成功する地域資源活用ビジネス

伊藤 実 著

内容紹介

過疎高齢化が進む地方の衰退を止めるには、地域で仕事を生みだすことが先決。地元の特産物で他にはない商品を開発・生産・販売する六次産業化が地域再生、雇用創出の要。官民連携で起業、自立経営、高齢者や女性を活用、産業の連鎖で地域を潤すビジネスモデルを元気な中山間地に学ぶ。不利や危機を逆転する発想が成功の秘訣。

体 裁 四六・208頁・定価 本体1900円+税
ISBN 978-4-7615-1284-2
発行日 2011/03/01
装 丁 上野 かおる


目次著者紹介まえがきあとがき
まえがき

第1章 迷走する地域雇用戦略

バブル経済の教訓
「ばらまき行政」による負の遺産
財政危機が加速させた地方の衰退
地方圏の二極化
ハイテク産業よりも雇用創出効果が大きい食品産業
地域雇用創出の類型
小さく産んで大きく育てるビジネス

第2章 小川の庄 長野県小川村

──おやきビジネスの主役はおばあさん
廃村の危機
第三セクター方式による小川の庄の設立
郷土食「おやき」で村おこし
グローバル化の展開
製品開発と農業振興
高齢者パワーの活用
創業者の横顔

第3章 吉田ふるさと村 島根県雲南市

──本邦初の卵かけご飯専用醤油の大ヒット
たたら製鉄の故郷
村民出資で吉田ふるさと村を設立
設立当初の事業内容
餅ビジネスのヒット
地産地消から地産地商への転換
大ヒット商品「おたまはん」の誕生
独創的新製品開発の社員へのインパクト
「日本たまごかけごはんシンポジウム」の開催
農業、観光旅行業への新規事業展開
雇用創出・人材育成
キーパーソンの素顔

第4章 明宝特産物加工、明宝レディース 岐阜県郡上市

──希少価値を高める手作りハム&ケチャップ
テレビ放映をきっかけに人気化
農協と対立し、村が新会社設立
手作りで安心・安全の明宝ハム
着実な企業成長と雇用拡大
地域振興策で発揮された村長の行政手腕
農家の主婦による特産品開発
明宝レディースの設立
トマトケッチャップの製造・販売
農村女性の雇用と女性らしいリーダーシップ

第5章 ふるさと海士 島根県海士町

──上質な海産物や肉牛で離島をブランド化
地域崩壊の危機
危機意識の共有化による行政改革
地域産業振興に取り組む組織の新設
ふるさと海士の設立
建設会社の畜産業新規参入を支援
よそ者が島を変える
辣腕町長の横顔

終章  自立型地域振興と雇用創出

ハコモノ先行型開発からビジネス先行型開発への転換
地域雇用創出の成功要因
国の支援策

あとがき

伊藤実(いとう みのる)

独立行政法人労働政策研究・研修機構 特任研究員。
1948年生まれ。79年法政大学大学院博士課程修了後、雇用促進事業団職業研究所研究員、労働政策研究・研修機構統括研究員を経て、2009年4月から現職。商学博士。厚生労働省地域雇用創造推進事業等選抜・評価委員会委員、東京商工会議所労働委員会委員、NHKラジオ「ビジネス展望」レギュラーコメンテーター、青山学院大学大学院法学研究科講師、中央大学商学部講師などを兼務・歴任。専門は、人事管理論、産業・経営論、地域経済論。

日本社会の衰退が進行しているが、地方の衰退は驚くほどの速さである。県庁所在地などの中核都市を除いて、地方の町や村に人影がまばらなことに驚かされる。若者の姿もほとんど見かけない。過疎化と高齢化が同時進行しており、地域社会が消滅しかねない「限界集落」も増加している。

衰退モードに陥っている原因は、昭和四〇年代の高度経済成長を達成した社会体制から脱却できないためである。高度経済成長モデルは、東京を中心とした大都市圏に資源を集中させ、その成果を地方に再配分するという社会システムである。だが、こうしたシステムは、国が示した基準に合わせた事業を地方に展開させたため、地域特性に合った独自の事業やビジネスを展開する力を、地方から奪ってしまったのである。

高度経済成長モデルにおける再配分の主要なルートは、公共工事や農業などへの補助金であったため、地方の産業構造は建設業や農業に偏ったものとなってしまった。だが、建設業は財政危機による大幅な公共事業の削減に見舞われ、農業は米価の下落や輸入農産物との競争、高齢化による生産性の低下などによって、いずれも成長力を失い、雇用が減少し続けている。安定的な雇用機会を提供できなくなった地方では、若者の流出によって過疎高齢化が急速に進行している。衰退を食い止めるには、地域で仕事に就けるように雇用機会を創出することが不可欠である。

幸いなことに、地域の現状は悲観的な風景一色ではない。都道府県単位の統計データをいくら詳しく見ても、地方の衰退を示す数字ばかりが目につき、地域の活性化に関するヒントは得られない。市町村単位の統計データを詳しく調べると、少数ではあるが元気な地域が散見される。さらに、地域情報を丹念に調べると、驚くほど元気で頑張っている地域や企業があることを発見することができる。

ここ数年、遠隔地や平坦な耕地が少ない中山間地で頑張っている企業を発見すると、現地を訪問してその成功要因を分析することに、相当の時間を割いてきた。訪問先の企業は、ほとんどが公共交通機関では辿りつけないような不便なところに立地している。こうした地域でも雇用創出に成功しており、新幹線や高速道路、空港などを建設すれば、必ず地域が発展すると考えることが、いかに現実的でないかがわかる。

遠隔地や中山間地といった地域で雇用創出に成功している企業は、極めて似通った成功要因を持っているのに驚かされる。地元で採れる農産物を原材料として、差別化された安全・安心な商品を開発・生産し、それを「地産地消」にとどめることなく、大都市圏に売り込むという「地産地商」のビジネスモデルを確立している。

興味深いことに、大都市圏への販売に関しては、地域で頑張る企業としてテレビや新聞、雑誌といったマスメディアに注目され、テレビ放映や掲載記事を通じて売り込みに成功するという、まったく経費のかからない手法に依拠している。ただし、マスメディアを活用するには、彼らが興味を持つような独自性のある製品やビジネスモデルを編み出していなければならず、他の地域の成功例を猿まねしたようなものでは見向きもされない。

さらに、地域で頑張る企業は、起業の難しさを克服するために第三セクター方式(地方自治体と民間の共同出資組織)を採っている。高度経済成長モデルにおける三セク方式は、宮崎県のシーガイアに代表されるように、巨額の負債を抱えて倒産するところが相次いだ。これに対して、地域で頑張る三セク企業は、身の丈に合った投資・経営規模で、行政からの天下りを受け入れるといった癒着を避け、経営の自立性を維持しながらビジネスを展開している。

これらの企業では、必ず創業や経営に関して強力なリーダーシップを発揮した重要人物が存在している。行政依存の三セク企業になると、ローテーション人事によって経営責任の所在が曖昧になるが、自立的な経営を確立した三セクは、中心的な役割を担う人物が明確であり、硬直化した組織経営に陥ることなく、経営改革を柔軟に推し進めている。

キーパーソンとなっている人物は、地元以外の都市圏でビジネス経験を積み、何らかのきっかけでUターンした場合が多く、「井の中の蛙」といったタイプではない。それゆえ、村おこしのビジネスを展開するためには、大都市圏への売り込みが不可欠だと考え、「地産地商」のビジネスモデルを展開している。さらに、生まれ故郷への愛着や地域の衰退への危機意識を強く持っている、といった共通性が認められる。

地域の衰退・崩壊を食い止めるには、安定的な雇用機会を地元に創り出すことが不可欠である。この本で取り上げた企業事例は、いずれも極めて不便な立地条件にもかかわらず、独自製品を開発・生産して大都市圏への売り込みに成功し、自らが雇用の場を創出するとともに、原材料となる農産物や海産物を地元から調達することによって、農業や漁業の振興にも寄与している。

本書が、地域振興に携わる方にとって、衰退モードを打ち破る独自のビジネスモデルを企画・実行する際に、何らかの参考になることを願っている次第である。

最近の日本の社会状況は、「縮み依存志向」が蔓延しているように思われる。若者は寄らば大樹の蔭とばかりに大企業への就職希望が強く海外に行くのも嫌がる、高齢者は負担を嫌がり社会保障のつけを現役世代に押しつける、地方や農業は国の支援や補助金に依存しようとして自立の気概が感じられない。

だが、時代環境はまったく逆の方向に進んでおり、大企業もリストラと無縁ではいられないし、国際化に乗り遅れると衰退モードに陥る可能性が高い。社会保障もこのままでは制度を維持できなくなるのは確実であり、負担と給付のあり方を抜本的に改革せざるをえなくなっている。国の支援や補助金も、財政難からこれまでのように大盤振る舞いできない。

日本の社会が時代環境に逆行するような「縮み依存志向」を強めるなかにあって、最も不利な環境に置かれている中山間地において、地産地消のビジネスにとどまることなく、大都市圏に積極的に売り込もうとする地産地商のビジネスを展開している三セク会社が、数多く存在していることに驚かされた。本書は、こうした三セク会社を紹介するとともに、その成功要因を分析して、広く参考にしてもらいたいという意図から書いたつもりである。

地域調査を実施しているなかで強く印象に残ったのは、成功している三セク会社には、必ず興味深い中心人物が存在していることであった。これらのキーパーソンは、すでに亡くなられている方もいたが、関係者から人となりを聴くだけで、相当魅力的な人物であったことを想像することができる。現役で活躍されている方の話は、臨場感があって引き込まれてしまう。

地域振興に必要なのは、巨額な国の補助金ではなく、人材であることを実感させられた次第である。しかも、キーパーソンの人物像を調べると、少数例外的な人物ではなく普通の人の延長線上にいることがわかり、アイデアと実行力があれば、巨額な補助金がなくても、多くの地域で地域振興や雇用創出が可能であることを示唆している。このことが、本書の中心的な事実発見であり、地方の将来にも明るい展望を抱くことができる。

ところで、本書が誕生したのは、学芸出版社の宮本裕美さんから突然出版の話を持ち込まれたことがきっかけであった。本書は、筆者が勤務先で担当した調査研究の報告書『中山間地の雇用創出』に、大幅な加筆修正を加えて完成させたものである。本業の調査や講演などに追われるなか、何とか出版にまで辿りつくことができたのは、頃合いを見計らった宮本さんの督促のお陰であり、感謝する次第である。

2011年1月

伊藤 実

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