住民主体の都市計画


住民主体のまちづくり研究ネットワーク 編著

内容紹介

分権と市民参加の時代を見据えた実践と検証

地方分権と住民参加の流れにおいて、都市計画は益々住民に身近な存在となりつつある。真に住民主体の都市計画が行われる時代に向けて、住民が中心となった最新の取り組み事例を検証。都市計画を住民が使いこなすには何が必要か、住民と行政の役割分担、狭域と広域の論理の整合性を、第一線の若手実務者・研究者が問い直した。

体 裁 A5・368頁・定価 本体3800円+税
ISBN 978-4-7615-3172-0
発行日 2009-03-10
装 丁 KOTO DESIGN Inc.


試し読み目次著者紹介まえがきあとがき読者レビュー関連情報

令和6年能登半島地震を受け、下記のページにて、内容の一部を著者のご協力のもと公開しております。

※内容の無断転載等は禁じます。

災害からの復旧・復興関連資料 無料公開書籍一覧

序 都市計画を住民が主体的に“使う”時代へ

米野史健

1章 良い住環境を保全する

解題:保全をめぐるルールと住民活動との関係  米野史健
1-1 借地組合の契約にはじまる環境維持活動
大正末期に開発された練馬区城南住宅組合の取り組み  杉崎和久
1-2 美しい住環境の保全をめざす
住民が制定し運用するまちづくり協定・横浜市荏田北2丁目  室田昌子

コラム 地区レベルでの法的な規制の手法

2章 まちの景観を創り出す

解題:身近な“生活景”を住民主体で育てる  米野史健
2-1 生活景と地域コミュニティを育む日常的活動
東京郊外・世田谷区「地域風景資産」による風景づくり  岡田雅代
2-2 多様な主体による身近な景観づくり
秦野市景観まちづくり条例に基づく庭先協定  秋田典子

コラム まちづくり条例

3章 まちの変化に応える

解題:街の変化を契機としてまちが変わる  真鍋陸太郎
3-1 シンボル的な都市景観の保全から地域の住環境づくりへの進展
二度のマンション紛争を契機とした佐賀市城内地区での取り組み  秋月裕子
3-2 町並み保存活動とマンション紛争の相克
名古屋市白壁・主税・橦木地区におけるまちづくり活動  吉村輝彦
3-3 モノづくりのまちを次世代へ継承する
操業環境を保全し住工共生する、東大阪市高井田地域  泉 英明

コラム 都市計画提案制度

4章 歴史的景観を保全・創造する

解題:地域の文脈に応じたまちづくり組織のあり方  桑田 仁
4-1 まちづくり組織による提案と実践
「神楽坂らしさ」の保全・東京都新宿区神楽坂地区  矢原有理・窪田亜矢
4-2 自律的なまちづくりをめざす
大分県湯布院町「湯の坪街道地区」における景観計画の策定  姫野由香
4-3 まちづくり協定による設計案審査と街並み誘導
輪島市馬場崎商店街がめざす「輪風」のまちづくり  遠藤 新

コラム 地域を管理運営する組織

5章 まちの商業地をマネジメントする

解題:多様な境遇・利害関係者のなかで進める工夫  川原 晋
5-1 協定から市民事業までの住民主体の計画づくり
地域の“要かなめ”をめざす鶴岡市山王商店街のまちづくり  川原 晋
5-2 既存住民や職人と共存する商業環境の整備
街並み誘導型地区計画を活用した横浜市元町仲通り  石田 武
5-3 低俗化からの脱出
歓楽街のまちづくり“大阪ミナミ 宗右衛門町”  横山あおい
5-4 既成中心市街地の官民共働エリアマネジメント
福岡市、We Love天神協議会の取り組み  福田忠昭

コラム 社会実験の可能性

6章 身近な公共空間を改善する

解題:身近な既存空間の再整備のために  野澤千絵
6-1 農業用水路に沿った地域環境づくり
尼崎市むこっ子ロードにおける校舎裏すきま空間改善活動  内平隆之
6-2 小さな生活環境整備事業の積み重ねによる密集市街地の改善
横浜市「いえ・みち まち改善事業」  金 冑錫
6-3 市民提案・市民主体による既存空間の再整備
地域のコミュニケーション基地「うさきちハウス」づくり  野澤千絵

コラム 市民事業

7章 集落を守り育てる

解題:都市と農山漁村は相互に何を学ぶか  饗庭 伸
7-1 総合的村づくりにおける手法の1つとしての都市計画
兵庫県・岩崎地区の地区整備計画  松原永季
7-2 震災復興における中山間地集落再生の試み
新潟県中越地震における小千谷市東山地区での取り組み  澤田雅浩
7-3 地域を維持・継承させてきた住まい方
人口増加してきた坊勢島の地域内転居  山崎義人

コラム まちづくりとは

8章 住民主体の活動を支える仕組み

解題:住民の活動と政府の論理の隙間  内海麻利
8-1 きっかけとしての公募型助成金事業
東京都練馬区におけるまちづくりセンターの活動助成  杉崎和久
8-2 住民の必要性から公共サービスを創る方法
神奈川県大和市の市民と行政の「協働事業」制度  後藤 純
8-3 地域に予算を配分する取り組み
三重県名張市「ゆめづくり地域予算制度」  松浦健治郎

コラム まちづくりファンドのこれから

9章 まちの組織化

解題:住民主体の都市計画への準備として  真鍋陸太郎
9-1 マンション居住者との交流からはじまった地域自治のルールづくり
京都市有隣まちづくり委員会の活動  山本一馬
9-2 都市縁辺部における農空間を次世代に継承する
農業/都市的土地利用の整序化に向けた堺市北区金岡地区のまちづくり  加我宏之
9-3 インターネットによる地縁型コミュニティ支援の可能性
世田谷区若林地区でのSNS活用の実験  千葉晋也

コラム 都市計画と情報・情報技術

10章 住民主体の都市計画を考える論点

10-1 住民はいかに「主体」となり得るか  米野史健
10-2 「計画」の位置づけとあり方  内海麻利
10-3 確かな「規制・誘導」の実現のために  真鍋陸太郎
10-4 地域の運営につなげる「事業」の進め方  川原 晋
10-5 「時間」の流れと知恵  饗庭 伸
10-6 住民主体の「都市計画」の可能性
桑田仁・饗庭伸・内海麻利・川原晋・野澤千絵・真鍋陸太郎・米野史健

編著者(執筆順。*はコアメンバー)

●米野史健(めの ふみたけ)

1970年千葉県生まれ。大阪市立大学都市研究プラザ博士研究員。博士(工学)。東京工業大学大学院社会工学専攻修了後、同大学教務職員、日本学術振興会特別研究員、国土交通省国土技術政策総合研究所住宅研究部研究官を経て現職。主な著書に『データで読み解く都市居住の未来』(共著、学芸出版社)ほか

●杉崎和久(すぎさき かずひさ)

1973年東京都生まれ。(財)練馬区都市整備公社練馬まちづくりセンター専門研究員(まちづくり担当)。東京大学工学系研究科都市工学専攻博士課程単位取得退学後、2005年より現職。主な著書に『市民参加と合意形成』(共著、学芸出版社)『新しい自治のしくみづくり』(共著、ぎょうせい)『まちづくり百科事典』(共著、丸善)ほか

●室田昌子(むろた まさこ)

武蔵工業大学准教授。東京工業大学社会理工学研究科博士課程修了。博士(工学)。㈱三菱総合研究所、(財)運輸政策研究機構の研究所勤務、武蔵工業大学講師を経て2007年より現職。主な著書に『自由時間社会の文化創造』(共著、ぎょうせい)『密集市街地のまちづくり』(共著、学芸出版社)ほか

●岡田雅代(おかだ まさよ)

東京都生まれ。うつのみや市政研究センター専門研究嘱託員。東京工業大学大学院総合理工学研究科人間環境システム専攻博士課程単位取得満期退学。博士(工学)。著書に『景観法と景観まちづくり』(共著、学芸出版社)『環境計画・政策研究の展開 持続可能な社会づくりへの合意形成』(共著、岩波書店)

●秋田典子(あきた のりこ)

大阪府生まれ。千葉大学大学院園芸学研究科准教授。東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻博士課程修了。博士(工学)。東京大学国際都市再生研究センター、東京大学大学院新領域創成科学研究科研究員を経て、2008年より現職。主な著書に『都市計画の理論』(共著、学芸出版社)ほか

●真鍋陸太郎(まなべ りくたろう)

1973年徳島県生まれ。東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻・助教。東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻博士課程中退後、同大助手を経て2007年より現職。主な著書に『住環境』(共著、東京大学出版会)ほか

●秋月裕子(あきづき ひろこ)

1976年北九州市生まれ。㈱オオバ九州支店まちづくり部。奈良女子大学文学部地域環境学科卒業、大阪大学大学院地球総合工学専攻修了後、2001年より現職。日本都市計画学会、都市環境デザイン会議会員

●吉村輝彦(よしむら てるひこ)

1971年東京都生まれ。日本福祉大学国際福祉開発学部准教授。東京工業大学大学院人間環境システム専攻博士後期課程修了後、国連地域開発センター研究員を経て、2006年より現職。博士(工学)。主な著書に『まちづくりの百科事典』(共著、丸善)『幻の都市計画』(共著、樹林舎)『都市計画の理論』(共著、学芸出版社)ほか

●泉 英明(いずみ ひであき)

1971年東京都生まれ。㈲ハートビートプラン代表。NPO法人もうひとつの旅クラブ理事長。大阪大学工学部環境工学科卒業後、㈱環境整備センターを経て、2004年より現職。行ってみたい、働いてみたい、住んでみたいまちをめざし、多様な地域主体とビジョンづくり・実践を進めている。著書に『都市の魅力アップ』(共著、学芸出版社)

●桑田 仁(くわた ひとし)

1968年埼玉県生まれ。芝浦工業大学システム工学部准教授。東京大学大学院都市工学専攻博士課程中退後、芝浦工業大学助手、講師を経て現職。博士(工学)。都市づくりNPOさいたま理事。専門は都市計画。訳書に『都市 この小さな国の』(R.ロジャース他著、共訳、鹿島出版会)

●矢原有理(やはらゆり)

1984年東京都生まれ。東京大学大学院都市工学専攻修士課程在籍。著書に『新宿区景観まちづくりガイドブック 02箪笥地区』(共著、新宿区)

●窪田亜矢(くぼた あや)

1968年東京都生まれ。東京大学大学院工学系研究科准教授。東京大学大学院博士課程修了後、㈱アルテップ、工学院大学などを経て現職。工学博士。一級建築士。環境や福祉を適切に実現する都市デザインを研究。主な著書に『界隈が活きるニューヨークのまちづくり』(学芸出版社)ほか

●姫野由香(ひめの ゆか)

1975年大分県生まれ。大分大学工学部福祉環境工学科建築コース助教。大分大学大学院工学研究科建設工学専攻を修了後、大分大学工学部建設工学科助手を経て、2008年より現職。専門は建築・都市計画(景観解析・景観まちづくり)

●遠藤 新(えんどう あらた)

1973年愛知県生まれ。金沢工業大学環境・建築学部建築都市デザイン学科講師。東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻修了後、東京大学助手を経て現職。博士(工学)。著書に『都市のデザインマネジメント』『中心市街地活性化:三法改正とまちづくり』『地域と大学の共創まちづくり』(共著、学芸出版社)『成熟都市のクリエイティブなまちづくり』(共著、宣伝会議)ほか

●川原 晋(かわはら すすむ)

1970年福岡県生まれ。早稲田大学建築学科助教。早稲田大学大学院建設工学専攻修了後、㈱AUR建築・都市・研究コンサルタント等を経て、2008年より現職。博士(工学)。一級建築士。主な作品に『山王通り意匠設計』『とぼり広場』(鶴岡市)、著書に『まちづくりデザインゲーム』『地域と大学の共創まちづくり』(共著、学芸出版社)

●石田 武(いしだ たける)

1967年東京都生まれ。大成建設㈱設計本部プロジェクト・プランナー。技術士(都市及び地方計画)。信州大学大学院社会開発工学専攻修了後、㈱計画技術研究所研究員を経て、2007年より現職。主な著書に『実務者のための新・都市計画マニュアルI土地利用編地区計画』(共著、丸善)ほか

●横山あおい(よこやま あおい)

大阪府生まれ。㈲エイライン代表。技術士。主な著書に『都市環境デザインの仕事』(共著、学芸出版社)ほか

●福田忠昭(ふくだ ただあき)

1972年福岡市生まれ。㈱環境デザイン機構所員。技術士。大阪大学工学部環境工学科卒業、同大学院環境工学専攻修了後、コンサルタント事務所勤務を経て、2002年より現職。九州工業大学非常勤講師。NPO法人デザイン都市・プロジェクト理事

●野澤千絵(のざわ ちえ)

1971年兵庫県生まれ。東洋大学理工学部建築学科准教授。大阪大学大学院環境工学専攻修士課程、ゼネコン、東京大学大学院都市工学専攻博士課程、同大学特任助手等を経て、2007年より現職。主な著書に『造景双書 復興まちづくりの時代』(共著、建築資料研究社)『密集市街地のまちづくり』(共著、学芸出版社)ほか

●内平隆之(うちひら たかゆき)

1974年山口県生まれ。神戸大学大学院農学研究科地域連携研究員として農学研究科地域連携センターに勤務。神戸大学大学院自然科学研究科博士課程修了。工学博士。神戸大学地域連携推進室地域連携研究員を経て、2008年より現職

●金 胄錫(きむ じゅそく)

1973年韓国江陵市生まれ。延世大学都市再生事業団研究教授。横浜国立大学社会空間システム学専攻修了後、同大学校客員研究員、㈱首都圏総合計画研究所研究員を経て、2008年より現職。主に密集市街地の再生において、住民活動組織や事業計画等に関する制度を研究している

●饗庭 伸(あいば しん)

1971年兵庫県生まれ。首都大学東京都市環境学研究科准教授。早稲田大学理工学研究科修了後、早稲田大学助手、首都大学東京助教を経て、2007年より現職。主な著書に『初めて学ぶ都市計画』(共著、市ヶ谷出版社)『地域協働の科学』(共著、成文堂)『まちづくり教科書第1巻 まちづくりの方法』(共著、丸善)ほか

●松原永季(まつばら えいき)

1965年京都府生まれ。㈲スタヂオ・カタリスト代表取締役。1990年京都大学工学部建築学科卒業、1992年東京大学大学院工学研究科建築系修了。専門は建築設計、住民主体のまちづくり支援。著書に『見えない震災』(共著、五十嵐太郎編、みすず書房)

●澤田雅浩(さわだ まさひろ)

1972年広島県生まれ。長岡造形大学造形学部建築・環境デザイン学科准教授。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程満期退学後、長岡造形大学講師を経て、2006年より現職。博士(政策・メディア)。主な著書に『都市防災学』(共著、学芸出版社)ほか

●山崎義人(やまざき よしと)

1972年鎌倉市生まれ。兵庫県立大学自然・環境科学研究所講師、人と自然の博物館研究員兼務。早稲田大学大学院博士後期課程修了。博士(工学)。㈱地域総合計画研究所・研究員、小田原市政策総合研究所・副主任研究員、早稲田大学助手、神戸大学大学院COE研究員を経て、2008年より現職。主な著書に『まちづくり批評』(共著、ビオシティ)ほか

●内海麻利(うちうみ まり)

京都府生まれ。駒澤大学法学部准教授。横浜国立大学大学院工学研究科博士課程修了。工学博士。駒澤大学法学部専任講師を経て現職。著書に『地方分権時代のまちづくり条例』『都市・農村の新しい土地利用戦略』『エリアマネジメント』(共著、学芸出版社)『政策過程論』(共著、学陽書房)『政策法務の新展開』(共著、ぎょうせい)ほか

●後藤 純(ごとう じゅん)

1979年群馬県生まれ。東京大学大学院都市工学専攻博士課程。比較都市計画の立場から、創造的対話を通じた協働型プランニングの方法と、その支援システム、および、その制度化の方法について研究。著書に『まちづくりの百科事典』(共著、丸善)

●松浦健治郎(まつうら けんじろう)

1971年岐阜県高山市生まれ。三重大学大学院工学研究科建築学専攻助教。早稲田大学院理工学研究科建設工学専攻修了後、㈱小沢明建築研究室、早稲田大学理工学総合研究センター、(財)日本都市センターを経て、2001年より現職。博士(工学)。主な著書に『図説 城下町都市』(共著、鹿島出版会)『幻の都市計画/残しておきたい構想案』(共著、樹林舎)ほか

●山本一馬(やまもと かずま)

1972年三重県生まれ。街角企画㈱代表取締役。大阪大学大学院環境工学専攻修了。技術士。近畿大学非常勤講師。中心市街地、産業集積地等での計画策定、密集市街地での共同化、福祉・商業・文化施設の設計及び事業コーディネート、地域住民や商業者による主体的な地域振興、商業振興の支援等の実務を通じて、エリアマネージメント機能を有し、自律的に発展、成熟する地域づくりをめざしている

●加我宏之(かが ひろゆき)

1968年大阪府生まれ。大阪府立大学大学院生命環境科学研究科准教授。大阪府立大学大学院農学研究科修了後、㈱市浦都市開発建築コンサルタンツ、大阪府立大学農学部助手を経て、2008年より現職。主な著者に『農学から地域環境を考える:居住環境の緑と景観』(共著、大阪公立大学共同出版会)ほか

●千葉晋也(ちば しんや)

1970年札幌生まれ。㈱石塚計画デザイン事務所東京事務所所長、NPO法人 世田谷NPO法人協議会理事。北海道教育大学札幌校芸術文化課程美術工芸科卒業、早稲田大学専門学校都市デザインコース修了。主な著書に『景観法と景観まちづくり』(共著、学芸出版社)『街に出る。1~4』(共著、世田谷区)

本書を手にするのは、いったいどのような人達だろう。タイトルの「都市計画」という文字に目をとめた、建築・都市計画を専門とする方々か。あるいはサブタイトルにある「まちづくり」に興味を持った、活動をしている市民の方々だろうか。だとすれば、本書のタイトル全体をみて、それぞれこう思うに違いない。前者の方々は「まちづくりと都市計画はほとんど同じ意味ではないか」、後者の方々は「まちづくりと都市計画は関係ないのではないか」、と。

一方からみれば「一緒」で、他方からみれば「別々」。まちづくりと都市計画は、そういう微妙な関係にある。こんな両者の関係を改めて捉え直して、「まちづくりの中で都市計画を役立てよう」というスタンスから書かれたのが、この本である。
建築・都市計画の分野では、まちづくりの活動を通じて都市計画をつくるという流れが、当たり前に思われてきた面がある。でも「まちづくり」が扱う範囲は、今や都市計画の域を超えて幅広くなっているから、「都市計画のためにまちづくりをする」なんて言い方は、もう通用しない。両者を別々のものとした上で、順序を逆転させる、つまり「まちづくりのために都市計画をする」と考える方がよい。

一方で、まちづくり活動をする人達は、都市計画が扱うハードの部分より、人の繋がりとかサービスといったソフトの部分が大切、と考える面がある。でもハードがあってこそソフトは成り立つから、「ハードが悪くてもソフトが良ければ暮らしやすい」とは言えないだろう。ベースとなるハードを高めることでソフトの機能も高まる意味では、「都市計画がまちづくりのためになる」と考えられるだろう。

このような「まちづくりのための都市計画」という視点から、建築・都市計画を専門とする方々には「まちづくり」の意味を、まちづくり活動をする人達には「都市計画」の意義を、それぞれ改めて捉え直してもらいたい。そして、両者をうまくつなげて、互いに活用し合うことを考えてもらえればありがたい。

本書全体、特に最後の論点部分は、多少挑戦的に書いている。論理が飛躍していたり、事実の検証が足りない部分もあるかもしれない。しかし、新たな時代を切り開いていくためには、多少型破りなチャレンジが必要ではないか。本書を読み進めていくことで、住民主体で都市計画を使っていく時代の息吹を感じ取ってほしい。

2009年1月
コアメンバー一同

本書の企画は2007年の3月に始まった。そもそもは当時出版された『自治体都市計画の最前線』(学芸出版社)のような、まちづくり事例の本を作らないかという依頼だったのだが、単なる事例紹介では面白くない、何か新しい方向性を提起したい…と考えているうちに、思いついたのが「住民主体の都市計画」という言葉であった。

当初は漠然としていたが、コアとなるメンバーで議論し、企画書をまとめる中で、徐々に狙いが固まっていった。行政による策定・決定への参加から、いずれ住民が主体的に決める形に変わるだろうという思いと、「まちづくり」という言葉が氾濫する今だからこそ「都市計画」に着目し、その意義を問い直す意図があっただろうか。

こうしてまとめた企画書を全国の若手研究者・実務家へと送って、あてはまりそうな事例の情報を提供いただき、情報提供者が集まった研究会や執筆者が参加するメーリングリストで意見を交換しながら、話を進めていった。執筆者に依頼した原稿を編者がまとめるだけでは面白くない、つくる過程で関係者が相互に交流し、そのネットワークから新しいものが生まれれば…といったあたりを狙ったのである。
実際、交流は有意義なものだった。各執筆者が書こうとする「あらすじ」を事前に提示して全体で共有することで、各原稿の狙いや役割が明確になったし、タイトル「住民主体の都市計画」を巡るメールでの議論は、共通理解をつくるのに役立った。提出された草稿を全員が読めるようにした上で、執筆者が集まる会を開いて相互に意見を交わしたのも、原稿の質をより高めるのに効果的だったと思う。

2年に渡るこうした手順に参加いただいたことで、本書の内容はより良いものとなり、「住民主体の都市計画」の概念も鍛えられたのであって、その意味で本書を企画編集したのは執筆者全員といえよう。今後もこの緩やかな繋がりを維持していきたいと考え、編者は「住民主体のまちづくり研究ネットワーク」としている。この中には、きっかけと貴重な助言を下さった学芸出版社の前田氏並びに井口氏も含まれよう。

10章でいろいろと論じてはいるが、「住民主体の都市計画」はまだ確固たる概念とは言えず、理論化も十分ではないだろう。しかし、本書の事例にみられるように、すでにその端緒は開かれているのであり、今後このような捉え方はより重要になるだろうし、またこのような方向の活動が発展していくことが期待されよう。本書がそのための一助となれば幸いである。

2009年1月
コアメンバー一同

ずいぶん分厚くて重い本だ。全国から26の事例が選ばれ、各々が10ページ前後で紹介されていて読み応えがある(終章としてコアメンバーによる論文も収められているのだから内容的にも重い)。

本の中味と無関係な感想を二つ。ひとつには、31人の執筆者のほとんどが1970年代生まれ(それも前半)の皆さんだということ。30代後半から40歳という年齢層には、編集意図を共有できる、これだけの専門家や実務者がいるのだ……。世代論は好きじゃないが、ボリュームゾーンですね。もうひとつには、2年という執筆期間に、編集意図の共有から始まって最後には草稿をお互いに読める状況までつくり出しているのに感心した。これはもちろんインターネット環境が可能にしたわけだが、同じ世代ということもあって、いかにも軽やかに行われている印象で羨ましい。90年代に渡辺俊一さんを中心に「都市計画フォーラム」がネット上で展開されたが、今回の執筆者たちによる「住民主体のまちづくり研究ネットワーク」は同世代限定の切磋琢磨ネット(?)なんですね。

内容について一言だけ。タイトルの意図に関連し「はじめに」と「おわりに」でも、まちづくりと都市計画の相違にふれられているが、その割には各々の事例が肝心の「都市計画」に迫っていないように思う。「都市計画」とは、空間の計画、規制・誘導、事業であるとされていることに異論はないが、それならば、やはり、各事例で「制度(とりわけ都市計画法の線引きや開発許可、建築基準法の集団規定、および土地利用にかかわる自治体条例)」が果たした効果や限界、さらには制度が空間づくりの阻害要因となっていなかったのか、等が説明されるべきだったろう。住民主体の意義は大きいが、根底にあるのは制度であって、制度の疲労がわが国都市計画の脱皮・改善を妨げていることは間違いない。制度の改定が上からでなく(現に「都市計画法の抜本的改正」を国が本気で進めている)、今回の事例のような「個別・具体」の積み上げでなされるためにも、制度とのかかわりの分析にもっと力が入れられてしかるべきだったと思う。それを、著者たちの今後の研究や著作への期待としておきたい。

(高見澤邦郎/明治大学建築学科客員教授)


都市計画とまちづくりの関係は常に結論のない議論であった。本書はこの議論に果敢に取り組み、両者間の関係を再定義し、新しい関係を導き出すことを目的としている。ここでの編著者による再定義は、「都市計画をまちづくりが活用する関係」になったということである。これまでのまちづくりと都市計画の関係は、都市計画への反対やアンチテーゼとしてのまちづくり、または都市計画をうまく実行するためのまちづくりという位置づけであった。しかし、そのバランスが崩れる時代が来ただけでなく、むしろ現在ではまちづくりが都市計画を包含していると編著者たちは論じている。

本著では、この新しい流れを示すものとして、様々な事例を体系的に紹介している。編著者たちの主張として、やわらかいが継続するのが難しい「まちづくり」と、かたくて継続性が高い「都市計画」は、関係をうまく保つことによって、より良い、柔軟な都市づくりにつながるという考えがある。しかし、実態としては都市計画のシステムをツールとして活用しているつもりが活用されているということが起こり得るため、その点は注意して論じる必要がある。もっとも、筆者たちはそういった認識も持ちつつ、あえて関係性をポジティブにとらえたのであろう。また、自戒を込めて言うが、まちづくりを万能の存在としてとらえるのは危険であり、その点本書では、各事例を執筆した専門家による独自の視点と、編著者による再解釈を通して、まちづくりという存在を十分に客観視した上での分析を行っている。

ともあれ、大きなうねりとして、まちづくりが都市計画に与える影響がある一定のレベルまで達してきていることがこの本から分かる。そういった影響力に対する分析軸が、最後に編著者らが示した5つの軸(主体・計画・規制・事業・時間)であり、細かいレベルでの影響力を図る上では、これは重要な示唆となり得るであろう。本書は、日本のまちづくりの現状を網羅して示すものであり、こういった帰納的分析を積み重ねることが、今後の手法としての都市計画だけでなく、計画・ビジョンとしての都市計画とまちづくりの関係を、これからの研究者や専門家が示していく上での基礎となる。

従って本書は、まちづくりと都市計画の現状での関係性とその議論を知りたい読者には基礎的な参考書となるであろう。

(金沢工業大環境・建築学部建築系講師/内田奈芳美)

担当編集者より

だいたいの執筆者が決まり、執筆者全員で共有するメーリングリストが立ち上がったのが07年9月。そのMLと編集コアメンバーとのメールのやりとりを一つにフォルダに集めているが、なんと1300通近くになっている。

特に終章をめぐるコアメンバーのメールのやり取りは凄まじかった。
これを手紙でやりとりしていたら、とっても出来そうにない。集まるのも無理。さすが文明の利器ではあるが、ここまでするの?という感じもしないではない凄さだった。

それだけの密な議論を経て出来上がった本なので、是非、ご高覧あれ!

(Ma)