建築・交通・まちづくりをつなぐ 共生のユニバーサルデザイン

三星昭宏・髙橋儀平・磯部友彦 著

内容紹介

ユニバーサルデザインのまちづくりは、交通、建築、地域マネジメントの現場で今や必須とされる。その目的・役割を理解し、必要な計画と設計の技術を学ぶ入門書を第一人者が初めて纏めた。縦割りシステムを超え、土木・建築・まちづくりを横断する共生社会の実現を展望した、全国の自治体職員、コンサルタント、市民必携の書。

体 裁 B5変・140頁・定価 本体3000円+税
ISBN 978-4-7615-3214-7
発行日 2014/09/01
装 丁 KOTO DESIGN Inc. 山本剛史

本書の採用検討用見本のご請求はこちらから

目次著者紹介本書のねらいあとがき編集後記
本書のねらいと学習到達目標

1章 考え方とあゆみ ─ 福祉のまちづくりとバリアフリー、ユニバーサルデザイン ─

1 考え方
2 あゆみ

2章 法律の仕組み ─ 1970年代以降の条例・法の発展 ─

1 福祉のまちづくり条例
2 バリアフリー法

3章 交通施設 ─ 施設・システム・サービスの整備 ─

1 福祉のまちづくりにおける交通施設の位置づけ
2 ターミナルの整備
3 車両等のBF化
4 旅客交通施設と車両等の基準における課題と今後の展望
5 障害者対応自家用車

4章 道路の整備 ─ 歩行者の安全・快適・利便性を見直す ─

1 道路のBFの考え方
2 歩行者道路ネットワークの計画
3 道路の要素とBF基準
4 歩道の幾何構造
5 横断部における段差の解消
6 視覚障害者誘導・警告ブロック
7 休憩施設
8 駅前広場・地下街
9 信号機
10 歩行者ITS

5章 地域交通・生活交通 ─ 持続可能なサービスをめざして ─

1 公共交通の衰退と高齢者・障害者のモビリティ問題
2 地域の公共交通
3 公共交通活性化方策
4 福祉有償運送サービス
5 一般タクシー・福祉タクシー・子育てタクシー

6章 公共的な建築物の整備 ─ 技術的基準と実践方法 ─

1 建築物の主なバリアフリー基準と標準的な解決手法
2 建築物整備がめざすUD
3 建築物におけるUD整備事例

7章 住宅政策と住宅 ─ 個々のニーズに応える環境づくり ─

1 高齢者、障害者等の住まいの問題と課題
2 高齢者、障害者向け公的住宅の種類
3 住宅改修
4 これからの住宅のBFをどう進めるか

8章 公園・観光施設 ─ 生活と余暇、健康を守る環境づくり ─

1 公園の役割とBF、UD
2 公園の種類
3 公園のバリアフリー法制度
4 BF化された市街地の公園事例
5 観光施設とBF、UD
6 観光地のBF、UD事例
7 災害と公園

9章 一体的・連続的なまちづくり ─ 全国の取組み ─

1 一体的・連続的・ユニバーサルなまちづくりの必要性
2 一体的・連続的整備の事例

10章 参加型福祉のまちづくり ─ 継続的な取組みのために ─

1 福祉のまちづくり施策における市民参加
2 BF施策実施による影響を受ける関係者
3 市民参加の進め方
4 継続的改善(交通BFを事例に)

11章 地域社会と福祉のまちづくり ─ 多様な人びととの多様な進め方 ─

1 地域で支える福祉
2 BFのソフト施策
3 BFを学ぶ

12章 災害時に備える ─ 過去の経験から学ぶ減災への課題 ─

1 災害と「弱者」
2 阪神・淡路大震災、東日本大震災で見る高齢者・障害者等の被災
執筆者座談会 “ユニバーサルデザインの課題は、現代日本の基本課題そのもの”

編集後記(読者へのメッセージ)
索引

三星昭宏(みほし あきひろ)

……執筆担当:1章1節、3章5節、4(主)・5・9(主)・12章
1945年生まれ。近畿大学名誉教授、関西福祉科学大学客員教授。専門は交通計画学、土木計画学。1980年頃から関西を中心に福祉のまちづくりに尽力。元日本福祉のまちづくり学会会長

髙橋儀平(たかはし ぎへい)

……執筆担当:1章2節、2・6・7・8章
1948年生まれ。東洋大学ライフデザイン学部人間環境デザイン学科教授。専門は建築計画、生活空間計画、バリアフリー、ユニバーサルデザイン。前日本福祉のまちづくり学会会長

磯部友彦(いそべ ともひこ)

……執筆担当:3章1~4節、4(副)・9(副)・10・11章
1955年生まれ。中部大学工学部都市建設工学科教授。専門は土木計画学、地域交通政策、福祉のまちづくり、公共交通計画。日本福祉のまちづくり学会東海北陸支部長

本書のねらいと学習到達目標

本書のねらいと特色は以下のとおりである。

1)建築、交通、まちづくりで必要となる、ユニバーサルデザイン(以降、UD)の考え方を説くわが国はじめての本格的入門テキストである。

  • 写真・図版・イラストを多用してわかりやすさを、また計画の仕事に就く技術者や現場のエピソードを加えることで親しみやすい内容を目指している。
  • 土木・建築・まちづくりの各分野を同時かつ横断的に取りまとめている。
  • 交通工学・建築学・地域計画・都市計画・地域マネジメント等の授業の一部に、バリアフリー(以降、BF)・UDを取り入れる際、参考書となりうるものをめざしている。
  • 全体の構成はおおむね3つのパートからなり、前半を概論、後半を必要な技術知識の涵養、最後に継続的改善および防災問題を取り上げ、全般を通じて実例を重視し解説している。
  • 公共施設・建築物・交通サービスにおける、人間工学・生理学にもとづいた計画・設計手法、行政システムを学ぶとともに、技術者倫理を含むUDの実践に必要な総合力を解説している。

2)工学系だけでなく文系学部でも必要とされる「福祉のまちづくり」の知識を学ぶ。その意味で単なる工学書ではなく福祉的観点や知識を重視している。

3)机上の座学型学習のテキストとしてだけでなく、創生型、問題発見型、体験型学習の手引きとして、まちづくりのファシリテーター、コーディネーターの育成に活かすことができる。

本書による学習到達目標は以下のとおりである。

1)福祉のまちづくり、BF、UDが狭い専門領域の個別知識ではなく、倫理性をもった社会づくり、人びとの生活の中で幅広く必要とされる領域であることを理解する。
2)具体的な「まち」を見た時、福祉のまちづくり、BF、UDの観点から問題意識・問題発見・課題設定、さらに解決法が考察できるようになる。
3)以上により表現される計画・設計は広範囲の分野にまたがるが、それを企画し、コーディネートし、実現するプロセスを身につける。
4)文系・理系といった専門にとらわれない幅広い知識を学ぶ態度を身につける。
5)本書を片手に「まち」を検証して歩くことにより、BF・UDによる福祉のまちづくりワークショップの
コーディネーター、ファシリテーターのスキルを身につける。

今ユニバーサルデザインの現場で入門書がなく、多くの人たちから出版が期待されている。本書はとにかく平易で幅広い内容であることをこころがけ、学生には教科書、実務家には手引き書となるものをめざした。何しろまだ若い分野であり、成長期にある分野だけに、記載すべき内容、幅について大方の合意を得られそうな構成を決めがたく、執筆者3人で何度も討論を繰り返しながら本書を作成してきた。

2000年の交通バリアフリー法によるバリアフリー基本構想づくりは、わが国あげての社会基盤のバリアフリー化第一期ともいうべき怒濤のような時代であった。今また、まちづくりや都市の活性化としっかり結合し、地域の風土や個性を反映し、対象者を拡大した第二期ともいうべき共生のユニバーサルデザインの時代が始まり、政府も新しい取組みに着手している。手探りであった第一期から発展して、考え方、知識、方法、内容においてより高いレベルが必要とされるが、本書がその役にたてれば望外の幸せである。

本書の作成に当たって、大熊昭氏(国土交通省)、林隆史氏・沼尻恵子氏・藤村万里子氏(一般財団法人 国土技術研究センター)、沢田大輔氏・竹島恵子氏(公益財団法人 交通エコロジー・モビリティ財団)他、多数の方々のお世話になった。記して謝意を表する。

最後に本書の執筆と作成に当たって学芸出版社の井口夏実氏にはひとかたならずお世話になった。本書は井口氏の激励があってはじめてできたと言って過言ではない。改めて感謝の意を表したい。

著者一同

“一貫して当事者の立場に根ざし志高く”

「福祉のまちづくり」研究は、まちづくり系の学問を構成する一分野として発展してきました。例えば、土木学会、建築学会、人間工学会等の個別学会の一分野として研究が進められてきましたが、現場における発展とともに、分野別の研究では追いつかなくなってきました。それぞれの分野が相互に連携し、障害者や高齢者等の自立と社会参加を目ざす融合的体系が必要になってきたのです。

その観点から見ると本書で扱った分野は十分と言えないかもしれません。特に「心のバリアフリー」等、ソフト面のアプローチはもっと充実させたかったテーマです。読者の方々は本書の学習後さらに幅広い分野への関心をもたれることを期待したいものです。

福祉のまちづくり、ユニバーサルデザインは一貫して当事者の立場に根ざすことを心がけるものです。目的はあくまで障害者・高齢者当事者の自立と社会参加にあります。研究のための研究になってはいけない。「志」をたてて学ぶ福祉系・まちづくり系・人間工学系の学生諸君、行政・実務の皆さんが本書を越えて新しい福祉社会をつくられんことを願っています。

三星昭宏

“みんなで参加のまちづくり”

福祉のまちづくり、バリアフリー、ユニバーサルデザインのまちづくりの実践は決して難しいものではありません。誰もが参加でき、楽しめる、魅力あるまちづくり活動の1つです。年齢、性別、国籍、職種を問わず誰もが分け隔てなく都市やまちづくりについて自分の意見を述べ合うことができる活動であり、まちや他者の新たな発見につながる活動です。同時に自分が住んでいるまちをさらに「好きになる」きっかけが生まれます。

21世紀は人口減少の時代です。高齢者中心のまちやコミュニティに危惧を抱いていませんか。確かに過疎農山村のような地域では人口に対する高齢者の割合が半数以上になってくるでしょう。しかし、そのような地域社会であっても、住民によるさまざまな生活の知恵により、新たな支え合いが生まれています。高齢者の比率が高いことが問題ではなく、若い世代の元気がなくなることが一番の問題です。一歩勇気を出して、バリアフリー、ユニバーサルデザインの活動に挑戦してみませんか。不安感が達成感に変わるでしょう。

髙橋儀平

“社会的技術としての福祉のまちづくり”

技術は社会のために役立たなければならない。戦争のためでなく平和な社会生活のために利用されるべきです。 新技術や新製品は、それを必要とする人びとには大いなる価値をもたらします。しかし、その価値の客観的計測や、多様な人びとの間での価値観の共有化には困難が伴います。高コストをかけた高度な性能・機能が本当に必要かどうかは十分に検討されるべきでしょう。

そのなかで「社会的技術」(人類・社会のためにさまざまな要素技術を組み合わせ・統合し高度化を図るもの)の発展が求められています。福祉のまちづくりはこの典型です。その際に最適な技術と判断するのは技術者ではなく利用者であること,意見が分かれた時には最適解ではなく、各々が歩み寄った妥協策が社会的な最善となりうることに留意すべきです。

さまざまな立場、分野の読者みなさんが、学んだり体得した技術分野の延長として、福祉のまちづくり分野が存在していることを知り、強い関心をもち続けられることを期待しています。

磯部友彦