最新 伝統木造建物の耐震入門

最新 伝統木造建物の耐震入門 耐震診断・補強のポイント
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内容紹介

ねばり強さを引き出すような耐震補強が重要

伝統構法による建物は、地震動の種類に応じて、効果の期待できる耐震補強がある。一方で、誤った構造特性の理解、思い込みによる部分最適化の耐震改修は、逆に災害時に被害を大きくすることになりかねない。適切な方法を選択することによって、伝統構法のもつ「ねばり強さ」による耐震性能を、きちんと引き出すことができる


林 康裕 著   

体裁A5判・200頁
定価本体3200円+税
発行日2025-07-05
装丁美馬智
ISBN9784761533137
GCODE4075
販売状況 予約受付中 (店頭発売:2025年7月2日頃)
ジャンル 木造建築・日本庭園
目次著者紹介はじめにあとがきレクチャー動画関連イベント関連ニュース

はじめに
口絵

0 まえがき

1 伝統構法と安全性の基本

1・1 伝統木造建物のいろいろ
1・2 伝統構法は「総持ち」で成り立っている
1・3 安全性の物差し(指標)とはどのようなものか
1・4 重要な構造部材は柱・梁と接合部

2 地震・地震動と伝統構法の被害

2・1 地震と地震動は区別する必要がある

2・2 海の地震と陸の地震の違いとは

2・2・1 プレート境界地震(海の地震)
2・2・2 内陸地殻内地震(プレート内地震、陸の地震)

2・3 木造耐震化の歴史

2・4 伝統構法建物の地震被害

2・4・1 内陸の巨大地震
2・4・2 相模トラフ沿いの地震
2・4・3 城郭建築の被害

3 地面と建物の揺れ方を知る

3・1 地震の種類と地面の揺れ

3・1・1 どんな地盤が苦手か?
3・1・2 地面の揺れ(地震動)

3・2 建物の揺れ方

3・2・1 揺れ方を決める指標「固有振動数」
3・2・2 建物の揺れ方
3・2・3 どれくらい揺れるかが分かる「応答スペクトル」
3・2・4 地震動による応答スペクトルの変化
3・2・5 陸の地震の揺れは「出足払い」
3・2・6 地震時の固有周期の変化
3・2・7 変位一定則とエネルギー一定則
3・2・8 陸の地震に対する変形角の決まり方

4 伝統構法の壊れ方

4・1 壊れ方の基本法則

4・2 接合部の壊れ方

4・3 垂壁付き柱の壊れ方

4・4 伝統構法は滑って免震しない

4・5 柱の歩きと建物の滑りの違い

4・6 柱勝ちと梁勝ち

4・7 理解したい架構の抵抗特性・変形特性

5 耐震診断の考え方と耐震補強のポイント

5・1 耐震診断とは

5・1・1 診断法のいろいろ
5・1・2 文化財の耐震診断指針
5・1・3 壁量計算や許容応力度計算を用いた方法
5・1・4 時刻歴応答解析
5・1・5 限界耐力計算

5・2 耐震診断のポイントと注意点(限界耐力計算を中心として)

5・2・1 建物のモデル化
5・2・2 安全性の判断(設計クライテリアの設定)
5・2・3 地震荷重の設定方法
5・2・4 限界耐力計算の注意点

5・3 補強時のポイントと注意点

5・3・1 壁の使いかた
5・3・2 水平構面の補強方針
5・3・3 ダンパーの使いかた
5・3・4 屋根を軽くするとホントに有利か?
5・3・5 連棟建物の耐震補強(一部分を補強すると壊れる)
5・3・6 注意したいリフォーム時の耐震補強

5・4 耐震診断・耐震補強のチェックリスト

6 知っておきたい安全性の調べ方・考え方

6・1 微動計測の使い道

6・1・1 微動計測とは?
6・1・2 揺れ方(振動モード)を知る
6・1・3 建物の強さを知る
6・1・4 地震後の被災度を知る
6・1・5 地震時にどれくらい揺れるかを予測する

6・2 木材の強度を傷つけないで調べる

6・3 建物の潰れ方(崩壊形)を調べる

6・4 通し柱効果を考慮した限界耐力計算

6・4・1 モデル化
6・4・2 通し柱の効果と折損評価

7 理論とデータで学ぶ伝統木造の安全性

7・1 自由度系の振動特性の基本

7・2 限界耐力計算における地震荷重

7・2・1 告示スペクトルと地盤増幅率
7・2・2 精算法による地盤増幅率の略算
7・2・3 調整係数

7・3 性能等価応答スペクトルによる最大応答変形の略算

7・4 地震荷重の今後

7・5 京町家の構造調査

参考文献
あとがき

林 康裕(ハヤシ・ヤスヒロ)

国立舞鶴工業高等専門学校校長。京都大学名誉教授。1958年神戸生まれ。1982年京都大学工学部建築系学科卒業、1984年京都大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程修了。1984年~2000年清水建設株式会社にて、おもに耐震研究に従事。1991年京都大学工学博士(論工博)。2000年京都大学防災研究所 総合防災研究部門・助教授を経て、京都大学工学研究科 建築学専攻・教授。主な研究テーマは、1)大地震に対する建築物の耐震安全性の向上(超高層建物・免震建物・中高層建物・木造住宅)、2)文化財建築物や 地域型木造住宅 の耐震性能評価技術の構築。対外活動に、京都市における次期耐震改修促進計画策定検討会・委員(座長)など。

はじめに

1995年兵庫県南部地震では、築30年以上の古い木造建物が甚大な被害を受けました。伝統木造建物を保存・再生するために、限界耐力計算法をはじめとした耐震設計法があみ出され、改良されてきました。著者らは、独自の実験システムを開発し、現在でも行われることの少ない架構レベルの実験を数々実施してきました。また、全国各地の民家や社寺などの構造調査や400棟以上にのぼる振動計測も実施してきました。

一方、被害を被った直接的な原因となった強震動評価のため、政府主導で地震観測網の整備や大都市での深部地下構造調査などが進みました。その間、著者らは伝統木造建物の安全性を脅かすパルス性地震動や建物の応答特性に関する先導的研究を進めてきました。

本書では、地震後、30年近く取り組んできた研究成果を、可能な限り初学者にもわかりやすくまとめたつもりです。著者らの研究に基づき、これまでに指摘されることの少なかった指摘も多く記載されていると思います。是非、伝統木造建物の構造や耐震性について学んでいる(これから学ぼうとしている)学生諸君をはじめとして、耐震設計に実際に携わられている構造技術者、そして、伝統木造建物の力学特性の解明に携わられている研究者、さらには木造建物以外を対象とした構造技術者や研究者の方々にお読みいただき、少しでもご参考にしていただければ幸いです。そして、伝統木造建物の耐震診断や耐震補強が、少しでも正しく行われていくことを切に祈っています。

2025年5月
林 康裕

あとがき

私が伝統木造に関する研究を本格的に始めることにしたのは、2004年12月に京都大学大学院建築学専攻の教授になったことを契機としています。構造実験を行って構造物が壊れるところを詳細に観察することで、理論と実現象には乖離があり、工学的判断が重要であることを学生に学んでほしいと考えました。当時の京都大学建築学専攻には、コンクリート系では西山峰広准教授が、鋼構造系では吹田敬一郎准教授と、2人の優秀な同期がいましたので、私は伝統木造分野に手を出すこととしました。大学時代には、鉄骨鉄筋コンクリート造の権威であった若林實京大防災研究所教授の下で、レンガ造を含む様々な構造種別を対象として、静的・動的実験をさせていただいた経験が生きました。京都大学防災研究所の助教授として着任させていただいてから4年半、鈴木祥之先生が進める伝統木造研究に関する研究を間近で拝見できたことも、大変、参考にさせていただきました。そして、ほとんどの構造実験の試験体製作では、木村忠紀棟梁に大変お世話になりました。

大変形静的水平加力実験を行って、伝統木造軸組架構が倒壊に至るまでの挙動をじっくり観察することで、本書の肝になる研究を進めることができました。そんな折、学芸出版社の知念靖廣氏から、本を書いてみないかとのお誘いをいただきました。お声かけいただいてから、出版まで少なくとも15年は時間が経過したのではないかと思います。知念氏には、粘り強く、諦めずにお声かけいただきましたこと、本当に感謝しております。

最後に、本書の出版に際し、私が心より信頼する、株式会社大崎総合研究所の前社長・所長の佐藤俊明氏、清水建設株式会社の森井雄史氏、東京都立大学の多幾山法子准教授、京都市の寺門宏之氏の4人の方々に査読をお願いいたしました。丁寧な査読に、心より感謝申し上げます。

開催が決まり次第、お知らせします。

メディア掲載情報

公開され次第、お伝えします。