改訂版 和風金物の実際
内容紹介
京都・老舗金物屋の知恵袋をひもとき、数寄屋・町家・蔵・茶室・寺社にいたる金物の種類と意匠、使い方を多数の写真と図面で説いた和風金物大全。待望の増補改訂版。襖引手、釘隠し、錠前、錺金物等、和風建築の新築や修復に欠かせない金物及び古建築を彩る金物の魅力を余すことなく伝える。商業デザインの素材にも最適。
体 裁 B5・216頁・定価 本体3800円+税
ISBN 978-4-7615-3206-2
発行日 2013/09/15
装 丁 KOTO DESIGN Inc. 山本剛史
口絵
和風金物見どころマップ
一章 和風金物の世界
日本の建築と金物
和風金物の役割と種類
「錺金具」について
古建築のなかの金物
金工の歴史と和風金物
●COLUMUN1 巻頭釘のできるまで
二章 数寄屋の金物
料亭播半に学ぶ数寄屋の金物
襖引手の素材と仕上げ
引手のいろいろ
釘隠しのいろいろ
襖と引手
建具の金物
縁廻りの金物
床の間廻りの金物
簾・御簾・蚊帳吊り
手摺・帽子掛けなど
●COLUMN2 祗園祭の鉾の金物たち
●COLUMN3 祗園祭の鉾の金物たち
三章 町家の金物
町家の金物
大戸に使う金物
ミセノマの金物
駒繋ぎ
玄関先の隅金物・根巻き金物
ばったり床几の金物
庇・軒先の金物
犬矢来・駒寄せの金物
柵・格子の釘と鋲
郵便・新聞受け
看板吊り
旗立て金物
箱階段の金物
台所・風呂の金物
井戸端の金物
銭湯の金物
忍び返し
防犯柵
●COLUMN4 百工比照にみる金具の変遷
四章 蔵の金物
川越の店蔵
蔵の戸
蔵の窓
蔵の外廻り
蔵の屋根・軒廻り
●COLUMN5 和釘について
五章 蔵の金物
茶室の役金物
三田半宝庵と茶事
茶事の流れ
広間の茶室と役金物
小間の茶室と役金物
立礼席の役金物
水屋の金物
腰掛け待合の金物
雪隠の金物
茶席の床荘り
床の間の掛軸を掛けるための金物
床の間の花を掛けるための金物
釜を吊る金物
小間の中柱と吊り棚に打つ釘
にじり口の金物
水屋と洞庫の金物
茶室の外廻り
露地の金物
門の金物
枝折戸の金物
六章 寺社の金物
寺社のおもな金物
高山寺石水院の蔀戸
談山神社の十三重塔の金物
鹿苑寺金閣の金物
上賀茂神社の金物
銀閣寺東求堂の金物
葛井寺四脚門の金物
扉廻りの金物
長押の釘隠し
蔀戸の金物
●COLUMN6 近世の金工職人
和風金物リスト
襖引手
戸引手・取手
下がり・つまみ
丁番(蝶番)
引戸金物・引戸錠
釘隠し
蔵金物
和釘・鋲
町家金物
茶室釘
門金物
高欄・屋根
祠(お宮)
●COLUMN7 明治の金工職人
金物とあゆむ
索引
改訂版へのまえがき
1995年の大震災の頃から本の制作に入り、初版は1998年に世に出していただきました。ありがたいことに、その後わずか5年で初版本は完売に至りました。その間、ご高覧いただいた方々、またいろんな方面から御意見を寄せていただきましたことに、まずお礼申し上げます。
数々のご功績を残され、室房吉さんが逝かれたのは2006年。世の中には、新しい風が吹き始めていました。自信を失いつつあった日本人がスクラップ&ビルドの時代を反省し、日本の歴史的な環境を守り、広く活用していこうとする動きです。そのためには、安易に新しいものに更新させるだけではなく、まず目の前のものに眼を向け、昔からそこにあるものの意味を問わねばなりません。そうして、ものからひと、そしてまちづくりへと広がりをもった価値観を地域で共有しようとするものです。
1996年に施行された「文化財登録制度」が建築界の歴史的建造物への覚醒を大きく促すきっかけでもありました。
このたび、多くの方々から再版をとの声を勇気に、日本文化が育んだ一側面ながら「和風金物の世界」を伝えることで、先人が長年培ってきたセンスとノウハウを見直そうと、学芸出版社の後押しを受け、改訂版にいたることができました。初版の折には室さんの目と言葉が文になりましたが、今回は自分の足で各地の金物を拾い上げ、室金物株式会社の監修を経て、自らの実感が文になりました。
初版にはなかった「数寄屋」と「町家」を新しいカテゴリーとして組み込みました。そうして少しでも多くのカテゴリーを網羅することで歴史的建造物の保存・活用の場でも活かせるよう、また和風金物のきらりと光る姿をデザインソースの参考としていただけるよう写真や図版も増やし、金物リストも大きく更新いたしました。
誇るべき日本建築のよさを小さな金物から見ることで、大きな環境空間を丹念に創っていくことに結び付けて行けたら良いと考えています。
2013年8月
稻上文子
初版へのまえがき
京都という土地柄のため、神社・仏閣をはじめ、京都御所や桂離宮、修学院離宮、茶道の家元や多くの茶室、また、歴史ある町家や蔵など、数々の和風建築に囲まれて暮らしている。しかし、いざ和風建築を設計するにあたり、なにもかもわかっているつもりが、何ひとつ自分のものになっていなかったことに行き当たる。
そういったなかのひとつが和風金物で、建築の用途に応じて、さまざまな様式や決まりごとがあることを知り、驚かされる。一見様式化されてみえるが、実はちゃんと機能に基づいていて、しかも建築のなかで美しくおさまっている。ときには建物の荘厳さを示すために必要な装飾的な金物があり、また建具の開閉を助けるのに必要な機能的な金物がある。どちらももとは木造建築の弱いところを補うものであり、木造建築との美しい共存をめざしたものである。
ここでは、和風建築のなかの金物を建築の用途別にとりあげ、とくに茶室金物については、茶事の流れにそってその用法も記した。
多くの和風金物を、美しい古建築のなかからとりあげることで、古建築を見るときの新しい切り口としていただきたいことと、和風金物の機能と用法を知ることで、建築のなかのひとつのエレメントがどう建築に溶け込み意味をもつか、そしてなによりも、どう美しくおさめるかを感じとっていただき、和風建築のみならずどんな建築の設計のときにでも役立つことを願っている。
また本書は、私が和風金物と出会うきっかけとなった京都の和風金物の老舗「室金物」の室さんからの資料提供と、用法のご教授をいただいてはじめてできた本である。本当は、読者となられたすべての皆様に、室さんと是非お出会い願い、この方の魅力に直に接していただきたいと切に願うところであるが、すくなくともこの本を通じて、室さんの「金物の知恵袋」と生きざまの一部にふれていただくことにより、皆様の和風金物への一層の興味につながれば、本当に幸いである。
技術書の域にとらわれない本として、ひいては、和風金物の手引書よろしく、実用書として座右ならず小脇においてかわいがっていただけることを、心より願うところである。
1998年1月吉日
稻上文子
家具屋さんがたくさん並ぶ京都夷川通の町家に室金物があった1980年代、私は初めてその敷居をまたぎました。
低い軒の薄暗い店の奥から私を迎え、「へいっ、いらっしゃい」。そうして目が慣れてくると、もう一層深いところに、数々の金物の入った小箱が所狭しと積まれていたことを思い出します。
金物についてお尋ねすると「へい、へいっ」と、私のような若輩のもののいうことにでも、親身に耳を傾けてくださりながら、「まあ、聞き、おっさんのいうこと。こういうときはなぁ……」と机の上の、広告や書き損じをメモ紙にしたものに、鉛筆でつらつらとスケッチを始めて、講釈師のような、呪文のような口調で細かくその用法を教えてくださったものでした。横からやさしい妹さんの声がときどき助け船のように入り、心底納得してその金物を分けていただくこととなりました。
ときには抹茶を点ててくださり、いろんなことを教わったあとにはいつも、「わかったからというて、えらそうにしたらあかんで。若いモンはなぁ、知ってるからいうて、ひけらかしたらいかん。そうしてて、誰にも負けんよう、よう勉強して、何でも知ってて、そんで、なんでも感謝と真心やで」とおっしゃったのでした。
その後、周囲の先輩建築家方のすすめもあり、室さんの心の金物(=宝物)を本にと、初版が出たのが1998年でした。
その後は金物という「小さな窓」から「大きな建築」を語れたらとの希望を胸に、たくさんの古建築を訪門し、多くの発見がありました。改訂版の出版という好機をいただくにあたって、改めて初版制作の折に御世話になった方々に感謝するとともに、このたびは室金物の監修を得、再び名建築の写真を相原功さんから提供を得る光栄をいただきました。また編集に際し、産休の間もご助言くださった学芸出版社の永井さん、緻密な編集に注力いただいた越智さん、「今、誰に何を」伝えるべきかを啓示してくださった井口さん、写真協力に一緒に町を歩いてくださった松本崇さんに心より感謝の言葉を申し上げたいと思います。
最後に、改訂版の出版は私にとっては次のステップへのスタートになります。今後も室さんの言葉通り、先人の言葉を大切に謙虚に皆様の声をいただきながら、奈良言葉で言う「ええ風(かざ)する」方向へと自分の手と足で建築を紡ぎ、それを伝える道に進むことになると思います。
ありがとうございました。
稻上文子
ごあいさつ
前著『和風金物の実際』は、亡き前会長の金物人生の集大成ともいえる本でございました。今でもお客様より和風建築の金物を選定する際にご活用いただいているとのお声をよく耳にし、本当に有難いことであると考えております。
この度、改訂版として再び発刊されることになりまして、ご尽力頂きました稻上文子さん、学芸出版社の皆様に厚く御礼を申し上げます。
弊社和風金物製品は、お陰様で日本全国の数奇屋工務店様、建具業者様、設計事務所の先生や個人的に金物がお好きな一般の方々まで、国内だけでなく、海外からもご用命を頂いており、弊社の大きな特色の一つでございます。和風金物の多くは今でも職人による手作り品がほとんどで、機械製の大量生産品にはない個性や温かみがございます。和風金物を効果的にお使い頂くことで建物の風格やお部屋の雰囲気が一段と良くなると思います。
遠方からわざわざ足を運んで頂いたお客様の中には、陳列された和風金物をご覧になるなり「手作りのこんないいものが京都にはまだあったのですね」と驚かれることが多々あります。そのたびに弊社のPR不足を感じるとともに、多くの皆様にいい製品(ほんまもん)に触れて頂き、その魅力を知って頂きたいと思います。もちろん弊社でもメーカー機械製の廉価品も扱っておりますが、お客様の選択肢として、手作りのいい製品からメーカー品まで、ご希望やご予算に応じてお選び頂けることが大事なことかと思います。
ただ、弊社におきましても他の伝統工芸と同じく、職人の高齢化、後継者不足が進んできております。職人がいなくなり、製品ができなくなりますと、それはいつしか「世の中から無いもの」になります。和風金物文化をなんとか次代へと繋げるために、和風金物の魅力を発信するとともに、最近では古い建物や町家を改装した商業施設、カフェや飲食店が増えてきましたので、そういった所に和風金物の新たな使用方法を提案して参りたいと考えております。
お探しの和風金物がございましたら、今では電話やFAX以外にEメールを通じて写真や図面をお送り頂きお問い合わせ頂ける時代になりました。弊社の数万点の在庫品からお探しし、もし在庫品にない場合は数十軒ほどございます職方で別注品としても承ることもできます。お気軽にお問い合わせ頂ければと思います。
この「改訂版」が、皆様にとりまして金物選定の際のお役に立ち、また新たに和風金物の世界に興味を持って頂く一助となれば幸いでございます。
室金物株式会社 代表取締役社長
室 公博