の目的についてはずっと疑問を感じてきた。数百万円から数千万円の予算をかけ、金額が大きければ大手広告代理店がまとめて持っていき、地元には下請けの仕事が落ちてくる。地元でやっているイベントについても、博覧会形式で一定の期間開催されているものはともかく、1日や2日、一過性のお客様が来ることによる効果というのは果たしてどの程度のものかと感じていた。地元住民向けのイベントも時には観光セクションで実施をしていたり、逆に地元向けのイベントが注目を浴び、観光ツアーが組まれることもある。それぞれやっていること自体に価値はあると思うのだが、イベントが終わると兵どもが夢の跡。イベントの開催が日常的なまちの盛り上がりにつながっている光景を見た記憶は、少なくとも観光に携わっているなかではなかった。
2003年にご当地グルメの紹介サイトを、2005年に趣味でご当地グルメ専門の食べ歩きブログを始めた。その年の夏ごろから八戸せんべい汁研究所の面々と連絡をとるようになり、12月に初めて出会う。明けた2006年2月の第1回B-1グランプリ八戸大会には観客として参加し、出展者の飲み会にも参加させてもらった。それから緩やかなお付き合いが始まり、同年6月の愛Bリーグ設立総会、翌2007年6月の第2回富士宮大会も観客として参加した。ボランティア的に手伝い始めたのは2008年11月の第3回久留米大会のときからである。
そしてこの久留米大会以降、愛Bリーグが東京事務局を開設するに伴い東京事務局長を任され、翌2009年4月に事務局長に就任し現在に至っている。地域活性化の仕事に15年以上携わっているが、このB級ご当地グルメによるまちおこしの取り組みは実に画期的で、目から鱗の話にあふれている。そして実際にさまざまな結果につながっている。
実務の傍ら本書を書き進めてきたが、なにぶん初めての作業であり、多方面に多くのご迷惑をおかけした。予定よりもずいぶんと時間がかかってしまったが、愛Bリーグ加盟団体の成功事例から、手前みそながら今持てるノウハウはすべて書いたと言ってもいいくらい充実した内容になっていると自負している。
是非地域から日本を元気にする活動の輪が広がり、実際に多くの地域が元気になるために本書を活用してほしいと切に願う。
2011年10月
俵慎一