景観法を活かす


景観まちづくり研究会 編著

内容紹介

地域独自の使い方を事例モデルで紹介・解説

景観法には、あらかじめ設定された運用マニュアルは存在しない。地方自治体独自の取組みを促す、きわめて柔軟かつ多様な手法を取り入れた法律である。本書では、制定の背景と経緯・趣旨等を解説、次いで地域特性に応じた景観法の活用枠組みを示し、併せて8事例モデルから複合的な運用方法を紹介する。法文・用語集付。

体 裁 B5・208頁・定価 本体2800円+税
ISBN 978-4-7615-2353-4
発行日 2004-12-20
装 丁 古都デザイン


目次著者紹介読者レビュー事例URL集書評

はじめに

第1章 景観法とは何か

第2章 景観法を活用する

2・1 地域特性に応じた景観法の活用方法
2・2 自主条例を活かして景観法に移行する

ケーススタディ

ケーススタディ1 多様な主体により都心の風格を高める―広島市平和大通り―
ケーススタディ2 シンボルとしてのヴィスタ景を育てる―山形市文翔館周辺地区―
ケーススタディ3 歴史的な町並みを大切にする―飛騨市古川町―
ケーススタディ4 豊かな暮らしがあるまちへ―大和市―
ケーススタディ5 水とみどりがあふれるまちへ―江戸川区親水公園―
ケーススタディ6 まちなかの自然を守る―国分寺崖線(世田谷区)―
ケーススタディ7 広域的な自然景観を守る―滋賀県―
ケーススタディ8 先進都市で課題解決と総合的展開を図る―京都市―

第3章 景観法と景観まちづくり

3・1 景観まちづくりの意義と課題
3・2 景観まちづくりの主体―誰が景観まちづくりを担っていくのか?
3・3 景観まちづくりの動機と方法
3・4 景観まちづくりの展開―住民・NPOによる景観まちづくりに向けて

資料編

国内における景観形成取り組み事例リスト
景観法関連用語
景観法

おわりに

岸田里佳子 国土交通省都市・地域整備局都市計画課
山島哲夫 (財)日本建築センター
中川智之 (株)アルテップ
大野 整 (株)都市環境研究所
中島直人 東京大学大学院工学系研究科
岡村 祐 東京大学大学院工学系研究科
佐野雄二 (株)アルテップ
窪田亜矢 工学院大学建築都市デザイン学科
井手幸人 (財)日本建築センター
佐藤博信 (財)日本建築センター

本書は、景観法が成立して初めて出版されることになる景観法の活用に関するいわゆるハウツーを説明した本である。法施行の3日後に出版されるというフットワークの良さに感心すると同時に、そのために緊急に出版すべく動いた執筆メンバーの日頃の蓄積がものをいった企画だといえよう。

特に第1章の「景観法とは何か」と第2章の第2節「自主条例を活かして景観法に移行する」は、景観法制定の実務部隊の主力であった国土交通省都市計画課の岸田里佳子課長補佐によって執筆されており、実用的な手引き書であると同時に、国土交通省の担当者による正確な説明が聞けるという意味で貴重な本となっている。
もちろん、内容はそれに止まらず、「どこでもできる景観まちづくり」という副題が示すとおり、第2章のケーススタディにおいて多様な事例が取り上げられているほか、第3章においては「景観まちづくり」に取り組む際の考え方が概説されている。

分量的にもねらいの上からも中心となっているのは第2章のケーススタディである。大半の事例に「景観法の活用イメージ」という項目が立てられており、具体的な施策内容とともに施策を制度化するにあたっての留意点が述べられているのは目新しい。また、挙げられている事例も大和市や広島市の平和大通りなど、これまで景観の側面からはあまり取り上げられてこなかった例も含まれており、「どこでもできる」という主張に説得力を持たせることになっている。

いずれにしても景観法の活用はこれからであり、特に景観地区に関しては施行までまだ半年あるので、この本でも直接には取り上げられていない。各地の実践が仕組みを組み立てていく力になるという意味では、今後、事例の方がこうした本や理論を追い越してしまうことも考えられる。時代は駆け足で動いているのである。だからこそ緊急出版にも意味があるというものである。

(東京大学大学院工学系研究科教授/西村幸夫)


優れた建築は、その空間に身を置けばわかるし、おいしい料理は食べればわかる。なにもつくった本人である建築家や料理人が登場し、薀蓄を述べるまでも無い。しかし、これが法文となると話は別である。法文を理解するには、淡々と羅列する文字から重要な点を発掘し、その裏に隠された真意を見抜く忍耐力が要求される。だからこそ、マニュアル本が欲しくなるのであり、これが法の出来た背景や成立までの紆余曲折を熟知した人が解説しているのであれば、こんなありがたいことは無い。のっぺり見えていた法文の要点が示され、時代の趨勢の中での位置づけが明らかになり、全体の構造が立体的に見えてくる。

本書は景観法施行に合わせて、実にタイミング良く出版された本である。まず出版社の戦略に脱帽すると共に、この本が単なる法律のマニュアル本以上に興味深い特徴を備えている点をご紹介したい。

景観法はこれまで長年積み重ねられてきた地方自治体による景観行政の取り組みを前提としてつくられた法律であり、地方分権に逆行するものではない。この課題が景観法の最初の超えなければならないハードルである。つまり、景観法を活かすためには、自主条例等、これまでの自治体の取り組みの成果を活かしながら、強制力を持った景観法に移行できることが実証されなければならない。本書では、この点が特に強調されており、ケーススタディによる具体的例示もわかりやすい。このため、本書は自治体関係者や都市計画専門家にとって、最初に取り組むことになる実践的課題の解説書の役割を果たしている。

また、通読して感じることであるが、執筆者である景観まちづくり研究会の面々の、日本の景観を何とかしなければならないと思う若々しい熱意が伝わってくる。ある時は淡々とした語り口で、またある時は激しく。これが本書を単なるマニュアル本で無い、読みものとして面白い一冊に仕立てている。専門家のみならず、景観法の活用に大きな期待を寄せている市民活動家や景観に関心の高い一般の人々にもお勧めできる。

景観法を契機として、我々が日本の街をどのように変えてゆくのか?私も大いなるチャレンジの時代の幕開けを期待するひとりである。

(NPO日本都市計画家協会PLANNERS編集長、㈱田島都市建築研究所代表/田島 泰)


都市計画、まちづくりに関わる人で景観法に関心のない人はいないだろう。しかし、景観法についての知識の浸透はまだまだという印象を持ってしまう。景観法の持つ意義やイメージばかりが先行して、その中身・手法について熟知していないということがあってはならない。その意味でも、景観法を解剖している本書は必読の本である。

『景観法を活かす』では景観法がなぜ制定されたのか、景観法をどう使えばよいのか、景観法によって何が変わるのか、といった景観法に対する問いに一通り答えてくれている。

中でも、第2章の「景観法を活かす」では、地域特性に応じた景観法の活用方法が提案されている。景観計画を策定する際に段階を踏んで規制・誘導していく考え方、また、11の地域類型を想定しそれぞれの地区の特性・課題と景観法活用の考え方を提示している。

景観まちづくりにおける先進都市は、やはりこれまでの自主条例をどう扱うかという点が一つのネックになる。本書では各条文でばらばらに書かれてある条例に委任している事項が整理されている。景観法は地域性を最大限活かすために極端に柔軟な形をとっているため、一見わかりにくくも見えるが、そういう部分を本書は丁寧に解説し、自主条例を委任条例に移行するステップまで方向性を導いてくれている。

景観法は、むしろ一般的な市街地や農山漁村風景の景観コントロールのために制定された法律だともいえるだろう。その意味では、これまで景観において積極的な取り組みを行ってこなかった自治体においても、景観法を積極的に運用するべきであり、そのための準備を進めなければならない。

本書はあらゆる自治体、主体(行政、事業者、住民、NPO・・・)が景観法を学ぶ、生きたテキストになっている。まだ景観法について初心者ならば第1章「景観法とは何か」でほぼ法の中身は理解でき、その次のステップとして第2章「景観法を活用する」でその活用手法が一通り学べる。特に8つのケーススタディはこの本の核となる部分で、対象となっている事例は様々な自治体が景観法運用の参考となるよう配慮して選ばれている。最後に第3章「景観法と景観まちづくり」ではさらに一歩踏み込んで、今後の課題等にまで話を展開している。本書一冊で、景観法について底辺から頂点まで学べるように構成されており、景観法を使える人材不足の指摘もあるため、多くの人にまずは本書で景観法を学んでいただきたいと思う。

(熊本大学工学部環境システム工学科4回生/坂本哲治)

担当編集者から

2003年初夏に出した『日本の風景計画』で西村幸夫・小出和郎氏が「これからの日本の風景行政への13の提言」を書かれている。その第1項目が風景基本法の制定だった。自民党が「美」をめぐって動き出しているという話はあったが、本気とも思えず、リアリティのある提言とは実感はできなかった。

それが、1ヶ月後には国交省が景観基本法の策定を表明し、1年もたたないうちに法律が出来てしまった。なんだか狐につままれた気分である。

ちなみに西村・小出氏のその時の提言は下記の通り。提言1~3など今回の動きを先取りしている点が多いことにも驚かされる。

しかし、景観法で国の責務が書かれたとはいえ、提言7のように都市計画や建築基準法が見直されたわけではなく、提言11のローカルルールに基づくデザイン審査の強制が違法とされる恐れが全て解消された訳でもない。

国が自身に課した責務を果たす積もりがあるのであれば、周辺と明らかに調和しないものが敷地が大きいがゆえに建てられるような制度は、せめて改めて欲しいところだ。

まあ、美のような問題に国があまり手を出してくるのも考え物だし、強制力を持つ事が唯一の解決策でもない。景観法は使いようによっては結構良さそうとの話なので、本書なども参考に、景観まちづくりの取り組みを進めていただけることを期待したい。

提言1 風景基本法(仮称)の制定
提言2 法定の風景基本計画づくり
提言3 土地利用と風景保全・創造の二本立てで
提言4 条例に法的根拠を与える
提言5 新しい風景づくりへ対象を拡大
提言6 現行都市計画制度を詳細化する
提言7 「風景の保全と創造」を建設関連法規の目的の中へ
提言8 建設関連法規はナショナル・ミニマムであることを明確に
提言9 既存制度の積極的活用
提言10 重点地区の指定
提言11 デザイン審査制度の導入
提言12 デザイン・ガイドラインの作成
提言13 専門職能の確立

(M)

本URL集は、『景観法を活かす』p.174「国内における景観形成取り組み事例」リストより、「事例名称」と、「参考資料」のうちURLを抽出し、必要なものについては最新の情報に更新した上、作成した。

●国土交通省景観法関連(都市景観)
http://www.mlit.go.jp/crd/city/plan/townscape/index.htm

1.既成市街地の景観形成

●佐賀城周辺の景観形成のための建築物の意匠・形態等の規制・誘導
http://www.city.saga.saga.jp/doc/d50f544bc854418f49256e84008343c2.html
(都市景観)
http://www.city.saga.saga.jp/doc/1691acd4b3ded70a49256e8400834430.html
(高度地区)

●戸田市景観条例による住宅地における景観形成
http://www.city.toda.saitama.jp/sosiki/tosiseibibu/tosikei/keikan/keikan_top.html
(景観条例、三軒協定)

●平和大通りにおける都市美要綱等に基づく景観形成
http://toshikei.city.hiroshima.jp/hiroshima/contents/fuukei_hp2/fuukei_index.html
(風景づくりマスタープラン基本計画)

●丸亀城周辺地区における建築物の高さ及び用途の規制・誘導による景観形成
http://www.city.marugame.kagawa.jp/life/kouhou/2002/09/09_toku02.html
(広報まるがめ)

●川越市大正浪漫夢通りにおける街路事業及び建築協定による景観形成
http://www.city.kawagoe.saitama.jp/machidukuri/keikaku/index.htm
(まちづくり計画課)
http://www.koedo.com/
(大正浪漫夢通り)

●彦根市キャッスルロードにおける地区計画等による景観形成
http://www.hikone-cci.or.jp/hikone-tmo/yumekyou.html
(夢京橋キャッスルロード)

●仙台市定禅寺通りにおける地区計画等による景観形成
http://www.city.sendai.jp/toshi/toshikeikaku/plan/247.html
(地区計画)
http://www.stcb.or.jp/sansaku/course01/page01.htm
(シンボルロード)

●名古屋市久屋大通における名古屋市都市景観条例による景観形成
http://www.city.nagoya.jp/12keikaku/jigyougaiyou/keikan/keikantop.html
(都市景観)

2.歴史的市街地の景観形成

●倉敷市の歴史的な町並みの保全による景観形成
http://www.city.kurashiki.okayama.jp/bunkahogo/index.html
(景観)

●松江堀川の堀及び川沿いの歴史的資産の保全・活用による景観形成
http://www.city.matsue.shimane.jp/machi.html
(都市景観に関する取り組み)

●栃木市蔵の修景による歴史的な町並みの景観形成
http://www.city.tochigi.tochigi.jp/kankou/yuuhodou/yuuhodou.html
(蔵の街について)

●伊勢市おはらい町における歴史的な町並みの保全による景観形成
http://www.city.ise.mie.jp/Contents/7D3456ACB5/indexfiles/0400hikaku.htm
(おはらい町)
http://www.okageyokocho.co.jp/index8.htm
(おかげ横丁)

●金沢市の歴史的な町並みの保全による景観形成
http://www.city.kanazawa.ishikawa.jp/keikan/index.html
(都市景観)

●岡山県の歴史的な町並みの保全による景観形成
http://www.pref.okayama.jp/seikatsu/bunkasin/matinami/sato-mati.htm
(町並み保存地区)

3.新市街地の景観形成

●横須賀市海辺ニュータウンにおける景観形成
http://www.yokosuka-umibe.com/
(よこすか海辺ニュータウンのHP)

●チッタイタリアにおける景観形成
http://www.sio-site.or.jp/about/about.htm
(汐留地区のHP)

●千葉市幕張ベイタウンにおける景観形成
http://www.pref.chiba.jp/kigyou/b_makusei/index.html
(幕張新都心整備課)
http://www.makuharibaytown.com/
(幕張ベイタウンのHP)

4.農村地域の景観形成

●松川村における土地利用調整条例などによる農村の景観形成
http://www.vill.matsukawa.nagano.jp/life/muradukuri/index.htm
(松川村村づくり)

●新治村における景観条例にもとづく宿場町と田園の景観形成
http://www.vill.niiharu.gunma.jp/kikaku/ki-top.html
(新治村企画観光課)

●島根県における築地松景観保全のための取り組み
http://www.pref.shimane.jp/section/keikan_shizen/keikan/index.html
(島根県築地松)

●十勝地方における畜産農家向け環境づくりガイドブックの作成
「十勝野にロマンを求めて~畜産農家の快適環境づくり~」北海道十勝支庁編
http://www.agri.pref.hokkaido.jp/center/syuppan/tokachikankyo/index.htm

●高知市における里山保全条例による里山の保全
高知市里山保全条例
http://www.city.kochi.kochi.jp/deeps/18/1813/10.htm

5.自然型観光地・景勝地の景観形成

●栃木県那須地域における自然・リゾート地域内の沿道景観形成
http://www.pref.tochigi.jp/shizen/sonota/shizen/sato/ado_index.html
(とちぎふるさと街道景観里親制度についてのホームページ)

●嬬恋村における村の条例等による国立公園特別地域内での建築形態規制
http://www.vill.tsumagoi.gunma.jp/benrityou/k-kakuninn.htm
(嬬恋村建築条例等)

6.眺望景観の保全

●横須賀市における俯瞰景観保全の地区指定と建築物高さ基準の設定
http://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/tokei/honbun/31koudotiku.htm
(高度地区)
http://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/keikan/jorei/chuuoukouen.html
(眺望景観)

●観光資源としての眺望景観保全
http://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/080900/701ken_no_tosi/koudo.html
(和歌山県都市計画)

●住民協定における富士山への眺望景観配慮
http://www.pref.nagano.jp/jyuutaku/kentiku/keikan.htm
(県民参加による景観形成事業)

『地域開発』((財)日本地域開発センター)2005.10

2004年12月景観法が施行され、景観への関心は近年さらに高まり続けている。
本書では、景観法という新しいツールを「どのように活用すればよいか」をわかりやすく解説するため、具体的な地区に当てはめたケーススタディを多数取り上げている。これから新しく景観法を適用しようとする地区では、先行事例の代わりとして大いに参考になるだろう。

内容は3章で構成され、第1章では景観法とはどのようなものであるか、その内容と制度の目的がわかりやすく解説されている。第2章の前半では、景観法の適用を想定し得る地区に対して類型別に適用方法を提案しており、後半では8つのケーススタディを取り上げ景観法の活用のイメージが示されている。一方、最後の第3章では、法律の活用という視点からは離れ、景観とまちづくりに取り組む意義と理念が再確認されている。

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