観光
内容紹介
学生から行政マン、地元リーダー、業界人まで、これだけは知っておきたい観光振興の基本を、長年の実務を踏まえて分かりやすく解説した入門書。観光の意味と使命、その歴史、構造(観光客、観光動機、観光資源、観光支援基盤)、現状と当面の課題、新しい展開、観光事業の展開手順、今後の方向と環境整備に分け簡潔にまとめた
体 裁 四六・208頁・定価 本体1600円+税
ISBN 978-4-7615-1261-3
発行日 2009/10/15
装 丁 上野 かおる
はじめに
Ⅰ 「観光」の意味と使命
1 「観光」とは何か
1 観光の語源とその意味
2 観光は文化活動
3 観光は経済活動
4 観光はまちづくり活動
2 今なぜ「観光」か ~二一世紀のコンセプトから~
Ⅱ 「観光」のあゆみ
1 世界の観光のあゆみ
1 古代から近世まで
2 近代から現代へ
2 日本の観光のあゆみ
1 古代から近世まで
2 近代から現代へ
●コラム「国際観光、復活第一号『特別寝台車』」
Ⅲ 「観光」の構造
1 観光の構成と観光行動の基本構造
1 観光を構成するもの
2 観光行動の基本構造
2 観光客 ~観光を構成するもののあらまし1~
3 観光(支援)基盤 ~観光を構成するもののあらまし2~
1 交通機関(交通手段、システム)
●コラム「クルーズ船」
2 宿泊施設
3 旅行業・情報システム
4 観光資源(観光対象)~観光を構成するもののあらまし3~
1 観光資源の分類
2 自然観光資源
3 総合観光資源(自然系)
4 歴史文化観光資源
5 総合観光資源(歴史文化系)
6 複合観光資源
Ⅳ 「観光」の現状と当面の課題
1 観光の現状
1 国内観光の動向
2 国際観光の動向
3 観光形態の変化
4 観光ニーズの変化
2 観光の当面の課題
1 観光にかかわる地域の課題
●コラム「ぎふ(岐阜)の宝物認定プロジェクト」
2 観光の展開にかかわる課題
3 観光産業の課題
Ⅴ 「新しい観光」の展開
1 観光産業の近代化・効率化
2 テーマ別総合観光 ~観光資源の高度化1~
1 テーマ別総合観光とは
2 「産業観光」(ものづくりの観光)
3 「街道観光」(みちの観光)
4 「都市観光」(まちの観光)
3「ニューツーリズム」(行動型)の展開 ~観光資源の高度化2~
1 「体験行動型」観光
2 「学習型」観光
3 「こころ」の観光
4 「伝統型観光」の新展開 ~観光資源の高度化3~
1 新しい「温泉観光」
2 「食」の総合観光資源化
3 新しい観光行動
●コラム「観光立国推進基本計画」
Ⅵ 「観光(事業)」展開の手順
1 観光市場調査
1 観光資源の調査とその体系化
2 観光需要調査
3 効果予測
2 観光の商品計画と販売促進
1 商品計画
2 販売促進
3 地域における観光促進の「しくみ」づくり
4 観光評価
1 観光実績調査
2 観光満足度調査
3 「観光力」測定
Ⅶ 「観光」今後の方向と環境整備
1 広域観光
1 「広域観光」の動機
2 「広域観光」の展開と留意点
2 国際観光
1 「国際観光」の動機
2 「国際観光」の展開と留意点
3 観光展開への環境整備
1 観光資源の保護
2 余暇施策
3 人材の育成
4 観光と安全
むすびに代えて
「観光立国」の旗印のもと観光振興が国策として推進され各地で官民あげてその推進に取り組みつつあります。
国際交流促進のためにも、また地域経済活性化のためにも心強いことと思います。
しかし実務者の目からみると依然として観光について多くの誤解や理解不足が見受けられることが残念でなりません。
「観光は単なる遊びにすぎない」「観光はものづくりの一段下の次元の行為だ」「ここは目立った産業もないから観光でもやるしかない」というような声を今なお耳にします。
各地に観光学科をもつ大学が増え、観光を学ぼうとする人も増えてきました。観光にかかわる学術書も出るようになりました。しかし反面、観光の本といえば「各種資格試験の受験参考書」と「ガイドブック」が今も幅をきかせています。
私もつい先日会った人に「今観光の本を書いています」と話したら「どこのガイドブックですか」と聞かれ当惑したことがあります。観光にかかわる学校の非常勤講師もしていますが適当な教科書が少ないように思えてなりません。
要するにまだ「観光学」は若い学問であり、一部観光地を除いて「観光」の社会的な地位・評価も必ずしも高くない段階にあることを思い知らされます。
最近観光について私が知りたかったことや、私自身が観光を少しずつ学んできたその道すじを今一度ふりかえって、そこで得たことをまとめてみたいと思うようになりました。また「観光」は若い学問ですから、観光を学ぶにつれて先人の明に学びながら自分独自のいわば自分の「観光論」を作りあげる余地がまだ残っているようにも思えてきました。そのような自分の経験を活かし自分の求めたい「観光」に挑戦しようとしてまとめてみたのが本書であります。
したがって観光を内容とする本としては、その項目、章だても記述順序も既存のものとは異なったものになってしまいました。恥を偲んであえて未熟な「観光論」を上梓しましたのは、むしろこのような私の観光論に読者の皆さんのご批判、ご感想をお聞かせいただき、私なりの「新観光論」を整理したいと思ったからでもあります。強いてこの本の特色をあげるならば「観光」を実務者としての目からみたものであること、新進の研究者としての目線でものをみている点にあると思います。この本の内容の未熟さを、皆さんの心の中で皆さんのお考えとあわせて、皆さん独自の「観光論」として完成させていただきたいものと念願しております。そのための素材として本書が何かのお役に立てるとすれば望外のよろこびです。
平成21年9月 須田 寛
この本を通じて「観光」は人間の本能に根ざす「文化的活動」であり、またそれによる人的交流を通じて大きい経済効果をもたらす「経済活動」であることをみてきました。同時に観光振興のためには、官民あげて、多くの人々の参加が前提となり、それらの関係者や関係機関の幅広い「連携」と「協働」のうえに成り立つことを確認しました。そして観光行動の目的は「観光立国」であり、そこから国際間の相互理解を実現し究極の世界平和とゆたかな人間生活をめざすものでありました。すなわち「文化活動」「経済活動」であること、それに「連携」「協働」が「観光」のキーワードということができます。
観光振興への努力の根底にあるものは、すべての人々が「観光するこころ」をもつことにあると考えます。「観光するこころ」とは様々なものをみるとき、考えるとき、たえず「観光」を念頭において価値判断し行動するという心をもつことであります。
われわれは自分のまわりにいつもあるものについては、ともすれば無関心に過しがちです。
しかし「観光するこころ」すなわち「観光する人」の目線にたってまわりをみつめ直せば、そこに他地域の人々に「心をこめて観(しめ)す」に足りるものが多くあることに気付くことができます。そこから「新しい観光」が育って新しい交流がめばえるのです。
また観光客は「観光するこころ」をもって観光対象にふれ、それを敬虔な姿勢で「心をこめて」観ることが求められます。その姿勢あってこそ、その対象からより充実した観光効果が得られるでありましょう。
一方観光客を受け入れる人々は「観光するこころ」をもって、すなわち暖かいもてなしの心をもって旅人を迎えることが望まれます。
このように「観光するこころ」をもった人同士がふれあうとき、そこにひとつのよきコミュニケーションが生まれ、観光客と受入側の人々の間に対話が生まれることになります。このように人々の実り多い交流が実現するとき、そこに観光を通じて新しい「文化」が育まれることになると思います。
これからの国際社会を、また日本を平和でゆたかな住みやすいものとするためのいとなみを、この観光交流による新しい文化が支えていくことになるでしょう。二一世紀の世界文化をつくりあげるためにも「観光」の果たすべき役割はきわめて重かつ大であると考えます。
本書の上梓にあたり多くの方々のお世話になりました。
とくに丁野朗さん、伊藤陽朗さん、太田芳美さん、雨森雄一さん、真部幸久さんには格段のご指導ご支援をいただきました。
また学芸出版社の前田裕資さんはじめスタッフの皆さんの御高配を得ました。厚く御礼申し上げます。