まちづくりの統計学
内容紹介
根拠に基づく地域政策をつくるための手引き
地域政策にますますエビデンスが求められるなか、もはや統計の基本を知らずしてまちづくりを語ることはできない。本書は政策立案のための問いの立て方、統計情報の見方、分析の仕方から、まちの総合的な診断方法、政策テーマ別の考え方までやさしく解説。地域の姿を正しく読み取り、根拠に基づく政策をつくるための手引き。
体 裁 A5・200頁・定価 本体2500円+税
ISBN 978-4-7615-2806-5
発行日 2022-02-10
装 丁 テンテツキ 金子英夫
はじめに 宇都宮浄人
第Ⅰ部 まちづくりと統計
第1章 まちづくりは統計抜きに語れない 宇都宮浄人
1 統計の役割
2 まちづくりとは何か
3 なぜ今、まちづくりの統計なのか
第2章 まちづくりに関わる統計 宇都宮浄人
1 人口・経済に関する基本統計
2 成熟社会のまちづくりを考える統計
3 国際化・地域化時代のまちづくりを考える統計
4 環境・交通まちづくりに関連する統計
5 多様化の時代のまちづくりの基礎となる統計
コラム RESAS(地域経済分析システム)の見方・使い方 芦谷恒憲
第Ⅱ部 まちの現状を知り、課題を発見する
第3章 問いの立て方 多田 実
1 問題解決マトリクスによる分類
2 問題を創造的に発見、解決するために
3 QCサークル的発想による仮説の立て方
4 EBPM(Evidence Based Policy Making)とは
コラム KJ法に使えるオンライン・グループワーク 多田実
第4章 公的統計の現状とデータの集め方 芦谷恒憲
1 公的統計の現状
2 統計情報を扱う際の注意点
3 統計データを集め、現状を知る
4 統計データを整理し、課題と目標を設定する
コラム 地域の課題抽出のためのデータ収集と加工 芦谷恒憲
第5章 まちづくりに役立つマーケティング的調査法 多田 実
1 ソーシャル・マーケティングとは
2 地域活性化のマーケティングリサーチ
3 フィールドワークにおける定性調査
コラム データ分析の基礎知識 芦谷恒憲
第6章 小地域統計とまちづくり 芦谷恒憲
1 小地域統計データの概要
2 まちの変遷を見る
3 データ利用の留意点
4 統計分析とまちの診断
第Ⅲ部 政策づくりに統計を活かす
第7章 「まちのデータカルテ」の作成 芦谷恒憲
1 「まちのデータカルテ」作成の流れ
2 カルテに関わる主な統計データ
3 小地域でみるカルテの作成
4 カルテの分析
5 まちづくりへのカルテの活用
コラム 統計から見える地域の過去・現在・未来 芦谷恒憲
第8章 地域公共交通の費用対効果 統計データの活用と限界 宇都宮浄人
1 費用便益分析とは
2 費用便益分析で使用するデータ
3 費用便益分析における統計の意義と限界
コラム 社会的割引率 宇都宮浄人
第9章 買い物弱者を支援する 髙橋愛典・大内秀二郎
1 買い物弱者とは誰なのか
2 買い物弱者対策の選択肢とまちづくり
3 既存の統計からみる買い物弱者
4 メッシュデータからみる買い物弱者
5 統計を地域で作る
6 統計づくりはまちづくり
第10章 交通事故を減らすまちづくり 曽田英夫
1 地域の交通事情と交通事故を知る
2 交通事故を減らす工夫
3 まちづくりの実例にみる道のつくり方 埼玉県所沢市椿峰ニュータウン
第11章 アフターコロナ時代における観光の見える化 大井達雄
1 新型コロナウイルス感染症と需要管理政策
2 観光振興にとって必要不可欠なデータとは
3 観光振興におけるビッグデータの活用
4 データに基いた観光振興を行う上での注意点
コラム 統計データで伝える地域の魅力 多田実
第12章 まちの文化遺産を地域づくりに活かす 多田 実
1 文化遺産とマーケティング
2 観光政策における価値とは何か
3 感情科学を考慮した文化遺産マーケティング
4 文化遺産の位置情報マーケティング
第13章 シャッター通り再生に統計を活かす データを用いた沖縄市の分析 足立基浩
1 中心市街地活性化をデータで考える
2 商店街の現況をデータで把握する
3 第1期の中心市街地活性化基本計画で何が変わったのか
4 新しい中心市街地活性化基本計画とその方向性
5 統計に基く商圏分析から地域戦略を描く
第14章 人口減少対策にGISを活かす 長谷川普一
1 GISによる新たな情報の創出
2 人口減少局面の公共施設適正配置―新潟市の事例―
3 小地域別将来人口推計
4 コミュニティ系施設を対象とした試行的作業
5 行政サービスの定量的評価
6 長期的な公平性を評価軸とした妥当性
7 まちづくりに公的統計とGISを用いる有益性
コラム マップによるデータの「見える化」とQGIS 芦谷恒憲
第15章 地域プロジェクトの経済効果を測る 芦谷恒憲
1 地域産業連関表とは
2 経済波及効果とは
3 地域経済分析における地域産業連関分析の活用
4 地域産業連関表を用いる際の留意点
第16章 ネット上のテキストから地域の魅力を探る 多田 実
1 DX時代のデータ収集
2 自治体におけるInstagramの活用
3 地域活性化のためのInstagramデータ分析
コラム 統計データを活用したまちづくりの現場から 芦谷恒憲
おわりに 多田 実
今日、ひらがなの「まちづくり」という言葉が広く使われている。専門家の間では、1980年代以降、少しずつ使われるようになったが、都市計画の論文などをみても、この言葉が広まったのは、1990年代後半以降とみることができる。つまり、日本が右肩上がりの時代を終えて以降である。2015年に国連総会で採択されたSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)では、「住み続けられるまちづくりを」が17の目標の一つとして掲げられた。
「まちづくり」といった場合、かつての行政主導に代わり、一般市民が参加して行うイメージが強い。実践的に「まちづくり」に携わる人は増えており、関連の書籍も多い。そうした新鮮な感覚が広がってから、早20年が経過している。にもかかわらず、「まちづくり」の定義は明確ではない。SDGs目標にある「住み続けられるまちづくりを」の原文の直訳は「持続可能な都市とコミュニティ(Sustainable Cities and Communities)」である。コミュニティの創生という意味合いが「まちづくり」に含まれているといっていい。さらにまちづくりのアプローチも、「観光まちづくり」、「健康まちづくり」、「交通まちづくり」、「防災まちづくり」など多様化している。高度経済成長期やバブル期の都市計画のように、道路や建物を作るというだけではなく、にぎわいの創出、クオリティ・オブ・ライフ(QOL)の向上、ボランティアによる支え合いなど、その成果が捉えにくい事象も含まれる。
このような「まちづくり」は、データ化された統計を数理的に加工し、分析する統計学のイメージとは、一見相容れない。実際、課題は多い。しかし、ビッグデータに象徴されるように、昨今の技術革新は、統計を取り巻く環境も大きく変化させている。以前であれば、統計として把握できなかった事象も把握できるようになった。データの加工もパソコンの簡単な操作で済む。GIS(地理情報システム)を用いれば、地図上の可視化もできる。今では、数値だけでなくテキストデータも容易に分析できる。統計データを有効に使うことで、より良い「まちづくり」を実践できる可能性がある。
もっとも、そうした技術革新によって、誰でも簡単に統計を利用できるだけに、統計の使い方を間違うと、大きく判断を誤らせるリスクも抱えている。その意味では、統計の本質を知らなければ、「まちづくり」はできないともいえる。
さらに、今日では、「エビデンスを重視する政策形成(EBPM:Evidence-based Policy Making)」が求められ、そうした観点からも統計が一段と注目を集めている。ただし、これも単に数値があればエビデンスというわけではない。統計の意味と限界を知って初めて、統計をエビデンスとして適切に使うことができる。
そこで本書では、まちづくりに関わる統計の基礎を押さえ、正しい使い方を学ぶための整理を行う。しかし、それだけではなく、異なる分野の統計の専門家によって、「まちづくり」という多様でとらえどころのない課題に、複眼的なアプローチを試みる。もちろん、本書を読むだけで、「まちづくり」ができるわけではないが、読者は、そうした多様なアプローチから、自分たちのまちづくりの課題と、その対応方法の一端を学ぶことができる。少なくとも、著者たちの思いはそこにある。
本書は次のような構成である。まず、第Ⅰ部では、まちづくりと統計の関係について、我々の問題設定と概要を述べる。そのうえで、第Ⅱ部では、まちづくりに関する統計の基本的な使用法を解説する。そして、第Ⅲ部では、まちづくりに関する多様なトピックについて、統計を用いて何が言えるのか、何が課題なのか、具体的な例を用いながら、議論を行う。
本書によって、読者が、「まちづくり」に関心を持ち、さらに、多様で捉えにくい課題に立ち向かう統計そのものにも興味を抱いてもらえれば幸いである。
宇都宮浄人
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