現場写真×矩計図でわかる! 建築断熱リノベーション
内容紹介
教科書どおり・図面どおりにはいかない建築の断熱改修を、RC造集合住宅・木造戸建・RC造戸建と3つの実例に即して、豊富な現場写真や矩計図で詳解。断熱を理解するための基礎知識から、改修設計に必須な部分断熱の考え方、現地調査・設計・施工の流れ、改修後の効果測定まで、設計者こそ知っておきたい改修実務の勘所が満載
お詫び
初版第1刷に誤りがございました。正誤表のとおり訂正させていただきます。
2020年8月
体 裁 B5変・224頁・定価 本体3800円+税
ISBN 978-4-7615-3248-2
発行日 2019/08/10
装 丁 大串幸子
■1部“断熱リノベーション”ってどれくらい効果があるの?
- 基礎1 断熱から考える効果
2 断熱の費用対効果
3 ゼロエネルギー住宅への可能性
4 建物の断熱性能をチェックする
5 UA値計算をシンプルに考える
6 複雑な形状のUA値もラクに計算できる
7 断熱の進め方
■2部 断熱リノベーションの実践
◎CASE1|RC造マンションの内断熱改修 最上階住戸の大きなワンルーム
“新しいライフスタイル”を提案するための断熱改修
- 調査1 周辺のロケーションを把握する
2 配管や断熱の状況確認 改修前平面図
3 断熱に有利な住戸配置 改修前断面図 - 計画1 空間の改修イメージと断熱計画の全体像
2 大空間でも暖かい平面計画
3 最上階の屋根断熱と断面計画 - 検証1 全体像を把握する
2 屋根・床・南側外壁・西側界壁の性能比較
3 北側外壁・東側外壁の性能比較
|COLUMN| セルロースファイバー断熱材の性能 - 施工1 躯体工事 改修はメンテナンス必須
2 下地組工事 断熱ラインの決定
3 断熱材施工 セルロースファイバーの吹き込み
4 設備工事 換気計画と断熱ライン
5 設備工事 配管計画と断熱ライン
6 内装工事 床仕上げと壁・天井下地
|COLUMN|桐材の特徴
7 内装工事 天井・壁の漆喰仕上げ
8 建具工事 既存開口部の追加断熱 - 効果1 断熱リノベーション後の暮らし
2 改修前後のエネルギー消費を比較する
◎CASE2|木造戸建てのゾーニング断熱改修 増築を繰り返した木造在来工法の住宅
機能性・耐震性・断熱性を高めてつなぐ「時代を重ねたデザイン」
- 調査1 建物と周辺のロケーションを把握する
2 検討と選択のプロセス
3 敷地の環境と建物形状の温熱特性
4 母屋の増築プロセスと傷み具合
5 改修か建て替えか
6 全体計画に断熱改修を位置づける
7 増築時期で異なる状態の把握 改修前配置図
8 暮らしの重点とゾーニング断熱 改修後配置図 - 計画1 残す・残さないを線引きするコンセプト
2 断熱改修の方針を立てる
3 断熱ラインの設定
4 断熱材の選定
5 気密性の向上と換気
6 開口部の断熱と日射制御
7 断熱改修を考慮した耐震改修 - 検証1 既存仕様と増築履歴 改修前平面図
2 動線と断熱ゾーニング 改修後平面図 - 施工1 解体・躯体補強 現場変更は柔軟に
2 下地組・耐力壁・設備工事 既存活用の現場判断
3 断熱工事 断熱材の施工
4 枠・建具工事 造作建具の施工
5 外壁仕上工事 外壁修繕施工との兼ね合い
|COLUMN|職人さんがやる気になる“時代を超えて残る”仕事 - 効果1 断熱リノベーション後の暮らし
2 改修による温熱環境の改善
3 改修後の暮らしとエネルギー消費
4 ゾーニング断熱の有効性と課題
◎TOPICS [パーシャル断熱改修]築90年の木造店舗兼用住宅
地域の仕事場として開く段階的リノベーション
- 1 安普請木造を内断熱でくるむ
2 職人とともに、時にはDIYで
3 季節にあわせた「風の通り道」を作る
4 次なる展開に向けた耐震補強
5 断熱リノベーション後の仕事場
◎CASE3|RC造戸建ての外断熱改修 無断熱30年目のコンクリート打放し住宅
愛着ある住まいの原風景をどう残すのか
- 調査1 目指すべき断熱性能をイメージする
2 図面と現場で現況を確認する - 計画1 既存の空間特性を尊重する 改修前平面図
2 断熱とデザインの接点 改修前平面図
3 既存に調和する屋根形状とは 改修前屋根伏図
4 光と断熱の関係を考える 改修後屋根伏図
5 断面方向の断熱デザイン 改修前後矩計図 - 検証1 断熱材の性能を数値で評価する
2 外断熱・内断熱・中断熱+自然エネルギー - 施工1 折半屋根 1 既存を活かしつつ断熱効果を高める
2 板金の納まり形状は現場で決める
3 既存屋根を活かす重ね葺きの施工手順
4 既存トップライトから採光しながら断熱する
5 重ね葺き内部の追加施工
6 トップライト断熱の施工手順
2 サッシ 1 断熱性能・耐久性・意匠のバランス
2 改修現場での機転:外部額縁の素材変更
3 枠を再利用する(カバー工法)場合の施工手順
4 撤去して新設する場合の施工手順
3 陸屋根 1 シート防水からウレタン防水へ
2 改修現場での機転:防水施工のクリアランス確保
3 断熱+防水改修の施工手順
4 外壁 1 内断熱か外断熱か:判断と仕上材
2 改修現場での機転:階段・窓・外壁をくるんでつなぐ
3 下地組が肝心な施工手順
5 建具 1 既存を活かし断熱性能を高めるガラス入替
2 施工後の“見え”も意識した選択
3 シングルガラスからペアガラスへの入替施工手順
|COLUMN| 別棟トップライト 雨仕舞と“見え”の落としどころ
6 屋根裏 1 形状に追従できるロックウール留め付け断熱
2 改修現場での機転:施工性が悪い時
3 断熱材の留め付け施工手順 - 効果1 断熱リノベーション後の住まいの風景
2 快適性と動線とコミュニケーション
3 断熱リノベーション前後の温熱環境
学習参考図書一覧
断熱リノベーション用語解説
現代の日本社会は、インフラ、人、モノ……とストックがあふれています。今求められるのは、これらのストックのポテンシャルを見直し、活用の道筋を見出すことです。人的資源を例に考えてみましょう。現役世代をリタイアした高齢者らが、ストック人材として再々雇用されながら活動する姿をよく見かけるようになりました。本人の得意分野で力を発揮しながら、人材不足の社会をカバーしています。翻って建築・不動産資源に着目すれば、ご存じのとおり空き家が問題視されています。空き家は景観悪化、犯罪の温床など不良資産と見なされがちです。しかし人材活用と同じように、空き家をストックと見立てて活用することを考えてみてください。リノベーションで安全・快適になった建築は、不良債権から優良資産に生まれ変わり、再び社会へ貢献することが可能となります。耐震診断をして構造を補強すれば、“安全性”が担保されます。さらに躯体の補修だけでなく、「断熱」も施すことで、“快適性”“省エネ性”“環境性能”がどれだけ向上するか、快適な現役の住まいとしてその価値を再生させることができるのか、それを伝えるのが本書です。
2部構成となっている本書ですが、まず1部では、これだけはおさえておきたい断熱の基礎知識を解説しています。なお、本文中強調太字で示す語句は、巻末の用語解説と対応しています。続く2部は実践編です。鉄筋コンクリート造集合住宅の「内断熱」、木造戸建ての「ゾーニング断熱」、鉄筋コンクリート造戸建ての「外断熱」という、三つの既存建築における断熱リノベーション(改修)事例を紹介しています。入門事例としても理解を助ける鉄筋コンクリート造集合住宅の断熱リノベーションは、インフィル設計全てを紹介します。当時の大工の技量が見え隠れする築80年の在来軸組工法木造住宅や築30年の打放しコンクリート造住宅では、その価値に敬意を払いながら継承しつつ、快適性の向上を試みています。このように、優良資産に生まれ変わる余地のある空き家は、日本全国に山ほど眠っています。
例えば、CASE3のような打放しコンクリート造の建築というのは、1980~ 2000年頃まで広く用いられてきた、モダニズムを代表する建築表現でした。地震大国・日本で、建造物において最も重視される「構造」ですが、打放しコンクリート造の建築は頑強で、構造的には十分に安心できる耐震性を兼ね備えています。しかし一方で、あたたまりすぎたり冷えすぎたりするその素材特性から、暑さ・寒さの問題を抱え込んだ建築として、快適性を投げ出してその流行を許容していたとも言えます。こうした暮らしは、施主が家とともに高齢になるほど、日常の生活に負担がかかってしまうものです。ですが断熱リノベーションを行えば、温度バリアー(室内の温度差)の軽減により昨今問題視されているヒートショックの死亡事故を未然に防ぎ、安全・安心・快適・省エネ性も手に入り、ストック活用の担い手でもある高齢者にも、負担をかけない室内温熱環境を提供することができます。
加えてTOPICSとして紹介するのは、大掛かりな工事を必要とせず、施主自らがDIYで断熱性能を向上していく小さな木造戸建ての「部分(パーシャル)断熱」事例です。築30年を超えるような既存住宅を改修する際、家族構成の変化に伴う間取りや内装の刷新、耐震補強に加えて、「冬は寒すぎる、夏は暑すぎる」といった声を耳にしない事例はありません。しかしコストの制約や改修動機の優先度を考えると、断熱はどうしても後回しにされがちなのが現状です。そんな制約のなかでもどうにか小規模断熱工事を組み込み、施主自らも率先してDIYで小さくとも快適性を高める努力をしつつ、環境にも暮らしにもやさしい省エネ化を実現しています。
以上のような事例は、どんな既存建築の改修もそうであるように、あくまで個別解でしかありません。断熱リノベーションの現場もどれ一つとして同じ条件のものはなく、“壊して”みないとわからない課題はたくさん存在します。とはいえ、思考のプロセスや現場の施工手順には少なからずヒントが詰まっており、今後の断熱リノベーションを実践するうえで欠かせない要点を、多様な規模・条件で詳しく解説しています。そんな実践ならではの記録を書きとめた本書が、1件でも多くのストック住宅を活用するきっかけとして役に立てば幸いです。
著者を代表して 柿沼 整三