いま、都市をつくる仕事
内容紹介
都市における課題の変化とともに、都市をつくる仕事も大きく変わっている。そこには、従来の枠組みを超えて、信念と情熱をもって働くことで都市を魅力的にしている人たちがいる。本書では、その多様なアプローチによる「都市」のつくり方と、どうやって「仕事」につなげているかを探った。新しい可能性と期待を若者へ伝える。
体 裁 A5・224頁・定価 本体1900円+税
ISBN 978-4-7615-1293-4
発行日 2011/11/01
装 丁 UMA/design farm
序章 いま、都市に関わるということ
1章 都市へのアプローチ
00 10の事例にみる都市への4つのアプローチ
複数の立場に身をおき、仕事につなげる
01 とにかく実践、そこから生まれる/コンサルタント×NPO 泉 英明
02 市民活動を面白がり、ビジネスにも展開する/コンサルタント×NPO あまけん
いろいろな経験を活かし、行政で挑戦する
03 地域の想いと重なる建築ルールをデザインする/京都市都市計画局 文山達昭
04 市民活動家からの転身、まちの未来に責任を持つ/奈良市長 仲川げん
「あたりまえ」を再発見し、自らまちを変える
05 地域に根ざしたまちの魅力を育むツーリズム/OSAKA旅めがね
06 戦後ビルへの愛から生まれた使命感/ビルマニアカフェ(BMC)
07 カフェで極めた自己表現が生んだ、地域のムーブメント/サロン・ド・アマント
裏方に徹し、地域に寄り添う
08 住みながら日常にアイディアをプラスする/地域密着型プランナー 高林洋臣
09 使命と興味を感じる現場にあらわれ黒子となる/まちづくりコーディネーター 大島祥子
10 地域を徹底的に楽しみ、役目を果たして去る/コミュニティデザイナー 山崎 亮
2章 ひろがる仕事のかたち
若手の実践リファレンス
インタビュー
企業系 “やりたいこと”を育て、組織の仕事に活かす/山納 洋
政治・行政系 都市計画と向き合う/鄭 英柱
研究系 調査を地域の計画に還元する/岡本篤樹
NPO系 市民活動者と共感者をつなぐのりしろとなる/深尾昌峰
独立系 2つの仕事のプロを目指す/前川 章
ひろがる仕事の実像に迫る
3章 都市の魅力×仕事の可能性
00 都市をつくる仕事へのまなざし
都市という対象の捉え方
01 個人の想いを都市へつなぐ
02 都市の意味をつくる
都市をつくる仕事をつくる
03 コラボレーションをデザインする
04 お金の流れから考える
都市をつくる主体に求められるもの
05 柔軟に組織を変える
06 都市のかたちをつくる
都市をつくる仕事に携わるための方法
07 変化の最前線で働くきっかけとキャリアパス
08 今日からできる「都市をつくる仕事」の秘訣
おわりに―「都市をつくる仕事」は終わらない
はじめに─期待と戸惑い
魅力的な都市には必ず魅力的な人と仕事が存在している。都市とそこでの人々の生活は、直接目には見えない数多くの仕事によって支えられている。なかでも都市の将来ビジョンを描いたり、都市空間のデザインやコミュニティの再生に携わったりする仕事は、都市の魅力のあり方を考える上で重要な役割を担っている。本書では、このような「都市をつくる仕事」の昨今の変化の兆しを捉えることで、一般的に想像される都市計画やまちづくりの仕事だけではない、もうひとつの都市に対する関わり方を探ることを試みている。
私たち“次世代の「都市をつくる仕事」研究会”のメンバーは、20~30代のコンサルタントや建築家などの実務者、行政職員、研究者や学生などであり、都市への関わり方は様々である。「自分たちと同じ年代の若手は、いったいどのように都市に関わっているのだろう?」これからの都市計画を考えるにあたっての素朴な疑問から「都市をつくる仕事」を巡る探究がはじまった。
ここで言う「都市をつくる仕事」という言葉には、二つの思いを託している。一つは都市の「つくり方」が多様になってきていることへの期待である。都市の課題が複雑かつ多様化していることは、その解決が容易でなくなっていることとあわせて、課題に対するアプローチも多様なものにしている。「つくる」というのは、なにも都市空間の計画や整備のように大きな空間の創出や一律のコントロールといった方法ばかりを意味するのではなく、既にある空間やコミュニティに向き合い、都市のあり方や使い方を考え、そのためのルールや主体づくりを通じて都市全体の魅力や公共性のある活動を育むような意味を含んでいる。特に本書で紹介する若手の都市への関わり方は、これまでの方法には捉われない挑戦的な実践と言えるだろう。このような都市への多様な関わり方やその結果もたらされる生活の質から、今後の都市のあり方を考えてみたい。
もう一つには、このような都市への働きかけをどのように「仕事」にするのかという戸惑いもある。既存の職種や分野の枠では捉えきれないような都市との関わり方はもちろん、既に確立されている職業においても、これまでと違ったやり方で都市に新しい魅力をもたらすアプローチは確実に存在している。しかし、どのようにすればそれを職業にすることができるのかといった方法や、どのような経験やスキルが必要なのかといった情報を得る機会はほとんどない。確立されたステップや枠組みがあるわけではなく、誰もが日々模索を続けている状況であろう。このような「仕事」に就くことを目指す上での可能性を拓くヒントを探ってみたい。
多様な関わり方による都市の「つくり方」と、それをどうやってプロとしての「仕事」にしていくか。本書では、このような二つの視点から「都市をつくる仕事」のいまを見てみることで、若手の都市への関わり方の実情を明らかにし、今後の展望を浮かび上がらせようとしている。序章では、まず都市に関わることの魅力や可能性について概観している。次に1章では、主に都市の「つくり方」の視点から、多様なアプローチについて10の事例を取り上げている。続いて2章では職種と分野による「仕事」の視点から、魅力的な仕事を実践している若手に対するアンケートとインタビューの内容を紹介している。最後に3章では、これらの成果を踏まえて都市の「つくり方」の変化や「仕事」に携わるための方法などを探っている。
これから社会に出てこのような仕事に携わろうとする学生や、既に実践の現場で苦闘する若い実務者たちに「都市をつくる仕事」の魅力や可能性を少しでも届けたい。様々な課題を抱えた都市と自分らしい仕事を探す人のための処方箋のような本になれば幸いである。ぜひ「都市をつくる仕事」を実践し、都市とそこでの人々の生活に新しい魅力を重ねていってもらいたい。
おわりに─「都市をつくる仕事」は終わらない
本書は日本都市計画学会関西支部が20周年を迎えるにあたって設置した、〝次世代の「都市をつくる仕事」研究会〟が約2年半に渡って取り組んできた活動の成果を取りまとめたものである。ゲストの実践の現場に毎回赴くことで臨場感を得ながら、自由でフラットな雰囲気で開催した公開形式での議論の場は、回を重ねるごとに人と人とのつながりをひろげていった。また、これらの活動を通じて形成されたネットワークを活かすことで、多数の方々にアンケートやインタビューの協力が得られ、それらの人たちを間接的につなげることで、これからの都市をつくるムードを育むことができたのではないかと思っている。また、このような活動を企画・実施するなかで「都市をつくる仕事」の魅力や可能性についてそれぞれの立場から考え、議論を重ねてきた。3章「都市の魅力×仕事の可能性」の各論考は、このような活動から得たメンバーの体感に基づくものである。
当初から活動の到達点が明確に定まっていたわけではない。メンバーのほとんどは、この活動を通じてはじめて出会い、互いにいろいろな影響を与えあいながら、「都市をつくる仕事」の魅力を手さぐりで探していった。ふり返れば、この活動そのものもまた、都市への関わり方をひろげ、私たち自身の仕事のかたちを模索するきっかけになっていたように思う。また同時に、メンバーの間に「都市をつくる仕事」に対する共通の価値観が少しずつ築かれていった。本書を通じて、このような活動のプロセスでメンバーが体感してきた魅力を少しでも感じ取っていただき、それぞれの「都市をつくる仕事」を生み出すきっかけとなれば幸いである。
本書は大変多くの方々のご協力のもとに成り立っている。多忙を極めるなか、仕事の内容をつぶさにお話いただき、また忌憚のない議論の場をつくって頂いたゲストスピーカーの皆さま、私たちの活動の趣旨にご理解をいただき、インタビューやアンケート等に快く応えて頂いた皆さま、本研究会を温かく見守りつつ適切なご指導を頂いた日本都市計画学会関西支部創立20周年記念事業実行特別委員会の増田昇委員長、小浦・澤木・渡瀬副委員長をはじめとする委員の皆さま、そして、企画段階からアドバイスを頂いた学芸出版社の前田裕資氏、井口夏実氏、さらに、研究会のメンバーとしても労をともにしつつ編集にあたっても多々ご尽力頂いた中木保代氏、本書の意図を見事に汲み取り素晴らしいデザインにまとめて頂いた原田祐馬氏、山副佳祐氏、皆さま一人ひとりにここに記して最大限の感謝の言葉を贈りたい。皆さまとのやり取りの中から「都市をつくる仕事」は一人ではなし得ないということを改めて実感することができた。また、それと同時に、多くの人を巻き込みながら都市の魅力をつくり共有していくことの醍醐味を味わうことができたことはメンバーにとって何よりの貴重な経験であった。
人口減少をはじめ社会全体が大きな転換期を迎えるなかで、「都市をつくる仕事」には課題の変化にあわせた柔軟な対応が求められている。一つのきまった答えがあるわけではなく、都市に寄り添い、課題の本質と深く向き合うことでその解決に向けた糸口を見つけ出すような試行が続けられている現状は、本書で見てきた通りである。
このような都市への関わり方の変化について本書を取りまとめている最中に、東日本大震災が発生した。それぞれが生きることと自分にできることを問い直しながら、都市や仕事とは何かということを改めて深く考えさせられた。身の回りの空間ばかりでなく、生活や仕事、そして過去の記憶までを含めた人々の営みのすべてが一瞬にして失われてしまった状況に対して、「都市をつくる」ことは、これからもさらに大きく意味を変化させていくだろう。本書の内容は震災以前の活動に基づくものであるが、ここで紹介した人たちの仕事を通じた都市への関わり方は、これからの都市をつくることへのヒントが数多く含まれていると確信している。被害に遭われた皆さまに、謹んでお見舞いを申し上げるとともに、多くの読者が「都市をつくる仕事」の本質的な意味と向き合い、それぞれの想いを胸に都市への多様な関わり方を模索し、活動の輪をひろげていくことで、被災地の一日も早い復旧・復興と生活を支える魅力ある都市づくりに、ともに貢献してくれることを切に望んでいる。
私たちに求められていることは、このような現在進行形の「都市をつくる仕事」の変化を丁寧に追いながら、プロフェションとしてのそれぞれの能力を高め、人と人、仕事と仕事のつながりのなかで、積極的かつ柔軟に都市づくりの実践を積み重ねていくことではないだろうか。
「都市をつくる仕事」に終わりはない。さらなる仲間たちが現れ、多様な都市への関わり方が増えていくことで、都市と私たちの生活がより魅力的なものになることを信じている。
次世代の「都市をつくる仕事」研究会を代表して
山崎義人・武田重昭・大庭哲治
読者レビュー
最近、「仕事」や「働き方」に関する本をよく見かける。そういった中で本書の特徴は「都市計画」を関わる実務、研究に携わる若手が当事者として「都市をつくる仕事」に向き合った成果であることである。
まず、関西を拠点に「都市をつくる仕事」を実践する10人に対して、インタビューを行った(1章)。この10人は、従来にはない新しい職種を確立している人、これまでの職種の領域を拡大している人、既存の職種の中で創造的に仕事をしている人など、これまでの都市をつくる職種との関係という点で多様な人たちである。また、紹介はインタビューを忠実に再現するのではなく、研究会の関心である「仕事」で再構成されている。結果的に本書が現場のキーパーソンに着目した実践的なまちづくり事例本としての性格も持った。
次に、さらに43人の「都市をつくる仕事」の実践者を対象としたアンケートを行い、実践者のバックボーンを理解する充実した素材を提供している(2章)。最後に研究会メンバーによる「都市をつくる仕事」に関する知見が整理されている(3章)。このあたまで個人の都市への思いからはじまり、具体的な行動を通じて他者に思いが伝わり、他者との関係が構築されることが力となり、都市の中で具現化していくという「都市をつくる仕事」のダイナミズムが描かれている(01個人の思いを都市へつなぐ)。これは本書の一つの成果である。
さて、私が全体を通じて気になったのが、タイトルにもなっている「仕事」の意味である。本書における「仕事」は、「生計を立てる」ことを前提としているだろうか。文中では「仕事」と「職業」を区別している箇所がある一方、「仕事につなげる」「仕事をつくる」「仕事に就く」といった表現も登場する。
これに関連して、ビルマニアカフェの高岡氏からは「仕事か遊びか、という問いのたて方自体がまちがっているのではないか」という指摘もされている。このブレは、最初に示された研究会メンバーの「期待と戸惑い」からはじまる葛藤を現しているのではないか。自分たちの将来を見通すために「都市をつくる仕事」で「生計を立てる」ことに関心があるのは当然だろう。
しかし、最後には「楽しみながら働き、生きる達人たちの秘訣」として、「都市をつくる仕事」をするための「生き方」を提案している(08今日からできる「都市をつくる仕事」の秘訣)。つまり、「都市をつくる仕事」における「仕事」とは、生計を立てることよりも、思いや使命をもった活動、つまり都市での「生き方」が重要であるということに到達したのではないだろうか。これが、本書のもう一つの成果である。そして、この提案は「都市をつくる仕事」を志している人にとって、文字通り今日から実践可能な指針となっている。
最後に、本書が関西から発信された意義を考えてみたい。関西は、日本を代表する大都市圏であり、多様な活動を生み出す基盤を持っている。一方で、文中でも書かれているように多様な実践をする人たちが出会うことのできる(ギリギリ)大きさでもある(東京ほど大きすぎない)。そういった点からも、関西における「都市をつくる仕事」の実践者に光をあてた本書が全国各地の「都市をつくる仕事」を志す人たちに有効な示唆を与えることが期待される。
(東京理科大学非常勤講師/杉崎和久)
担当編集者より
この本は、関西で都市に関わる仕事をしている若手実務者、そして、関連分野の学生によって2年前に発足した研究会の活動をもとにしています。
そもそも「都市計画」という領域は曖昧でわかりにくい。道路や建物をつくるだけが「都市」をつくることではなく、都市を快適で魅力的にするためにはいろんな仕事(関わり方)があって、がんばっている人たちがいます。それを、これからの都市づくりを担う若者たちに伝えたい、というのが本書の主旨であり、研究会の目的です。
本書に登場する人たちは、企業・行政に所属するだけでなく、個人やNPOで活躍する人も多いです。仕事として(金銭的に)成り立っているかどうかは難しい面もありますが、いきいきと愉しみながら都市と人に関わる姿に、これからの可能性を感じます。
小さな試みによって、都市は大きく変えられる(かもしれない)。本書を読んで、自分なりの働き方を見つけてもらえることを願っています。
(Nk)