アジア・アフリカの都市コミュニティ

城所哲夫・志摩憲寿・柏﨑 梢 編著

内容紹介

世界の都市人口が激増する現代、人口の受け皿ともなっているインフォーマル市街地は、真摯に居住環境と向き合うコミュニティがつくるエネルギッシュな「手づくりのまち」だ。気鋭の研究者たちが、アジア・アフリカ9都市の綿密なフィールドワークから近代都市計画の限界を超えた新たなまちづくりの可能性を示す。

体 裁 A5・208頁・定価 本体2700円+税
ISBN 978-4-7615-2613-9
発行日 2015/12/25
装 丁 上野かおる


目次著者紹介はじめにおわりに

はじめに

序章 アジア・アフリカのまちづくり:論点

城所哲夫

1 インフォーマル市街地と手づくりのまち
1.1 インフォーマル市街地とは?
1.2 手づくりのまちの可能性
2 アジア・アフリカにおけるまちづくりの潮流と論点
2.1 貧困緩和政策と居住政策
2.2 居住政策とまちづくり:潮流と論点
3 成長するコミュニティ・ガバナンス

★第1部 東アジア・東南アジア

第1章 ──インドネシア 「手づくり」の居住環境改善事業とその展開

志摩憲寿

1 カンポン改善プログラムの到達点
1.1 カンポン改善プログラムへの評価
1.2 カンポン改善プログラムの到達点
2 インドネシアにおけるインフォーマル市街地の居住環境改善策の系譜と現在
2.1 カンポン改善プログラムとインフォーマル市街地の居住環境改善策の系譜
2.2 現在:「2019年までにスラムなき都市を」
3 「手づくりのまち」の展開可能性:インドネシアの経験から

第2章 ──タイ 都市コミュニティをめぐる組織化と地域化

柏﨑梢

1 バンコク・メガシティの誕生とスラムの生成
1.1 城壁からの都市化
1.2 膨らむスラム人口
1.3 スラム政策とコミュニティの萌芽
1.4 タイ的なる「コミュニティ」主義の影響
2 「スラム」から「都市コミュニティ」へ
2.1 コミュニティの登録開始
2.2 テーマ型グループの急増とネットワーク化の拡大
2.3 投資先としてのコミュニティへ
3 新たな変容としての地域化
3.1 コミュニティのフォーマル化
3.2 バンコクのコミュニティ組織協議会
3.3 コミュニティ組織協議会の実態分析
3.4 コミュニティ組織協議会の事例
4 コミュニティの組織化と地域化プロセスから見える展望と課題

第3章 ──フィリピン セブ市における土地取得事業導入過程

小早川裕子

1 インフォーマル市街地の拡大と土地取得事業
1.1 インフォーマル市街地の形成
1.2 国家の都市貧困削減政策
2 インフォーマル市街地、バランガイ・ルス
2.1 バランガイ・ルスの誕生とスラム形成過程
2.2 土地取得事業導入前のルス住民の経済状況
3 土地取得事業の導入と住民の選択
3.1 コミュニティ抵当(CMP)事業導入までの経緯
3.2 CMP事業導入当時の住民の選択とその社会性
3.3 関係アクター間の隠れた目論み
4 コミュニティ開発の3段階プロセス

第4章 ──中国 城中村現象とその住環境整備

孫立

1 城中村現象の出現
1.1 農民工の急増と城中村の出現
1.2 城中村の特質
2 二元体制と城中村
2.1 改革開放以来の急速な都市化
2.2 都市・農村分割の二元体制
2.3 城中村形成のメカニズム
3 城中村の住環境
3.1 賃貸住宅市場における城中村の役割
3.2 住環境悪化の要因
4 城中村の住環境整備事業の課題と展望
4.1 無形改造(制度上の改善)
4.2 無形改造の評価
4.3 有形改造(再開発)
4.4 有形改造の評価

第2部 南アジア

第5章 ──バングラデシュ ダッカにおけるスラムの空間・社会・文化

ナンディニ・アワル、北原玲子

1 メガシティの貧困
1.1 都市化とスラム
1.2 人口増加とスラム
1.3 ダッカのスラム
1.4 スラムの生活状況
1.5 スラムの再開発
1.6 バシャンテック・スラム
1.7 カライル・スラム
2 スラムの空間と社会
2.1 低コスト住宅の空間と生活
2.2 オープンスペースの役割
2.3 低コスト住宅の空間構成
3 スラムの空間と文化
3.1 低コスト住宅の建材と配置
3.2 生活と労働の空間
3.3 相互扶助の仕組み
4 スラムの持続可能性
4.1 小規模ビジネスの役割
4.2 スラム改善の考え方
4.3 低コスト住宅の改善
4.4 これからのスラム再開発

第6章 ──インド ムンバイ・ダラービーの社会生態空間

鳥海陽史、城所哲夫

1 社会生態空間の捉え方
2 インフォーマル市街地形成の制度的要因と改善策
2.1 インフォーマル市街地形成の制度的要因
2.2 インフォーマル市街地の改善政策の変遷
3 ダラービーの社会空間の特徴
3.1 ダラービー地区の概況
3.2 棲み分けと共生の論理
4 ダラービーにおける交流の場の生成と特徴
4.1 住民間交流の場の類型
4.2 交流の場の生成と共生の論理
5 ダラービーの社会生態空間の形成論理

第7章 ──パキスタン 「在る」ものを活かした住環境改善

森川真樹

1 インフォーマル市街地での住環境改善
2 学習する組織とアプリシエイティブ・インクワイアリー(AI)
2.1 組織学習論
2.2 学習する組織
2.3 アプリシエイティブ・インクワイアリー(AI)
3 住環境改善におけるAI活用事例
3.1 イスラマバードの住環境改善事業
3.2 二つの住民組織での事例から
4 そこに「在る」ものを活かす

第3部 アフリカ

第8章 ──ザンビア ルサカのインフォーマル市街地における空間マネジメント

梶原悠

1 インフォーマル化する都市・ルサカ
1.1 都市・ルサカの起源
1.2 ルサカの都市空間構造
2 インフォーマル市街地の改善施策
2.1 「(法定および改良地区)住宅法」の制定
2.2 改良地区における開発規制
3 インフォーマル市街地における空間マネジメントの実態
3.1 チャイサとチャザンガ
3.2 居住空間の特質
3.3 土地所有と権威の所在
3.4 外部空間の利用
3.5 開発行為の規制
4 持続的な空間マネジメントの構築に向けて

第9章 ──ケニア ナイロビにおけるノンフォーマルスクールの空間生成プロセスと近隣との関係

井本佐保里

1 ナイロビのスラムとノンフォーマルスクール
1.1 ノンフォーマルスクールの位置づけ
1.2 ナイロビ・ムクルスラムの概要と調査手法
2 ムクルスラムにおける学校の空間生成プロセス
2.1 設立経緯と所有関係
2.2 立地条件と建物配置
2.3 教室のしつらえと工夫
2.4 設備・サービスとその整備
3 ノンフォーマルスクールと近隣との関係
4 学校と近隣との新しい関係

結章 「手づくりのまち」の論理

志摩憲寿、柏﨑梢

1 各章事例に読む「手づくりのまち」の到達点
論点1 マス・ハウジングvs. セルフ・ヘルプ・ハウジング
論点2 エンパワメントvs. 市場活力
論点3 コモンズvs. 私的土地所有権
2 「手づくりのまち」の論理

索引

おわりに

編著者

城所哲夫

東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻准教授
1958年生まれ。博士(工学)。東京大学大学院修士課程修了、国連ESCAP Associate Expert、国連地域開発センター専門研究員、チュラロンコン大学客員講師を経て、1996年4月より現職。国連大学高等研究所客員教授、世界銀行・アジア開発銀行コンサルタント、OECD専門家等。専門分野は、都市・地域計画、アジア都市計画。主な著作に『復興まちづくり最前線』(編著、学芸出版社)、『広域計画と地域の持続可能性』(共著、学芸出版社)、『Understanding African Urbanization: Discourse, Representation and Actuality』(編著、東京大学都市持続再生研究センター)、『Sustainable City Regions: Space, Place and Governance』(編著、Springer)、『Vulnerable Cities: Realities, Innovations and Strategies』(編著、Springer)など。

志摩憲寿

東洋大学国際地域学部准教授
1977年生まれ。博士(工学)。東京大学大学院博士課程修了、東京大学都市持続再生研究センター特任講師などを経て2014年より現職。国連ハビタット、アジア開発銀行でコンサルタント、国連大学でリサーチフェローなども兼任。専門分野は都市計画・まちづくり。近年は東南アジアに加えサブサハラアフリカも研究対象としている。主な著作に『Understanding African Urbanization: Discourse, Representation and Actuality』(編著、東京大学都市持続再生研究センター)、『世界のSSD100:都市持続再生のツボ』(編著、彰国社)など。

柏﨑梢

東洋大学国際地域学部特任講師
1981年生まれ。博士(工学)。アジア工科大学院(Asian Institute of Technology)修士課程修了、東京大学大学院博士課程修了。横浜国立大学男女共同参画推進センターみはるかす研究員、東京大学大学院都市持続再生学コース(東大まちづくり大学院)特任助教などを経て、2015年5月より現職。専門分野は、アジア都市計画、コミュニティ開発。主な論文に「タイの都市中間層による地域コミュニティ開発活動の実施状況および制度的課題に関する一考察」(『日本都市計画学会都市計画論文集』49-3号、2014年)など。

著者

小早川裕子/東洋大学国際地域学部特任講師
孫立/北京建築大学都市計画系副教授
北原玲子/名古屋女子大学家政学部生活環境学科専任講師
ナンディニ・アワル/BRAC University, Department of Architecture准教授
鳥海陽史/国際協力機構(JICA)職員
森川真樹/国際協力機構(JICA)国際協力専門員
梶原悠/東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻博士課程
井本佐保里/東京大学大学院工学系研究科建築学専攻・復興デザイン研究体助教

世界の都市人口が歴史上はじめて50%を超え、歴史的に都市化が進んできた経済的に豊かな国に限らず、アジアでもアフリカでも、世界のどこの国においても都市に住まうことが普通の光景になりつつある。さらには、これからの10年、20年の間に、世界の大半の人が都市に住む時代となる。ただし、これらの人々の住む都市は、長らく都市のデファクト・スタンダードとなってきた欧州や北米の都市とはまったく様相を異にした都市である。たとえば、よく指摘されるように、世界のメガシティ(人口1000万人超の都市圏)は現在30都市圏あるが、その内訳は、アジアが18都市圏、中南米4都市圏、アフリカが3都市圏を占め、欧州と北米は合わせて5都市圏にすぎない。

現在、アジアや中南米、さらにはアフリカにおいて立ち現れつつある新しい都市とはどのようなものであろうか。それは一言でいえば、テクノロジーの粋をこらして計画的に開発された超高層ビル群の立ち並ぶファッショナブルな地区と、その足元に広がる非計画的で雑多なまちという、まったく異なる論理のもとで形成される二つの地平からなる都市であり、まさにこのような都市が21世紀の都市の新たなデファクト・スタンダードとなりつつあるといってよいだろう。

現代都市の二つの地平の一方を占める非計画的で雑多なまちは、近代的な土地制度や都市計画制度というフォーマルなプロセスには必ずしも当てはまらないかたちで生まれつつある。このようなまちはインフォーマル市街地と呼ばれるが、今まで、必ずしも包括的に論じられてこなかった。本書は、この研究上のギャップを埋めることを目的としている。序章では、インフォーマル市街地の特質、課題、政策動向における論点を解説し、各章を読み解く上でのガイドラインを提供している。本書の中心となる1章から9章は、東アジア・東南アジア4カ国、南アジア3カ国、アフリカ2カ国のインフォーマル市街地の最前線における長期にわたるフィールドワークの成果についての報告である。最後の結章において全体のまとめを示した。

1章から9章のフィールドワークの内容は、対象とする地域の社会状況や研究関心の置きどころに応じて多様な議論を包含するものであるが、そこに通奏する共通の問題意識は、「現代都市を構成する一方の地平であるインフォーマル市街地におけるまちづくりのあり方こそが、これからの都市のデファクト・スタンダードをつくりあげていく」というものである。

現代都市のもう一方の地平である計画的な超高層ビル群からなる地区は、グローバリゼーションの進む世界におけるグローバル・スタンダードのもとで、ニューヨークや東京、あるいは、つい最近まで世界から閉ざされていたミャンマーのヤンゴンに至るまで、ますます共通した文法のもとでつくられた個性のない空間(あるいはグローバル化という世界共通のアイコンによってつくられた空間)を生みだしつつある。それに対して私たちが、アジア・アフリカ都市のフィールドワークの中で感じてきたのは、そこに住む人々が不断に手を加えつつ生みだしてきたインフォーマル市街地こそが、生き生きとした都市の個性を育む母体となる可能性を秘めているのではないかという実感である。

本書では、このような観点から、インフォーマル市街地の本質として「手づくりのまち」というキーワードを掲げた。このキーワードが適切なものであるかどうかについては、読者の方々のご判断を仰ぎたい。
本書が、これからの都市の新たな地平を切り開こうとする、まちづくり・都市づくり分野、国際協力分野、社会・福祉分野など、多方面の方々の間での議論を巻き起こすことを切に願うものである。

2015年11月

城所哲夫

衛生、貧困、犯罪…本書でとりあげたインフォーマル市街地はまた、こうした深刻な問題を多く抱えていることも看過しえない事実である。しかしながら、そのような状況に置かれながらも人々は自らの居住環境を「手づくり」で改善しようとしていた。次々と高層のオフィスや住宅が建設されるアジア・アフリカの現代都市において、打ち捨てられたかのようなインフォーマル市街地は、このようなエネルギーに溢れた場所なのである。本書をきっかけとして、「手づくりのまち」に多くの目が向かうことを期待したい。

一方で我が身を振り返ってみたい。私たちはかくも真摯に自らの居住環境と向き合っているだろうか。「手づくりのまち」を訪ねると、当たり前のことながら、忘れてしまいがちな、自らの居住環境、そしてそれを形成するコミュニティに対する姿勢を再認識させられる。本書を通じて改めて自らのコミュニティを振り返っていただければとも思う。

本書は、都市計画や建築の分野に身を置きながらも、型から外れたインフォーマル市街地にこだわりフィールドワークを実践してきた若手研究者と、その指導を長年にわたっておこなってきた城所哲夫准教授の旗振りによって、刊行することとなったものである。本書のいずれの論考も「手づくりのまち」の息づかいが感じられる迫力のあるものとなった。しかしながら、本書でとりあげたのは、ごく限られた「手づくりのまち」の事例であり、かつ、「手づくりのまち」の営みは終わることのないプロセスである。「手づくりのまち」を引き続き追いながら明日の都市への地平を拓く道を見出したい。

最後にはなったが、学芸出版社の前田裕資氏と神谷彬大氏の叱咤激励がなければ本書を刊行することはできなかった。編者・著者を代表して感謝の意を表させていただく次第である。

なお、本書の刊行はJSPS科研費「研究成果公開促進費」15HP5211の助成を受けたものである。

2015年11月

志摩憲寿 柏﨑梢

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