LRTと持続可能なまちづくり


青山吉隆・小谷通泰 編著

内容紹介

なぜ今LRTなのか?効果と課題を徹底検証

なぜ今LRTなのか? 低炭素社会の実現に向け、公共交通重視へと転換する切り札となるのがLRTだ。その機能・特性、普及状況、導入に向けた交通戦略、道路空間の課題、事業化と合意形成の手法などを解説。さらに都市アメニティへの効果、二酸化炭素削減への貢献など、具体的な事例や数値をあげ、わかりやすく徹底検証した。

体 裁 B5変・224頁・定価 本体4200円+税
ISBN 978-4-7615-4082-1
発行日 2008-03-30
装 丁 上野 かおる


目次著者紹介まえがき

はじめに

序章 なぜ、今、LRTなのか

1章 クルマ社会からの脱却と公共交通の再生

2章 LRTの特徴

2.1 路面電車からLRT

コラム1 ライトレールとヘビーレール

2.2 LRTの導入・普及状況
2.3 LRTとバスの役割分担

コラム2 BRT(バス・ラピッド・トランジット)

2.4 LRTと道路渋滞

コラム3 自動車による経路選択の仕組み

3章 LRTと交通戦略

3.1 LRTを核としたパッケージ・アプローチ
3.2 公共交通機関の利用促進

コラム4 モビリティ・マネジメント(MM)

3.3 自動車利用の抑制

コラム5 路面電車のユニークな活用 ─ カーゴ・トラム

3.4 シームレスな運賃制度の導入
3.5 LRTの走行空間の確保
3.6 LRTと道路空間の再配分

4章 LRTの事業化と合意形成

4.1 LRTの整備・運営主体と財源

コラム6 諸外国の公共交通への公的補助を支える財源制度

4.2 LRT導入のための支援制度

コラム7 国内のLRT整備支援制度の導入実績

4.3 社会的合意の進め方とLRT整備
4.4 市民参加による合意形成

5章 LRTと都市アメニティ

5.1 都市アメニティ
5.2 魅力ある都市空間の創出
5.3 バリアフリーの実現

コラム8 LRTによるまちの賑わい創出

5.4 安全で安心な都市空間の実現

6章 持続可能な都市とLRT

6.1 地球環境問題と自動車交通
6.2 持続可能な都市とコンパクトなまちづくり
6.3 コンパクト化のための仕組み

コラム9 フランスのLOTI(国内交通基本法)とPDU(都市圏交通計画)

6.4 中心市街地の活性化への貢献

7章 LRTの整備と導入に向けた取り組み事例

7.1 ストラスブール──LRTによる都心の交通環境の再生
7.2 フライブルク──環境首都における交通政策
7.3 ポートランド──コンパクトなまちづくりを支える公共交通
7.4 富山市──わが国で最初の本格的なLRTの導入
7.5 堺市──動き出したLRT導入の取り組みと課題

8章 LRTを活かしたまちづくりへの提言

青山吉隆(あおやま・よしたか)

1967年京都大学大学院土木工学専攻修了。工学博士。徳島大学工学部教授、京都大学大学院工学研究科教授(都市社会工学専攻)を経て、現在、広島工業大学環境学部教授(地域環境学科・環境デザイン学科)、京都大学名誉教授。主な著書:『道路投資の社会経済評価』(東洋経済新報社、分担)、『図説都市地域計画』(丸善、編・分担)、『職住共存の都心再生』(学芸出版社、編・分担)、『都市アメニティの経済学』(学芸出版社、共著)など。

執筆担当:序章、5・1、6・1

伊藤 雅(いとう・ただし)

1995年筑波大学大学院博士課程社会工学研究科都市・地域計画学専攻中退。博士(都市・地域計画)。現在、和歌山工業高等専門学校環境都市工学科准教授。主な論文:『欧州路面電車の魅力』(オペレーションズ・リサーチ、2004.1)など。

執筆担当:2・2、2・3、コラム2・4

小谷通泰(おだに・みちやす)

1977年京都大学大学院工学研究科交通土木工学専攻修士課程修了。工学博士。現在、神戸大学大学院海事科学研究科教授。主な著書:『歩車共存道路の計画・手法』(都市文化社、共著)、『人と車・おりあいの道づくり』(鹿島出版会、分担)、『都市の交通を考える』(技報堂出版、分担)、『クルマ依存社会』(実教出版、分担)、『都市・公共土木のCGプレゼンテーション』(学芸出版社、共著)、『まちづくりのための交通戦略』(学芸出版社、共著)など。

執筆担当:1章、3・1、3・4、6・2、7・3、7・4、8章

柄谷友香(からたに・ゆか)

2000年京都大学大学院工学研究科土木システム工学専攻博士課程単位取得退学。博士(工学)。現在、名城大学都市情報学部准教授。主な論文:『中心市街地におけるトランジットモール導入の効果分析』(共著、土木計画学研究・論文集)など。

執筆担当:5・2、6・1

酒井 弘(さかい・ひろむ)

1979年立命館大学理工学部数学物理学科数学課程修了。現在、株式会社まち創生研究所代表取締役。主な著書:『ポスト・モータリゼーション』(学芸出版社、分担)、『中心市街地活性化三法改正とまちづくり』(学芸出版社、分担)など。

執筆担当:7・2、コラム5

塩士圭介(しおじ・けいすけ)

1998年金沢大学大学院工学研究科土木建設工学専攻修了。修士(工学)。技術士(建設部門)。現在、社団法人システム科学研究所調査研究部主任研究員。

執筆担当:5・4

鈴木義康(すずき・よしやす)

1991年岐阜大学大学院工学研究科建設工学専攻修了。工学修士。技術士(総合技術監理部門、建設部門)。現在、株式会社日建設計総合研究所主任研究員。主な著書:『風土工学への招待』(山海堂、分担)、『参加型・福祉の交通まちづくり』(学芸出版社、分担)など。

執筆担当:4・4、コラム8

谷口 守(たにぐち・まもる)

1989年京都大学大学院工学研究科交通土木工学専攻博士課程単位取得退学。工学博士。現在、岡山大学大学院環境学研究科教授。主な著書:『Cities in Competiotion』(Longman、分担)、『環境を考えたクルマ社会』(技報堂出版、共著)、『モビリティ・マネジメントの手引き』(土木学会、分担)、『Spatial Planning,Urban Form and Sustainable Transport』(Ashgate、分担)、『ありふれたまちかど図鑑』(技報堂出版、共著)など。

執筆担当:6・2、6・3、6・4

塚本直幸(つかもと・なおゆき)

1976年京都大学大学院工学研究科交通土木工学専攻修士課程修了。博士(工学)。現在、大阪産業大学人間環境学部教授。主な著書:『交通システム』(国民科学社、共著)、『ライフラインから見た安全都市づくり』(沿岸域環境研究所、分担)、『阪神・淡路大震災調査報告 共通3巻 都市安全システムの機能と体制』(丸善、分担)、『図説都市地域計画』(丸善、分担)など。

執筆担当:2・4、3・6、7・5、コラム3

波床正敏(はとこ・まさとし)

1993年京都大学大学院工学研究科交通土木工学専攻修士課程修了。博士(工学)。現在、大阪産業大学工学部准教授。主な著書:『図説都市地域計画』(丸善、分担)、『整備新幹線評価論』(ピーテック出版部、共著)など。

執筆担当:2・1、3・2、4・2、コラム1・7

松中亮治(まつなか・りょうじ)

1996年京都大学大学院工学研究科交通土木工学専攻修士課程修了。博士(工学)。現在、岡山大学大学院環境学研究科准教授。主な著書:『都市アメニティの経済学』(学芸出版社、共著)、『図説 都市地域計画』(丸善、分担)、『FUNDING TRANSPORT SYSTEMS』(Perga-mon、共著)、『TRANSPORT POLICY AND FUNDING』(ELSEVIER、共著)など。

執筆担当:3・3、4・1、7・1、コラム6・9

山中英生(やまなか・ひでお)

1982年京都大学大学院工学研究科交通土木工学専攻修士課程修了。工学博士。現在、徳島大学大学院ソシオテクノサイエンス研究部教授。主な著書:『歩車共存道路の計画・手法』(都市文化社、共著)、『人と車・おりあいの道づくり』(鹿島出版会、分担)、『都市の交通を考える』(技報堂出版、分担)、『都市・公共土木のCGプレゼンテーション』(学芸出版社、共著)、『まちづくりのための交通戦略』(学芸出版社、共著)、『参加型社会の決め方』(近代科学社、分担)など。

執筆担当:3・1、4・3

義浦慶子(よしうら・けいこ)

2000年金沢大学大学院自然科学研究科環境基盤システム専攻博士前期課程修了。工学修士。現在、株式会社地域未来研究所研究員。

執筆担当:3・5

吉川耕司(よしかわ・こうじ)

1988年京都大学大学院工学研究科交通土木工学専攻修士課程修了。博士(工学)。現在、大阪産業大学人間環境学部教授。主な著書:『都市の交通を考える』(技報堂出版、分担)、『都市・公共土木のCGプレゼンテーション』(学芸出版社、共著)、『図説都市地域計画』(丸善、分担)、『社会現象の統計分析』(朝倉書店、分担)など。

執筆担当:5・3

吉田諭史(よしだ・さとし)

2006年京都大学大学院工学研究科都市社会工学専攻修士課程修了。工学修士。現在、環境省水・大気環境局自動車環境対策課。

執筆担当:5・1

自動車に過度に依存したまちづくりの限界がみえてきた。自動車のもつ便利さの反面、交通事故や交通渋滞、大気汚染・騒音などその弊害は今なお深刻な状況にある。郊外での虫喰い的な市街地(スプロール)の拡大と中心市街地の衰退という都市構造の歪みを生み出したのも、クルマ社会の急激な進展が一因である。また、地球環境問題への対応が早急に迫られているが、自動車交通問題はそうした課題を解決する上で鍵を握っていると言われている。今日、国の内外で、人にやさしい、そして環境にもやさしい“都市と交通”のあり方が模索されている。これまでのクルマ依存型の交通システムから脱却し、公共交通と歩行者・自転車を重視した交通システムへと転換し、持続可能なまちづくりを進めることが低炭素社会の実現に向けた世界的な潮流になっている。

都市内の公共交通機関には、鉄道、バス、新交通システム、モノレールなど、多様な手段が存在している。特に最近、注目をあびているのが「LRT(Light Rail Transit)」と呼ばれる、「次世代型の路面電車」である。そして、このLRTが人と環境にやさしい“都市と交通”の切り札となることが各国の事例で実証されつつある。都市交通政策において、諸外国とわが国の大きな相違のひとつに、こうしたLRT活用に対する姿勢の違いがある。諸外国の多くの都市では、その良さが再認識され、一度全廃したものを復活させたり、新設したりしている。これに対してわが国では、これまでLRT導入に関して数多くの議論はなされてきてはいるが、最近になってようやく、富山市ではじめて本格的な導入が実現し、堺市で事業化に向けてのスタートが切られたのに留まっている。

こうした現実を踏まえ、本書は、LRTの活用を通じてまちづくりに対する新たな価値観を構築しなければならないという、筆者らの強い思いを伝えたいと考え執筆を始めたものである。その主張は、『自動車に過度に依存する都市構造では、便利でアメニティ豊かな都市を創ることと、環境負荷を低減させることは、どちらか一方を選択するというトレードオフの問題であった。しかし、LRTを機軸として、バスなどの公共交通機関に重要な役割を持たせ、さらに自転車や歩行者を優先する都市構造が実現すれば、都市アメニティを向上させると同時に環境負荷を低減させ、持続可能な都市を創造できる』という点である。本書では、こうした主張を検証していきたいと考えている。

本書の構成は以下のとおりである。まず序章において、世界の各都市で、なぜ、今、LRTが注目されているのか、問題提起を行うとともに、本書のねらいを明らかにしたい。
次いで、クルマ社会がもたらした様々な弊害を明らかにした上で、それを解決するために公共交通が果たす役割、とりわけLRTへの期待と可能性について述べる。また、本書で注目するLRTの定義や機能、国の内外での導入・普及状況、バスと比較したLRTの特性、さらにLRTの導入による道路交通への影響について解説する。
そして、LRTの導入にあたっては、それを核とした交通施策の組み合わせ(パッケージ)がきわめて有効なことを指摘するとともに、こうしたパッケージのデザインの考え方、あるいはパッケージを構成する個々の施策、導入空間を巡る課題について解説する。LRTの導入を実現させるためには財政上の支援制度、関係主体間での合意形成が重要な要素となるが、ここではこれらについても国の内外の事例を通じて課題を述べる。
さらにLRTを核とした施策パッケージの実現により、都市のアメニティの向上に対してどのような効果が期待できるか、また環境負荷を低減し、持続可能なまちづくりにどのようにして貢献できるのかを論じたい。同時に、国の内外におけるLRTを活かしたまちづくりの実践例を紹介し、その全体像を明らかにしていきたいと考えている。
最後の章では、わが国におけるLRTを活かしたまちづくりに向けての提言を示すことによって本書を締めくくる。

本書の執筆者は全員で15名にも及んでいるが、いずれも交通計画・都市計画の専門家として国内外のLRTに関連する調査研究に携わってきており、現地にも赴いて直に情報を収集するなど実態にも精通している。思いを同じくするこれらの執筆者が集まって、これまで何度も研究会を開催し、相互に情報交換を行いながら議論を深めてきた。こうした多数の執筆者の議論にもとづき、編者が中心となって、1冊の書物として一貫性を保つよう留意し、成果をとりまとめたのが本書である。
LRTの導入議論は、必然的に道路空間の再配分、都市空間の再構築の議論へと展開することになる。この議論が契機となって、自動車に過度に依存した都市構造やライフスタイルを見つめ直し、LRTを活用した人と環境にやさしいまちづくりに対する理解を深めて頂くのに、本書が少しでもお役に立つことができるのであれば筆者らの望外の喜びである。

最後に、本書の刊行にあたっては、学芸出版社の村田譲氏、前田裕資氏に、企画段階から仕上げに至るまで、終始適切なアドバイスを頂いた。感謝の意を表する次第である。

青山 吉隆
小谷 通泰
2008年2月

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