みんなの社会的処方

みんなの社会的処方 人のつながりで元気になれる地域をつくる
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内容紹介

暮らしているだけで元気になれるまちづくり

孤立という病に対し薬ではなく地域の人のつながりを処方する「社会的処方」。日本での実践はまだ始まったばかりだ。いま孤立しているかどうかや、病気や障がいの有無、年齢に関わらず、「誰もが暮らしているだけで自分の生き方を実現できるまち」をどうつくるか。世界と日本の取り組みに学び、これからのビジョンを示す一冊。


西智弘 編著/岩瀬翔・西上ありさ・守本陽一・稲庭彩和子・石井麗子・藤岡聡子・福島沙紀 著
著者紹介

体裁四六判・256頁
定価本体2000円+税
発行日2024-03-01
装丁テンテツキ 金子英夫
ISBN9784761528829
GCODE5687
販売状況 在庫◎
ジャンル コミュニティ・ソーシャル
目次著者紹介はじめにレクチャー動画関連イベント関連ニュース
はじめに 社会的処方はもっと自由でいい

Chapter1 社会的処方の「3つの理念」

人間中心性
エンパワメント
共創
「支援する」とはどういうことか
社会的処方の「型」
社会的格差と、広がる自己責任論

Chapter2 孤独・孤立の現状

若者を含めた「居場所」はどのように作れるのか
REPORT│小杉湯│西 智弘
90年間建ち続けてきた「場」としての力
社会に必要な、インフラとしての銭湯
「開くのではなく、閉じない」からの相補う関係性
小杉湯「的な場」が持つ、社会的処方としての意義:社会的行方不明者をつくらない
社会的処方の進化 Green/Blue Social Prescribing
REPORT│Nami-nications│西智弘
サーフィンを通じてつながる Nami-nications
アダプティブ・サーフィンが変えていくもの
Green/Blue Social Prescribingの広がり
働かざるもの食うべからず「ではない」

Chapter3 社会的処方と世界・日本の動き

REPORT│イギリス・フルーム│岩瀬翔
イギリス・フルーム 誰もがリンクワーカーになれる町
MakeaSpark まずは何か動き出そう
「人間の道しるべ」作戦 おせっかい住民をエンパワメントする
コロナ禍を経て本質を掴んだ市民リンクワーカー達 ヘリテージコネクター/グリーンコミュニティコネクター
世界の社会的処方の現在地 言葉が全てではない
日本における「モデル事業」 名張と養父
REPORT│名張市│西上ありさ
厚労省モデル事業:名張市/ステイホームダイアリーと社会的処方の展開
REPORT│養父市│守本陽一
厚労省モデル事業:養父市
様々なセクターがまずつながる
医療を起点とした社会的処方の実践
養父市におけるリンクワーカー養成講座
小規模多機能な公共空間「だいかい文庫」
「孤独・孤立対策推進法」とその意義

Chapter4 社会のなかで生きることが元気につながる

EPISODE│オバケのタムタム&studio FLAT│西智弘
バリアを超えて才能を届ける StudioFLATの取り組み
障がいのある無しに関わらず、良いものは良い
アートと障がいと社会的処方的な意義
アートを通じて、人と社会がつながっていく
REPORT│アートと社会的処方│稲庭彩和子
アートはずっと存在している。それはなぜなのか?
アートと文化でウェルビーイングを増進
「とびらプロジェクト」と社会的処方の共通項
私たちの目指すこと
アートコミュニケータとソーシャルな鑑賞法
「きく力・みる力」がケアする力になる
REPORT│Dance Well│西智弘
Happy! Dance Well
美術館の内外、そしてアート作品を利用して自らを表現する
身体表現を使って、他人と会話する
ダンスレッスンではないのに、結果的にダンスになっている
アートがもつ力で変わっていったAさん
アートが持つ「ケアの力」
無意識の差別をこえていく
REPORT│高齢者福祉施設 西院│西智弘
「要介護」? 関係なく夢は叶えられる
「はたらく」こと=生きるをつくること
「参加」からはじめる
就労とお金の問題

Chapter5 暮らしているだけで元気になれるまちをつくる

おせっかいのエンパワメントは意外と効く
REPORT│おせっかい会議│石井麗子
地域おせっかい会議の風景
コミュニティナースと健康おせっかい
まちの身近な存在、郵便局がおせっかいのハブになる
「共感・挑戦・ネットワーク」の実践支援プロセス
まちへ飛び出し声を拾い続ける事務局
社会的処方の視点からみた地域おせっかい会議
やればやるほど楽しいことが大きくなる
おせっかいが育む優しい目
REPORT│ほっちのロッヂ│藤岡聡子
診療所とまちの居場所が複合された「ほっちのロッヂ」
発地(ほっち)にある森小屋を起点に
私たちは人の何を捉えているのか
自分の関心のあることに掛け合わせていく
ケアする・される関係性の逆転は台所から
大切な人を亡くした人が、「あのね…」と話せる部屋があるといい─福島沙紀
おわりに この本で伝えたかったつのこと
暮らしの保健室・川崎/社会的処方研究所はどうなっているか/社会的処方の未来

【編著者】

西 智弘

川崎市立井田病院医師/一般社団法人プラスケア代表理事。
2005年北海道大学卒。室蘭日鋼記念病院で家庭医療を中心に初期研修後、川崎市立井田病院で総合内科/緩和ケアを研修。その後2009年から栃木県立がんセンターにて腫瘍内科を研修。2012年から現職。現在は抗がん剤治療を中心に、緩和ケアチームや在宅診療にも関わる。一方で、一般社団法人プラスケアを2017年に立ち上げ代表理事に就任。「暮らしの保健室」や「社会的処方研究所」の運営を中心に、「病気になっても安心して暮らせるまち」をつくるために活動。日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医。著書に『社会的処方 孤立という病を地域のつながりで治す方法』(学芸出版社)、『緩和ケアの壁にぶつかったら読む本』(中外医学社)、『がんになった人のそばで、わたしたちにできること』(中央法規出版)他多数。

 

【著者】

岩瀬 翔

式根島診療所所長

西上 ありさ

studio-L

守本 陽一

一般社団法人ケアと暮らしの編集社代表理事/兵庫県豊岡保健所

稲庭 彩和子

独立行政法人国立美術館国立アートリサーチセンター

石井 麗子

一般社団法人プラスケア

藤岡 聡子

軽井沢町・大きな台所と診療所があるところ ほっちのロッヂ共同代表

福島 沙紀

一般社団法人プラスケア

社会的処方はもっと自由でいい

社会的処方は、進化した。
「薬で人を健康にするのではなく、人とまちとのつながりで人が元気になる仕組み」である社会的処方は、医療者が中心となって患者と社会資源を結びつけるだけではなく、まちの中で人がつながりを作って支え合うというだけでもなく、人類が長い時間をかけて築いてきた遺産や里山、海辺や川といった自然なども含め、「人が培ってきた生活という大きな営み」の中で市民同士がつながりを見出していく、という方向に進んできている。
法律も、変わった。
2020年に書籍『社会的処方.孤立という病を地域のつながりで治す方法』が刊行されて以来、社会的処方の名前や概念は少しずつ広まり、政府「骨太の方針」にも社会的孤立対策の切り札として明記された。そして2024年には「孤独・孤立対策推進法」が施行され、孤独や孤立の問題は国や自治体だけではなく「国民一人一人も」力を合わせてその対策につとめていくべきとされた。なぜ「国民一人一人も」か? それは、この社会に暮らす人たちが「今まさに孤立の苦しみに喘いでいる方」と「そんな問題に悩んでいない人」とに二分されるのではなく、誰しもが等しくその生涯の中で「望まない孤立」の状態に陥るリスクを負っているためだ。誰しもが、等しく、だ。
つまり、社会的処方は誰か特定の人たちだけのものでも、専門家たちが「処方」するだけのものでもなく、まさに「みんなの社会的処方」となっているのだ。
社会的処方の発祥の地であるイギリスでは、医療関係者の枠を超えてその言葉や実践が広まり、ミュージシャンやお笑い芸人、そしてサーフィンを楽しむ若者たちからも「俺たちのやっていることも、社会的処方なんすよ!」という発言が出るくらい、社会的処方が「かっこいいもの」として扱われるようになってきている。
そして日本でも、社会的処方は概念をそのままに「文化的処方」「アート処方」などと名前を変え、あらゆる分野に溶け込もうとしている。2023年に武蔵野美術大学の学生たちが医療の現場に飛び込み、患者さんたちと一緒にアート活動を行ったプロジェクトでは「アート処方とは、誰かを思う行為の中にアートを組み込んだもの」などと、学生の言葉で語られている。それは、彼女らの自由な発想で社会的処方を捉えなおしたものであり、まさに「みんなの社会的処方」が日本でも芽吹いてきている兆しといえるだろう。
しかし一方で、書籍『社会的処方』の刊行と時を同じくして日本でも始まったコロナ禍によって人と人との交流が制限され、社会的な分断が進み、結果として社会的孤立はより深まってしまった。
このような状況の中でも、その社会的孤立の進行に歯止めをかけるべく、全国で社会的処方の実践や普及啓発に取り組んできた方々がいる。ただ、それぞれの活動は素晴らしいものの、その活動を「橋渡し」するリンクワーカー的機能はまだまだ育っているとはいえず、社会的処方が真に意義のある活動になっていないのが現状である。また、社会的処方が国の施策に取り入れられたことで、孤独・孤立に対する専門機関や法律が制定され、モデル事業への取り組みも着々と進んできたことは喜ばしいが、一方で「健常者である私たちから社会的弱者であるあなたへ」施すのが社会的処方であるといったような誤解や、それに基づく実践が行われ、結果的に失敗してしまっている事例なども耳にするようになってきた。
社会的処方は決して、社会的弱者を救ってあげようなどという上から目線の押し付けではなく、その基本的理念である「人間中心性」「エンパワメント」「共創」の3要素が示すように、「病気や障害があっても無くても、子どもから高齢者まで、誰しもが自分の『やりたい!』を自由に表現でき、それが実現できるような環境を平等に享受できるようにみんなで取り組んでいく」仕組みのことである。
現在、僕たちが取り組むべきはこのコロナ禍によって社会が受けた「傷」を明らかにし、そして未来に向けてどのような横のつながりを作り、そしてそのシステムを全国に広めていくかの指針を示すことである。そして、具体的に社会的処方がどのように私たちの健康やウェルビーイングを守り、それらを伸ばすことに寄与し、取り組むべき意義があるのかを示していく必要もある。また、社会的処方の実践があらゆる形で進んできている一方で、先述したような誤解が広がってもきつつある現状に対し、僕たちの考える理想的なかたちを示していく必要もある。
前著『社会的処方』が、社会的処方の意義と面白さを世間に伝え「社会的孤立に対して、僕ら一人一人ができることがある。みんなで一歩を踏み出してみよう」という本であったのに対し、次に伝えるべきは「一歩を踏み出してくれてありがとう。僕らがいる現実は厳しくても、こんな未来を描いて一緒に歩いていこう」というビジョンを示していく本であると考えて、いまこの本を書いている。
社会的処方は、もっと自由でいい。多くの人たちが気ままに自然に「自分にできること」「自分がやりたいこと、好きなこと」を持ち寄って、お互いに「いいね、いいね!」とつながっていく先に、孤独・孤立の解消がある。そこには「社会的処方」なんて言葉は存在しなくてもいいし、誰もが気軽に参加できるプロセスが無いと、「みんなの社会的処方」にはなり得ない。そうやって、自然と自由に社会的処方の仕組みに参画していける人たちが増え、裾野が広がっていかなければ、高い山を築くことなんてできやしない。
しかし一方で、社会的処方を自分たちの言葉で表現しようと一歩を踏み出したのに、二歩目を踏むのに躊躇している人たちもいる。先ほど紹介した武蔵野美術大学の学生レポートの中にも「アート処方には、相手の幸せを願う尊さと、幸せを提供出来るという傲慢さがあると思った」という言葉が出てくる。この気づきこそが素晴らしい。「自由にやってみていいんだよ」と簡単に言っても、それだけで能動的にどんどんと進んでいける人は多くない。この本が羅針盤となり、ちょっとだけでも背中を押してあげることで、自信をもって二歩目を踏み出せる助けになりたい。そんなことを考えて、いまこの本を書いている。

2023年12月
一般社団法人プラスケア代表理事
西 智弘

開催が決まり次第、お知らせします。

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