日本の風景計画
内容紹介
美しいまちづくりをさらに進める提言も掲載
我が国での風景計画は、試行錯誤を繰り返しながら、どのような制度の下で実践されてきたか。現在の到達点を、歴史的都市をはじめ一般市街地、郊外部での運用や実績に立ち入って検討し、政策的な意義と法制度の可能性を多面的に考察。「地域力」を引きだす美しい風景の実現を目指す。これからの日本の景観行政への提言も掲載。
体 裁 B5変・200頁・定価 本体4000円+税
ISBN 978-4-7615-4070-8
発行日 2003-06-30
装 丁 上野 かおる
はしがき
序説 日本の風景計画構築のために (西村幸夫)
第Ⅰ部 制度としての風景計画
1章 日本における都市の風景計画の生成 (中島直人・鈴木伸治)
1・1 都市風景計画の生成過程
1・2 都市計画制度の成立過程と風景計画
1・3 風致地区と美観地区の運用
1・4 都市の風景計画確立へ向けた運動
2章 各種制度と風景計画 (小出和郎・山崎正史)
2・1 風景計画の制度・景観条例の発展経緯と問題点
2・2 景観(風景)計画と事業制度
2・3 自主条例の可能性と問題点
3章 風景計画と計画主体 (北沢 猛・下間久美子・亀井伸雄・岡崎篤行)
3・1 風景づくりにおける自治体と国の役割
3・2 風景計画と文化財保護
3・3 市民参画の風景計画
4章 風景計画とその法的根拠 (河野俊行・日置雅晴)
4・1 風景計画の法的根拠に関する比較法的考察 ―ドイツ(バイエルン州とミュンヘン市)を素材として
4・2 日本における景観権、環境権の可能性
5章 風景計画の意義 (中井検裕)
5・1 景観政策の現状
5・2 価値ある風景の保全
5・3 地域経済活性化策としての風景計画
5・4 地域共有の価値観づくりとしての風景計画
5・5 地域生活環境保全としての風景計画
5・6 まちづくり啓発としての風景計画
5・7 風景の価値に対する問いかけ
第Ⅱ部 実践の中の風景計画
6章 広域の風景計画 (宮脇 勝・村上祥司)
6・1 都道府県の風景計画
6・2 屋外広告物のコントロール
7章 総合的な風景計画の実践 (山崎正史・坂本英之・鈴木伸治)
7・1 京都市 ―歴史的町並みから現代景観を含む包括的な風景計画
7・2 金沢市 ―個別の修景から総体的な風景計画へ
7・3 横浜市 ―総合的な風景計画の展開
8章 歴史的都市の風景計画 (三島伸雄・大野 整・岡崎篤行・佐野雄二・下村麻理)
8・1 松本市 ―眺望景観と歴史的市街地の再生
8・2 飛騨古川 ―継承と参加のまちづくり
8・3 倉敷市 ―町並み保存運動から美観地区景観条例まで
8・4 臼杵市 ―自主的な保存活用の実際と財源確保の工夫
9章 一般市街地の風景計画 (窪田亜矢・宮脇 勝)
9・1 風景計画における一般市街地とは
9・2 広島市 ―河川を用いた景観誘導
9・3 柏市 ―用途地域制に整合した景観ガイドライン
9・4 協議を通じた風景像の共有に向けて ―荒川区マンション要綱
9・5 環境都市計画への展望 ―各地での先進的な取り組み
10章 田園地域の風景計画 (宮脇 勝・齊木崇人)
10・1 神戸市の「人と自然の共生ゾーン整備計画(里づくり)」における田園地域の風景計画
10・2 加美町、出雲平野、帯広市、標茶町の取り組み
第Ⅲ部 これからの風景計画に向けて
11章 これからの「風景計画」の考え方 (西村幸夫)
11・1 これまでの「景観計画」の特徴
11・2 風景条例をめぐる計画システムの可能性と課題
12章 欧米における風景法 (西村幸夫)
12・1 各国の風景法の基本的な構造
12・2 欧米における風景コントロールの特徴
13章 これからの日本の風景行政への13の提言 (西村幸夫・小出和郎)
13・1 風景基本法の制定
13・2 既存制度の改善による総合的風景行政
13・3 風景の質向上のための具体的施策
13・4 再び都市の美を表舞台に
索 引
ゆるやかな研究グループである町並み研究会がその活動の成果を『都市の風景計画-欧米の景観コントロール手法と実際』(学芸出版社、2000年)というかたちで出版してちょうど3年になろうとしている。幸いに同書は広く景観問題に関心のある方々に受け入れられ、欧米の風景計画に関する有益な情報源として評価されているようである。さらにこの序文の執筆段階において、同書の韓国語訳と中国語訳が進行中であり、まもなく日本のみならず広く韓国・中国の識者とも情報を分かち合えることになる。これは著者らにとって望外の喜びである。
前著のはしがきにおいて、このような研究が受容されるとするならば、その延長上に我が国の風景計画のあり方について、提言を行いたいと希望を記していた。そのような機会を予想以上に早く持つことができて、これ以上嬉しいことはない。
本書で私たちが目指したのは、現時点における我が国の都市政策としての風景計画の到達点をあますことなく描き、さらにその将来展望を示すことである。
都市景観条例に代表される景観コントロールの手法は1990年代前半には現在の枠組みにおける制度的な仕掛けをほぼ整え終わり、現在は現時点の制度の限界を見据えて、次の段階へのステップアップをどのように進めていくかを模索するという段階にある。
こうした時期に、もういちど日本の風景計画を源流にまで遡って内省すると同時に、その政策的意義を再確認し、法制度としての可能性を探ることがどうしても必要であると考えた。もちろん、主要な都市における事例を制度の概要のみならず、運用の方法やその実績にまで踏み込んで現時点での到達点を紹介することもまた欠かせない。こうして本書の枠組みは自然に決まっていった。
本書はまた、新しい分野にも積極的に取り組もうとしている。たとえば一般市街地の風景問題である。これまでの景観行政はどうしても景観上特色のある歴史的な町並みや良好な住宅市街地などを対象としたある種例外的な地区の特例的な都市計画制度であるという域をなかなか出られなかったというのが正直な印象である。もちろんこうした特別の性格を保有している地区でさえ、景観破壊が横行しているような時代にあっては、戦線を一般市街地にまで拡大するのは徒手空拳で大海に躍り出ていくようなもので、ほとんど現実的ではなかった。
しかし、世論の方が特別な性格を有する地区だけでなく、一般的な市街地の景観問題に対処する施策を求めるようになって来つつある。その背景には、首都圏を中心にバブル時にも増す勢いで建てられている高層マンションに対抗するための論理を景観に求めているという側面がある。しかしそれだけではなく、景観を向上させていくことによって地域イメージを高めようという大小幅広い都市の戦略も読みとれる。ここのところ環境美化を進めるための条例の制定が相次いでいる。美化や落書き・ポイ捨て防止、緑化や河川浄化などにまで拡げてまちの美しさを追求する自治体の数は確実に増加してきている。
こうした世論を受けて、本書では一般市街地の風景問題にまで切り込む努力を試みている。
さらにもう一つ、新しい分野に踏み込んでいるとするならば、それは政策提言の部分である。ガイドラインやいわゆる景観条例の域を超えて、風景基本法に連なる法制度の整備を訴えている。この点に関しても、現実の動きもまた急である。2003年5月現在、霞ヶ関でも永田町でも、景観施策が真剣に検討されている。時代は今まさに動こうとしている。こうした現実の動きに遅きに失することなく、一石を投じることができるとするならば、研究会の地道な活動も意味があったというものである。
本書において、なぜ一般に通用している「景観」ではなく、「風景」という用語を用いたかは、前著に記したとおりであるが(『都市の風景計画』9頁)、操作可能な「景観」ではなく、広域の地勢や文化を背負った「風景」の方が適切に対象を表現していると考えたからである。
話題が各地の具体的な実践に及ぶため、思わぬ遺漏や事実誤認などもあるかもしれない。ご叱正を賜れば幸いである。最後になったが、本書の刊行にあたっては、前著に引き続き学芸出版社の前田裕資氏に大変お世話になった。氏の叱咤激励と的確なアドバイスによって多数の著者間の調整も無事に進行させることができた。また、刊行間際の実務にあたっては同じく学芸出版社の中木保代氏のサポートが大きな力となった。
なお、本研究に対して2000年度より3年間、文部科学省の科学研究費の助成を受けた。あわせて記し謝したい。
2003年5月 西村幸夫
『都市問題』((財)東京市政調査会) 2004. 2
本誌『都市問題』の編集が行われている市政会館は戦前に建てられ、その風格と美しさは付近一帯の風景に欠かせないものとなっている。皇居周辺の「美観地区」にある建造物のなかでも、その白眉と自負することも許されるだろう。緑の多い日比谷公園と調和していることもあり、道行く人びとが賞賛のまなざしで見上げていることも、しばしばである。
もっとも、美しさが目立つのは珍しいからとも思われる。総じていえば、日本の都市はあまり美しくない。高層ビルが乱立する東京はもとより、地方でも美的に魅力ある都市は少ない。日本のまちの風景については、建築の「自由」が行きすぎ、「放縦」でさえあると残念ながら言わざるをえない。
こうした現状に対して、美しい風景を残すための努力が各地で続けられており、それをまとめたのが本書である。副題の「都市の景観コントロール 到達点と将来展望」が示すとおり、日本における風景計画の歴史から現状、必要な政策までが収録されている。しかも図表や写真、地図が多用されていることで、大変分かりやすくもなっている。
大まかな構成は、以下のとおりである。
第Ⅰ部「制度としての風景計画」では、戦前・戦後における風景計画の経緯と各種法制度、そしてまちづくりのあり方など、主に理論面が触れられている。第Ⅱ部「実践の中の風景計画」では、京都市や臼杵市、柏市などの実例が紹介されている。そして第Ⅲ部「これからの風景計画に向けて」では、風景基本法の制定をはじめとする具体的な政策提言がなされている。上記のようなさまざまなテーマが多くの人(21名)によって書かれており、本書一冊でこの分野の基礎を一通り学ぶことができる。
なお、「景観」ではなく「風景」となっている理由を、本書は序文で次のように述べている。「……操作可能な「景観」ではなく、広域の地勢や文化を背負った「風景」の方が適切に対象を表現している……。」この言葉の意味するところは大きい。日本で都市景観が問題となるのは、歴史的町並みや特異な自然を持つなど、いわば例外的なところであった。しかし、地勢や文化は、どの都市のどの地区においても重要である。そこで本書は対象を広げて、一般的な市街地の問題まで扱っている。
特別でもなく有名でもないが、それでもかけがえのない「わがまち」を大切にしたい。そう願っている方に、本書をぜひおすすめしたい。
(Mo)
『地方自治職員研修』(公職研) 2004. 1
操作可能な「景観」ではなく、広域の地勢や文化を背負ったものとしての「風景」をいかに守るか。本書は、現時点において都市政策としての風景計画がおかれる到達点、すなわち九〇年代前半に整備された制度的な仕組みの限界を明らかにし、次へのステップアップをどのように進めるべきか提言する。歴史的町並みや良好な住宅地など、これまで景観行政が扱ってきた“特別な場所”だけではなく、一般市街地の風景問題も取り上げた研究の大成。数々の都市の取り組み事例が詳細に紹介されている。