地域コミュニティ支援が拓く協働型社会

地域コミュニティ支援が拓く協働型社会 地方から発信する中間支援の新展開
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内容紹介

日本の中間支援機能の、検証と新たな可能性

東日本大震災やコロナ禍、そして高齢化・人口減少の現実を前に、地域コミュニティは様々な課題に直面している。そうした中、地域円卓会議やアウトリーチ型支援等を通じて地域コミュニティをエンパワメントする中間支援組織の実践が各地で広がっている。こうした中間支援機能の事例をもとに検証し、新たな可能性を展望する。


櫻井 常矢 編著   
著者紹介

「協働」というとNPOをイメージする方が多いと思いますが、近年「地域円卓会議」や「まちの中間支援」といった手法で、中間支援の対象は自治会などの地域自治組織にも拡大しているそうです。『地域自治のしくみづくり 実践ハンドブック』と合わせてお読みいただくと、テーマ型と地縁型で力を合わせて地域をより良い形でつないでいこう、という時代の動きが感じられると思います。
編集担当I
編集担当I
体裁A5判・200頁
定価本体2500円+税
発行日2024-03-10
装丁テンテツキ 金子 英夫
ISBN9784761528836
GCODE5626
販売状況 在庫◎
ジャンル 自治体・自治・都市政策
目次著者紹介はじめにレクチャー動画関連イベント関連ニュース

はじめに (櫻井 常矢)

Ⅰ部 協働型社会の形成と中間支援組織

1 章 なぜ今、中間支援を議論するのか (櫻井 常矢)

  1  中間支援機能とは何か
  2  “中間支援” 概念のジレンマ
  3  ニーズとのギャップ ─中間支援組織の課題
  4  形骸化する「プロセスとしての協働」

2 章 日本の中間支援機能とその課題 ─2010 年までを中心に─ (田尻 佳史)

  1  日本の中間支援機能の誕生の経緯
  2  中間支援の概念と機能
  3  協働型社会がもたらした中間支援機能の課題

3 章 地方における中間支援機能の形成と展開 (櫻井 常矢)

  1  日本NPO センターの誕生
  2  地方都市の中間支援組織とその多様性
  3  中間支援施設の誕生と民間運営
  4  硬直化する中間支援機能

4 章 NPO・市民活動支援から地域コミュニティ支援へ (櫻井 常矢)

  1  高齢化・人口減少に直面する地域社会
  2  RMO 等による地域コミュニティの再構築
  3  個別団体支援と地域自治支援

Ⅱ部 東日本大震災復興支援と中間支援組織の役割

5 章 県外避難者支援を支えた新たな中間支援の展開 (櫻井 常矢)

  1  広域県外避難者支援への挑戦 ─協働型復興の必要性
  2  町民の思いをつなぐ『浪江のこころ通信』
  3  浪江町復興支援員事業と中間支援組織ネットワーク
  4  中間支援組織の重層化の意義

6 章 浪江町県外被災者支援事業と中間支援組織 (鍋嶋 洋子)

  1  浪江町復興支援員事業 ─学び合う関係のなかで
  2  浪江町復興支援員推進会議 ─気づきを事業に反映
  3  浪江町復興支援員事業の成果と課題
  4  中間支援組織として ─支援の輪を広げる
  5  中間支援組織としてのこれからの役割 ─事業の視点は当事者のなかに

7 章 避難者支援の経験から学んだ「中間支援」の立ち位置 (畠山 順子)

  1  市民活動支援の仕組みを基に始まった広域避難者支援
  2  中間支援組織が主体となった支援事業の展開
  3  避難者支援の経験から中間支援組織の役割を問い直す
  4  避難者支援からの学びとこれからの中間支援機能

8 章 東北支援での学びを九州に活かす (彌永 恵理)

  1  支援を受ける側の立場にたった支援の開始
  2  浪江町復興支援事業との出会い
  3  東北での学びを地元に活かす

9 章 広域型中間支援機能の展開とその可能性 (髙田 篤)

  1  浪江町復興支援員推進会議を軸とした事業展開
  2  中間支援組織をコーディネートする機能

Ⅲ部 中間支援の新しい機能と展開

地域円卓会議

10 章 手法としての円卓会議 (横田 能洋)

  1  円卓会議の目的と手法
  2  地域円卓会議の運営母体の組織化
  3  運営スタイルをめぐる試行錯誤
  4  会議の議論を具体的取り組みにつなげる
  5  地域円卓会議の裏方はプロデュースに似ている
  6  地域円卓会議の効果と課題

11 章 沖縄式地域円卓会議の運営と展開 (宮道 喜一)

  1  NPO 法人まちなか研究所わくわくの事業展開
  2  沖縄式地域円卓会議の概略と実践
  3  那覇市協働のまちづくりの検証と「参加」
 
NPO 支援からまちの支援へ

12 章 地域人材育成と中間支援ネットワーク (手塚 明美)

  1  市民参加を基盤とした中間支援の仕組みづくり
  2  市民活動への参加の入り口 ─サポートクラブ
  3  若年層の地域参加のきっかけづくり ─学生インターンプログラム
  4  県内支援組織間のネットワークづくり ─つながりのフックを作り出す

13 章 まちの中間支援 (石原 達也)

  1  中間支援はどこから生まれてきたのか
  2  自然治癒力の高いまちを目指す中間支援
  3  当事者による行動を支援する① ─地域組織のエンパワメント支援
  4  当事者による行動を支援する② ─アドボカシー支援
  5  中間支援に求められる資質と技能
  6  「日本が、地域が、これからどうなるか」の問いから逃げない
 
中間支援施設による地域自治支援

14 章 アウトリーチ型中間支援の実践とその意味 (小野寺 浩樹)

  1  中間支援は、組織なのか? 施設なのか? 機能なのか?
  2  地域コミュニティ支援の考え方
  3  地域コミュニティ支援の具体的な取り組み
  4  地域自治支援に向けた行政の役割と連携のあり方
 

Ⅳ部 地域自治支援が拓く協働型社会

15 章 中間支援機能のネットワーク化と展開可能性 (櫻井 常矢)

  1  ナショナルセンターの役割
  2  英国の地域自治支援と中間支援組織ネットワーク

16 章 地域自治支援が拓く協働のプロセス 

    ─ともに学び合う社会へ─ (櫻井 常矢) 
  1  地域自治支援の広がり
  2  地域自治支援機能のポイント
  3  巧みな組織運営支援の展開
  4  地域自治支援が拓く協働のプロセス
  5  残された課題と今後への展望
 
座談会「日本の中間支援機能・これまでとこれから」
中間支援機能に関する研究会 実施概要

【編著者】

櫻井 常矢(サクライ ツネヤ)

高崎経済大学地域政策学部地域づくり学科教授
2001年東北大学大学院教育学研究科後期博士課程修了。専門は社会教育学・生涯学習論・地域づくり教育。高崎経済大学地域政策学部講師、准教授を経て現職。共著に『公民館のしあさって』(ボーダーインク、2022)、『地域コミュニティの再生と協働のまちづくり』(河北新報出版センター、2011)、『地域コミュニティの支援戦略』(ぎょうせい、2007)、『大学と連携した地域再生戦略』(ぎょうせい、2007)、『コミュニティの自立と経営』(ぎょうせい、2006)、『地域政策と市民参加』(ぎょうせい、2006)、『コミュニティ再生と地方自治体再編』(ぎょうせい、2005)他多数。

【執筆者】

田尻 佳史

認定NPO法人日本NPOセンター常務理事

鍋嶋 洋子

認定NPO法人ちば市民活動・市民事業サポートクラブ専務理事・事務局長

畠山 順子

NPO法人あきたパートナーシップ理事長

彌永 恵理

NPO法人つなぎteおおむた理事長

髙田 篤

(一社)東北圏地域づくりコンソーシアム事務局長

横田 能洋

認定NPO法人 茨城 NPO センター・コモンズ代表理事

宮道 喜一

NPO法人まちなか研究所わくわく副代表理事・事務局長

手塚 明美

認定NPO法人藤沢市民活動推進機構理事長

石原 達也

NPO法人岡山NPOセンター代表理事

小野寺 浩樹

いちのせき市民活動センター センター長

 本書の出版を構想したのは、東日本大震災(2011年)からの復興事業が契機である。福島第一原発事故被災地である福島県浪江町において、全国各地に分散避難した町民をつなぐ取り組みとして、最大全国10拠点に復興支援員を配置した浪江町復興支援員事業、そして避難先に暮らす町民の声を『浪江のこころ通信』にまとめ、毎月1日に全町民に届け続けた「浪江のこころプロジェクト」である。私はこれらの県外避難者支援事業を統括する立場にあったが、震災直後の混乱の中、これらの取り組みを始めるにあたって真っ先に協力を求めたのが全国各地の中間支援組織であった。突然のメール等での協力のお願いにもかかわらず、全く面識のない私からの依頼を快く受け入れていただき、最も長い団体で11年もの間、歩みをともにしていただいた。これらの事業が幕を閉じる際、この取り組みを記録として何らかのまとめをすべきとの声が多く寄せられた。当初は、浪江町の復興事業だけを出版物としてまとめるつもりであったが、私自身がふり返った時、協力いただいた中間支援組織の存在が極めて貴重であることを強く感じた。同時に、未曾有の大災害がもたらした処方箋のない、答えのない世界を目の前にしながら、被災者、支援ボランティアやNPO、大学、行政等々がともに考え、議論し、悩むなかで、各地の中間支援組織もまた気づき、学び、そして新たな活力を得る姿を間近で感じることができた。

 特定非営利活動促進法(NPO法)施行から25年が経過しようとしているが、1990年代後半の日本において、NPOや中間支援組織のあるべき姿を追求した日本の創始者たちが描いていたものは何か。それが東日本大震災を経た今、どのように活かされたのか。そしてこれからどうあるべきなのか。それらを考えることが、大震災によって様々な経験を得た私たちの役割なのではないかと思い、今回の出版に踏み出すこととなったのである。
そのため、各地の中間支援組織の協力を得ながら、まずは現場での実践の検証を行うことを目的に、トヨタ財団のご支援のもと中間支援機能に関する研究会「持続可能な地域社会を実現する中間支援機能の検証と展開」を2023年4月に立ち上げている[研究会の詳細についてはp.195参照]。北海道から沖縄まで全国各地の中間支援組織の参加を得ることができた全5回の研究会では、特に地方都市を拠点に展開している多様な実践が明らかとなっている。研究会での事例報告や率直な意見交換を通じて、中間支援組織の社会的意義をあらためて認識したり、あるいは自らの課題に無自覚であったことに気づいたりするなど、それぞれが実践の意味を時間をかけてふり返る機会の貴重さを実感したのも事実である。
NPOや中間支援組織の創始者たちが描いた日本の非営利組織を取り巻く環境は、いま様々な課題に直面している。協働型社会の名のもとで展開する指定管理者制度や事業委託等をめぐる行政との関係の中で、むしろ中間支援組織自体が事業請負型となってしまい、NPO間、中間支援組織間の競争と分断が進んでいる、との指摘がすでに多くある。この現実を私たちはどのように捉えれば良いのか。しかしそうした課題にも増して、中間支援組織の機能や社会的役割のなかに、もっと私たちが着目すべき視点があるのではないか。急速な高齢化と人口減少という日本社会の現実を前に各地で奮闘する中間支援組織の実践の中に、協働型社会を再興するヒントはないだろうか。本書は、このような問題関心への答えに迫ろうとするものである。
本書は全4部で構成されている。Ⅰ部では、日本の中間支援機能の始まりから今日までを辿りながら、特に協働型社会の課題に照らした本書の問題関心を整理している。同時に、各地の中間支援組織が、従来までのNPO・市民活動支援から地域コミュニティの支援へと支援対象を拡大している動向に着目する。Ⅱ部では、本書出版の契機となった東日本大震災の復興事業の道程から中間支援組織が果たした役割を検証している。福島県浪江町の広域分散避難という現実に対して、各地の中間支援組織がネットワークを形成し、一体的に取り組むことができた背景には何があったのか。その経験から学んだことは何か。関係した各地の中間支援組織のふり返りをふまえつつ明らかにしていく。Ⅲ部は、地方都市を中心に新たに誕生している中間支援機能を各地の事例をもとに整理している。特に2010
年以降の実践の中から見えてきた地域円卓会議、まちの支援、当事者意識の醸成、アウトリーチ等々、いくつかの支援手法に的を絞り、その狙いやノウハウの詳細を実践者たち自らが解説する。そしてⅣ部は、こうした一連の中間支援機能の新たな展開がこれからの日本社会にどのような意味を
発揮するのかについて検討する。特にⅠ部において課題とした協働型社会の形成にとっての有効性を、従来までのNPO・市民活動支援との違いなどに触れつつ明らかにしていく。
こうした研究会を通じた中間支援機能の検証作業、及び本書の出版にご協力いただいたすべての皆様に心から感謝したい。特に私の拙い問題関心にご理解をいただき、丁寧なご支援を賜りましたトヨタ財団の大野満様、武藤良太様、鷲澤なつみ様には心から御礼を申し上げたい。また、学芸出版社の岩﨑健一郎様、越智和子様にはひとかたならぬサポートをいただいた。私たちの入稿の遅れにもかかわらず、迅速な対応で本書の出版を実現していただきましたことに感謝申し上げます。
本書は、NPO・市民活動団体、中間支援組織の実践者、そして行政関係者はもとより、こうした世界とこれまで無縁だった人びとにも伝えていくことを大切にしたいと考えている。そのため、中間支援組織の当事者たちによる具体的な日々の取り組みをありのままに伝えていただくことを心掛けた。本書が中間支援組織の実践を捉え直す契機となり、日本社会の協働に関する議論を喚起する一助となれば幸いである。私たちがどのようなメッセージを残せたのかの評価は、そこでの議論に託すこととしたい。

2024年2月

櫻井 常矢