テキスト建築の20世紀
内容紹介
近現代の理論とデザインを考えるための一冊
産業革命、近代的材料の発明・利用、建築家の誕生、革新的な建築運動、建築理論の発展など、近代の建築史は、大きくその意味を変えながら、現代に繋がってきている。現在を理解し、未来を考える上で、20世紀の建築を理解する重要性は増しているといえるだろう。モダニズムの歴史と理論を1冊にまとめた、大学生向けテキスト。
体 裁 B5変・240.0頁・定価 本体3400円+税
ISBN 978-4-7615-3182-9
発行日 2009-12-30
装 丁 KOTO DESIGN Inc.
第1部 プレ・モダニズム
第1章 近代化への布石 近代建築の萌芽
1 技術者の貢献:近代建築の礎を築いた工学
2 労働者の環境改善:理想社会モデルの提案
3 様式の選択と折衷:国民的様式としてのゴシック
4 理想的建築:ゴシックの合理的解釈
第2章 近代建築の曙光 伝統性と近代性の相克
1 アーツ・アンド・クラフツ運動:中世を理想としたものづくり
2 グラスゴー・スタイル:新たな時代の様式を求めて
3 郊外住宅地:田園生活の理想
4 『明日の田園都市』:近代都市計画の聖典
第3章 近代への多様な道のり 世紀末ヨーロッパの建築
1 アール・ヌーヴォー:モダンデザインの胎動
2 モデルニスモ:カタルーニャの近代化
3 ユーゲントシュティール:モダンデザインへの傾斜
4 オットー・ワーグナー:表層の自立
5 アドルフ・ロースのモダニティ:装飾と犯罪
6 新素材による建築と都市像:鉄筋コンクリートという近代性
第2部 モダニズム
第4章 切断される「過去」 建築のアヴァンギャルド
1 キュビスムと建築
2 イタリア未来派
3 ロシア構成主義
4 デ・ステイル
第5章 大量生産社会の建築へ 近代建築の実験場としてのドイツ
1 ドイツ工作連盟:芸術と産業との結合
2 表現主義建築:解き放たれた造形意欲
3 バウハウス:モダンデザインのゆりかご
4 大規模ジードルンク建設の時代:「すべてのひとに住宅を!」
第6章 摩天楼と郊外住宅 アメリカにおける近代建築の形成
1 メトロポリスの摩天楼
2 メトロポリスの表象:アメリカにおける古典主義
3 アンチ・メトロポリスの住宅Ⅰ:ライトのプレーリー・ハウス
4 アンチ・メトロポリスの住宅Ⅱ:ライトのユーソニアン・ハウス
5 アンチ・メトロポリスの住宅Ⅲ:フロンティアの前衛
第7章 ル・コルビュジエ 遍在する身体
1 時代の交差点としてのル・コルビュジエ
2 「白」の意味:1920年代の住宅
3 素材・身体・空間:サヴォワ邸以降
4 世界と身体との重合:二つの宗教建築
5 等身大のル・コルビュジエ
第8章 ミース・ファン・デル・ローエ ユートピアなきモダニズム
1 アヴァンギャルドへの道:1921-1925
2 巨匠への道:1926‐1937
3 新たなスタイルの確立へ向けて:1938‐1942
4 頂点と終焉:1944‐1968
5 ミースの影響とその功罪
第9章 教義としての近代建築 近代建築の成立と成熟
1 合理と機能:建築における規格化
2 機能的都市の確立:分節化する機能
3 「スタイル」としての近代建築
4 様式から空間へ
第10章 合理性と固有性 近代建築のひろがりと変容
1 経済と建築:新天地アメリカでの展開
2 規格化と構造の表現
3 近代建築の一つの帰結:SOMの建築
4 風土のなかの建築
5 イデオロギーと建築
第3部 ポスト・モダニズム
第11章 経験の多様性へ向けて 近代建築への懐疑と超克
1 CIAMの終焉とチーム10の誕生
2 都市の再発見:多様な経験の舞台として
3 場所の力:世界と出会う経験
4 多様性の先にあるもの
第12章 建築のポスト・モダン 領域の拡張
1 モダニズムの相対化:建築の多元的解釈
2 ポスト・モダン建築の多義性:言語化していく建築
3 都市のコンテクストと建築
4 テクノロジーへの視点:表層化していく建築
5 ポスト・モダニズムへの懐疑
6 建築のディス・プログラミング
第13章 テーマ化するモダニティ 21世紀へ
1 レム・コールハース:モダニティの受容とモダニズム解体
2 ヘルツォーク・アンド・ド・ムロン:アート化する建築
3 フランク・O・ゲーリー:アートとコンピューターとスペクタクル/ハリウッド化する建築
4 妹島和世,西沢立衛(SANAA):新たなモダニティの空間へ
私たちが日々,目の当たりにし,そして取り囲まれている風景は,20世紀が用意したものといっても過言ではありません.私たちを取り囲む空間.そのありようへの思いを馳せることとは,20世紀の建築と都市を考えることに他なりません.
本書は,建築史,建築論,建築意匠,建築設計を専門とする研究者・建築家によって編まれています.専門こそ異なるものの,それぞれに20世紀の建築や都市を注視してきた私たちは,執筆に入る前にそもそも「なぜ20世紀の建築のことを,都市のことを考えてきたのだろう」ということをまず自問してみました.
そして,「自らの建築観・都市観を形成するために,20世紀の建築や都市を考えることを楽しんでいるのだ」という結論に至るのにさほどの時間は必要ありませんでした.私たちは,設計から研究まで,厳密な専門こそ異なるものの,その基盤となるものは一致しているということを改めて確認しあったのでした.この広がりを有するフィールドこそが「20世紀の建築と都市」なのです.
20世紀の建築について考えるという「楽しみ」,私たちがそこに見い出してきた,「ドライブ感」とも呼ぶべき「楽しみ」を伝えたいという思いとともに私たちは議論を始めました.ここでいう「ドライブ感」とは,単なる事実の集積としての「死んだ空間」ではなく,未だにわれわれを刺激してやまない20世紀の建築と都市という「生きた空間」を疾走する生々しい感覚のことです.私たちは,1年間のグループワークを通じて如何にしてこの「ドライブ感」を伝えるかについて議論を重ねました.その結果本書は,暗記を効率よく行うための書籍ではなく,それぞれの多様な解釈を喚起するための「箱船」として編まれることとなりました.
本書は,大学や専門学校等で建築を学ぶ方々や建築実務者をはじめ,建築のデザインに興味をお持ちの方々を対象としています.20世紀の建築や都市について考える「楽しみ」,さらにはその「ドライブ感」を共有することを目指した本書では,あえて統一的な視点に拠るのではなく,社会や技術,考え方の変化などを中心とするマクロな視点と,一人の建築家,さらには一つの作品に迫るミクロな視点が交錯し,「建築の20世紀」が描き出されています.こうした視点の横断もまた十全に楽しんでいただければと思います.また,さらなる横断を楽しんでいただくために,巻末にはブックガイドを付しました.よりダイナミックな横断のため,興味ある部分については,他の書籍も手にしていただければと思います.
本書は, 20世紀への準備段階ともいえる第1部「プレ・モダニズム」,20世紀初頭の前衛たちによる20世紀の建築への試行に始まる第2部「モダニズム」,そして「モダニズム」への批判と批評を主とし,現在に至る試みを記す第3部「ポスト・モダニズム」の3部から構成されています.
一見,時間の進行に即して展開しているようにみられる20世紀の建築ですが,そこに現れる建築家たちは,それまでの「遺産」を自らの糧ともしていました.すなわち彼らは,縦横無尽に「過去」を参照しながら「現在」をつくっていったと言えるでしょう.建築において時間は一直線には進みません.そうした相関を,索引などを利用しながら,解読していただければと思います.それもまた,私たちが企図する,歴史を自らのものとする「楽しみ」なのです.この豊穣な世界を,本書を手に取る方々とともにできること,それこそが私たちの「楽しみ」でもあります.
20世紀の建築家がすぐれた「遺産」に依拠していたように,言うまでもなく本書は,過去の多くの書物に示された先達の卓越した見識に多くを負っています.最後になりましたが,ここに感謝の意を表します.
2009年11月
編者
なし