オームステッド セントラルパークをつくった男


Witold Rybczynski 著/平松宏城 訳

内容紹介

“ランドスケープの父”の生涯と設計思想

公園は何のために生まれたのか。オームステッドがセントラルパークで目指したのは、誰もがアクセスでき心身の健康を保てる都市公園だった。その後グリーンインフラ、国立公園の基礎となる実践も重ね、思想とデザインを切り拓いていく。公共空間の価値が問われる今、先駆者の一生と哲学を描いたランドスケープ必読の書である。

ランドスケープデザインに携わる人にとっては必読書であるのは言うに及ばず、他人とは違うデザインや仕事や人生を見つけ出そうとする人にとっても勇気づけられる内容だといえよう。

コミュニティデザイナー・山崎亮氏推薦

富を生まない公園も、新しい資本主義の発展には
「ムダ」ではなく、むしろ不可欠だ。

京都大学大学院経済学研究科教授・諸富 徹氏推薦

体 裁 A5上製・576頁・定価 本体4800円+税
ISBN 978-4-7615-4097-5
発行日 2022-12-15
装 丁 上野かおる

 

関連イベント書評:山崎亮日本語版刊行によせて:諸富徹目次著者紹介

その人生に励まされた本

コミュニティデザイナー・山崎亮

他人と同じ答えにたどり着けば高い点数を与えられる教科があまり得意ではなかった。そんな私がなんとか潜り込んだ大学で出合ったのがランドスケープデザインだった。こちらは他人と違う答えにたどり着けば評価される。集団行動が苦手で、他人と違う奇抜な服ばかり選んでしまう私にとっては快適な分野だった。

友人とは違うデザインを提案し、先輩を超えるデザインを見つけ出そうとした。過去の巨匠が生み出したデザインすらも乗り越えんとする生意気さも備えていた。片っ端から過去のランドスケープデザイナーの作品を批評し、まだ誰も提案したことのない空間を模索した。行き着く先は「ランドスケープアーキテクチュアの父」、オームステッドだった。

19世紀のアメリカで活躍したオームステッドは、他人と違う空間どころか、他人と違う仕事を見つけた人物である。当時、まだ一般的ではなかったランドスケープアーキテクチュアという仕事を見つけ出し、この職能を広めた人だったのだ。その過程で、農場を経営したり、雑誌を編集したり、本を執筆したり、会社を経営したりした。当時のアメリカ社会が要請する課題にひとつずつ対応するうちに、自分が取り組むべき分野を見つけた人生だった。

この生き方に憧れた。大学院時代、私から「オームステッドが現代を生きていたらランドスケープデザインをやっていたと思うか?」という議論をふっかけられた後輩たちは多かったはずだ。19世紀のオームステッドは社会の要請に応えてランドスケープアーキテクチュアに携わった。では、現代のオームステッドは何をすべきなのか。研究室で朝までそんな議論を続けたものだ。後輩たちには大変迷惑をかけたと恥じ入るばかりである。

ただし、正直に言えば私もオームステッドの人生を詳細に知っていたわけではなかった。オームステッドについて日本語で読むことのできる書籍は2冊しかなかったし、その他は特定のテーマについて書かれた論文がいくつかある程度だった。英語の本を取り寄せて読んでみたが、何しろその手の教科が苦手なのである。なかなか読み進められない。

オームステッド研究は遅々として進まず、大学院を修了し、設計事務所に就職した後も続いた。山あり谷ありのオームステッドの人生に励まされ、自分も現代の社会に必要な仕事を見つけるべきだと考えるに至った。6年間の設計事務所勤務を経て、2005年にstudio-Lというコミュニティデザイン事務所を立ち上げた。山あり谷ありの人生になるだろうが、それでいいと思わせてくれたのはオームステッドだった。

そんなオームステッドの人生が詳述された書籍が邦訳された。断片的な情報の集合だった彼の人生が、読み進むうちにスルスルとつながっていく心地よさがあった。ランドスケープデザインに携わる人にとっては必読書であるのは言うに及ばず、他人とは違うデザインや仕事や人生を見つけ出そうとする人にとっても勇気づけられる内容だといえよう。

オームステッド生誕200周年の年に、本書が邦訳出版されることを嬉しく思う。

公園は、現代人の生活を自然の力で癒し、元気づける

京都大学大学院経済学研究科教授 諸富 徹

「セントラルパーク」といえば、誰もが知るニューヨーク市マンハッタン島にある公園だ。だが、それをつくった人物が誰で、どのような思想の持ち主なのかを知る人は、ほとんどいないであろう。

本書の主題であるオームステッドこそ、セントラルパークの設計者であり、アメリカの造園界に今日まで巨大な影響を与え続けている人物である。本書はその生涯を描くことで、彼の思想と行動、そして彼が手掛けた数々の公園の背後にある設計思想を浮かび上がらせている。

それは、猛烈に発展する19世紀後半のアメリカ資本主義の下で働き、疲れ、悩む人々を、自然のもつ回復力で癒し、元気づける目的をもっていた。こうしたオームステッドの考え方は、セントラルパークのような都市公園から、ヨセミテ渓谷のような国立公園にまで一貫していた。

その場の自然を最大限に活かし、場の個性を読み解いてその強みを最大限に引き出す一方、弱みを覆い隠すよう設計する。「自然風景式」と名づけられた彼の設計思想は、技巧の限りを尽くしながら、自然以上に自然的で、美しい風景を創り出した。

富を生まない公園は一見、都市空間の資本主義的利用からみれば「ムダ」にみえる。だが、実はそうではない。都市にとって公園は、現代人の生活を人間的なものにするうえで不可欠だ。それは、「人工資本」でありながら、同時に「自然資本」でもある。人間(「人的資本」)の癒しを通じて結局は、資本主義経済発展にも間接的に貢献しているのだ。

こうした都市と公園の関係は、現代の資本主義と地球環境の関係を考えるうえで、重要な示唆を与えてくれる。深い洞察に富んだオームステッドの思想について20年以上も前に記したリブチンスキー氏の名著を、このたび平松氏が翻訳を通じて紹介されたのは、こうした観点で時宜にかなった、きわめて意義深い貢献だといえよう。

Ⅰ 下絵(スキーム)

第1章 釘のようにタフな男
第2章 フレデリック学校へ行く
第3章 ハートフォード
第4章 反対はしない
第5章 ニューヨーク
第6章 船員としての1年
第7章 友人たち
第8章 農業
第9章 さらに農業
第10章 古い国の徒歩の旅

Ⅱ 押しのけ、押しのけられ

第11章 ミスター・ダウニングの雑誌
第12章 恋愛と本の執筆
第13章 チャーリー・ブレイスの介在
第14章 ヨーマン(自由農民)
第15章 旅の道連れ
第16章 テキサスの入植者
第17章 ヨーマン、決断する
第18章 世界に比類なき最高のマガジン
第19章 海外

Ⅲ 好機を捉える

第20章 運命の転換点
第21章 大佐に競争相手現る
第22章 ミスター・ヴォークス
第23章 見事な解決策
第24章 昇格
第25章 フレデリックとメアリー
第26章 会計監査役グリーン
第27章 キング・コットン
第28章 大仕事
第29章 ヨーマンの戦い
第30章 短くともあと6ヶ月
第31章 ダナからの手紙
第32章 いまだかつてない幸せ
第33章 オームステッド、帆をたたむ
第34章 壮大な本の構想
第35章 ノーと言わせないカルバート・ヴォークス
第36章 無責任な最後

Ⅳ 堂々たる幕開け

第37章 オームテッドとヴォークスの完璧な公園計画
第38章 メトロポリタン
第39章 バッファローでの短期滞在
第40章 3万9千本の樹木
第41章 最高の敷地計画
第42章 ヘンリー・ホブソン・リチャードソン
第43章 オームステッドのジレンマ
第44章 ひとり
第45章 自然のままよりも美しい自然の風景
第46章 引っぱりだこのオームステッド
第47章 1月1日、解放される

Ⅴ 最大の功労者

第48章 つらい病後の回復
第49章 フェアステッド
第50章 彼の仕事へのこだわり
第51章 6番目の公園
第52章 オームステッド、州知事に会う
第53章 オームステッドとヴォークス、再びともに
第54章 小さなプレジャー・グラウンドとガーデンを作る
第55章 オームステッド、ひた走る
第56章 4人目の女神
第57章 親愛なるリックへ
第58章 サンセット

時代を超えた影響力

謝辞
日本語版刊行によせて 諸富徹
訳者あとがき

クレジット
索引
文献
主なオームステッドのプロジェクトリスト

原著者

Witold Rybczynski
モントリオールのマギル大学で建築修士号(1972年)
1980年~2015年頃にかけて多数の一般向けの建築・住宅・都市開発の本、雑誌原稿を執筆。 本書は社会問題に関わる文学的にも優れた作品に授与されるthe J. Anthony Lukas Book Prizeを獲得、Charles Taylor Prize in 2000の最終選考に残った。

訳者

平松宏城
ヴォンエルフ代表取締役、Arc Japan代表取締役
日米の証券会社に勤務した後、NPOを経て2006年にヴォンエルフを起業。以来一貫して金融システムとの連携などを通じてグリーンビルディングと持続可能な都市ランドスケープデザインの再構築に取り組む。大阪外国語大学卒。

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