市民のための景観まちづくりガイド

藤本英子 著

内容紹介

街に溢れるド派手看板や広告物、高さも形も色もバラバラな建物群…日本のまちはなぜこうなのか?「何とかしたい!」と思うアナタに、日本では数少ない「景観アドバイザー」として活躍する著者がやさしく解説。基本的な考え方から「では何から始めればいいのか」まで、チェックポイントとともに紹介する、日本初のテキスト。

体 裁 四六・186頁・定価 本体2000円+税
ISBN 978-4-7615-2539-2
発行日 2012/09/15
装 丁 藤脇 慎吾


目次著者紹介はじめにおわりに

はじめに

1章 日本の景観ってなぜこうなの?

1 住みたいまち、行ってみたいまち

どんなまちに住みたいか
どんなまちに行ってみたいか

2 日本の景観は誰がつくってきたか

まちの環境から受けるストレス
日本の景観は「みんな」でつくった
市民が変われば景観も変わる
ようやくできた景観の法律

3 日々の生活がまちの景観をつくる

「地域の専門家」としての市民
日常生活から景観を考える
今こそ活かされる「まちづくり」活動

2章 良い景観・悪い景観を考える

1 景観をめぐるさまざまな考え方

景観は「主観」の問題?
事業者・行政の考え方
景観法の活用で変わる自治体

2 「良い景観」を共有するための指標

景観賞は何を評価するのか?
景観評価の指標
身近な生活で考える

3章 身近な景観のチェックポイント 駅前から自宅まで

公共空間

屋外広告物 デザインセンスがものを言う
案内サイン・標識 わかりやすさは美しさ
路面・階段・擁壁 「地」の役割で目立たせない配慮を
広場・公園・オープンスペース 利用者視点の気持ちいい空間づくり
駐車施設 車が景観と共存する魅力的な方法
駐輪施設 マナー向上にデザインで貢献
照明・夜間景観 灯具ではなく光と闇をデザインする

住宅

植栽 良い景観づくりにオールマイティーに活かす
フェンス・柵・塀・垣根 見せ方でまわりの景観が大きく変わる
外壁 周辺との調和のポイント
屋根・屋上 素材と色が地域の遠景を決める
ゴミ置き場 少しの配慮がまちを変える
玄関先周辺 家の印象を決める「顔」
バルコニー・窓等 町並みへの参加意識を示そう
室外機 目立たせない工夫いろいろ
その他機器類 整理と見せ方で大きく変わる
景観チェックシート

4章 景観まちづくりの始め方

1 景観まちづくりにつながる多くの活動

景観まちづくりにつながる市民活動
景観まちづくりにつながる既存の地域活動
つながった時のパワーがまちを変える

2 地域の「魅力探し」と「問題探し」

まちのことを知る
問題解決から考える
地域のテーマを探す
景観資源を活かす

3 景観まちづくりを楽しもう

行政のしくみを活用する
楽しむことがまちづくりの基本
素敵なまちで素敵な人の活動を見る

5章 素敵なまちと人に学ぶ

姉小路(京都) 町家のある町並みと住環境を守り育てる
長浜(滋賀) まちづくりの交差点「まちづくり役場」のあるまち
小布施(長野) 町並みを「想い」でつくる人々の王国
大聖寺(石川) 住民主導で北陸の景観を継承する
八女(福岡) 世代を超えて続く景観まちづくり
西宮(兵庫) 市民が支える「普通のまち」の景観づくり
吹田(大阪) マンション反対から始まった住宅街での景観づくり
富良野(北海道) 文化のまちを育てる公園のカフェ

おわりに

景観を学ぶ人のためのブックリスト

藤本英子(ふじもと ひでこ)
1982年京都市立芸術大学美術学部工芸科デザイン専攻を卒業。東芝を経て1989年に公共空間デザイナーとして独立。1992年に建築士事務所エフ・デザインを設立。2001年から京都市立芸術大学美術学部デザイン科及び大学院美術研究科教授。博士(芸術)。行政の景観関係各種委員、景観アドバイザーを多く務める。共著に『JUDI KANSAI 仕事の軌跡と展望』(都市環境デザイン会議関西ブロック、2011年)、『つなぐ 環境デザインがわかる』(朝倉書店、2012年)がある。

みなさんは日々生活されているまちの景観に、満足されているでしょうか。自分の部屋は好きにデザインできても、自分の家全体となると、家族それぞれの生活を調整していく必要があるでしょう。ましてや家を一歩出たところの公共空間は、多くの人々の関わりの中でできあがっていますから、とても個人の手に負える空間ではありません。

この事実に当惑したのは、私がデザインを学ぶ大学生の時でした。ではいったいこのまちの景観は誰がつくっているのかと調べていくと、誰もコントロールしていないことを知ったのです。この普通の公共空間のデザインを手がけたいと思ったのですが、当時「景観」という言葉も聞かれず、仕事にもならない分野でした。

平成に入った頃、ようやく先進的な自治体が、「景観」に取り組み始めた時、そのサポート役を果たすことになりました。ようやく道路計画や駅前の計画にデザイナーを入れてもらえる時代になってきたのです。2005年に景観法が制定・施行されて、景観に対する全国の動きが急に活発化したために、果たすべき役割が増加しています。

しかし、景観という分野は、建築のみならず、土木、都市計画、造園など多くの既存の学術分野にまたがるとともに、さらには私の専門であるデザイン、そして法律、社会学等にも深く関わってくるために、この分野の人材育成のための教育システムの確立がなされていないのが現状なのです。現在、景観に関わって活動している専門家は、それぞれ別の分野の専門教育を受け、それぞれの専門性をもって景観に関わっています。

現在の、決して美しいとは言えない日本の普通のまちの景観を考えると、現状の法体制や教育体制で多くの優秀な専門家を育成してコントロールしていくことは、ほとんど実現性がないと私は考えています。普通のまちの景観が、多くの人々の生活の現れであることを考えると、多くの専門家がきっちりと全体をコントロールしていく方法を考えるよりも、多くの普通の生活者が、自らの生活を見直す中で、工夫や配慮、そしてできるところからの景観まちづくり活動を、少しずつ始めていく方が、より大きな効果を広い範囲で上げていくことにつながるのではないかと思っています。

近年は「まちづくり」という言葉が多く聞かれるようになりました。行政だけに私たちの生活の環境づくりを任せるのではなく、住民自らがその想いを共有する仲間と、活動を行っていく事例も多く見られるようになりました。この本のタイトルである「ガイド」には、この「まちづくり」を「景観」というテーマで行っていくための、いわば導入や手引書となればとの思いを込めています。

私たちの日常生活は、外での仕事や家庭の仕事、そして趣味や友人との時間などで忙しく、なかなかまち全体のことに意識が向かないという方がほとんどだとは思いますが、生活の中に「景観まちづくり」の視点を少し入れていただくことで、多くの地域が変わっていくと私は信じています。

この本では、この20年あまり、景観の専門家として様々な行政やまちづくりの人々との活動の中で、私自身が得られたノウハウを、できるだけわかりやすくみなさんにお伝えすることに務めました。この本との出会いがきっかけで、みなさんの日常生活に変化が起こり、そして周辺にも変化が起こり、少しでも美しい日本の景観が増えていくことにつながれば幸いです。どうぞ、気になるところから読み進めて下さい。「景観まちづくり」の最初の一歩のお手伝いになれたらうれしく思います。

景観アドバイザー 藤本 英子

この頃、「私は宣教師のような活動をしている気がする」と冗談半分で口にすることがあります。今まで生活空間の景観に、あまり興味を持っていなかった方が、まるで目を覚ますように、私の話に興味を持って下さるからです。今まであたり前であるとか、自分ではどうしようもないと思っていた部分が、自分でもなんとかできる部分であると気付くと、急にその問題点が気になりだされるようなのです。

大企業のデザイン関連部署を退職した時に、本当に自分が生涯かけて取り組みたいテーマを探して、行き着いた答えは「公共空間デザイン」でした。やがて「景観」という言葉がそこに重なり、市民権を得た言葉として法律もできました。

これまで多くの自治体で「景観」のアドバイザーとして、設計者や事業者に景観デザインの観点をお伝えしてきました。また、一般市民の方々へは景観まちづくりセミナーなどで、お話してきました。でも、この分野は私たち専門家が気付いていても、何も変わっていきません。そして、様々な活動の紹介も、私が直接話すだけでは、その広がりが限られているのです。こうして本で、少しでも多くの方にこの景観まちづくりの楽しさや、醍醐味をお伝えして、その気付きにつながればと思いました。

私たちが行っている自治体の景観アドバイスは、その仕事の多くがあまり世間では評価されずにいるように思います。赤色の外壁のマンション計画が、景観アドバイスを受けた事業者が見直してくれたためにベージュになり、その建物が過剰に目立ちすぎる状況が避けられたとしても、市民が見る時にはもうベージュになっているのですから、そのアドバイス効果による変化を把握することはできないのです。

以前、千里ニュータウンの中に、チェーン店を展開する紳士服店が進出してきた時のことでした。豊中市のアドバイザー会議に申請された大きな置き看板が、地域にはふさわしくない規模だとして、その変更を要望したのですが、全く受け入れてはくれませんでした。ところが、実際に現場に置き看板が設置された時、豊中の市役所に、地域から苦情の声が上がったのです。「どうしてこんな地域で必要のない大きな広告物が出てくるのか」といったものでした。それが事業者に伝えられ、その看板は撤去されることになりました。アドバイザーや市よりも、実際の買い手が一番のターゲットですから、他の声は聞かなくても、地域の市民の声は十分聞いてくれるのでしょう。思わず声をあげてくれた市民に、感謝する瞬間でした。

景観まちづくりはまず、行動です。小さいけれど、大きな視野の変化につながる一歩の行動が、また次の行動の一歩になっていくのです。こうして発言し、行動する市民が増えていくことを願って、この20年余り景観アドバイザーの仕事を進めてきました。

また、2005年の博士論文「地域景観行政の現状分析と住民主導型景観プロデュースの提案~全国47都道府県及び192市町村アンケート調査と滋賀県長浜市及び長野県小布施町フィールド調査をベースにして」を九州産業大学大学院芸術研究科池亀拓夫教授のご指導のもととりまとめたことが、大きな力になっています。

この間、都市環境デザイン会議をはじめ、全国町並み保存連盟、公共の色彩を考える会、そして学会活動など、志を同じくする仲間に多く恵まれたことをうれしく思います。こういったつながりの中、5章のための取材に応じて下さった皆様ありがとうございました。

今後さらに、多くの人々と共感しながら「景観まちづくり」の担い手を育てるしくみを、生み出していきたいと思っています。

これまで、景観アドバイザーとしてのノウハウを一冊の本にまとめることを考えてきましたが、それを口にする度に励まして下さった諸先輩方に感謝するとともに、本書の出版を承諾して下さった学芸出版社の京極社長と、出版に共鳴し、細かくサポートして下さった編集部の岩崎氏に、深く感謝いたします。

ありがとうございました。

2012年8月

景観アドバイザー 藤本 英子

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