駐車場からのまちづくり
内容紹介
都心部の2、3割を占める駐車場のあり方は、都市再生のための要である。にもかかわらず、総合的・科学的に解説した本もなく、非効率な駐車場が都心を占拠している例すらある。そこで本書では、附置義務駐車場等の法改正の動向もにらみつつ、駐車場の密度、配置、デザインと運営管理の考え方を国内外の事例とともに紹介する。
体 裁 A5・232頁・定価 本体3000円+税
ISBN 978-4-7615-3196-6
発行日 2012/04/15
装 丁 上野 かおる
1章 駐車場からのまちづくり
1-1 駐車場制度の歴史と現状
1-2 駐車場政策のこれから
2章 都心部駐車場の密度と配置とデザイン
2-1 密度
2-2 配置
2-3 デザイン
3章 移動制約者と駐車場
3-1 移動制約者とは
3-2 移動制約者用駐車場をめぐる現状と課題
3-3 移動制約者用駐車場をめぐる新しい動き
4章 駐車場をめぐる日本・世界の動向
4-1 日本
4-1-1 横浜市 エキサイトよこはま22における駐車場施策
4-1-2 金沢市 まちづくりの視点に立った駐車場施策
4-2 ヨーロッパ
4-2-1 ロンドン 駐車場削減を目指す大都市
4-2-2 ケンブリッジ 中心部と郊外部で異なる基準
4-2-3 フランクフルト 大規模な都心歩行者空間を支える駐車場体系
4-2-4 ダルムシュタット 都心広場の地下を利用した駐車システム
4-3 米国
4-3-1 アメリカ駐車場政策の概要
4-3-2 ヒューストン 自動車時代の自由な都市
4-3-3 ダラス テキサス荒野の自動車都市
4-3-4 サンフランシスコ アメリカ西海岸の坂の大都市
4-3-5 ポートランド 全米で最も公共交通を大切にする街
4-4 アジア
4-4-1 ハノイ フルモータリゼーション前夜の大都市
4-4-2 バンコク 過度のモータリゼーションからの脱却を目指す大都市
5章 これからの駐車場政策
5-1 駐車場から取り組むまちづくり(討論)
5-2 提言(10の原則)
参考資料
参考資料1 わが国の標準駐車場条例
参考資料2 横浜市駐車場条例
参考資料3 金沢市における駐車場の適正な配置に関する条例/建築物の駐車施設に関する条例
参考資料4 自動車の駐車場所および車庫ならびに自転車の駐輪場所の確保義務に関する条例(フランクフルト駐車場条例)
『駐車場からのまちづくり』というタイトルを見て、何を感じられたでしょうか? 駐車場でイベントでもやるのか、街の特産品でも売ろうというのか、駐車場とまちづくりなんて関係ないじゃないか…と思う方もおられるのではないでしょうか。
最近出版されるまちづくりの本の多くは、公共交通を大切にした街・歩いて楽しい街をつくるべきだ、環境に優しい都市を目指そう、ユニバーサルデザインが大切だ、コミュニティの力・ソフトの力でまちづくりを実現しよう、そういうトーンでまとめられており、駐車場からまちづくりを考えようなどという論調はほとんどありません。
ただ、冷静に考えて下さい。現在、自動車は高齢者・障害者にとって極めて大切な交通手段で、わが国の地方部では人間1人に対して0.8台以上の自動車が存在します。そして、自動車は出発地と目的地の両方にそれぞれ1台当たり概ね8畳の駐車空間が必要です(持ち家の1人当たり面積とほぼ同じ)。結果として、多くの街ではすでに中心部に地区面積の20~30%を占める駐車場が存在しているのです。計画的な街でも公園は地区面積の3%、道路は25%程度ですから、まちづくりとしてこの空間を無視することはできません。
しかも、今の駐車場は「とりあえず駐車場」や「自動車げた箱」で、とても魅力的とはいえません。だからといって、嫌悪感からくる「無関心でいることが正しい態度という姿勢」では、現実に目を背けている、といわざるを得ません。我々はもっと正面から駐車場に向き合う必要があると思います。
本書は、公益財団法人国際交通安全学会の自主研究プロジェクトとして3年間活動をした成果です。多くのデータはこの研究活動の中で独自に収集したもので、密度(Density)、配置(Disposition)、デザイン(Design)そして運営管理(Management)の〈3D+M〉をキーワードとしています。
都市計画、交通計画、建築、造園、福祉、行政など様々な分野の専門家が集まって議論を重ねた結果をご一読頂き、ご批判を賜れれば幸いです。
執筆者代表 岸井隆幸
駐車場が街の重要な空間要素となっている現実を踏まえて、何をするべきか、〈3D+M〉の視点で考えを取りまとめようとして4年近い月日が流れました。公益財団法人国際交通安全学会事務局の皆様には色々とご迷惑をおかけしましたが、ようやく出版にこぎつけることができました。研究プロジェクトメンバーおよび執筆者を代表して厚く御礼申し上げます。
なお、この間、現実社会でも駐車場法の改正について様々な議論がなされており、行政関係者の皆様にわれわれの研究成果を聞いていただく機会もいただきました。そういった議論の成果として、この本の印刷と併行して、駐車場をめぐる新しい法が具体化されつつあります。国土交通省が中心となって、低炭素都市社会を実現するための法律が用意され、その中で本書でも提案した附置義務駐車場の設置の考え方を「On SiteからIn Area」へ転換させる項目が入っています。おそらく、この本が書店に並ぶ頃にはこの新しい法律が成立し、駐車場政策の新しい扉が開かれているものと思われます。
駐車場の議論はまだまだその端緒についたに過ぎません。誰にとっても便利で、安全で、環境に優しく、そして美しい駐車場を実現するには、駐車場を正面から見据えて、様々な人々の知恵をそこに注ぐことが必要です。我々の議論もまだまだ不十分であると感じています。物流車の取り扱いはどう考えるのか、自動二輪車・自転車駐車場との連携は必要がないのか、カーシェアリングやレンタカーとの関係をどう考えるべきか、ITを活用した管理システムの工夫は考えられないか、線を引くだけの駐車場整備を開発行為として把握しなくてよいのか、などなど議論はつきません。
また機会を見出して、こうした残された課題に挑戦したいと思います。
最後に、本稿をまとめるにあたっては、学芸出版社の前田裕資さん、森國洋行さん、研究室の吉野ゆう子さんに大変にお世話になりました。こうした方々の支援、協力、叱咤激励がなければ本書は完成しなかったものと思われます。深く感謝申し上げます。ありがとうございました。
執筆者代表 岸井隆幸