新版 卒業設計コンセプトメイキング
内容紹介
新版ではフィールドワークの手法を追加した
卒業設計は、学生自らがテーマを探し出し、論理的思考プロセスを積み重ね、オリジナリティある提案をすることが必要となる。実際の学生の作品をもとにした対話を軸に解説。新版では、課題設定、フィールドワーク/リサーチ、建築的・空間的なアイデア、プレゼンの4つに再編成。より本質的なコアな部分に絞り込む内容とした。
はじめに
序章 卒業設計とは何か?
1 卒業設計は「自分」さがしではない
2 卒業設計とは論理的思考プロセスの具体化である
3 リサーチにもとづくアイデア出しと提案
4 本書の特長と使い方
第1章 [課題設定]……「テーマ」から「主題」へ
1 卒業設計は自己満足のためにするのではない
2 「テーマ」とはたとえば「愛」だ! ──根源的だが答えのない大切なもの
3 「テーマ」を「主題」で切る
第2章[リサーチ]「主題」=「切り口」を軸としたリサーチの「カタ/型」
1 「主題」=「切り口」設定の基本
2 「主題」=「切り口」に「HOW?(どのような?)」を付ければ「問い」になる
3 「問い」の検証 ──「主題」=「切り口」に沿った「フィールドワーク」の3プロセスを通じて
第3章 [アイデア]…… アイデアの模索と展開
1 「問い」に対する「仮説」を「建て」る
2 「建築的・空間的アイデア」が勝負の決め手
3 「アイデア」と「オリジナリティー」
4 「建築的・空間的アイデア」は「空間の質」をねらおう
5 「リサーチ」にもとづくアイデアの展開──資料収集・データ収集、文献調査
6 先人に学ぼう──既往作品・参照作品分析
7 敷地の声なき声を聞く──敷地調査
8 物語性をもたせよ──クライマックスの演出
第4章 [提 案]……作品を練り上げる
1 「建築的・空間的アイデア」は魅力的な形になってはじめて生きる
2 スタディ
STUDY 1 Bさんの場合
STUDY 2 Eさんの場合
STUDY 3 Fさんの場合
STUDY 4 Iさんの場合
STUDY 5 Kさんの場合
3 プレゼンテーション──独白(モノローグ)にならないために
フィールドワーク「ひな型」の使い方
〈巻末〉「梗概フォーム」の作成方法・注意点
梗概1〈事例〉Bさん
梗概2〈事例〉Eさん
梗概3〈事例〉Fさん
梗概4〈事例〉Tさん
梗概5〈事例〉Iさん
梗概6〈事例〉Kさん
手紙文例(資料・情報提供依頼、施設見学申し込み、アドバイスのお願い)
卒業設計作業工程チャート
あとがき
新版 はじめに
本書は、『卒業設計コンセプトメイキング』(2008年初版、2020年第5刷)を全面的に見直し、新しい内容を加味した新版です。改編のポイントは、コンセプトメイキングの基盤となる「リサーチ」部分を章立てし充実させたことです。旧版でも、アイデアの模索と展開における重要なプロセスの一部にリサーチを位置づけてはいました。しかし、実際に学生の作業を見るにつけ、このリサーチ・分析・レポートの一連の流れが十分に理解できておらず、調査対象の絞り込みが曖昧、web検索結果の羅列、個人の感想文に終始、といった基本的な課題があることを痛感しました。そこで、このリサーチに関わる部分を、一つの「ひな型」に落とし込み、論理的かつ効率的にその成果をコンセプトメイキングにつなげられるようにしました。その際、最も根幹となる作業が「主題=切り口」の絞り込みにあたるとの確信に至り、そこから組み立てるリサーチの「ひな型」を構成しました。そして、本書もまた、この「主題=切り口」に再フォーカスして、全体をリニューアルしたものになります。
建築・都市系のリサーチにおいては、その専門的スキルは「フィールドワーク」になると考えます。様々な分野毎のリサーチやフィールドワークの方法については、多くの指南書があります。それらに対し、本書は、各種方法の事例紹介や比較・解説ではありません。できるだけ定型的に作業を進め、最終アウトプットのまず6~7割程度の骨子をビジュアル的に素早くつくり上げることを目指しています。それ故、ひな型のフォーマットとしては、スライド形式(パワーポイント)を用いています。さらに、その中で、レポート作成時のルールやデザインのガイドも設けて、基本的な所作を身に着けてもらえるよう工夫しています。その意味で、建築・都市系の卒業設計にとどまらず、卒業論文や、講義のレポート課題等にも大いに役立つものと期待します。
従来のリサーチ本と異なるこうした立ち位置を取るのは、実際に本書をお使いになる学生や教員が、ひな型に沿って作成される基本構成の先にある本来なすべき本質的な議論と対話に貴重な時間を充てることができるようにという願いがあります。この点は、旧版と変わりはありません。
あとがき
古き良き「アクティブ放任ラーニング」は通用しない。大学教員の職に就いてすぐ、そう悟りました。それ以来ゼミでは、懇切丁寧な話し合いを心がけました。しかし、何度も同じ話を繰り返す割には効果が出ません。主に3つの理由がありました。①具体的な卒計の進め方への理解不足、②コンセプト・メイキングのスキル不足、そして③それらを文書化したものがないことでした。そこで私は、ゼミで実践していた指導要領をマニュアル化し教科書代わりにしました。それから数年後の2008年、この自前の手引きが、別件(『テキスト建築意匠』(2006)分担執筆)でお世話になった学芸出版社知念靖廣氏の目に留まり、『卒業設計コンセプトメイキング』として世に出していただきました。その際、①わかりやすく実際に参照して使えること、②完成作品のみならず、そこに至るスタディ過程を実例に則して示すことが目指されました。そこで試みたのが「対話」形式の導入です。それはまさに、学生と指導教員の有意義な「対話」の実践という本書の主旨そのものでもありました。おかげで、これまでにない新しいタイプの卒研本ができ上がりました。華々しい優秀作品や流行りの建築流儀の紹介でも最新のハウツー解説でもありません。学生が実際に辿る卒業設計の地道な過程を丁寧に扱い、論理的に作業を進め成果に結びつける筋道を示すという基本スタンスが、幸いにも読者の共感を得て版を重ねることができました。その間、私自身が本書(旧版)を使って卒業設計指導を重ねるうちに、コンセプトメイキングの基盤となるリサーチの行程で学生のつまずきが多いことに気付きました。そこで、多くの学生の卒業設計や講義の課題レポートの独自検証をもとに、フィールドワーク・レポートの「ひな型」を探求し続けてきました。今回、知念氏のご提案により、本書旧版をベースとして、当該「ひな型」も含め、リサーチに関連する部分を加筆し、全体を大幅改編する形での新版刊行となりました。その結果、卒業設計はもとより、卒業論文や講義レポートの作成にも本書を活用いただける内容に刷新されました。本書新版が、多くの卒業設計ならびにレポート困難民(教員も含む)のチャートになれば光栄です。新版では、旧版で紹介した事例を精査するとともに、リサーチにもとづくコンセプトメイキングの展開が理解できるよう、近年の卒業設計事例も追記しました。新版においても、登場する人物、作品、スタディなどはすべて実在します。しかし、対話中でのキャラクター設定は、私の方で都合よく脚色してあります。ご本人たちの名誉のために申し添えておきます。
一度は企画仕切り直しになったにもかかわらず、その後も進捗を気にかけて何度も連絡をくださり、相変わらず作業が進まない私を励まし、新版刊行へとお導き賜った知念氏には改めて厚く御礼申し上げます。また、旧版作成時からサポートしてくれたゼミ卒業生の佐藤浩氏、そして、家族の理解と忍耐に対しても、心より感謝の気持ちを捧げます。
2023年8月 今朝もなお夜明けの音をききながら
松本 裕
フィールドワーク・レポート「ひな形」(パワーポイント、pptx形式)は下記よりダウンロードいただけます。
更新履歴
- 9/28|公開しました
- 10/13|更新しました
- 10/31|ダウンロードURLを修正しました
開催が決まり次第、お知らせします。