転換するグリーン・ツーリズム


青木辰司 著

内容紹介

身の丈の実践と交流が人と地域を豊かにする

農家民宿・レストラン、体験・滞在型学習など多様な展開を見せる日本のグリーン・ツーリズムは、単なる農村観光に留まらず、農山村地域の振興策としても注目されている。地域の実践者による主体的な活動が広まる今、持続的な展開に向け求められていることは何か。互いに心豊かになる都市農村交流の実践手法と支援体制を探る。

体 裁 四六・184.0頁・定価 本体1700円+税
ISBN 978-4-7615-1272-9
発行日 2010-05-10
装 丁 KOTO DESIGN Inc.


目次著者紹介はじめに結びに関連情報

序 今、改めてグリーン・ツーリズムを問う! その理念と政策課題

1 観光政策の転換と「ニューツーリズム」
2 農政の転換とグリーン・ツーリズム
3 日本型グリーン・ツーリズムの課題
4 ニューツーリズム政策に求められるもの

第1部 転換期を迎えた日本型グリーン・ツーリズム

第1章 行政主導から住民主導への展開―岩手県遠野市の事例

1 遠野市の概要と産業構造
2 遠野市におけるまちづくり政策の展開
3 構造改革特区と遠野市の新しい都市農村交流戦略
4 東北ツーリズム大学の設立と運営主体
5 集落立地型グリーン・ツーリズムへの展開
6 集落立地型から集落連携型グリーン・ツーリズムへ

第2章 広域連携を目指した取組と課題

1 持続可能な実践への課題
2 若い感性が提案する連携のかたち―福島県会津若松地方
3 女性のリーダーシップが地域を動かす―熊本県人吉球磨地域
4 日本型グリーン・ツーリズム展開の前提条件

第3章 重層的なネットワーキング形成に向けて

1 点から線・面へ―全国グリーン・ツーリズムネットワーク大会の意義
2 多元的連携による地域の活性化―鳴子の米プロジェクト
3 重層的な支援体制の確立と行政の役割

第2部 セカンドステージの新たな展開に向けて

第4章 日本型グリーン・ツーリズムの多様な展開―量的拡大から質的向上・充実へ

1 日本型グリーン・ツーリズムの類型
2 社会的自己実現型グリーン・ツーリズム―農家民宿、農村民泊、農家レストラン
3 労働貢献型グリーン・ツーリズム―ワーキングホリデー
4 学習型グリーン・ツーリズム―ラーニングバケーション(ツーリズム大学)
5 教育体験型グリーン・ツーリズム―教育体験旅行、修学旅行
6 資源活用型グリーン・ツーリズム―滞在型市民農園、ホテル・学校施設、空き家・古民家活用
7 人間福祉型グリーン・ツーリズム―癒し、ヘルスツーリズム

第5章 命と心を育む体験交流活動―子ども農山漁村交流プロジェクト

1 学びの場としての農山漁村
2 期待される効果と課題
3 今後の普及・展開に向けた課題

第6章 持続可能な実践に向けて

1 体験型グリーン・ツーリズムの意義と課題
2 ビジネス展開に向けた質の確保
3 品質評価支援システムの確立
4 継続的情報発信体制の確立
5 持続可能な交流活動展開に向けた人材活用

第7章 日本型グリーン・ツーリズムの課題と展望

1 滞在型グリーン・ツーリズムへ向けた課題―地域ストック資源の活用
2 英国に学ぶツーリズムの実践理念―「公共性」の新たな意味
3 女性起業の意義と可能性
4 「協発型歓交」を目指して

青木 辰司(あおき しんじ)

東洋大学社会学部教授。1952年山形県山形市生まれ。東北大学大学院教育学研究科博士後期課程単位取得満期退学。秋田県立農業短期大学専任講師、東日本国際大学助教授を経て、2000年より現職、2009年度より社会学部長。NPO法人日本グリーンツーリズム・ネットワークセンター代表理事。著書に『グリーン・ツーリズム実践の社会学』『持続可能なグリーン・ツーリズム―英国に学ぶ実践的農村再生』(いずれも丸善)他。
農水省の各種委員長や、グリーン・ツーリズムの実践支援に東奔西走し、「農」の多面的価値を踏まえた「協発的発展」の理念をもとに、日本農村の再生を目指す。英国の美しいカントリーサイドに魅せられて、毎年スタディーツアーを企画。延べ200人以上の人々と英国での感動創造物語を体感。本人の夢は、「農のあるライフスタイル」を次世代と都市農村間につなぎ、「成熟した社会」を草の根のネットワークで構築すること。

グリーン・ツーリズム。この言葉が日本で誕生して一八年。人間で言えば青年期を迎え、いよいよその内実が問われる段階になった。日本のグリーン・ツーリズムは、まさに新たな段階への転換期(セカンドステージ)に至っている。
一九九二年、農水省が「グリーン・ツーリズム中間報告書」の提案を踏まえて、従来の狭い生産振興とは異なる政策を導入したことが、グリーン・ツーリズム実践の嚆矢となった。

当初は、初発の西欧にその理念や手法を学ぶ「西欧移入段階」で、筆者も当時主なフィールドとしていた東北地方で、日本の風土とはかなり異なる西欧の余暇文化や田園地域保全・振興を紹介し、その異文化をどのように日本に導入するかを探っていたのである。

そうした日本型実践にとって大きな影響力をもったのが、大分県安心院(あじむ)町(現宇佐市)の「草の根型」の実践であった。「安心院グリーン・ツーリズム研究会」と安心院町の両輪となった確かな実践が、大分県農政部による規制緩和を引き出したのである。当時は、営業許可への厳しい規制の下で、全国各地の農家が実践をためらっていたが、九五年の「大分県農政部長通達」で、安心院町で先行的に行われていた農村民泊(農泊)が、旅館業法に基づく簡易宿所として認められたのである。これによって、いわゆる「安心院方式」といわれる「身の丈の実践」が、全国に一気に広まり、各地に農家や農村らしい個性的な宿が創生された。
九〇年末になると、「日本型創生段階」ともいうべき日本独自の実践が広まり、岩手県遠野市で筆者らが立ち上げた、「東北地区グリーン・ツーリズム・フィールドスタッフ・ミーティング」という実践者の交流・研鑽の機会が全国に広がり、〇四年には、「第一回全国グリーン・ツーリズムネットワーク熊本・水俣大会」が開催された。

四〇〇人にも及ぶ実践者の熱気あふれる大会は、その後、宮城・北海道・新潟・島根・東京・富山・香川とつながれ、一〇年一一月には三重・岐阜、そして一一年には熊本阿蘇で開催が予定されるほど、実践者のネットワークは、大きな「うねり」となっている。

こうした「草の根型」の実践基盤拡充の一方で、〇八年度から、農水省・文科省・総務省の連携で「子ども農山漁村交流プロジェクト」が開始され、同じ時期に「農林漁家民宿おかあさん一〇〇選」事業も緒に就き、筆者も両事業の実施委員会の委員長として関わってきた。

さらには、〇九年度にグリーン・ツーリズムの国際化に向けた検討委員会も主催し、国のインバウンド政策の関わりの中で、グリーン・ツーリズムの国際的な商品化に向けた試行も始まり、一〇年三月には、東洋大学において国際シンポジウムが開催された。

西欧に比していまだに脆弱な余暇文化事情や、「極東」意識の残存、円高に伴うアジア圏住民の割高感の高まり等、グリーン・ツーリズムの国際化に課題が多く、特に旅行としての収益を確保する「商品化」には、多くの克服すべき障壁がある。
しかし、わが国の独自の豊かな文化を基底で支え、つないできた、日本の農山漁村を舞台としたグリーン・ツーリズムの意義は、今後高まることはあっても衰えることはないであろう。まさに、日本のグリーン・ツーリズム実践は、「日本型展開段階」に入ったと言ってよいだろう。

この本は、こうした転換期に差し掛かったわが国のグリーン・ツーリズムの実践的課題に関して、筆者が様々な関わりを持たせていただいている地域の事例を踏まえ、各種農水省関連委員会や、全国的あるいは国際的なネットワーク大会、さらには各種学生実習等での実践支援の経験のもとに、独自の見解としてまとめたものである。

先駆的事例の後追い的な学術書ではなく、真摯な実践者に向けた専門性の高い分かりやすい実践啓発書を目指して、拙い経験をまとめたつもりである。最近では、グリーン・ツーリズムの言葉を耳にしたことのない人でも、多くの識者や個性的なライフスタイルを希求している人々は、その意義を理解し共振することが多い。
依然として続く「東京一極集中」の一方で、田舎暮らしや本物の食、自然体験への需要も高まっている。一時「デュアルライフ」と評された「二地域居住」を楽しむ人や、「滞在型市民農園」で「農のあるライフスタイル」を実現している家族が増えつつある。

閉塞的な経済不況、便利なようで住みづらい都会暮らし。もはや、我々日本人は、経済成長や都市文化のみを一元的に求める価値観から開放され、人間的なつながりや、農山漁村の清楚で奥深い伝統文化や豊かな自然を、自らの自己実現につなぐ営みを必要としている。
心ある人々が感動交流を通して、多様な自己実現を果たし、相互に「共振」「交響」する。

ともに汗を流し、ともにかけがえのない資源を保全し、再生し、創造する。農山漁村の住民の主体的な実践を、外部の心ある人々が支援し、「協働」によって新たな資源や文化を創出する「協発型発展」を目指したい。

本書は、以上のような時代認識や問題意識のもとに、多くの実践者やグリーン・ツーリズムの研究を通して、何らかの社会的貢献を目指す方々を意識して書き記したつもりである。

「農学栄えて農業滅びる」と警鐘が鳴らされて久しい。「グリーン・ツーリズム研究栄えて実践滅びる」とならないように、研究者の限界を超えて実践支援に身を投じてきた。本書が少しでも実践にあたっての指針となるように願って止まない。
マックス・ウエーバーと偶然誕生日を同じにするものとして、「価値判断」からの自由を心掛けて真摯に事実に向き合いながらも、今後も実践的な課題への接近をライフワークとしていきたい。遠い故郷で真摯に農業を営んでおられる我が親族をはじめ、多くの「農」の担い手の方々や、その生活の場である農山漁村がもっともっと豊かになるために。

桜の便りを耳にする心躍る季節に、白山のキャンパスにて

二〇一〇年三月   筆者

どんな時代にも転換期はあろうが、日本のグリーン・ツーリズムの世界にも大きな転換期が訪れている。すでに述べたように、日本のグリーン・ツーリズム実践の蓄積が二〇年にも及ぼうとしている。しかし、多くの人々は、未だに「グリーン・ツーリズム」という用語は、一般的に知られていないという。

「グリーン・ツーリズムには違和感がある」という人も少なくない。恐らくそれは、「グリーン」と「ツーリズム」という、カタカナ用語に対する二重の負のイメージがつきまとっているのではないだろうか。

しかし、グリーン・ツーリズムの本質的な理念や意義を丁寧に伝えれば、多くの人々は、「グリーン・ツーリズムの言葉は知らなかったが、考え方には共感がもてるし、自らもそうした行動をしている」という。

点的な実践から広まったわが国のグリーン・ツーリズム。実践の輪の広がりとともに、その内容が多様化し、「何でもありのグリーン・ツーリズム」になりかかっている。そうしたグリーン・ツーリズム実践の転換期における課題を再度整理して結びとしたい。

第一の課題は、行政権限の縮小化と中間支援機構の役割である。折しも自民党の長期政権に終止符が打たれ、民主党による国家公務員の天下り制限や公共事業の「仕分け作業」が、それまで安泰であった「公務員天国」に根底から揺さぶりをかけている。「もはやNPOの時代となった!」ともいわれる。果たしてそうなのであろうか?

NPOの代表として、必要な資金や資質の高い人材確保に苦慮してきた者としては、NPOの現実は、それほど楽観的なものでは決してないと感じている。寄付行為に対する社会的評価の低さや、税制面での不十分な優遇性、政府や国における交付金事業や補助事業の硬直性といった現実は、公益事業への専念よりも資金確保に時間をとられる「自転車操業」というNPOの実態につながっている。

グリーン・ツーリズムの中間支援的機能を担うNPOも、遠野市や安心院町などで幅広い事業展開をみている。しかし、その内実は決して甘いものではない。そこでは、広域合併を進める行政機関とNPOが両輪となって、多元的な実践活動を支援し、地域経営や地域活性へ昇華されうるのかが問われている。その意味では、長野県の南信州観光公社と南信州広域連合の連携が注目されよう。

「子ども交流プロジェクト」に象徴されるように、国の支援が途絶えつつある中で、事業そのものが縮小化してしまわないように、多様な収益を確保できる事業企画と、幅広いマーケティングが必要である。

第二の課題は、実践力の質の向上・確保にある。「農林漁家民宿おかあさん一〇〇選」事業に見られるように、二〇年弱の時間の経過とともに、農家民宿や農村民泊、農家レストランや体験型交流等、西欧社会には見られない日本独自の資質の高さを実感できるようになった。しかし、一流ホテルや旅館、フランスのミシュラン推薦の極上のレストランや料理店、「東京ディズニーランド」や各種豪華施設といったものと、グリーン・ツーリズムの農家民宿や農家レストラン等は、ビジネス戦略で対抗できるのか、あるいは対抗すべきなのだろうか?

観光事業との一線を引くべきという筆者の論点からすれば、「マクドナルド」や「スターバックス」、各種テーマパークの事業展開とグリーン・ツーリズムの実践は、異質のものと捉えるべきであろう。かといって、農家だから、農山漁村だからという素人感覚の「逃げ」は、ビジネスには許されない。グリーン・ツーリズムの妙味は、生きがいや共感、人間的関係の広がりといった「社会的自己実現」(「人儲け」)と、適正規模の収益性の確保とのバランスをとることにある。

観光サービスとは異なった、交流ホスピタリティの質の向上と確保が、一定程度の量の確保が達成された今日の課題となっている。自家用野菜や取れたての海産物・林産物は、現地立地のツーリズムビジネスの最大の特徴である。どんなに流通制度が改善されても、産地でいただく以上の有利な条件はない。畑で茹でた枝豆のビアガーデンや、船釣りで獲れた魚で作る自前の鮨は、高級料理店では不可能なグリーン・ツーリズムならではの醍醐味だ。そうした条件を最大化できるビジネスセンスや、人間味あふれるおもてなしや、集落みんなで関わるツーリズムの質とは何かを問い続け、その確かな品質を差別化するとともに、連携する仕組みが必要である。
そして、第三の課題として重層的ネットワークと国際化の進展が必要である。自己完結型ビジネスに終始するのではなく、小規模であっても地域内外の実践者のネットワーク化を図り、さらには国際的なネットワークの下で品質を保障できる体制づくりが求められよう。観光庁の設置の下で「インバウンド」政策が重視されている中、東京・日光・富士山・京都・奈良といった、ステレオタイプの観光に対して、「セカンドステージ」としてのグリーン・ツーリズムが提起されてよい。

そのためにも、日本型グリーン・ツーリズム実践の基本的理念とも言うべき「身の丈」の「心の交流」を基軸としながら、生活様式の異なる人々への違和感を解消するための衛生管理や、伝統を踏まえた創意工夫の見られる食事、温泉の活用、集落パブの設置等コミュニケーション媒体の工夫、インターネットを活用した情報の受発信手法の改善等が不可欠であろう。

第四に、持続可能な経営展開に向けた世代間ネットワークも、重要な課題である。山形県立置賜(おきたま)農業高校では、「えき・まち活性化プロジェクト」の展開によって、無人化の憂き目に遭いかけたJR「羽前小松駅」を、有人駅として存続させた。高校生の力で、駅前での自前の農産物産直市や、地元産の「紅大豆」を活かした大福「みつ福」の販売が行なわれて駅が活性化され、NPO法人による運営が実現したのである。このプロジェクトリーダーの渡部さやかさんは、地元住民との交流経験を活かして、グリーン・ツーリズムの実践を目指すことを決意し、その発表が日本学校農業クラブ「文化・生活」の部で、見事最優秀(文部科学大臣賞)を受賞した。

他にも次世代を担う高校生が、交流活動に積極的に参加している事例は少なくない。そうした住民との協働活動を蓄積しつつ、都市部の大学やNPOとのネットワークが広がれば、さらにその実践の輪が広がるだろう。二〇一〇年一一月に開催される予定の「第九回全国グリーン・ツーリズムネットワーク岐阜・三重大会」では、高校生部会の企画も予定されているが、中等・高等教育期間中にネットワークの機会を作ることは、グリーン・ツーリズム実践の時間的連携にとって重要である。
第五の課題は、地域活性化のための人材活用と「協発性」の確保である。確かな実践をつないでいる地域では、グリーン・ツーリズムは、多元的な交流活動を通した地域活性化の手法として認識され、観光振興との「棲み分け」も行なわれている。最近では、国の雇用対策として地域への人材派遣が各種行なわれているが、継続的な人材確保が未だ課題として残っている。上述の中間支援機構を担う人材もそうであるが、学生のインターンシップやワーキングホリデーのような、短期的な外部人材投入に加え、NPO法人「地球緑化センター」による「緑のふるさと協力隊」のような、長期にわたる人材派遣が求められる。第6章で紹介した「ギャップイヤー」は、それに加えて大学における職能教育の一環として、あるいは自己実現や自己発見を通した学習意欲の向上といった臨地型教育として、広く制度化されるべきである。

当面は、農水省や「地球緑化センター」の協力を得ながら、社会実験事業として東洋大学が先鞭を付け、それを学内はもとより、広く大学全体へ普及していくことにより、外部人材の若いエネルギーの投入と柔軟な発想を注入し、さらには卒業後の関わりを期待しつつ、「協発性」を活かした地域資源再生・保全・創生を具現化することが期待される。

日本のグリーン・ツーリズム実践が、こうした課題を超えて、セカンドステージをダイナミックに展開できれば、困難であっても不可避的な課題である、「都市と農山漁村の均衡ある発展」が可視化できるようになるだろう。行き詰まるような経済不況、悲惨な殺人事件、歯止めが掛からない地方の衰退。社会不安が募り、人々の社会的な関係が切れつつある中で、「命と心」をつなぐ営みがますます重要になっている。

「命の糧」を食し、感動交流を通して「心の安寧」を確たるものにするツーリズム。それは「観光」の域を超えて、人間福祉の領域への接近を意味する。

グリーン・ツーリズムの実践研究に身を投じて一六年余り。恩師である故山形大学勝又猛元教授や、母校東北大学元教育学部の社会教育学・教育社会学研究室の先輩諸氏、さらには尊敬する故山崎光博明治大学元教授から学んだものは、常に現場に足を運び、現場から学び、現場からものを考え、現場のためにお返しする、という現場主義である。

この間、おそらく何千人、いやそれ以上の方々と出会い、感動を共有したかわからない。古希を越え、身の不自由な父を介護する母からは、「学生時代からお前は好きな旅をずっと続けられて幸せだね」といわれる。何一つ親孝行もせずに、「フーテンのトラさん」のように旅を重ねていられるのも、諦めとともに私のわがままな自己実現を理解してくれている家族があってのことである。

改めて、「農の夢追い人」としての人生の支えになってくださっている多くの方々への感謝の意を表しつつ、そのお礼の気持ちとしてのささやかなお返しを、広く長く深くできるよう、努力を怠らないように心したい。

最後に、出版に当たって、誠実に研究室や大会に足を運び、公務で筆が進まない私をじっと耐えつつ励ましてくださった、学芸出版社編集部の中木保代さんに、お礼を申し上げたい。実践支援に東奔西走する私に対して、真摯にその現実を理解くださり、忠実な校正を重ねてくださったからこそ、私の思いがここに結実した。多くの方々にその思いが伝わり、少しでも「お役に立てる」本になることを願ってやまない。

出版記念講演会 レポート(7.12/京都)

読者レビュー

ヨーロッパで発展して日本でも始まったグリーンツーリズム。著者自らの実証実験から国内の実践事例、海外の調査まで豊富な検証から、今後の我が国のツーリズムの未来のありかたが具体的に語られる。

農村景観づくりと宿泊施設のマッチング、農産物や料理のクオリティ、そしてサービスの満足度、地域の連携、経済性の確保など、トータルなデザイン力とマネジメントの力が求められているというのがよくわかる。

すでに先進地では地域個性を活かして質の高いもてなしの場を作ろうという機運があるというのが理解できて頼もしい。

海外のグリーンツーリズムを経験している一般旅行客が増えた今日にあって、地域行政担当者にぜひこの本を読んでいただきたい。というのはグリーンツーリズムには町づくりの視点が不可欠だからだ。それも今後は確実に海外客を視野に入れた農村の持続社会を作るありかたが必要で、そこで初めて内外の観光客の誘致もできる。ここには豊かな地域を創造する方向としての政策が示されている。

(食環境ジャーナリスト/金丸弘美)

担当編集者より

日本のグリーンツーリズムは、国の政策として1992年に始まったとされている。各地の実践者とともにグリーンツーリズムを盛り上げてきた著者が、様々な取り組みをもとに、「命と心」の交流を通してもたらされる効果と意義をまとめた。

そこからは、観光振興策や体験学習だけではない、奥行きの深さが感じ取れるだろう。

グリーンツーリズムが、過疎高齢化し元気をなくした農山村と、癒される場所を求める都会人をつなぎ、新たなエネルギーを生み出すことを期待したい。

(N)

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