伝統の続きをデザインする

若林剛之 著

内容紹介

日本の伝統の軸線上にあるモダンデザインをコンセプトに、ポップな地下足袋や和装を展開するSOU・SOUは、洋服中心のファッション業界において今までにないスタイルで根強い人気を得ている。国産にこだわり、衰退する日本の伝統産業の救世主ともなるプロデューサーが語るブランディングの手法と軌跡。初版限定特典付。

体 裁 四六・192頁・定価 本体1800円+税
ISBN 978-4-7615-1325-2
発行日 2013/05/01
装 丁 SOU・SOU


目次著者紹介はじめにおわりに書評イベント

1 ファッションデザイナー、地下足袋に出会う

ファッションデザイナーになりたい!
学んだのは、デザインではなく仕立ての技術
憧れのDCブランド勤務
アメリカに行かねば!
手作りのセレクトショップ
偶然が引き寄せたパートナー
普遍的な魅力を持つテキスタイルデザイン
「SOU・SOU」始動
東京での苦戦
地下足袋との遭遇
和装文化の空白の歴史を埋める
SOU・SOUをつくる現場Ⅰ 誰も作ったことがない地下足袋を─㈱高砂産業

2 かわいくてポップで欲しくなる、これが一番大事

地下足袋こそインターナショナルだ
洋装は、もうやめだ
100年の織機が紡ぐ独自の風合い
ニーズを見失った伝統
国産へのこだわり
シンプルな技術に着目する
若者が産地のスターに
職人は、歌う場のない歌手
デザインの質が決め手
SOU・SOUをつくる現場Ⅱ 江戸時代から庶民に愛される伊勢木綿─臼井織布㈱

3 和装が断然カッコいい! 独自のスタイルを創る

ファッション界のはぐれもの
自社メディアを持つ
インターネットの力
ブランドストーリーを組み立てる
親しみやすさを表現する
できることはすべて自分たちで
企業とのコラボレーション
チャンスは誰にでも訪れる
自分が好きなことよりも、相手に求められることを
支えてくれたスタッフたち
流行ではなく、文化を創りたい
SOU・SOUをつくる現場Ⅲ 本気で京絞りに向き合う若き職人─たばた絞り

4 SOU・SOUは流行らない。だから廃れない

僕らの目指すところ
カテゴリーにとらわれない
仕事の価値を上げるファッション
伝統を「更新」する
無駄な競争はしない
伝統産業に目を向けてもらうために
クリエイターが支える日本のものづくり

若林 剛之(わかばやし たけし)

1967年京都生まれ。日本メンズアパレルアカデミーでオーダーメイドの紳士服を学んだ後、1987年㈱ファイブフォックス入社。1993年まで企画パターンを担当する。退社後、渡米。1994年自身で買い付けした商品を扱うセレクトショップをオープン。1996年よりオリジナルブランド「R. F. P」を立ち上げる。2001年「teems design shop」オープン。2003年「SOU・SOU」をスタート。現在は、SOU・SOUのプロデューサーとして活動の場を広げている。
2008年京都造形芸術大学准教授就任。2011年名古屋芸術大学特別客員教授就任。

構成・コラム執筆

石田祥子(石田原稿事務所)

SOU・SOUは京都にある小さな会社だ。

もともとファッションの世界で生きてきた僕が、不思議な縁で建築家の辻村久信さん、テキスタイルデザイナーの脇阪克二さんと出会って、今からちょうど10年前に立ち上げた。

SOU・SOUという名前は、日本語の「相槌(あいづち)」から来ている。日常会話の中で「そうそう」とお互いを認め合うこのフレーズが、とても日本的だと思って、これをブランド名にした。

「日本の伝統の軸線上にあるモダンデザイン」というコンセプトのもとに、独自の道を進んできた、いわば、ファッション界のはぐれものである。

高度経済成長期、京都で生まれた僕は、高校時代にファッションに目覚め、東京の服飾専門学校を卒業後、憧れだった原宿のアパレルメーカーに就職した。

しかし、実際に働いているうちに、ファッションの本場は東京ではなく、やはり外国だと思うようになり、独立して欧米から自分で買い付けた洋服を扱うセレクトショップを始めた。

そしてある時ふと「海外のトレンドを輸入しているだけの僕は、本当に日本のクリエイターと言えるのか?」と疑問をもつようになり、日本人なら日本の衣装文化を創るべきではないかという思いに至った。それも、昔とは違う平成の日本の衣装文化を。

そう考えるきっかけとなったのが地下足袋だ。

昔からある地下足袋を、ポップでカラフルな生地で作ってみた。ただそれだけのことなのに、地下足袋を発売してからは目の前の景色が変わった。出会う人が変わり、周りの環境もがらりと変わっていくうちに、僕自身の考え方もどんどん変わっていったのだった。

一番変わったのは、「外国の文化に憧れる日本人」だった僕が「外国人が憧れるような日本文化を創りたい」と思うようになったことだ。
日本には、世界に誇れる技術や伝統文化がたくさんある。しかし近年、伝統産業は衰退の一途を辿っているという。本来ならば今を生きる自分たちの世代が、日本の昔ながらの良いものはちゃんと残し、場合によっては、さらに発展させていくというのが望ましい姿ではないだろうか。

そのためには、若手クリエイターの参入が必要不可欠だ。若い感性でものづくりをすることで、廃れつつある伝統的なものが、今の時代に求められるものになる。それが「日本の伝統の軸線上にあるモダンデザイン」を創造することになるのと同時に、外国人が憧れるような日本文化を創ることにもつながると思うのだ。

SOU・SOUを立ち上げてから、僕はそういう思いでものづくりをしてきた。

そんなSOU・SOUに興味をもってくださる方や、日本でものづくりをされている方、あるいは、若きクリエイターたちにこの本を届けたい。

SOU・SOUを始めてから、自分の中で「成功観」が大きく変わりました。

昔は高級スポーツカーに乗って、高級腕時計をつけて……みたいなことに憧れていました。また、会社はどんどん大きくなっていくことに意義があると思っていました。

しかし、今はまったくそんなものには憧れず、会社はむやみに大きくするのではなく、質の向上を大切にしようと思うようになりました。
特別なことよりも、普通の日常こそが大切で、日々仕事の手を抜いてはいけないと思うようになりました。これは日本のものづくりに携わるようになってからだと思います。

日本のものを作ると、喜んでくださる人がとてもたくさんおられます。励ましのお手紙をいただくこともあります。日本らしさが年々失われつつある現状を、皆どこかで憂いてるのでしょうか。

よく言われていることですが、国内の生産現場はとても厳しい状況です。しかし才能ある若手が参入すれば、この先、また盛り返せると信じています。日本は大昔からものづくりの国、職人の国です。発展はしても、衰退している場合ではないのです。

SOU・SOUがきっかけで、ほんの少しでも日本のものづくりに若い人が興味を持ってくださったらこれほど嬉しいことはありません。
SOU・SOUは、これからもいろんなことにチャレンジしながら、職人さんたちと一緒に成長できたらいいなと思っています。

今回このような出版の機会をくださった学芸出版社の中木様、本書の構成をご担当くださった石田様には感謝いたします。

社内では、日常業務に追われながらもブックデザイン、原稿の加筆、修正を手伝ってくれた企画室長の橋本にも感謝したい。

読者の方には、最後までお付き合いいただきまして本当にありがとうございます。

これからもSOU・SOUを何とぞよろしくお願いいたします。

SOU・SOU代表 若林剛之

カラフルでポップな地下足袋、という奇抜なアイテムで知られる『SOU・SOU』。その前身〈teems design & moonbalance〉の時代から雑誌の取材等でお世話になっていて、当時「長いブランド名やなぁ」と思いながら原稿を書いていたのだけれど、なぜそうなったのか、また、ご本人も長過ぎると思っていらしたことが明かされていて、思わずニヤリ。

DCブランド全盛期に高校生だった著者、若林剛之さんの若かりし頃から今に至るまでの、ファッションへの変わらぬ想いの熱さとその方向性の変遷が、読みどころ。「一番変わったのは、「外国の文化に憧れる日本人」だった僕が「外国人が憧れるような日本文化を創りたい」と思ったことだ」。憧れのDCブランド勤務を経て、ショップオーナーとして独立した若林さんが、なぜ地下足袋に注目することになるのか。同世代のわたしには、その理由がとてもすんなりと腑に落ちるのだが、みなさんはどうだろう。

「守る」でも「革新」でもない、タイトルの「伝統の続き」というフレーズが、らしくてカッコイイ。そのために若林さんがこだわるのは「国産」ということ。「産地を活性化させるためには、若い人の力が必要だ。若い人を引き付けるようなポップでかわいいものを作らなければいけない。また、職人という仕事のカッコよさも伝えていかねばならない」。地下足袋メーカー、そして伊勢木綿や有松鳴海絞りといった衰退する伝統産業と出会い、共にものづくりをしていく過程は、きっと大変だったに違いないが、軽やかに描かれているので読んでいて小気味がいい。

さて、地下足袋同様人気のアイテムに、足袋下がある。すなわち又割れのソックス。ある日わたしが「お寺やお稽古に行くとき用の白無地があればいいのに」とこぼしたら、若林さんが「あ、すぐ作ります」とおっしゃって、本当にすぐに店頭に並んでいたときには驚いた(ポップさがウリのSOU・SOUなのに!)。その足袋下は「お家元好み」という素敵な名前がついて今も定番としてラインナップされているが、これ実は、マキ好みでなのである(笑)。もとい、そんなサービス精神と姿勢の柔軟さ、ノリの良さこそが、小さなブランドSOU・SOUの「要」なのだということが、この本を読むとよくわかる。

(文筆家・わこものスタイリスト/高橋マキ)


担当編集者より

京都にあるSOU・SOUは、いまや全国、はたまた世界中からファンがやってくるというファッションブランドだ。

他にはないスタイルやデザインで、国産にこだわった着実なものづくりをしている。ファストファッションが勢いを増す今、これをファッションと呼んでよいかどうか自信がないが、そのオリジナリティは強みになる。

景気がよいとは言えないアパレル業界で、広げすぎない経営と、企業とのコラボレーションなどを掛け合わせる若林さんの手腕は参考になるが、本人には気負いを感じさせない軽快さがある。

デザインの力によって日本らしさや伝統産業がもつ技術の素晴しさに気付かせてくれるSOU・SOUは、まさにクリエイティブ! これからも目が離せません。

(なかき)

*終了しました

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『伝統の技を世界で売る方法』『伝統の続きをデザインする SOU・SOUの仕事』両書籍の著者がコラボレーションするプロジェクトのクラウドファンディングが実施されています

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