歴史を未来につなぐ まちづくり・みちづくり


新谷洋二 編著

内容紹介

歴史的資産と道すじ景観の一体的整備を図る

歴史的資産の保全と道路整備の対立時代は終わった。地域の歴史や文化、生活環境を尊重しつつ、自動車の安全な通行とともに快適な歩行空間を実現することが、これからのまちづくりの核になる。歴みち事業をはじめ、これまでの積み重ねを集大成し、文化財・都市計画・景観行政の協調による計画、設計、デザインのあり方を示す。

体 裁 A5・320頁・定価 本体3500円+税
ISBN 978-4-7615-3136-2
発行日 2006-01-30
装 丁 上野 かおる


目次著者紹介まえがきあとがき書評お詫びと訂正

第一章 歴史的地区におけるまちづくりの考え方の変遷…佐々木 政雄・萩原 岳

1 歴史を活かしたまちづくりとみちづくりの今
2 高度成長期までの歴史的地区とみちづくりの不幸な関係
3 歴史文化重視への動き─町並み保存の登場と都市計画の協調
4 交通政策の変化─地区交通計画の登場
5 転換点としての歴みち事業とその展開
6 普通のまちに広がる歴史を活かしたまちづくり

コラム

「歴みち事業」創設の経緯と意味合い…松谷 春敏
歴史を未来につなぐことは可能か─伝建地区と歴みち事業…益田 兼房

第二章 歴史を活かすための基本手順と求められる能力…矢野 和之

1 都市・地域における歴史の読み取り
2 価値の発見
3 歴史の反映
4 歴史を活かすセンス

コラム

文化財の種類と伝建地区の制度…益田兼房

第三章 歴史的地区における交通問題とその対応…久保田 尚

1 近代都市計画におけるクルマ社会への対応と今後の課題
2 道路交通政策の方向
3 地区交通マネジメントと物理的デバイス
4 歴史的地区の交通マネジメント

第四章 歴史を活かすみちづくりの考え方─計画から実現へ…辻 喜彦

1 歴史のまちのみちづくりが目指すべきもの
2 歴史的道すじ整備の工夫事例
3 まちづくり・みちづくりを進めていくための留意点

第五章 歴史を活かしたまちづくり・みちづくりの実践例…新谷 洋二

1 国指史跡と都計道の合併事業による新たな歴史的道路空間整備─山口県萩市
2 都計道ネットワーク改変と幹線道路(都計変更+伝建地区)─埼玉県川越市
3 世界文化遺産緩衝区域における道路整備─兵庫県姫路市
4 都計道の計画変更による文化財保全と城周辺景観計画─ 長野県松本市
5 都計ネットワークの改変と都計道事業による歴史的道路空間の保全─ 大分県杵築市
6 掛川城の天守復元に伴う城下町風まちづくり─ 静岡県掛川市
7 道路構造設計の工夫による文化財との協調─島根県益田市
8 道路ネットワークの改変と道路設計の工夫による国史跡の保全─栃木県今市市・日光市
9 道路整備と文化財との協調による歴史的地区の再現─神奈川県箱根町

第六章 歴史を未来につなぐ まちづくり・みちづくりの展望…新谷 洋二・益田 兼房

1 歴史を活かしたまちづくりの意義
2 今後の課題と対応の方針

編著者

新谷洋二(にいたに ようじ)

一九三〇年東京都生まれ。一九五三年東京大学工学部土木工学科卒業、一九五五年同大学大学院数物系研究科土木工学専門課程修士修了。工学博士。建設省、東京大学都市工学科教授、日本大学理工学部教授、(財)日本開発構想研究所理事長を経て、現在、東京大学名誉教授。(社)日本都市計画学会・(社)土木学会各名誉会員。元文化財保護審議会第二専門調査会長。一九六九年度(社)日本都市計画学会石川賞・一九八八年(財)国際交通安全学会賞(著作部門)受賞。
主な著書:『四谷見附橋物語』(技報堂出版、共著)『日本の城と城下町』(同成社)『都市交通計画』(技報堂出版、編共著)『歴史のまちのみちづくり』((社)日本交通計画協会、編共著)『都市計画』(コロナ社、共著)など。

著 者(五十音順)

久保田 尚(くぼた ひさし)

一九五八年神奈川県生まれ。一九八二年横浜国立大学工学部土木工学科卒業。一九八八年東京大学大学院工学系研究科都市工学博士課程修了。工学博士。同年より埼玉大学助手。同専任講師、助教授を経て、二〇〇五年四月より埼玉大学教授。専門は地区交通計画、都市交通計画。
主な著書:『都市交通計画第二版』(技報堂出版、共著)『鎌倉の交通社会実験』(勁草書房、共著)『岩波講座都市の再生を考える7 公共空間としての都市』(岩波書店、共著)

佐々木政雄(ささき まさお)

一九四五年東京都生まれ。一九六八年早稲田大学理工学部建築学科卒業、一九七四年同大学大学院理工学研究科博士課程修了(都市計画専攻)。一級建築士、技術士(都市及び地方計画)。現在、㈱アトリエ74建築都市計画研究所代表取締役。金沢市兼六園周辺地区整備計画・事業、川越市歴史的地区環境整備計画・事業他。土木学会デザイン賞/優秀賞(桑名・住吉入江)受賞他。
主な著書:『歴史のまちのみちづくり』((社)日本交通計画協会、共著)『都市の水辺をデザインする』(彰国社、共著)

辻 喜彦(つじ よしひこ)

一九六〇年東京都生まれ。一九八二年東海大学建築学科卒業。現在、㈱アトリエ74建築都市計画研究所取締役、計画・設計部部長。一級建築士、技術士(建設部門・都市及び地方計画)。
主な著書:『歴史のまちのみちづくり』((社)日本交通計画協会、共著)
主な担当プロジェクト:(歴みち)山口県萩市、柳井市、熊本県山鹿市、宮崎県日南市など。(その他)静岡県掛川市城下町風まちづくり、宮崎県日向市ふるさとの顔づくり、など。

萩原 岳(はぎはら たけし)

一九六三年東京都生まれ。一九八八年明治学院大学文学部卒業。現在、社団法人日本交通計画協会企画部長。技術士(建設部門・都市及び地方計画)。
主な担当プロジェクト:(歴みち)神奈川県箱根町、奈良県斑鳩町、山口県萩市、熊本県山鹿市など。(その他)世界遺産・白川郷交通社会実験、大分県湯布院町「湯布院・いやしの里の歩いて楽しいまちづくり交通社会実験」など。

益田兼房(ますだ かねふさ)

一九四四年神奈川県生まれ。横浜国立大学建築学科卒業、京都大学大学院博士課程修了。工学博士。京都府教育委員会文化財保護課、文化庁文化財保護部建造物課、東京芸術大学大学院美術研究科文化財保存学専攻教授を経て、二〇〇四年より立命館大学歴史都市防災研究センター教授。日本イコモス国内委員会理事。

松谷春敏(まつたに はるとし)

一九五五年東京都生まれ。一九七七年東京大学都市工学科卒業。一九八二年歴みち事業の創設を担当(建設省都市局街路課係長)。現在、国土交通省都市・地域整備局街路課長。
主な著書:『都市交通のはなし』(技報堂出版、分担)『都市の夜間景観の演出』(大成出版社、共著)『新時代のまちづくり・みちづくり』(大成出版社、共著)
『歴史のまちのみちづくり』((社)日本交通計画協会、共著)

矢野和之(やの かずゆき)

一九四六年熊本県生まれ。一九六九年武蔵工業大学建築学科卒業、同大学大学院博士課程単位取得退学。現在、㈱文化財保存計画協会代表取締役、駒澤大学文学部非常勤講師、日本イコモス国内委員会事務局長。文化財建造物の保存修理、遺跡の保存整備など、国内外のプロジェクトに携わる。
主な著書:『空間流離』(建知出版)『甦る古墳文化』(サンポージャーナル)『歴史のまちのみちづくり』((社)日本交通計画協会、共著)

私は小学生の頃から日本史と船が大好きだった。当時は戦時中であったので、造船技師になろうと思い、理科系を志した。戦後になっても、その惰性で工学部に進み、土木に入り、都市計画を専攻し、城を趣味とした。当時、東京丸ノ内業務街の近代的な高層ビル群が歴史的資産である旧江戸城(現在の皇居)の外濠と石垣と共存し、自動車交通が増大しても、道路と濠からなる幅広い空間が新旧の構造物の間の緩衝帯となっている景観は、私にとって一つの計画目標だった。
後に、『東京市区改正委員会議事録』を見て、一九〇四年に戦勝祝賀提灯行列の群衆混乱による馬場先門での死傷事件に端を発して、馬場先門通りの拡幅とともに石垣土塁の撤去と外濠埋立ての件が東京市区改正新設計の追加議案として提出された際、幸いにも石黒五十二委員が道路の拡幅は認めるとしても、石垣土塁と外濠は現状のままにしておくことを主張した結果、取り止められて、現在も保存されている事実を知り、賢明な先人の英知と努力に感激した。

モータリゼーションが進み、全国の都市で道路が拡幅され、沿道の古い建物は改築され、濠は埋められ、歴史的景観は失われていった。歴史的な町並みを保存しようとして、一九七五年、文化財保護法および都市計画法に「伝統的建造物群保存地区(伝建地区)」が制定された。この地区の保全整備を支援するための事業として、一九八二年に建設省(現・国土交通省)は「歴史的地区環境整備街路事業(歴みち事業)」を創設したのであった。ようやく私の考えていた歴史的資産を活かした都市計画が堂々とできると思った。

ところがその歴みち事業に問題が生じた。その発端は、一九八三年度の萩市堀内地区の歴みち事業調査が実施された時のあるコンサルタントの作業成果の内容に関することであった。その計画提案は堀内地区にあるいくつかの幅員五mばかりの地区道路を道路構造令に合うように六mに拡幅するため、土塀や石垣を少し後退移設しようとする提案であった。その提案を見た文化庁は驚き怒り、文化財の破壊だと建設省に抗議した。

そもそもこの建設コンサルタントの担当者は、歴みち事業は伝建地区で困っている課題を支援する事業であるので、現在文化財側の予算が少ないため、壊れかかった土塀の復元修復にも苦労している状況を助けることはできないかと考えた。そこで道路構造令の標準幅員に合致しない現道を多少拡幅して土塀や石垣もあわせて移設することにより建設省側の費用で修復すれば、文化財側を支援できるのではないかと考えたらしい。

これに対して文化庁としては、土塀や石垣を現在地から移設すること、さらに言えば道路の旧幅員を変えること自体が文化財の破壊であり、移設していかにきれいに復元修復しても、文化財としての意義を失ってしまうと考えたため、驚き怒ったのであった。

日本の都市計画事業は歴史的にみるとき、関東大震災の震災復興事業や戦災復興事業で華々しく成果を上げてきた。また日本の都市計画には歴史的資産を保存修復しようということが従来あまり考えられておらず、一般にスクラップ・アンド・ビルド(Scrap and build)のやり方が当たり前だと考えて進んできた。したがって、この問題発生は文化財側が根本的に重視しているオーセンティシティ(Authenticity)の考えをまったく理解していなかったために生じた食違いであった。ここで、オーセンティシティとは、歴史的資産としての確かさ、偽物でないことといった意味で、材料・デザイン・技術・環境の四つの視点から見ての真実性が確保されていることを重視するものである。

したがって、このように歴史的資産を取り扱うにあたって、何が大切かという基本的な常識が欠けていると、たとえ善意に基づいた行為であっても、結果として悪意と化し、思ってもいない事態を招くということが分かるであろう。なお、ここで歴史的資産というのは、指定文化財にとどまらず、歴史的地区にあって、歴史を物語る文化的な資源全体を広く表現するものとして用いている。しかし、縦割り行政の中の常識の食違いから、現在でもなお建設省側の常識が文化財側の最重視しているオーセンティシティの考えをまだ十分理解していないため、各地でまだ相変わらずこの種の問題を引き起こしているのは残念である。元来、歴みち事業は歴史的地区において、歴史的資産を保全するために、かつ、現代生活に不可欠な自動車交通や都市の活性化をも図るための調和を考えながら、弾力的なみちづくりを実施して歴史的な空間を重視したまちづくりを意図するものである。そういった点からも、問題を十分理解して、「歴史を未来につなぐまちづくり・みちづくり」を実践してもらうためにも、本書の出版の意義は大きい。

私たちのグループが「歴みち事業」に関与しだしてから二十余年にもなった。このため、十年前に日本交通計画協会より『歴史のまちのみちづくり─歴史的地区におけるまちづくりの理論と実践』を出版した頃と異なり、数多くの歴史的地区で発生した問題に関して、その対策を具体的に検討して実施し、ようやく一部の工区で一応の解決の成果が示され、基本的な考え方もまとまり、次第に合意されるようになってきた。開発と保存の競合問題も事後の調整で悩んでいた状態から、事前に開発と保全の調和を考えて計画することが可能な状態になってきた。そこで、第五章の実践例では私がグループの何人かと担当し、解決、もしくは解決の方向が確認された事例を具体的に取り上げた。

しかし、伝建地区等に指定されていなくても、価値を有する歴史的地区は範囲が広く、調査に時間がかかり、財源の問題もあり、市民の理解と合意を要するため、全域の問題の解決には非常に長い年月を要する。このため、現在でもまだ各地で事業は継続されている。また他にも、この種の問題で悩んでいる地区は多く、景観に対する新しい課題も生じてきている。

本書はこれまでの諸課題について、まちづくりの担当が建設省から国土交通省へと組織変革する中にあって、文化庁との間で、開発と保存の競合する問題を私たちグループが現地で調査・検討・討議した実例研究を通して生み出した考え方や方法を取りまとめた成果である。各章の執筆分担は明記してあるが、関係する内容はグループの中で協議して取りまとめた。なお、「歴みち事業」のそもそもの発案者である松谷春敏氏には特に事業創設時の考え方のメモを、コメントとして掲載させてもらった。

指定文化財のみならず歴史的資産が重視され、さらに都市景観・文化的景観という新しい課題に直面している今日、都市再生の中で、未来に向けていかに開発と保全の調和を図っていくかは大きな課題である。こういった課題解決のために、本書がこの種の問題を抱えている関係者にとって、多少でも役立てば幸いである。

各地で問題を解決して、まちづくり・みちづくりを行ってきたが、この間に我々グループの作業に協力していただいた多くの学識経験者・国土交通省(建設省)・文化庁・関係した県市町の関係者の方々に心から感謝する次第である。

2005年12月
東京大学名誉教授 新谷 洋二

私は本書で述べたように、開発と保存をめぐって論議されている歴史的地区で、両者が対立している問題の解決を長年図ってきたが、計画・設計の技術的問題については本書の中で具体的に取り扱った。しかし、本書の内容を読み直してみると、基本的な問題として、文化財保全と都市計画との競合問題の中で、いろいろ価値観も用語も異なった専門的知識・常識の間で求められる総合的判断については、極めて重要だが、あまり解説できなかった。良い仕事をするためには、是非とも必要なことなので、この場を使って説明したい。

この総合的判断というのはなかなか具体的に説明し難い言葉であって、いまだに十分把握できないが、その時々の経験に基づいて、今までに大切だと感じた考え方を、今後、事にあたって留意すべき心構えとして、以下のように箇条書きに列記してみた。

1)これからは個性を大切に考える多様性の時代である。人により考え方も違えば、価値観も異なる。解決策はいろいろと考えられ、一つとは限らない。場合によっては、いろいろな価値観を併存させることも大切である。
2)縦割り社会では、往々にして目的を絞って単一目的の最適解を選ぶが、これからの社会では単一目的の最適解にとどまらず、多目的の最適解の模索が極めて大切である。その場合、絶対に守らなければならないものは何かを重視しなければならない。
3)解決策が対立する両者にとって互いに得するものであれば納得して解決しやすいが、損得が片寄っている場合は難しい。その場合、何らかの違う面で損得がバランスするようにしなければならない。全体とのバランスの中で考えることが大切である。
4)行政法の条文の規定、技術基準などは歴史的に見るとき、時代の価値観の変化によって改変されてくる。したがって、計画・設計にあたって、技術者として高度の総合的な判断をすることが重要である。
5)総合的な判断をする場合、アメニティとか、歴史・文化とか、非数量的なものが含まれるので、腹八分の解決策を考えるのがよい。
6)双方が対立した考えに立って、お互いに一歩も譲らないで、膠着している時には、双方とも一旦一歩後退して、冷静に考え直せば、いろいろな解が見えてくるので、互いに二歩前進する道が見つかる。
7)よく話し合い、お互いの言い分・気持ちを理解し合い、互いに信頼できるようにまでなることが大切である。

今般、本書を取りまとめることができたのは、この十~二十年間、歴史的地区のまちづくり・みちづくりの課題に関して、一緒に実践的に調査研究を行ってきたメンバーが、微力な私を協力して助けてくれ、自分たちの経験・知識を駆使して、忙しい時間を割いて執筆してくれたお陰である。また資料整理や図版作成にあたって、いろいろと作業していただいた山田一平・近藤薫両氏、カバーの川越一番街の写真を提供していただいた荒牧澄多氏に心から感謝する。また忙しさに追われる我々を根気強く面倒を見ていただいた学芸出版社の前田裕資・中木保代両氏なくしては、本書を出版することができなかったと感じ、厚く御礼申し上げる次第である。

東京大学名誉教授 新谷 洋二

『建築士』((社)日本建築士会連合会)2006.11

都市計画道路が、伝統的なまちを分断してきたのを、苦々しく見てきた人も多いと思われる。しかしこれに対して、伝統的なまちを見直すまちづくりが住民主導で始まり、利便性を求めるみちか、伝統的なまちかの議論が全国各地で高まっていった。

この本は、いまから20年程前からはじまった“歴みち事業”(身近なまちづくり支援街路事業)の記録である。道路の利便性の追求を最優先していた時代に、当時の建設省の街路課と文化庁が、縦割り行政の枠を越えて、歴史を未来につなぐために、伝統的なまちとみちの融合を目指してきた人たちがいた。その主張には、私たちが今まで道路に対して抱いてきた不満を拭い去るような言葉が並んでいる。

いままで道路幅は、全国どこでも同じと思っていたが、その地域の歴史的な特性を生かすために、蛇が玉子を飲み込んだような凹凸のある“ヘビ玉道路”まであって、かなり柔軟な対応をしていることがわかる。
かつて訪れた伝統的なまちに道路の拡張計画があり、これからどうなるのかと心配していたが、この本によると、その後みちとまちが調和して見事に完成しているのを知ってほっとした。

この本は、みちを中心として伝統的なまちなみを眺めているので、全国の伝建地区(伝統的建造物群保存地区)の今の地区の様子が手に取るようにわかる。
この本は、文化財と都市計画のほか、景観まで幅広い行政の協調の成果を知ることができるので、伝統的なまちづくりに関心のある人には必見の書である。

(大海一雄)

『高速道路と自動車』((財)高速道路調査会)2006.10

まず、魅力ある書名をつけたことに敬意を表したい。結論的にいえば“まちづくり・みちづくり”に新しい概念を持ち、20年余りにわたり、多くの都市で実践し、そこから多くの知見を得て、取りまとめた本である。そのことから、編著者の新谷洋二さん外7名の著者の方々ならびに関係諸氏にご苦労さまといいたい。

本書は“まちとみち”と仮名書で、しかも“づくり”となっている。極めて融和的で、総合的で、民衆的な印象をうける。前半はまちづくりについて、国民として、市民として、住民としての意識の変化、行政の対応など、基本的なことが述べられている。二章において、実施してゆくための元となる課題などに参加する人びとの能力の啓発を喚起している。よって意をもって参考にすることを、おすすめする。さらに、資源論と開発論との関係について、いま少し紙面をもらって事例の解釈を述べてはどうか、それは私のみではなかろう。

三章では、みちづくりと、自動車の急速な普及による乖離を解決する問題である。歴史財と人工度の高い街路事業について、その経緯と人と車についての対策事例が整理されて述べられている。非常に参考となる。

次の四章では、歴史を色濃く残している地区について、特に歩行規模に着目し、事例では部分、意匠についても言及している。歩行規模でつくられるみちへの対応として、正解と思う。

編著者の記述である五章は、都市規模の歴史と道路の対応についてである。長い年月の労作がにじみでている。歴史財を身近に持つことの価値意識は、住民にかなり普及している。が、文明の優等生ともいえる自動車との対応は、ここ半世紀、わが国の都市問題の主要課題の一つである。まちづくりは点、線、面ときには地下、天空まで対象となる。景観問題は、その総決算ともいえる。歴史財の扱い方を具体的に示した本書は、今後の各方向にも、多くの示唆を与えるものと思う。

はじめに少し誉めすぎだと思われる方もおられるでしょう。しかし私見を少し述べれば、この種の事業には、わが国の諸条件は、困難な条件があまりにも多い。キーワードのみをあげておくが、わが国の生い立ち、自然の営力は、プラスにしろマイナスにしろ、極めて強力である。したがって構築する材料、構法、工法も生活、文化にその影響が強い。さらに政治、経済の仕組にも不利な条件が包蔵されている。

したがって、まちづくり・みちづくりは、公益性と経済性、公と私などの調整なくしては、達成できない事業である。その苦労を学ばせてくれるのが、本書であると思う。

ところで、歴史財以外にも、マクロ・ミクロな条件、たとえばヒートアイランド、静穏性、景観、生物環境、観光レクリエーションなど、むずかしい課題が山積みしている。これらを統合した、まちづくり・みちづくりの新しい概念づくりを今後に期待したい。

いずれにしても、長くつづいてきた、上意下達から下意上達が、この種の事業への実践実例が整理されて紹介されている。行政当局の方々のみならず、専門を目指す人々にとって、すぐれた参考となることは間違いない。本誌の読者諸氏にとっても、この思想はすぐれた学習書といえる。

((社)道路緑化保全協会会長/鈴木忠義)

『地方自治職員研修』(公職研)2006.5

モータリゼーションの進展とともに社会が自動車交通をもっとも重要な都市計画の要素とみなしたことから、道路は拡幅し、沿道の歴史的景観は失われていった。しかし七五年の伝建地区制定により、地域の歴史や文化、生活環境を尊重しつつ、自動車の安全な通行と快適な歩行空間を実現することが、まちづくりの核となった。本書は歴みち事業をはじめ、これまでの道路整備と景観保全の積み重ねを集大成し、文化財・都市計画・景観行政の協調による計画、設計、デザインのあり方を示す。

『新建築』((株)新建築社)2006.3

1982年に創設された「歴史的地区環境整備街路事業(歴みち事業)は、弾力的な「みちづくり」によって、歴史的資産の保全と、現代生活に不可欠な自動車交通や都市の活性化の調和をめざしたもの。本書はこの「歴みち事業」の背景と、萩や川越など数多くの実践を詳しく紹介しつつ、道路整備・街路デザインの実践の側から、歴史を生かしたまちづくりの方法論と着地点を示している。景観法が制定され景観への関心が高まる中、開発と保全の競合の問題に悩む全国各地の関係者にとって大いに参考になるだろう。

(m)

本書の内容に記載漏れがございました。以下の通り訂正させていただきますとともに、読者およびご関係の皆様にお詫び申し上げます。

p. 203 図29 蔵造りの町並み
→ 図29 蔵造りの町並み(1985年当時)

p. 210 表2 川越市のまちづくり年表(*クレジット表記漏れ)
→ 表2 川越市のまちづくり年表(作成:荒牧澄多氏)