伝統の技を世界で売る方法

西堀耕太郎 著

内容紹介

廃業寸前の和傘屋を継承して売上を50倍に復活させ、伝統的和傘の継承のみならず、その構造・技術を活かしたデザイン照明を海外15ヶ国で展開する著者が、海外パートナー・バイヤーと連携した商品開発・販路開拓でグローバル・ニッチ・トップを目指す独自の手法を紹介。伝統の技術で海外に活路を求める中小事業者必読の一冊。

体 裁 四六・200頁・定価 本体2000円+税
ISBN 978-4-7615-2676-4
発行日 2018/05/01
装 丁 上野 かおる


目次著者紹介はじめに
もくじ

はじめに

第1章 中小企業の活路は海外にあり ―日吉屋メソッドができるまで―

廃業寸前の和傘屋が世界約15ヶ国でデザイン照明を売るまで
伝統は革新の連続 ―企業理念の重要性―
海外展示会で学んだこと ―日吉屋メソッドの芽生え―
「ネクスト・マーケットイン」のメソッドを確立するまで
日吉屋でできたことは、すべての中小企業でできる

第2章 海外展開の前にすべきこと

まずは自社の可能性を探ろう
めざすは「グローバルニッチトップ」
社内体制を構築する
公的支援の活用法と注意点
英語との付き合い方
コラム 英語力ゼロからスタートし、大きく飛躍した「西村友禅彫刻店」
知的財産権との付き合い方

第3章 海外代理店・バイヤーとともに「売れる」製品開発へ

いざ、海外バイヤーと出会う場へ
海外バイヤーの種類と特徴を知る
コラム プライスリストの作り方
海外販路開拓の9割は人間関係づくり
現地の声を聴き、「売れる」製品のコンセプトと価格設定を追求する

第4章 デザイナー・職人との製品づくり

デザイナー・職人とは対等なパートナー関係で
デザインで「技術」を「感動」に変える

第5章 効果的な広報・ブランディングで知名度を上げる

ブランディングには、商品開発と同じ時間・労力・予算がいる
中小企業こそ、広告よりも「ストーリー」を活かした広報を
コラム 前エルメスインターナショナル副社長 齋藤峰明氏との出会い

第6章 日吉屋メソッドは、どんな分野でも通用する

世界がどんどん近くなる中で
世界の「お誂え市場」が持つ可能性
人との出会いと対話が、視野を広くする
おわりに
海外事業相談先一覧
海外事業関連補助金等一覧

西堀耕太郎(にしぼり こうたろう)

1974年、和歌山県新宮市生まれ。唯一の京和傘製造元「日吉屋」五代目。
カナダ留学後市役所で通訳をするも、結婚後妻の実家「日吉屋」で京和傘の魅力に目覚め、脱・公務員、職人の道へ。2004年五代目就任。「伝統は革新の連続である」を企業理念に掲げ、伝統的和傘の継承のみならず、和傘の技術、構造を活かした新商品を積極的に開拓中。グローバル・老舗ベンチャー企業を目指す。
国内外のデザイナー、アーティスト、建築家達とのコラボレーション商品の開発にも取り組んでおり、2008年より海外展示会に積極的に出展。和風照明「古都里 ‐KOTORI‐」シリーズを中心に海外輸出を始める。現在約15カ国に展開中。
素材にスチール+ABSを採用した可変照明「MOTO」にて国際的評価の高いiF Product Design Awardを2011年に受賞。ブライダルデザイナーとのコラボ「Wagasaドレス」での2011パリコレ出品や、茶道家、建築家とのコラボ「傘庵」等、ジャンルを限定する事なく活動の幅を広げる。
2012年、日吉屋で培った経験とネットワークを活かして、日本の伝統工芸や中小企業の海外向け商品開発や販路開拓を支援するT.C.I. Laboratory(現:株式会社TCI研究所)を設立し、代表に就任。延べ約100社以上の企業の海外展開を支援。
2015年、志を同じくする日仏の企業と共同で、株式会社ブランマントを設立し、パリ市内マレ地区に、約180m2のショップ兼ショールーム「アトリエ・ブランマント(Atelier Blancs Manteaux)」をオープン。日本の優れた商品や商材のプロモーションや販売を行い、海外デザイナーとの共同商品開発等も手掛ける。

私の経営する株式会社日吉屋は、江戸時代後期の創業以来、5代にわたり約160年以上続いてきた「京和傘」の老舗です。和傘とは、主に竹と和紙で作られる手工芸品で、昔は誰もが雨傘や日傘として使う日常生活品でした。和傘の誕生は古く奈良時代にさかのぼることができ、1千年以上の歴史を有します。

しかし、暮らしの西洋化にともない、洋傘やビニール傘、折りたたみ傘が台頭するにつれ、日常的に和傘を使う人はほぼ皆無となり、和傘は寺社仏閣や茶席、伝統芸能の舞台など、ごく限られた場でのみ使われる存在になってしまいました。そして、かつては京都市内だけでも200軒以上あったと言われる和傘屋のうち、現在でも和傘を制作しているのは日吉屋のみ。京都のほか岐阜、金沢、鳥取、徳島など全国の産地を見ても、和傘製造元は10軒あるかないかという、まさに風前の灯火のような状態です。

かくいう日吉屋も、一度は廃業寸前まで追い込まれた時期があります。最盛期には50人近くの職人を抱え、支店までも出していたのが、高度経済成長と反比例するように斜陽化が進み、私が日吉屋を知った20年前には、家族だけで細々と傘を作っているという状態でした。

老舗とは名ばかりで取引先もほとんどなく、洋傘や雑貨の仕入れ販売にトライするも決定打にはならず、最後は500円のビニール傘まで売る始末。それでも年間売上は100万円台にまで落ち込み、誰もが「もうダメだ」と匙を投げかけていたところに飛び込んだのが私でした。伝統工芸には全くのド素人で、会社経営の経験など皆無、さらに最終学歴は高卒、という田舎町出身の一公務員です。

公務員を続けながら日吉屋に通い、インターネット通販の仕組みを整えたり、自ら和傘づくりを学んでみたり、次第に日吉屋に深く関わるようになった私は、ついに2003年、5代目として会社を継ぐことを決意します。インターネット通販が軌道に乗っていたおかげで、一時期のような低迷は脱していたものの、和傘だけの商いではいずれ頭打ちになることは目に見えていました。そんな中で紆余曲折を繰り返した末、日吉屋に活路を開いてくれたのは、和傘製造の技術を転用したデザイン照明「古都里‐KOTORI‐」でした。

和傘の骨組みの美しさ、和紙を通したやわらかい光など、その魅力を最大限に活かすべく、外部デザイナーやプロデューサーの協力を得て開発したこの商品は、2007年にグッドデザイン賞特別賞(中小企業庁長官賞)を受賞。その後もフランスやドイツの展示会で注目を浴び、海外代理店と契約を結ぶなど、これまでとはまったく違う販路開拓に成功したのです。今では「古都里」をはじめとする日吉屋のデザイン照明は、世界約15ヶ国で販売されており、かつてわずか100万円台だった年商は、この10年間で製造部門の売上高は約50倍、グループ会社を含めた総額では約150倍に拡大しました。

和傘の老舗でありながら、デザイン照明で新規事業を開拓し続けるという姿勢。それを支えているのが、「伝統は革新の連続」という企業理念です。伝統技術をベースに、現代生活の中で使えるデザイン性の高い製品を生み出し、世界へ発信すること。それによって、結果的に私たちのルーツである和傘製造の技術も、死に絶えることなく生き永らえるのです。今では若い和傘職人を雇い養成しながら、次世代への技術継承も進んでいます。

そうしていつしか「伝統の技を世界で売る」ことは、私のライフワークとなりました。日吉屋で培った製品開発のノウハウ、海外進出に欠かせない知識やネットワークを、幅広い分野の中小企業の支援に活かしたいと考えた私は、2012年にグループ会社TCI研究所を設立。国際色豊かなブレーンとともに、さまざまな海外進出支援プロジェクトを立ち上げて運営しており、現在支援先企業はのべ130社を超えています。

この本では、日吉屋がいかにして絶滅危惧種のような和傘からデザイン照明を開発し、海外事業を展開するに至ったのか、その独自手法をメソッド化したマーケティング理論「ネクスト・マーケットイン」をご紹介します。活路を模索するものづくり中小企業が、伝統のみに縛られることなく新規事業を立ち上げ、売上高数千万~1億円程度の事業に育てることができれば、そしてそのような新規事業が日本全国の数千社で具現化すれば、どれだけ経済活性化や文化の継承に貢献できることでしょう。世界をあっと言わせる技術を有する企業は、まだまだ数多くあるはずです。

私が日吉屋を継いだ時は、製品開発のノウハウも、お金も人脈も、何もない状態でした。ここに書いたことは、すべて私が過去15年の間に、試行錯誤を繰り返しながら実践してたどり着いた結論ばかりです。私にできたことは、必ずあなたにもできます。日吉屋が辿った失敗の歴史をショートカットすることができるなら、弊社の何倍もの成功を、弊社の半分の時間で達成することも十分可能でしょう。

この本が、あなたのヒントとなり、誇りある幸せな人生を送るきっかけになることを願っております。

日吉屋5代目当主 西堀耕太郎

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